ジール
クロが家を飛び出して森に入ってからどれ位の時間が経ったのか……
クロは辺りの木々を大声をあげながら蹴りつけ、泣きわめき、不条理な出来事に怒り、ブンブンと手を振り回して、その反動で地面に転げる。
服は落ち葉と土でドロドロになりながら、クロはただ自分の無力さと[創造主の印]を恨む事しか出来ない。
さんざん喚き散らしたら少しは落ち着いたものの、立ち上がる気力さえ無かった
――辺りがそろそろ暗くなり始めた、その時
「……クロー!」
「クローー!
お前ここに居るんだろ!
出て来いよ!クローー!!」
馴染みのある声はジールだった。ジールはキリに頼まれてクロを森に探しにやって来たのだ。
(――ジール )
クロはジールの呼びかけに答えると、それに気付いたジールはクロの元へ一目散に走ってきて悲痛な表情をしながら、クロをいきなりなぐり飛ばした。
「お前! 何やってんだよ!
カナデ! 明日の昼には村から出て行っちゃうぞ!
こんな所にいていいのかよ!」
ジールから今、村で起きている事の成り行きを聞くと、クロはまた胸を締め付けられる感情に縛られる。
――カナデが遠くに行ってしまう
クロは今回の事態に直面して、初めて自分の中のカナデの存在の大きさを知る。
「だって、どうしようもないじゃないか!
僕は何も出来ないんだよ!」
「出来る!!」
「出来ないよ!」
するとジールは言い方を変えて
「あぁ……そうだよ!
お前にしか出来ない事があるだろうが!」
ジールは両手でクロの胸ぐらを掴み、涙を浮かべながらクロの胸に頭を落とす。ジールの肩は小刻みに震えていた。
(そうだよね…… 僕だけじゃなくてジールも……
それに、カナデが一番――)
クロはジールの肩をつかみながら、暗くなり始めた空をみあげ
自分にしか出来ない事を考えていた
――森から村への帰り道でジールと、カナデの事を沢山話した
クロは幼い頃からのお姉ちゃんとしてのカナデの話
ジールは端正な顔立ちのカナデに見惚れた事があったという初めて聞く話
本気で怒ったら三人の中でカナデが一番怖いという二人の同じ意見
そのどれもが、いつも隣にいて当たり前だったカナデの話で
これから先、紡ぐ事が出来なくなる話だった
村の入り口まで帰ってきた頃、ジールがクロの背中を(ドンッ!)と押した。
押されたクロは振り返りジールの方を見た
ジールはこっちを見ながら少しずつ後歩きしながら叫ぶ
「クロ! 今夜はカナデの家、誰も行っちゃダメなんだってよ!
俺は村長の家の窓から聞いちゃったけどよ……
お前は森にいて聞いてなかったろ?
聞いてなかったら関係ねぇよ!
カナデに会ってやれよ!
たぶん……今一番カナデが会いたいのは……お前なんだからよ!」
日も落ちてジールの顔がはっきりと見えないが
どんな表情をしているかはクロには分かった。
「俺は明日の朝にでも顔を出すから、カナデに伝えておいてくれよ」
そう言い終わると、ジールは反転して手のひらをヒラヒラとさせた。
「ジール!」
クロはそれ以上叫ばなかった。
――続きの言葉は、明日直接話そう
まだ僕にはしなきゃいけない事がある
カナデに伝えなきゃ後悔する想いがある
――そう決心したクロがカナデの家へと向かう途中に、自分の家の前で心配そうに立っているキリを見つけた。昼に飛び出したままだった事を思い出したクロは
小走りにキリの元へ行く
「母さん……
心配かけてゴメンね。もう大丈夫だから
ちょっと今からカナデの家に行ってくるね」
キリは責める事も止める事もしなかった。
ただ……微笑みながら小さな袋包みを差し出して
「はい!これ。
この袋包みの中にに<お守り>が入ってるから
カナデちゃんの家まで行って渡してきてくれない?
あんまり遅くならないようにね……」
それだけ言うとキリは家の中へと入って行った。クロはキリから貰った小さな袋包みを見ながら
(ひょっとしたら母さんは<訪問禁止>になっているカナデの家に行く口実を僕に用意して待っていてくれたのかな?)
そんな事を考えながら、クロは通いなれたカナデの家に向かい走り始めた




