夕焼けの空
「初めて見た時から好きでした!私と付き合って下さい!」
「ごめん…」
「え?」
「俺には、好きな人がいるんだ。」
「そう…ですか。」
何度このやり取りを繰り返しただろう。
ボロボロと涙を零して走り去る女の子を見送って、屋上の扉を開け、校舎内へと戻る。
「よぉ。孤独な王子様。また女の子を振っちまったのか? 全く罪な男だよなぁ。」
二人で屋上に行ったのを見られていたのか、金髪でガラの悪い男子生徒と背の高い女子生徒が物陰から現れた。
「ああ。マサヤか。」
男子生徒の方は木戸 雅也コイツは俺の幼馴染だ。口は悪いがいい奴ではある。
「あの子、一年で一番可愛いって評判の坂本 彩香ちゃんだぜ。あの子でダメならお前の運命の人ってやつはどんだけ美人なんだよ!」
「まあな。彼女は可愛かった。俺の心臓を一目で射抜かれたよ。」
「射抜かれたよ…って!、お前の初恋って幼稚園の時だろ?そんなに前から探してるってのに見つからないってことは、見間違いとか、妄想とかだったんじゃ無いのか?」
「いや、そんな筈はない。
あの子。瞳ちゃんは俺と同い年だった。
つまり、同学年だった。
俺はいつか彼女を見つけ出し、そして結婚する。その為に俺は自分自身を磨いてきたのだから!」
俺はぐっと拳を握りヒトミちゃんへの思いを馳せた。
「モテるわりに未練タラタラだなぁ。
お前に惚れる女の子が不憫で仕方ねぇよ。」
ヘラヘラとマサヤは笑った。
「全く。ほんと残念な奴。
せっかくモテてるんだから誰かに手を出せば良いのに。」
マサヤの隣から聞こえる少し低めな女性の声。
背の高い凛とした女子生徒の方は真田 優。
この女子生徒も、俺の幼馴染だ。因みにマサヤとは恋仲にある。
「いつまでそんなメルヘンな初恋を追ってるのよ。だからあんたは高3にもなって童貞なのよ。
ねー!マー君!」
「ねー!ユーちゃん!」
二人で顔を見合わせて幸せそうに言う二人。
「ウゼェ。二人とも爆発しろ!あと、俺の童貞は恥ずべきものじゃない。瞳ちゃんの為に純潔を守ってるだけだ。むしろ勲章と言っていい。」
「お?僻みか?
あと、その発言はいくらお前といえどキモいぞ。」
「うるさい。俺はもう帰るぞ。毎回告白されるたびに覗きに来やがって。」
「だって面白いんだもん。いつもジュンがどんな顔して断るのが楽しみにしてるんだから。
じゃ。マー君行こっか!」
「そうだね!ユーちゃん!」
「くそっ!甘ったるい空気にしやがって!
じゃあ、俺はもう行くぞ!」
なんだか甘ったるい雰囲気になってきている二人を置いて俺は帰路へと急いだ。
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マサヤとユウとは長い付き合いだが、どうもあの空気には慣れない。
ユウとマサヤは二人でいるとすぐにイチャイチャし出すからな…。
どうもあの二人を見ていると、自分が置いていかれているような気がしてくる。
まぁ、事実なんだけど。
季節は春に近づいて来ている。
もうすぐ卒業の季節だ。
卒業すると、もう一つの世界で生きる権利を得ることが出来る。
俺は、一つの計画を実行に移そうと目論んでいた。