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クロとカナデ  作者: 工房*自我
クロとカナデ
3/7

創造主の印



 カナデの17歳の誕生日の朝


 早朝、カナデは父ラルフの食事の支度をしようと部屋から出た。まだ、眠い目をこすりながら、いつものように井戸水で顔をあらうと徐々に目が覚めてきた。


 目の前の鏡を見ながら髪をとかしていると、カナデは自らの身体の異変に気付いた。カナデの首筋には見慣れない紋様が浮かび上がっていたのだ。



(何コレ……まさか――)


 ――それは[創造主の印]と呼ばれるものだった。青白く浮かび上がるその印は、数千人に一人程の割合で発現し、その者は王都ルメールの<神官>としての地位に就き、宮仕えをする事が国の習わしだった。


 その対価として家族には、国から月々に神官給付金として銀貨が支払われる事になっている。村での日常生活の消費金額を考えると充分すぎる金額だった。


 この厚遇は逆を言えば、印を持つものが王都への宮仕えを拒否出来ない仕組みにもなっていて、拒否や、印を隠匿した場合、創造主から与えられた力を国の為に使わない不義行為とされ、処罰の対象が個人だけではなく家族や村単位まで及ぶ



この<王都での誉れ高き神官としての暮らし>を得る条件が[創造主の印]である



 ――だが、カナデは()()を求めていない。


 そんな生活に憧れも何も持っていない。

 ただ、此処にいる事さえ許されない状況に陥った事態をカナデは理解して

 一人ベッドで声を殺して号泣するのだった。




 **********



 昼からのダイス村はカナデの[創造主の印]の話で持ちきりとなる。


 先天的に[創造主の印]を持つ者が大半を占める中、ほんのまれな例として17歳の生誕の日に[創造主の印]が発現する後天性は数が少ない事もその理由だった。



 他人事として「いやぁ! めでたい!」と口ずさむ者

 めったにお目にかかれない[創造主の印]を見に物見遊山で家に押しかける者

 国からの神官給付金について妬む者に、逆に、ラルフに媚びる者


 そんな取り巻きを横目に、カナデ達親子に近しい人達は親子の事を想うと皆一様に複雑な面持ちだった。



 ――今朝、母さんに叩き起こされた僕は、カナデの[創造主の印]の事を聞くとすぐにカナデの家に向かった。


 だが、すでにカナデの家は、普段知らない村の大人達で溢れかえっていて、僕は家に入る事すら出来なかった。


 窓から家の中を除くと、村の大人達に囲まれたカナデが、儚げに大人達の応対をしている姿が見えて、激しい感情が胸に渦巻いた。



(何してんだよ! お前ら! そこはカナデの家だぞ!)



 ――クロは一度自宅に帰りキリから話を聞きなおす


「母さん! どうして? 何が起こったの?」


 キリは無言でクロを抱きしめながら、知りうる限りの状況をクロに説明した。



 ――当初、[創造主の印]がカナデに発現した事を知った父ラルフは何とか隠そうとカナデに提案したらしいという事。

 だが、カナデに何かのはずみで[創造主の印]の話が露見したら周りの人達にまで迷惑がかかるから……と諭された事


「はぁ! 何でなんだよ!

 隠してたら良かったじゃないか!

 何でカナデなんだよ! チクショウ!」


 クロはまた家を飛び出して、人で溢れかえるカナデの家を一瞥(いちべつ)して森に向かってまっすぐに走り続けた。




 ――終日続くこの喧噪の中、村に夕日がさす時分


 村長から[創造主の印]の発現報告を受けた王都から、役人が村にやって来た。

王都ルメールから、わざわざこんな辺境の村ダイスにまで早馬で来るのだから、いかに[創造主の印]を持つ者が特別な存在とされているかが分かる



「私は王都ルメールから来た、神官庁のキシルという者だが村長はどこにいる」

「――はい!私が村長のダリと申します」


 村長も王都の役人など、めったに会う事がない為にいつもの口調ではない


「報告のあった娘を、こちらへ呼んで来なさい」


 しばらくすると、村長の家で待つキシルの元へカナデが姿を現した。

キシルはカナデに軽く会釈をして、カナデの首筋に現れた[創造主の印]を確認するとカナデの前に跪きながら話し始めた。キシルのその様子を見て、慌てて村長達も同じように跪く



「確かに確認させて頂きました。国王も先天性のギフト持ちではなく、17歳の生誕の日に発現する後天性ギフトは珍しいと大変興味をお持ちです。

王からは [創造主の印]の確認が取れましたら早急に王都にお連れするように言付かっておりまして、明日の昼には御一緒に王都ルメールに向けて村を出発致します」



 キシルの急な出立の話に、村長の家に集まった野次馬の村民が騒めいている。

 キシルはその周りの様子をみて溜息をつき、言葉を付け加えた。



「今日は色々と騒がしい一日だったと思われます。今夜は村の者のご自宅への訪問を固く禁じさせて頂きますので、ご家族水入らずにてお過ごし下さい」


 キシルなりの急な出立に対する配慮だったのだろう。

 その後、キシルは村長に村人の<訪問禁止>を徹底させた。



「明日……」


 力のない声でカナデはつぶやいた後に、付き添ったラルフと共に静かに村長の家を出た。


 村人の野次馬でごった返す、村長の家の窓の傍には、うつむいたジールがただ立ち尽くしていた。


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