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よみがえり

 彼が発見された時には、目も当てられない程の損傷だったという。


 身体中の骨は砕け、臓器は破裂。


 当然すぐさま病院へ運ばれたが、診断は直ぐに決し、手術は行われるまでもなかった。


 野花二道、死因は歩道橋からの転落及び車との接触、日時は12月28日、年齢は25歳。


 それがその男の最後の時であり、そして彼の享年である―――――




 筈だった。


*


「はい、タイム終了。走れるだろ? 走ってもらわなきゃ困る」


「何だよタイムって。てか良く分かんねえけどちょー眠い、ちょーだりぃ。ちょっと休ませて」


「ポエムする時間、つまりタイムだ。てか贅沢言うなよ、蘇生に手間掛かったんだから」


「はいはい神様、親切にどーも有難うございま・・・・」





「は!?!?」


*


 その少年はジンとだけ名乗った。二道は胡散臭いと感じたので何度も出自確認を求めたが、


「先ずはメシからだろ、生きてるんだから」


 と気だるそうに言うだけだ。



「食わないの? 腹減ってるだろうし、僕がお金出してるんだから、食べないのは勿体無いぞ?」


「いやそうじゃなくて」


「食事中にそういうのは禁句。先ずは食いながら前後の事を考えな」


 渋々と二道はテーブルの上の、れっきとした専門店のラーメンを啜る。



 美味い。


今何が起きているのか解らないが、食べる物を素直に美味いと感じるのは、はっきりと自分が生きている証拠なのだと思う。


 それと同時に、今から二時間前の非日常が脳裏に浮かぶ―――――


*


「何なんだこれ・・・何なんだよここ!?」


「この殺風景かつ寒い所。分かるだろ? 遺体安置所だよ、ほら聞いたら走って」


 身体が重いが走らずにはいられない、それだけこの場所は冷える。迷路のような通路、装飾も設置物も無く白だけが広がるその光景は、不安以外の何物でも無い感覚を滾らせる。


 そのうちに警報めいた、やかましい高音が鳴る。程無くして視界に広がったのは、やはり殺風景な草原・・・とりあえず外には出たようだ。


「オイ何か騒がしいぞ!? ヘリも飛んでるし! オレ指名手配の憶えなんてねーから!!」


「落ち着きなよまったく・・・突破する手なら考えてあるから。僕から離れるなよ?」


 少年は草原の中の、何の変哲も無い長い雑草を口に加え、そして吐き出す。


 そこを起点として、周囲の草が変化を始めた。静かに、しかし迅速にそれは少年と二道を包み込むかのように伸びてゆく。


「カモフはこれで良い感じかな。じゃ、レッツ雲隠れだ」


 それから一時間、草の膜に包まれた二人の周囲には、止む事の無い、戦場であるかのような喧噪が渦巻いていたという。


*


「逃げ出せて良かっただろう? あのままじゃあんたは適当に弔われて火葬場送り。骨と塵だけになったらお手上げだからね」


 二道はホテルの一室で頭を抱える。正直、知らない男と二人きりで宿に泊まる、世の男性がどうだか知らないが彼にとっては軽い屈辱感を持たせる状況だった。


「オイ偉そうなガキ。金も宝なんかも無えからさっさと解放しろ、オレを変な目に遭わせやがって! それに蘇生やら遺体やら火葬やら、まるでオレが死んでるみたいじゃ・・・」


「死んでるよ、あんたは。そして僕が蘇らせた」




 中二病か何かか?


 にしては冗談が過ぎる。


 では本気で言っているのか?


 半信半疑、それが今の二道の胸中だ。あの雑草を伸ばした超能力、ああいう力が有れば或いは・・・だがあれは只の手品かもしれない、そもそも人を蘇らす能力なんて下手なラノベでもホイホイ出てくる物じゃない、じゃあ


「考察したいのは分かるけど、夜が明けたらさっさと出るよ。双方共に急を要するんだ、心身の為にもとりあえず寝て」


 その言葉は正に、疲労しているという現実を二道に突き付けた。


 疲れという感覚を取り戻した二道は、崩れる様にベッドに倒れ込み、そのまま睡眠へと入った。




「痛ッ・・・! 何だよいきなり!?」


「見た感じ眠りが深いようだから、刺激で起こした。出るよ、連中が嗅ぎ回ってる」


「んな事が何で・・」


「ちょっと耳をね。とりあえず非常階段からだ、上がっては来てないっぽいし」


*


 喧噪は大きくは聞こえない、この経路に近づく気配も無い・・・もしかしたらもう諦めて、追う手は引いたんじゃないのか?



 現実には、その楽観は外れている。


「囲まれてるじゃねーか! 何で気付かなかったんだよ!?」


「待ち伏せぐらい読めてたよ、これしか賭ける手は無かった、それでこの結果になった、それだけの事さ」



「ハッハッハ!! ここまでの様だな裏切り者め! 最初にお前を連れ戻せるのは幸運だ、そこの元一般人共々無抵抗で来て貰おうか!」


 周囲の一見に逃げ場は無く、苦しげに顔をしかめる二人を嘲るかの様に、やたら調子づいた口調の青年が周囲の者達より数歩前に出る。


「何だよあいつ。やたら得意気じゃねーか、ムカつくぜ」


「腐っても政府の犬みたいな者だからね。多分年はあんたとそう変わんないよ」


「マジかよ!? それであんな根拠不明の虚勢を張ってられ・・・うわあっ!?」


 大きな火球が、二道の真横に放たれる。それは明らかに目の前の青年からの、言い返し替わりの返礼だった。


「どうだ死体使い、不本意ではあるが貴様の力を用いて製造された生気砲だ! 偽善事業など興さずに政府の犬になれば、楽な暮らしが出来た者を!」


「偽善だと? 人を傷付けるしか能の無い立場から良く言うね」


 状況が読めない。話している言葉は紛れも無く日本語なのに。生気砲? 腕に着けて放つなど、まるでSFじゃないか。仮に自分が一度死んでいるならば、今度は殺さるのか。こんな訳の判らない連中に殺されるのは、逆に有り触れた交通事故より情けない。


「オイ坊主! 何キレてるか解らんけど、武器なんて無えだろ? あのSFヤローはともかく周りは銃を持ってる、切り抜けれるワケがねえ! オレだって命は惜しい、ここは大人しく」


「命が惜しいなら下がってて」



 もう、どうにでもなれ。


 年下の男の剣幕に負けるなんて、と男としての強い屈辱を覚えた。


「周りは鉄物ばかり、足元もアスファルト・・・せめて芝生だったら良かったんだけど。不本意だがやり合うしかないな」


 ジンはポケットの中から、何の変哲もない注射器を取り出し、自分の左腕に突き刺す。


「何をしている?」


「採血だよ、命ここで果てるなら、ってね。献血で社会貢献する位なら別に・・・」


「献血だと? 世迷い事を! 貴様ら死体使いのおぞましい血を受け入れる人間がどこにいる! 始末するなという指令が出ているのは残念だが――」


「そういうのは実行してから言えよ、三下君」


「ッ!? 糞があアッ!!」



 その閃光の眩しさ、それに対し顔を覆った事で、二道は何が起こったか視認出来なかった。


「今の内だっ」


 ただ分かったのは、ひとまずの身の危険からは逃れられた、それだけだった。




「血の固形化だと・・・まるであれは超能力ではないか・・・・負傷者はいるか!?」


「『あの物体』の直撃を手足に受けた者が3、4名、重傷の者はいません」


「そうか、だがあの二人は完全に見失った、今は退くぞ。・・・修正班にも連絡しろ、この一件の隠蔽が必要だと」


 言い様の無い屈辱感―――青年は足を以て、その癇癪を近くの土管にぶつけた。


「何故だっ、あんなのは聞いていないっ、隠し事か!? この縁下ノ助に隠し事なのか!!? ・・・俺のレールを邪魔する坊主に一般市民め、接収したら嫌と言う程屈辱を味あわせてやる・・・・!!」


*


「なあっ、今度はどんなトリックを使ったんだ? これで逃げられたんだろうな!?」


「トリックじゃなくて降術の応用だよ。簡単に言うと採った血を固めて散らす、それであの攻撃を防いだってわけ。多少派手にやったから連中にそれなりの支障は出ただろうし、まあ3、4日位は誤魔化せるんじゃないかな」


「うん、SFだな。そんな理屈じゃあお兄さんは騙されないぞっ」


 どういう訳だか気持ち悪い位に笑みが浮かぶ。普通の人であると自負している二道は、正直認めるモノと認められないモノの境界線が揺らぎつつあった。だからこそヤケクソ気味に笑みが浮かぶ。


「ま、それならそれで良いよ。とりあえず家族は? 帰るのには出来る限り協力するよ」


「帰るったって、お前が散々連れ回したんじゃ・・・まあ、多分ここも街中だろうから、適当に調べれば・・・」


『昨日夕方、会社員の野花二道さん25歳が歩道橋から転落し、その後車に轢かれ死亡しました』


「・・・おいおい冗談が聞こえるぜ、現にオレはこの様に―――」


『遺体は損傷が激しく既に病院に運ばれた時点で死亡が確認されており――――』




 顔を蒼く染め、感情のままに路地裏から出る―――が、ジンはそれを許しはしなかった。


「今出たら連中の格好の的だよ、実験台にされて精神的に殺される可能性もある」


「・・・だったら何だよ、何なんだよッ!! 何でオレは死んだ事に―――」


「いい加減受け入れなよ、あんたは一度死んで、僕が蘇らせた。それだけの事だ」


「だから何か!? オレを玩具にでもしてえのか!!? オレにだって生活があったんだ、誉められねえ生き方かもしれねえが幸せはあった、生きていたかったんだ!! それをテメエは」


「それを取り戻すために!! ・・・僕はあんたを蘇らせた。それだけは信じてくれ」



 特に理由もなく、二道はへたり込む。何故だか涙が溢れてくる。


 まるで闇を怖がる子供の様な、言い様の無い不安と形容し難い恐怖の中、彼は少年に問う。



「何が何だか、サッパリ解んねえよ・・・教えろよ、お前は一体、何者なんだ・・・・?」


 その問いに、何一つ後ろ向きな態度を見せず、彼は答える。




「僕は降界師。生命を司る力を得た、神の摂理を超える者だ」




降界師 あるいは現代のアスクレピオス

第1話

『よみがえり』




to be continued・・・・


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