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04,心配

 心配をよそに学園生活は何も変わらず、拍子抜けな気配すらあった。傷物令嬢として腫れもの扱いされる予想もしていたが、話しかけてくれる人も今まで通り、先日の事に触れる無粋な人もいない。妙な視線で見られている様子もない。思えばパーティーの時も大多数は自分に同情的な色を見せていたのだ。なんとも構えてしまった自分を恥ずかしく思った。元婚約者のクリスともキアラ令嬢とも違うクラスのため会おうとしなければ顔を合わせなくて済む。一安心だ。


 無事に放課後を迎え馬車に乗り込む。いつも通りのつもりではいたが、無意識に緊張していたらしく、ふかふかのクッションに沈み込むとどっと疲れを感じた。揺られているうちに眠気が襲ってくる。たった二日のんびりできなかっただけでこうも疲れるのか。忍耐力の不足を痛感するが眠気に抗う事は出来なかった。


 まだ少し眠気はあるが約束に遅れないように手早く支度を済ませたところに王宮からの迎えの馬車が来た。王家と公爵家の現在の関係が続くことが公でない以上、王宮通いは内密にするべきだ。どちらかの家紋入りの馬車を使い人目につくのを避けるため、王宮がわざわざ手配してくれた。

 通常、馬車には家紋が入り、その財力を示すように装飾が施される。しかしこの馬車は装飾類がほとんどなく、王族は勿論、貴族も好まないような地味なデザイン、初めて見るタイプの馬車だ。乗り合い用の庶民向けの簡素な馬車に似ているが小ぶりで乗り合いには不向き。御者も顔が良く見えないような大き目の帽子を目深にかぶっている。窓も小さく、外からは決して中が覗けないように配慮されたその車内でルーカスが待ってくれていた。


 内装も地味に見えるが素材の良い素晴らしい設えだった。自宅のものより更にふかふかのクッションにまたも意識を失いそうな気がするが状況が状況だ。自分ならうまくやれるだろうと気を引き締める。

 ルーカスに今日の迎えと昨日の訪問への礼を伝える。昨日は本の話で大変に楽しい時間になった。こうした会話に慣れていないエマを気遣ってルーカスが話を盛り上げてくれたおかげだ。


「エマ、疲れているでしょう。ちょっと眠そうだけど……」

「大丈夫です。すみません」

背筋が伸びる。居眠りが原因で顔が緩んでいるのだろうか、いけないと思い顔に力を入れる。

「疲れて当然だ。あんなことがあった上、今もこちらが無理を言っている。すまない」

「滅相もない。本当に大丈夫です」

「今日は引き返せないから頑張ってもらうことになるけれど、身体を壊しては仕方がない。母上には遠慮するかも知れないが、僕は婚約者なんだから何かあったらどんどん話してほしい」

「お気遣いいただき、ありがとうございます」

こういうことを男性から言われ慣れていないからか首の辺りがそわそわする。両陛下が向けてくれる優しさと似ているが、それより甘やかされている気になって落ち着かない。

――本当にクリス殿下と全然違うのね。私が殿下の婚約者でここ十年あまり他の男性と接してこなかったから不慣れなだけ?それとも留学先で身に着けた事なのかしら。やはり不思議な方だわ。


 少しの沈黙のあと、真面目な顔になったルーカスの視線がエマとかち合う。

「学校は問題なかったかい?」

「えぇ……大丈夫でした」

「それは良かった。一安心だ」

心配してくれていたのだ。エマの胸に少し温かい気持ちが灯る。

 が、それはすぐに打ち消された。


「迷ったが、先に話しておこう」

何とは言われなくても察した。車内に緊張が走る。

「昨日例の二人が両陛下とお会いになった」

「まず、君と弟の婚約を正式に破棄したことが伝えられた。これは昨日から情報開示の対象だ。だが君と僕の件は弟たちにも話されていない。こちらは昨日伝えた通りにお願いしたい。それから――」

 彼らの婚約の事だろうかと少し身構えた。興味はないが彼女が第二王子の婚約者になると王宮で遭遇する事になる。自分たちの事が発表になっていない以上それは気まずい。

「君が休んだ理由は母上に伝えた」

ハッとすると彼は寂しそうに笑った。

「――その……王妃様はなんと……」

「笑っていたよ。母上が聞いた理由は母上から直接話したいそうだ」

 目の前が真っ暗になった。クリスは王妃になんと伝えたのだろうか。もし王妃に自分で直接話すことがあれば、王妃は早々に怒り悲しむことになっていただろう。その立場から常々気丈に振る舞う心優しい王妃にそんな思いをさせたくなかった。それが嫌だったから自分から何もしなかった。昨日だってあんなに悲しませてしまった。なんだってこの件は自分で責任を負うつもりでいたのだ。

――その方にまた何を言わせることになるのか、自分は。


 ぐっと唇を噛むエマにルーカスはそっとささやく。

「着くよ。君が気にすることなど何もないという事だけ、覚えておいて」

たった一言がここまで力強く感じたのは初めてだった。

ブックマーク、評価ありがとうございます。

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