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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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第六十四話 改革案

「では、檻を開けますので、少し下がっていて下さい」


 ――属性纏《火炎》――


 檻の鍵を、火炎属性で纏ったナイフで焼き切っていく。その後、神官と糞系神官風阿呆奴隷を隅においやり、残りの者に魔術を展開していく。


 ――神聖魔術《解呪》――


 ――生命魔術《完治》――


 ――生命魔術《聖水》――


 ――清潔(クリーン)――


 すると、先ほどまで属性纏に驚いていたギルドマスターまで、首輪が外れたことに大喜びしていた。そして、商業ギルドのギルドマスターと前学園長に聖水を飲ませたことで、二人はやっと目を覚ましたようだった。


 残った神官達を【神魔眼】で確認すると、称号が犯罪者につくものばかりだった。基本的に教国の者はオークの国の住人にする予定だから、この者達だけでも先に送っておこう。あとで、説明するまで体験入国していて欲しい。


 ――時空魔術《転送》――


「な……何をする!」


 という言葉を残し、光に包まれながら消えていった。その様子を見ていた残りの元奴隷達は顔を青ざめ、決して敵対しないように小声で話し合っていた。


 そしてそれを横目に、この国の主だった者達と、今後の打ち合わせをしていくのだった。




「この度は助けて頂いて、誠にありがとうございます。この御恩は一生忘れません」


 そう話す者は先ほどまで衰弱していた、冒険者ギルドのギルドマスター以外の有力者達である。しかし、この手の言葉は信じていないため、正直どうでもよかった。ひねくれているからではない。最初に行った王国でも、感謝の言葉を言ったのにもかかわらず、手のひらを返されてしまった。その教訓から、信じることやめただけだった。


「感謝の言葉は受け取りますが、行動で示してくださいね。まず、俺が奴隷解放運動しているというデマを、無闇矢鱈に流さないようにしてください。今回は、たまたま別件と重なっただけですので。それに、先ほどの阿呆のように助けた後に罰するとか言われたら、お仕置きしたり天に召したりと、手間がかかるだけですので」


 俺は、先ほどの阿呆のことを許していない。目の前にいる者は関係ないと思われるかもしれないが、教国の阿呆を【神魔眼】で見たときに、ついでに他の者を見てしまったことで、新たな問題が生じる可能性が出てきた。そのための釘を刺しておくことにしたのだ。


 その新たな問題とは、奴隷商人の称号を持っている者の存在だった。解放した後に気づいたせいで、対処が遅くなってしまったのだ。もっと早く気づいていたら、オークの国へ送っていたかもしれない。この奴隷商人が真面な奴隷商人であることを祈る。


「まぁ前回の話は聞いてるから、疑われてしまうことは仕方がないな。それから関係ない話と思われるだろうが、少しだけ聞いて欲しいことがある。最近「グランドマスターの選挙に出馬しろ!」って言われたけど、きっぱりと断ってやった。俺は生まれがこの街だからな。この街の発展のために師匠の下で修業したんだから、答えは当然ノーだ。もう分かると思うが、あの阿保のグランドマスターが捕縛された原因は、お前らだろ? 本当に、感謝してる。お前らのことはギルド上層部しか知らないから、安心してほしい。もちろん、この場にいる者の口は、絶対に開かせない。リオリクス様の名の下に誓う」


 どうやら、決死の覚悟で責任を持ってくれるようだ。ここまで言ってくれるならば、少しは安心できるだろう。最悪、リオリクス様が折檻してくれるのだ。あのクラスの折檻は死亡レベルだから、ある意味で同情出来る。


「それなら、安心ですね。これでやっと今後についての改善案を出せそうです。まず、この国の意思決定は選挙で行いましょう。神官達は、教国の意思の下で動いているため信用出来ません。商業ギルドの本部も、【商業国家サンクテール共和国】ですよね。それから、冒険者ギルドの本部も、【ドライディオス王国】です。他のギルドも同様です。他国の意思が介入しやすいでしょう。それでは間者が入りやすいですし、この国の中立性が無法地帯になっただけです。実際、【魔結社】という阿呆集団が占拠しているわけですしね」


「ちょっと待て! 【魔結社】だと? どこにいた?」


 冒険者ギルドのギルドマスターの『グリード』は、俺の言葉の【魔結社】の部分に反応したようだ。当然だろう。頭のおかしいテロ集団のことは、絶対に把握しておかなければならない事案だったからだ。


「魔結社は、魔獣ハンター達のことですよ。あと、自称賢者と数名の阿呆教師。こいつらのことは後にしようかと思いましたが、うちの熊さんも暇そうにしているから、先に話しましょう」


 ずっと怒っている理由をソモルンに問い詰められ、返答に困っていたのだが、リオリクス様の話で有耶無耶に。その後は右腕を見ようとしてたが、俺が隠しているため見えず。仕方がないから話を聞いていたが、暇になってきたようで大きな欠伸をしている。


「自称賢者達は、地下でキメラを造っていました。キメラの製造を阻止した後、阿呆共をお仕置きしている最中にキメラが乱入してきたのです。阿呆共は、そのキメラに食べられてしまいました。その前に仕込んだ魔術の効果で、魔結社の『蛇の紋章』を持つ構成員は、もれなく蛇に進化します。ゆっくりと。まぁ実力者や加護付きの者には、抵抗されてしまいそうですが。その実力者以外は、アジトに転送して生涯労働してもらう予定です。明日、構成員を強制的に転送して尋問する予定ですね。そのあとは、別の者に管理させます。理由は、蛇が嫌いだからです」


 話を聞いていた面々は、意味が分からないと言いたげな顔をしていた。それも全員。それは仕方がないだろう。俺も、こんなことをするはずではなかった。爆破できないなら、この空間を無駄にしないためにはどうすればいいかと考えた結果が、あの刑務所兼魔晶石工場だっただけだ。


 一番最初に思ったのは、鉱山奴隷だった。だが、蛇の彼らには手足がない。次にオークのように蛇の魔物と交尾させて量産することを考えたが、利点が一つもなかった。もちろん、俺の蛇嫌いが不要と判断する材料にもなった。そして思いついたのが、魔晶石工場である。元々人間ということで、言葉も理解でき魔力もある。それなら、魔力抽出労働に従事してもらうことにした。オークのために。


 これからオークは、国を持つことになる。だが、考えて欲しい。オークは魔物で討伐対象だ。すぐに、攻め込まれてしまうだろう。そのための軍事力は必要不可欠だろう。他の国は、良質の武器をドワーフの国から買い付け、魔道具を魔王国から買い付けている。しかし、魔物に物を売る者はいない。


 ということで、自分たちで生産してもらうことにした。そのとき思ってしまった。魔剣を標準武装にすれば、最強じゃね? って。しかし、魔剣を作るためには高品質な魔石か魔晶石が必要である。その材料づくりに、協力してもらうことにしたのだ。これからもオークの国のため、誠心誠意尽力していくつもりである。


 話を戻すが、これで幹部以上の強者を除く、世界中に散ったモブ構成員をまとめて処分出来る。人数が少なくなった阿保達の行動は、遅延か中止かになるだろう。人がいなければ、何も出来ないのだから。その間に、創造神様を解放させてもらう。


「……とんでもないことをするな。蛇になるのか……。その管理者を聞いてもいいのか? あと、アジトの場所も」


「管理者は、オークですよ。討伐しようとしても構いませんが、おそらく勝てないでしょう。討伐はやめておいたほうが、無難で賢いと思います。アジトの場所は、学園の地下です。そのせいで爆破出来なかったから、そのような施設を造ったんですよ」


「……オークが強いのは、何故だ? あと、簡単に場所を教えていいのか?」


 さすが、冒険者ギルドのギルドマスターだけはある。魔物のことには敏感だ。


「オークが強い理由は、賢いからとしか申し上げられません。あとアジトに関しては、結界魔術の《絶界》を張る予定です。触らないことを勧めますよ。消し飛びますからね。それに、オークも蛇も外に出られませんから、御安心を。街にオークと蛇が出ても、俺のせいではございません。《絶界》とは、そういう魔術です。ちなみに、俺の絶界を壊せる者は神獣以上ですので、重ねて御安心を」


 と、笑いかけた。ぶっちゃけオークが強い理由は、高ランクの魔物を食べているからだった。もちろん、俺からのプレゼントだ。この間の狩りや旅の道中の魔物を、そのままあげたり調理してあげたりしている。料理のレシピや文字の教科書、様々な道具も一緒に送っている。


 俺がここまで目を掛けている理由は、俺のお仕置きと復讐に巻き込んでしまったことと、初めて会ったときに敵対しないことを選んだ賢さだった。それまで様々な阿呆に会ってきた中で、魔物なのに最も賢い対応を行ったのだ。心を打つのに十分だった。だから、ギルドマスターに言った賢いということは、あながち間違っていないのだった。


「では、魔結社のことが落ち着きましたので、国の方に戻します。まず、学園についてです。学園にいる魔結社の構成員は、明日全て排除する予定です。残る問題は、おかしな考えを持つ教師だけ。問題の阿呆教師については、阿呆な考えを覆していけば大丈夫でしょう。その過程で、この国の顔である学園を浄化します。自称賢者がいたころの学園は、とてもこの大陸一とは言えないものでした。それを前以上のものにして、信用回復と国力回復を図りましょう」


 学園の今後についての簡単な提案をすると、肯定的な様子で頷いていることが確認できた。そこで、次は国の運営についての提案をすることにした。


「今は使われていない施設を行政施設にして、武官や文官を決めましょう。選出条件は、この国の国民であること。犯罪歴がないこと。長期間住んでいること。この条件に合うものが選挙に出馬して、国民に投票してもらう。代表は、学園長と兼任です。ですから、学園長の選挙は国家代表選挙になるわけです。条件の付け加えは、そちらでしてください。もちろん、任期ありですよ。その選挙の資金は、税金やイベントの収入で賄いましょう。例えば、武術大会。この武術大会は、この一ヶ月以内に試しにやってもらいたいです。絶対に!」


 俺が右腕の痛みを我慢してまでこの場にとどまり続け、今後の方針を話している理由は、最後の部分をゴリ押しするためである。さらに理由を突き詰めると、戦神様からの神託がメールで送られて来たことにある。


 またいつもの催促かと思っていたら、武術大会に参加していないことについてだった。火神様・戦神様・技工神様からのお使いを受けていたが、戦神様からの『武術大会で優勝』のみ達成していなかったからである。


 創造神様が解放される前にと言っていたが、このままだと戦神様のお使いのみ、創造神様の解放後になってしまう。つまり、折檻を受ける対象になることが確定してしまうのだ。そこで、できたらやっておけという軽い願いから、絶対にやれという命令に変化したのだった。


 だが、俺にも言い分がある。近くに大会を開いている場所は、どこにもなかったのだ。そんな脳筋なことをしょっちゅうしている国は、獣人国か竜人国くらいなもの。ドライディオス王国や学園国家は、人族多めの国だからか一年に一回しかない。そこで、ないならば作ってしまえ! と思ったのだった。オリジナルな大会にしたいと考え、この国らしく召喚獣や従魔参加型というものを提案した。


 この国はテイマーが住みやすい国をうたっているわけだから、テイマーが参加しやすい大会を行えば、そのまま住んでくれるかもしれない。人が増えれば流通も多くなり、活気がわく国になるだろう。問題も増えるが、それはどこでも同じである。


 そのことを戦神様のことを除いて話すと、有力者たちが大賛成してくれ、明日から大忙しで準備することになった。打ち合わせが終わり、彼らを外に出した後、魔術を設置して俺達も外に出た。


 ――火炎魔術《爆砕》――


 俺達の周りを結界で覆い、目の前の光景を眺めていた。真っ赤な火柱が立ち上り、先ほどまであったギルドは跡形もなく灰になっていた。ちなみに、被害が広がらないように加減した上で、結界で囲んで延焼防止対策をしていた。


 焼却処分が済んだことが確認できた後、燃え盛る炎を鎮火させた。その作業を終え、呆然としている者達をドナドナして家に送った。そこまで終わらせると、疲れが押し寄せ眠くてしかたなかった。プルーム様のところに行く前に屋敷で寝ようとしたのだが、プルーム様からのお迎えが来たようだ。


「おーい! 派手にやったな。セレール様やみんなを連れて屋敷に戻ったから、一緒に転移しようぜ」


 迎えだと思っていたガルーダは、俺の勘違いだったようだ。俺は内心で「俺の転移で帰るのかよ!」とツッコミながら、屋敷の玄関の扉の前に転移した。すると、ガルーダが一言。


「……すまん……」


 はっ? 何故謝るんだ? と疑問に思い、同時に嫌な予感がした。即座に防御態勢をとる。


 ――幻想魔術《犀鎧》――


 ――属性纏《大地》――


 ギリギリ間に合い、開かれた扉から飛んできた右ストレートをなんとか受け止めた。……右腕で。滅茶苦茶痛い。理由を聞こうとガルーダに目を向けようとするも、その前に視界に入る赤い瞳。ボス中のボスだった……。


「な……何故怒っているのですか?」


 俺はプルーム様が怒っている意味が、全くと言っていいほど分からなかった。ボムとソモルンも、口を開けて固まっていた。それにしても、幻想魔術の防御力の高さには驚かされた。それと同時に、幻想魔術に心から感謝した。


 以前は、防御しても骨折していた。複数箇所も。だが、今は右腕が滅茶苦茶痛いだけ。進歩に喜ぶも、目の前の竜神様が怖くて仕方がない。ヘリオスの気持ちがよく分かる。そして、俺から離れるボムとガルーダ。


「ガルーダ、説明して!」


 俺は、必死に訴えた。


「俺の眷属が、お前らの上を飛んでたんだ。それで、お前の右腕の話を聞いてプルーム様に報告したら、カルラ様が聞いてしまい、現在大号泣中だ」


「お前のせいかー!」


 ガルーダが伝えなければと、思ってしまっても無理はないだろう。しかし、ここで終わらなかった。


「右腕ってなにー?」


 カルラの兄ちゃんのソモルンだった。ソモルンには見えないように、ずっと体の陰に隠していた。ボムも黙っていたため、右腕の怪我のことは知らなかったのだ。


「……何でもないんだよ。なっ? ボム」


「……」


 俺はボムに助けを求めたが、ソモルンに嘘をつくことを嫌がり、さらに怒れる竜神と目が合ったのだろう。俺の言葉に沈黙で返した。


「……ボム?」


「……アイツは、右腕を怪我しているんだ。俺とソモルンを殴ったヤツを倒すために」


 ……言ってしまった。怪我の話を聞いたソモルンの瞳から涙がポロポロと、こぼれ落ちた。


「ラース……僕が気絶しちゃったせいで、ごめん。足手まといになっちゃった……」


 こうなりたくなかったから、言わなかったのに。ガルーダ、覚えとけよ! そして俺は、パニックのせいで失言をしてしまった。


「でも、ボムは無事だったぞ」


 言ったあと後悔した。目の前の竜神は、拳を握り構えた。


 ――結界魔術《絶界》――


 ――大地魔術《金剛門》――


 ――氷雪魔術《氷鎧》――


 ――生命魔術《生命維持》――


 俺は防御に全振りして、堪えることに決めた。それ以外の道はない。そして、放たれた右ストレート・ドラゴンバージョン。


 次の瞬間、俺の意識は飛んだのだった。




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