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HOPE・DIEAMOND  作者: 行方不明者X
Chapter.01 Hope・Diamond
3/4

願い

―――――――それから時は少し流れ、フレデリックが勇者の勲位を受けて三日目の夜。



太陽の光が失くなり、月の光があるとはいえ昼よりもずっと暗い廊下をフレデリックは歩いていた。

自分が明日、勇者としての命を果たしに旅立つのを送るという名目でどんちゃん騒ぎを始めた食堂で、色々な物を勧められるまま食べたからか、少し食べ過ぎたかもしれない、と考えながら、食堂よりひんやりとしている廊下をグレープジュースの入った瓶を二つ抱えて、ある場所まで向かっている最中だった。

何時ももあまり人の通らない廊下の先の古い木製の扉を押し開け、その先の螺旋階段を上っていく。何段もの階段を上って、階段の先の頂上の扉の前に立った。その扉にノックを三回、少し間を開けて今度は二回する。



「………合言葉は?」



「俺達の天文台」



「よし」



ノックを聞いて、中に居た人物がフレデリックに合言葉を尋ねる。フレデリックが何時ものように答えれば、内側から鍵が開けられ、扉が開いた。フレデリックが少しだけ開けられた間にするりと入り込むと、直ぐに背後で扉が閉じられた。



「遅いんだよ」



「悪いなエド、中々抜け出せなくてな………これで許してくれ」



扉にしっかりと鍵が掛けられた後に投げ掛けられた文句に素直に謝りつつ、此方にやってきたエドと呼ばれた人物―――――エドガーに瓶を差し出す。



「これで機嫌取れると思ったら大間違いだからな」



天井に張られた硝子を通り抜けて降り注ぐ月夜の光に姿を照らされる為、フレデリックにはエドガーが笑っているのが良く見えた。どうやら、口で言うほど怒ってる訳ではないようだった。そのままエドガーは差し出された瓶を引ったくるように奪うと、部屋の真ん中に敷いてあった彼の私物のクッションの上に座った。 そうして、早くしろよ、と立ち尽くすフレデリックを手招きする。



「……それにしても、どうしたんだ。此処に呼び出したりして」



自分のクッションを部屋の隅から持ってきて、エドガーの隣に座ったフレデリックが隣のエドガーに問いを投げると、エドガーはにっと笑った。



「どうしても、此処で親友の門出を祝いたくてな」



笑顔で言い切ったものの、照れ臭いのか、視線を外してそう言ったエドガーを、きょとんとした顔でフレデリックは見つめる。そうして暫く間を開けた後、ふっと笑みを浮かべた。



「門出って……そんな仰々しいものでもないけどな。それに、教祖様からの命は捕縛するだけだ。直ぐに戻ってくる」



「うるせぇ。理由は何でもいいんだよ、俺の親友が勇者になったんだから祝わせろ!」



フレデリックから色々なことを訂正を受けつつ、エドガーはフレデリックに体を寄せ、強引に肩を組んだ。突然自身の体に掛かったエドガーの体重を受け止めながら、友達思いな所は変わらないな、とフレデリックは思う。

この二人は、幼馴染みだった。二人とも同い年で、同じく超能力持ちという事もあり、何度も顔を合わせる機会があった。その内に自然と仲良くなっていったのだった。



「んじゃ、俺の親友が勇者になったことを祝ってぇ、乾杯!」



「乾杯」



エドガーの音頭に合わせてお互いの瓶をぶつけると、カチン、と硝子が擦れる音がした。二人で緩く詰められたコルク栓を抜き、中のジュースを煽る。フレデリックの口に、昔から変わらない完熟した葡萄の甘い味が広がる。



「美味い!」



三口程飲んだ所でエドガーが瓶から口を離し、笑顔でそう言った。



「昔から好きだよな、このジュース」



「美味いじゃん、これ」



「まぁ、そうだが……」



エドガーの舌の好みも子供の頃から変わらないようだと思った所で、ふと、フレデリックはじっとエドガーを見つめる。



「なんだよ。俺の顔に何か付いてるか?」



フレデリックの視線に気が付いたエドガーが訝しげに問うと、フレデリックは笑みを溢した。



「………いや、お前は変わらないな、と思ってな」



「は?」



フレデリックの目の前で目を瞬くエドガーは、昔は周りの子供より少し小さかった筈だった。それなのに、今は自分と並ぶくらい背丈になり、随分と逞しくなった気がする。なのに、性格はフレデリックの記憶の中の彼と全く変わらない。何時だって誰にでも優しく、誰からも慕われている。だが、周りに何人もの友人に囲まれている彼だからこそ、周りから影響を受けて何かしら変わっているんじゃないだろうか、とフレデリックは思っていたのだ。まぁ、結局その思いは杞憂だった訳だが。



「……そんな事言うなら、フレッドも変わってねーよ」



暫く言っている意味が分からずきょとんとしていたエドガーだったが、フレデリックが薄く微笑んでいるのを見て、どうやら目の前の親友が、何処で判断したかは分からないが自分が変わっていない事を喜んでいるらしいということを察すると、そう言い返した。



「うん? ………そうか? 俺自身は子供の頃と比べて結構変わったと思ってるんだが」



「そんなことないぜ。中身が子供の頃から全然変わってないよ、お前」



エドガーの言葉に、今度はフレデリックが驚く番だった。首を傾げるフレデリックを見ながら、エドガーは昔のフレデリックを思い出す。

あの頃に比べれば確かに黒の髪も背丈も伸び、大人達に負けないどころか他の誰彼も追い抜き、追随を許さない程の実力も付けた。だが、自分の実力を誇示しない謙虚さも、一歩引いた所から物事を判断する冷静さも、影で人の何倍も努力している所も、自分の記憶の中に居るフレデリックと、何も変わらない。



「………そういやさ。俺達の出会いって、俺が最初にお前に声かけたんだっけか」



「あぁ、そうだな」



ふと昔が懐かしくなって、エドガーがフレデリックに二人が一番最初に話した時の話を振った。



「確か図書館でだったか。俺が絵本を読んでいたら、話し掛けてきたんだったな」



「おー。そうだった。丁度あの時、お前が読んでたやつを俺も読みたくてな」



二人でジュースを飲みながら、過去を振り返る。

陽当たりのいい席で、勇者の伝説について描いてあった絵本を読んでいた幼いフレデリックに、エドガーが話し掛けたのが、二人の切っ掛けだった。



「司書に聞いたら『もう別の子が読んでる』って言われてさぁ、どんな奴かと思って、興味持ってなー。それで話しかけて……意気投合して、仲良くなったんだっけな。正直ここまでの付き合いになるレベルで仲良くなるとは思わなかった」



「元々同じ超能力持ちのクラスだったしな。それが助長したんだろう」



図書館で出会ったその次の日から、彼等は座学などの時間以外も共に過ごすようになった。交流を重ねるうちに自然と互いを遊びや食事に誘う回数が増えていき、その内、勇者を目指して切磋琢磨し合う良きライバルであり、時にじゃれあう兄弟であり、安心して背中を預けられる相棒であり、気の置けない親友になっていた。



「此処もエドと遊んでたら見つけたんだったよな」



「あぁ、そうだった」



フレデリックの言葉に頷いて部屋を見渡すエドガーに倣い、フレデリックは天井を見上げる。硝子越しの空には、煌々と光る満月が浮かんでいた。

いつかの日に、エドガーとかくれんぼで遊んでいたら、隠れていた筈のエドガーがいい場所を発見をしたと言って此処へ連れてきてくれた。長い間誰にも使われていなかったらしく、埃が床や棚に厚く積もっていて、埃臭かったのをフレデリックは良く覚えている。

あの後大人の信者に聞いてみた所、曰く、この場所は嘗ては『星見の間』と呼ばれ、星詠みなどに使われていたという事を知った。天井が一面硝子張りなのはその為なのだとか。此処が使われなくなったのは、星詠み専門の部署が支部に移動したから、という理由だった。その後は誰でも使っていい場所になっていたらしいが、場所が教会の外れなだけあって、誰にも使われることなく忘れられていたらしい。元々星の動きを詠む為の器具も置かれていたらしいが、初めて立ち入った時にはそんな物は一つも見当たらなかった。どうやら、移動になった際に全て持ち出されてしまったようだった。

嘗てはそんな大層な名があったものの、今は何もなく伽藍としたこの部屋を、あの日の二人は星がよく見えるから、という理由で勝手に『天文台』と名付けた。



「他に誰にもこの場所に近寄らないみたいだったし、俺達の秘密基地にしようって考えて………掃除には骨が折れたよ、本当に」



「五日も掃除にかかったんだったか」



秘密基地にしようと意気込み、二人は先ず、床に積もった埃を掃除する事から始めた。だが、二人には日々の研鑽などもあり、掃除を行う為のまとまった時間があまり取れず、結局は五日もかかってしまった。水の魔法を応用して洗い流してしまえば話は早かったのだろうが、そもそも子供の頃は許可無しでの魔法の使用は禁じられていた事や、二人が当時水の魔法を得意としていなかった事もあり、手作業で作業するしかなく、日数がかかってしまったのだった。二度とやりたくない、と苦い顔をするエドガーに、フレデリックは同感だった。掃除を終えた時の達成感は気持ち良かったが、あんな大変な思いは二度としたくなかった。



「その後はクッションとか持ち込んで、本格的に秘密基地にしたんだったか」



「で、その時丁度、」



―――――――――――コンコンコン、コンコン



フレデリックとエドガーが昔話に花を咲かせていると、ノックが扉から聞こえた。先程フレデリックがしたノックと同じノックだった。

二人で顔を見合せ、この場所を知るもう一人の親友がやって来たようだと同時に気付く。エドガーは肩を組んでいた腕を解くと、立ち上がって扉の方へと向かう。



「合言葉は?」



「私達の天文台」



エドガーが先程フレデリックと行った問いを扉の向こうの相手に問い掛けると、女性らしい声が問いに答える。エドガーが扉を少しだけ開けると、猫の様な滑らかさで女性が部屋に入り込んだ。



「二人共、やっぱり此処に居たのね」



女性が部屋の中に居た二人を見て、呆れた顔をする。



「何時の間にか二人とも食堂から居なくなってたから此処だと思ったわ」



「エリー、お前も抜けてきたんだな」



「うん、騒ぎ疲れちゃった」



女性―――――エリオンタリスは扉を閉めるエドガーの言葉に頷き、フレデリックが居る部屋の真ん中へと歩く。フレデリックの黒髪とは違う、美しい黒いシルクの様な髪が、月光に照らされて濡羽色に輝いた。



「話し声が聞こえたけど、何の話してたの?」



「あぁ、ちょっと昔話をな」



「丁度お前が此処に来た時の話しようとしてたんだぜ」



「えぇ? 何でその話?」



昔話から何故自分の話になったのか分からなかったのか、エリオンタリスは困惑した声を上げる。



「いや、此処見つけて掃除した話しててさ。そこで丁度エリーが来たなって話をしようとしてたんだよ。取り敢えず座れよ、ほら」



「…………そう言えば、エリーとも仲良くなった切っ掛けだったよな、此処」



エドガーが状況を飲み込めなかったエリオンタリスに説明しつつもクッションを渡してやるのを見ながら、フレデリックが思い出した様にそう言った。



「あぁ、そういうことね。確かにそうだったわね」



エドガーからクッションを受け取りながら、フレデリックの呟きにエリオンタリスは頷く。そうしてエドガーとフレデリックの真正面にクッションを敷き、座った。そうして入室時から持っていたジュース瓶を一口飲んでから床に置いた。



「フレッドと常に一、二位を争ってる実力者が何をこそこそしてるのか気になって着いてきちゃったのよね」



「おい、こそこそって言い方止めろよ……」



「あら、じゃあ他に何て言えばいいの」



あまりの言い草に苦言を申し立てたエドガーの主張を、エリオンタリスは歯に衣着せずピシャリと切り捨てた。その様子を見て、フレデリックは笑みを溢す。相変わらず仲が良いな、と考えていた。

あの日、各々の私物を持ち込み出して、暫く経った頃に、エリオンタリスはやってきた。それが、フレデリックとエリオンタリスの初対面だった。



「まぁ、とは言っても、俺とエリーは面識あったんだけどな」



「あぁ、確か魔法の実習で一緒の班になったんだったか? 何回か聞いたぞ」



「そうそう」



この部屋で出会う前に、そもそもエドガーとエリオンタリスは面識があった。その知人が誰かの目を気にしながら歩いていくのが気になり、何か大人に言えないことを仕出かしたのでは、それならば叱ってやらなければ、と考えた、と当時のエリオンタリスが主張していたのを思い出す。



「で、あの日は先に部屋で待ってたフレッドにエリーを紹介したんだっけな」



「あの時はエドが女の子を連れてきたことに滅茶苦茶吃驚したぞ。他に誰も入れないという約束だったのにどういう事だと思った」



「仕方なかったんだよ、こいつが入れてくれなきゃバラすって言うもんだからよ………」



「それについては悪かったわね」



フレデリックの言葉にじとりと睨み付けるエドガーに対し、エリオンタリスは悪びれた様子も無く謝罪を口にした。



「まぁ…………あの日、此処で出会ってなければ、エリーと関わることも無かっただろうな」



「そうねぇ、被っている実習なんかもあったけど、昔のフレッドとあまり接点は無かったものね。そう考えれば、あの日エドに着いてきて正解だったわ」



フレデリックが喉をジュースで潤してそう言えば、エリオンタリスはこくりと頷いた。

その日から、此処は三人だけの秘密基地になった。新しくエリオンタリスが入ったことによって、まだ少し広かった部屋が賑やかになった。



「そこからたまに此処で夜更かししたりしたのよね………懐かしいわ」



そう言って、エリオンタリスは天井を仰ぐ。月の光を受け、傷一つないサファイアのような青い瞳が美しく輝いた。

そこから三人は、新しくエリオンタリスを迎えてジュース片手に昔話を再開する。魔法が得意な優等生だったエリオンタリスにエドガー達の苦手分野な魔法を教えてもらったり、逆にエドガー達が教えることもあったこと。

ちょっとした言い争いから発展してエリオンタリスとエドガーが大喧嘩し、フレデリックの仲裁で仲直りしたこと。

エリオンタリスが他の男子に呼び出されて告白されていた現場を見てしまったこと。

半年に一度程行われる模擬試合大会でフレデリックとエドガーがぶつかり、接戦を繰り広げたこと。

エリオンタリスの成績が珍しく奮わず、エドガーとフレデリックで励まし、持ち直すまであぁでもないこうでもないと言い合いながらも支えたこと。

久々に此処に三人揃って集まる事が出来た事も奏して、三人の口から言葉が止まることは無かった。こんなに喋ったのは何時ぶりだろう、とフレデリックは二人と話しながら思った。

そうして、三人の手元のジュースの瓶の中身が空になる頃、ふと、会話が途切れて沈黙が流れる。その時、エリオンタリスが言った。



「………暫く、こうして三人で集まることも出来ないのよね……」



先程まで明るく笑っていたとは思えない程静かに、月を見ながらそう呟いたエリオンタリスの言葉に、思わずエドガーとフレデリックの口が閉じる。沈黙が少し流れた後、エドガーはまだ残っていたジュースを一口飲み、口を開いた。



「チッ、折角人が言わないようにしてたことを………」



「なっ、仕方無いじゃない、言ったって!」



そうしてまるで余計な事を言われたと腹立たしそうにする振りをする。 エドガーのその態度にカチンときたのか、エリオンタリスがそう言い返す。



「折角の門出だから笑って見送ってやりたかったんだよ、それくらい察せよ……。つか、お前はまだいいだろ。魔導師としてフレッドに着いていけるんだからさぁ。俺なんて置いてけぼりだぜ!」



エドガーはそこまで言うと、残りのジュースを勢い良く煽って飲みきる。瓶から口を離し、床に瓶を乱暴に置いた。勢い余って、ダン、という音がした。フレデリックが言い過ぎだ、と注意しようとエドガーの顔を見ると、エドガーは不貞腐れた様な顔をしていた。



「………どんだけ、俺が寂しいと思ってんだよ。二人が居なくなっちまうのに」



顔を俯かせ、膝を抱えたエドガーの心情を漸く察し、エリオンタリスは流石に申し訳なくなり、申し訳なさそうな顔をする。



「ごめんなさい、そんな顔をさせる気はなかったの。ただ、ちょっとね……本当に、ごめんなさい」



「………いや、謝んな。俺も悪かった。魔導師になったことを悪く言っちまった。祝うべき事なのにな。つい八つ当たりしちまった」



二人がお互いの非を認め、頭を下げるのを見ていたフレデリックは、顔を歪め、エドも着いてこれたら良かったのに、と考える。教会からの許可がなければ、大抵の信者は外に出ることは許されていないのだ。



「本当はさ、俺も着いていきたくて、教祖様と話そうとしたんだけどよ………」



「嘘だろ、直談判に行ったのかお前………」



「おう」



エドガーのその話を聞いて、フレデリックは一瞬ぎょっとした。まさか教祖様に直談判に行こうとするとは、思いきりが良すぎるだろう、と内心思った。こいつならやりかねないな、とも。エリオンタリスも衝撃だったのかぽかんとした顔をしていた。

因みに、教祖に会うことは信者であれば誰でも出来る。中央聖堂の教祖の書斎に赴けば、余程の予定が無い限り誰でも迎え入れてくれる。



「行きたいって言ったら、拒否された。俺には、どうしても此処にいてほしいんだってよ。此処を、守ってほしいんだと」



続きを話したエドガーに、フレデリックは納得した。確かに、エドガーは教会屈指の実力者だ。先程エリオンタリスが言った通り、フレデリックといつも一位を争っていた。それほどの実力者がいれば、もし仮に襲撃が起きた際に対処できるだろう、という理由が容易に想像できた。その所為で、エドガーはこの教会を離れられないのだった。



「……成る程な。お前が居れば、確かに教祖様もご安心なさるだろうな。なんたって、俺が認めた親友だからな」



湿った空気を変えるために、フレデリックは沈むエドガーにそんな言葉をかけた。その言葉を聞いて、エドガーは顔を上げ、目を丸くする。そのエドガーの肩にフレデリックは腕を回した。今度はフレデリックから肩を組んだ形になった。



「大丈夫、命令は捕縛だけだ、直ぐに帰ってくる。俺達が居ない間、此処を頼むぞ、エド」



フレデリックから投げ掛けられるエドガーを信頼しきった言葉に言われていた本人は目を丸くしていたが、フレデリックなりに元気付けようとしているのだと察し、破顔した。



「……親友にそこまで言われちゃー、仕方ないな。おう。任せとけ」



そうしてフレデリックの肩に腕を回し返し、笑ってそう言った。それを見ていたエリオンタリスはくすりと笑い、二人に声を掛ける。



「ねぇ、上に出ない? 昔みたいに星を見ましょうよ」



「いいな! そうするか」



「あぁ」



エリオンタリスの提案に賛成した二人は、先に向かったエリオンタリスに続いて立ち上がり、エドガーを先頭に三人で古い梯子を登る。エドガーが硝子が張られた天窓を開け、外へと出る。フレデリックが後から登ってきたエリオンタリスを引き上げた所で、ひんやりとした夜風が三人の頬を撫でた。

三人は硝子の屋根に寝そべり、子供の頃のように夜空を見上げる。



「………何時見ても、綺麗ね」



「………あぁ。変わらないな……」



エリオンタリスが夜空を見上げ、感嘆混じりにそう言った。エドガーがそれに頷いている間、フレデリックは黙って星空に魅入っていた。そうして

まるで幾つもの宝石を(ちりば)めたような、無数の星々が輝く満天の星空は、三人が昔に見上げた空と何一つ変わらず、美しいままだった。確かに、新月の夜よりかは星の数が月明かりで少なくなってしまっているが。

言葉を失う程、星をまじまじと見つめていたフレデリックの目に、きらり、と、視界に一筋、線が走る。



「! おい、彼処、星が流れたぞ!」



「は!?」



「えっ、どこ!?」



フレデリックが思わず声を上げると、二人がぱっと体を起こしてフレデリックが指差す方を見る。その方向を見て流れ星が何処か隈無く探していると、また一つ線が走った。



「あっ、見えた!」



エリオンタリスがはしゃいだ声を上げたと同時に、一つ、二つ、三つ……と、夜空の黒を走る白が増えていく。



「流星群だ……!」



そう言ったのは、エドガーだっただろうか。その言葉を最後に、三人は黙り込み、幾度と無く流れる星を見続けた。

どれくらいの時が経っただろうか。暫くして、流れる星が一つも見えなくなった頃、フレデリックがぽつりと言う。



「懐かしいな。昔も、こうして流星群を見たよな」



「………えぇ、そうね。もう、九年も前になるのね」



「あー、俺達が十歳の頃だったっけ」



エドガーが言った通り、三人が十歳の時、大人の信者達が話していた流星群が降るという話を偶然聞いたエドガーが、エリオンタリスとフレデリックをこの場所へと連れ出し、三人でこうして星を見たのだった。見れたはいいものの、その時は秋で、酷く冷え込んだ夜だったものだから、星を見終わる頃には体がすっかり冷えてしまい、翌日三人揃って風邪を引いてしまったのは、フレデリックにとって苦い思い出だった。



「………そう言えばあの時、流れ星に願いを掛ける呪いが流行ってたよな」



「あぁ、星が消えるまでに願いを三回言うと願いが叶うってやつね」



「それだ」



ふと、エドガーが思い出したようにそんな事を言い出した。二人の会話を聞きながら、そんな物があったのか、と一人フレデリックは驚いていた。やはり自分は噂などに疎いな、と再認識した。



「なぁ、もしさ、星に願いを掛けるとしたら、二人はどんなことを願うよ?」



突然振られたエドガーからの問いに、エリオンタリスとフレデリックは一瞬面食らったものの、考える。



「………私は…………うーん………やっぱり、旅の安全かしら。万が一にも誰か大怪我したりしたら嫌だから、大怪我せずに帰ってこれますように、って」



少し考えた末、先にエリオンタリスがそう答えた。



「成る程な。フレッドは?」



「俺は………そうだな…………」



エドガーの視線が今度はフレデリックに向けられる。フレデリックは少し間を開け、こう答えた。



「俺の家族や友人が幸せであるように、かな。それしか思い浮かばん」



「…………相変わらず優しいな、お前………そんな気はしたがよ」



平然と、真顔でそんな願いを口にしたフレデリックに、エドガーは苦笑する。そんなエドガーに、フレデリックは訪ね返した。



「エドはどんな願い事をするんだ?」



「え、俺? 俺は………」



まさか自分にも振られるとは思っていなかったエドガーは目を丸くし、考え込む。そして暫くした後、隣に居る二人を見て、ふっと優しく笑った。



「そうだなぁ………俺の親友二人が無事に、そして早く帰ってきますように、かな」



その答えに、今度は二人が目を丸くする番だった。そして、先程のエドガーと同じ様に笑った。



「態々願われなくても、無事に帰ってくるわよ。心配性ね」



「あぁ、全くだ。だけど、有難うな、エド」



「へへっ」



くすくすと笑うエリオンタリスとフレデリックにつられて、エドガーも笑いだした。そのまま三人は、暫くの間、三人だけの天体観測を続けたのだった。

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