今日のこと
燃えるような夕暮れだった。カラスの甲高い鳴声を聞いて私たちは別れた。
「また明日。」
「じゃあ、ばいばい!」
ありふれた言葉が赤い街に溶けていく。楽しげに走り回るランドセルを眺めていると、自分が消えてしまったような感覚に襲われる。
気がつけば私は足を止めていた。
「どこへ向かっていたのか。そうだ、帰ろうとしていたのだ。しかし何処へ。わからない、わかりたくない。」
嫌になってしまった。私の知っている常識が全て間違っているような気がした。街と一つになっていた意識がふつふつと浮いてきた。
「私は孤独だ。」
確認するように呟く。道行く人々は誰も否定しなかった。
その時、ポケットが震え出した。感覚を失っていた指先が温度を取り戻す。無意識のうちに携帯を取り出し耳に当てていた。
「もしもし。」
「あ、もしもし。私だけど。」
その電話は1年前から付き合っている彼女からだった。
「やっぱり今日、あなたの家に泊まっていいかしら。」
声が少し震えていた。彼女は実家暮らしだ。おそらく家族と喧嘩でもしたのだろう。こういったことは過去にも何度かあったが、いつまで経っても慣れなかった。
「......」
なにも言えなくなってしまった。
たったの一言ですら重くてゴツゴツした固まりに感じた。