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クロとカナデ  作者: 工房*自我
クロとカナデ
1/7

クロ

*興味を持って下さって有難う御座います!*

*出来れば一章まで読んで頂けると幸いです!*

 


 村の過半を超える民衆や王都の役人が集まる村の式典の中で



 ――カナデは僕にキスをする


「未来の旦那さんから素敵なお祝いを頂きました。

 これで、思い残す事なく旅立てます」


 

 カナデには敵わないや……。とクロは痛感する


 クロとカナデの人生は、この数日前から大きく動き出した――




 **********



 この世界は、人、獣人、精霊種、その他少数の種族によって成り立っている。

種族至上主義の考えをもつ種族もいれば、共存共栄を選んだ種族もいて、多種多様な文明を築き上げている。最も人口割合が多いのは人族で、この世界の北部に位置するアッシド大陸中央にある王都ルメールを中心に最盛期を迎えていた。


――僕達が暮らすのは、アッシド大陸東部の小さな村ダイス

 ここから、僕たちの物語は始まる



 木立が密生する森の中、少年二人が小さな動物を中心に距離をとり、一人は網を持ち、もう一人は枝打ちされた木の棒を持っている。

 木の棒を地面に叩きつけて小さな動物を相手側に誘導する狩りの手法の一つである<追込み狩り>をしていた


「クロ! そっちに行ったぞ!」

「――了解」


 クロと呼ばれた少年は走ってくる動物の前に立ちはだかり、持っていた網を投げるが白色の小さな動物はクロの前で急に方向を変え茂みに消えてしまった。


「――あぁクロ! 何やってんだよ

 せっかくラビッドロア見つけたのによ!」

「ゴメン……」


 別の茂みからは、長い銀髪を櫛で止めた端正な顔立ちをした少女が現れる。


「カナデー! クロがラビッドロア逃がしやがった!」

「何やってんのよ! クロ」


 カナデと呼ばれた少女は、その言葉とは裏腹に笑顔で少年を見つめている。


「いや、ジールの追い込み方が悪かった……んだよ?」


 バツが悪そうにカナデを上目で見ながらクロが答えると、ジールはクロの様子を笑いながらひやかした


「何でだよ!俺は悪くねぇぞ!」


「……まぁ今日は、モバード2羽捕まえたから十分じゃない?

 そろそろ日が落ちるから二人とも村に帰りましょ」


「うん」

「そうだな!」


 三人は狩り道具を鞄に仕舞い込み、狩ったモバードを持って意気揚々と夕暮れの森から帰途に着く……




 **********



「――ただいま」

「おかえり。今日はどうだったの?」


 クロの母親キリは自分の内職作業をしながらクロの話を聞く


「今日はモバードを2羽捕まえたよ!」

「へぇ! 良かったじゃない!」


 そう言いながらキリは時計に目をり、バタバタと食事の支度を始める


「あ! そうだ、これモバード2羽を換金してもらった僕の分」


 と、クロはキリに銅貨2枚を手渡す


「ありがとう。助かるわ」



――村の少年達は15歳を過ぎると、村から決められたエリア内での狩りを許可される。まだ駆け出しの少年達はグループでの行動を義務付けられてはいるが、クロ達からしてみれば親しみのある近隣の森での狩りは遊びの延長のようなものだ。


<クロ、カナデ、ジール>の三人は幼馴染で、幼少の頃から長い時間を共に過ごしてきた。クロとジールが15歳になるのを待って、一つ年上のカナデが二人を引率する立場で狩りに参加して今日に至る。


 狩った動物は村の商家が、村で決められた単価で買取をして代表して王都へ売りに行くので、少年達はその手伝いの対価を家にもたらすのがこの村での慣習だった。



「カナデちゃんとジールは、ちゃんと帰ったの?」


「うん!帰ったよ」


 クロは暗くなった室内にランプの灯をともし、テーブルにクロとキリの二人分の食器を並べ始めた。



 ――クロには父親がいない

 物心ついた時からクロはキリと二人で慎ましやかに暮らしてきた。幼少時にキリに父の事を聞くと決まって寂しそうな顔をした。そんなキリの顔を見るのが嫌で父の事は聞かなくなった。

 だが、クロは今の生活に何の不満も感じていないし、ここまで女手一つで育ててくれたキリに感謝している。将来はキリに楽をさせてやろうと考えていた。



 ――食卓にキリが食事を運んでくるが、一人分の盛り付けしかされていなかったのでクロが疑問に思っていると、キリが食事の入ったバケットをクロに差し出す。


「これ、カナデちゃんの所に持って行ってあげなさい!

 今日はラルフさん、仕事で遅くなるから家を空けているはずなの…… 

 ついでに、クロのご飯も入れておいたから一緒に食べてらっしゃい」


「うん!」



 家を出て川沿いのあぜ道を歩くとカナデの家が見えてくる。

クロが父親がいない境遇に対して、カナデには母親がいなかった。

お互いが余りこの話題を好まないので、クロも詳しくをカナデから聞いた事はない。


 カナデの家に着いたクロはドアをノックするが、家の中から物音はするのに反応がないのでクロは叫んだ。


「カナデー?」


 しばらくしてから、錠が開く音がしてカナデが顔を覗かせる



「なぁんだ……クロか」

「なぁんだ……じゃないよ!」


 辛辣な対応のカナデにムッとしながら、クロはスッと食事の入ったバケットを持ち上げて見せた。



「母さんがカナデにご飯だって!

 いらないなら僕が全部食べちゃうよ?」


 カナデは途端に顔色を変え、上機嫌にドアを開ける



「――わぁ! 嬉しい!

 帰ったら父さん居ないんだもん。

 作るの面倒くさいなぁ……って思ってたとこなの

 クロも一緒に食べるんでしょ? 入んなよ!」


 クロはさも我が家のように食卓の席につき、バケットからキリが作ってくれた食事を並べ始め、カナデは二人分のお水を運んでくる。



 ――どちらかの父と母が用事で家を空ける際は二人で食事をする

 これは、お互いの家族にある暗黙のルールだった。



 ふと、カナデの髪に目がいくと、カナデの銀髪がしっとりと濡れている。

狩りから帰ってから水浴びをした後なのだろう、銀髪が艶やかに光っていた。

カナデは、端正な顔立ちとしっかりした性格も相まって村でも一二を争う人気者だ。



 ――黙ってさえいれば可愛いのに


 クロは常々そう思っていた。クロにとっては物心つく前から一緒にいるカナデは、口うるさい姉のような存在だが、村の皆が知っている<しっかり者のカナデ>が、実は寂しがり屋な事を、誰よりも理解しているのはクロだった。



「カナデはさぁ

 うちの母さんの事、どう思う?」


「キリ叔母さん?

 好きに決まってるじゃなぃ!

 ウチは、母さんいないし小さい時から

 こうやって気にかけてくれてるんだから……大好きよ!」


「そっかぁ」

「何? 急にそんな事聞いて」


「いや、ウチの母さんとカナデの父さんが結婚でもしたらさ

 僕がカナデといつも一緒に居られるからカナデが寂しくないかと思ってさ」


「――結婚!?」


 カナデは驚きながらも、少し考えてから


「ちょっと、想像つかない事もあるけど……

 それも良いかも知れないわね」

「――でしょ!」


 二人は笑いながら、そんな<もしも話>に花を咲かせ

 キリの作ったご飯を食べるのだった。


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