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27,指輪

手が温かい。


抱えた膝に押し付けた瞼の向こうで何かが光っている

頬の涙は乾いたが睫毛はまだ濡れている

涙が光っているわけではない


うっすら目を開くと目に入る


「……殿下が下さった指輪……」

ぽつりとつぶやく声が闇に溶けていく

ルーカスのくれた指輪が所々虹色の光を放っていた

「綺麗……」



もうどれだけこの意識の中にいるのだろう。

出口もなくて落ちてきた上にも戻れない。


みんなの言葉を信じたい。

彼女の言葉を信じたくない。

皆の親切が保身だったなんて思いたくない。

クリス殿下だってきっと本心はご理解下さっていた。

身を挺してかばってくれたソフィアの誠意も呪われたくないだけなんて思いたくない。

この指輪を下さったルーカス殿下のお言葉もお気持ちも嘘だったなどと思いたくない。



涙で光が揺れる

零れた涙で濡れた宝石のカットが眩しい

宝石は奥から輝いている



これをくれた時のルーカスはなんと仰っただろうか。




君の瞳に似ているとルーカスは言っていた。

『僕には君がそう見えている』。




いつも優しかった人。


僕も同じ指輪を作った。これを見ると僕は君を思い出すと。

どうか、忘れないでくれとルーカスは言ってくれた。



幼い日の「次に会ったら好きな花を贈ろう」という約束を守ってくれた。

皆が気味悪がるけど私の好きな黒い百合を贈ってくれた。

十年越しの約束。

なんとお礼をいえばいいかわからず、何も返せなかった。





つないだ手が温かかった。





その温もりをこの手に感じる。忘れないわ。



両親も両陛下も、家でも学園でも王宮でも町でも、周りの人は皆とても良くしてくれた。

私に怯えていたからだとしても私に向けてくれた笑顔も涙も私は信じたい。

それが嘘で私が愚かでも、私はあの人たちを疑って、信じる気持ちに嘘をついてはならない。

私が闇の魔力を持つというからなんだというの。

例え私が彼女の言う通り取るに足らないものであっても。

抱きしめてくれなくても愛していると言葉にしてもらえなくても、充分。


私は皆を信じる気持ちに嘘をつけない。

失望したくない。



私はルーカスを。


ルーカスが信じてくれた私を。



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