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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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第六十一話 神罰





 ◇◇◇





「痛いよ……。セレール姉様……。またお昼寝出来るかな……。また会えるかな……」


 独り涙を流しながら、呟くが誰もいない。首輪をはめられ、この牢屋に入れられてから、どれだけ経ったのかも分からなくなっていたとき……。


「グレタ!」


 と、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。顔を上げ声が聞こえた方を向くと、大好きな兄の顔がそこにはあったのだ。


「……兄ちゃん?」


「そうだぞ。助けに来たの。もう大丈夫なの。兄ちゃんの友達もいるの。ボムちゃん、お願い」


 ソモルンがグレタの疑問に答え、ボムにお願いをする。


「任せろ」


 そう言うボムは、生命属性の魔晶石を取り出し魔力を込めた。青白く輝く魔晶石には、完治の魔術と解呪の魔術が組み込まれている。本来解呪は神聖魔術だが、生命魔術の派生魔術だからか、生命属性の魔晶石に組み込むことが出来た。


 その魔晶石を使用すると、首輪が外れ元気になったグレタがいた。


「痛くない……。熊さんありがとう」


 グレタは感謝の言葉を言い、ボムの腹に抱きついた。星霊兄妹はボムの腹が大好きなのだ。


「無事で良かった」


 ボムはグレタを連れ牢の外に出る。すると、セル達がすでにプルーム達と合流しており、こちらに向かって走ってきた。それも、必死の形相で。


「どうした?」


「……火……火が……」


 ボムの質問に、呼吸を整えながらセルが答えた。どうやら火から逃げていたようだが、たかが火くらいと思わないでもない。


「火がどうかしたか?」


「父ちゃん、火の龍が現れたんだよ。しかも、この根みたいのを燃やしながら」


 ニールが答えたことで、ボムは理解した。ラースの仕業だと。


「ラースの嫌がらせ作戦だろ。アイツが動き出したなら、早く行かないと色々見逃すぞ」


「転移の魔晶石をもらってきている。集まれ。すぐに行くぞ」


 そう言って、魔晶石に魔力を流し転移するのだった。





 ◇◇◇





「ただいま」


 そう答えるボムは、少し照れていた。なんだかんだ言っても長く離れたことは、俺が夜中に抜け駆けしたとき以外はなかったからだ。少しでも寂しく感じてくれたのなら嬉しい。


「……お前は、新任のラース……だったか?」


 俺とボム達の再会を邪魔する存在がいた。


「これはこれは、自称賢者様。このような場所で何を? ここはトカゲの王国ですよ?」


 後ろでは、観客達が爆笑していた。


「トカゲではない。竜だ!」


 どうやら、この自称賢者風阿呆もトカゲは嫌だと言う。


「まぁとりあえず、あなたはそこにいて下さい。まずは、このトカゲからです」


 自称賢者風阿呆を魔槍兵に麻痺させ拘束すると、トカゲ風現場監督に声をかける。


「あなた達は竜の尻尾が好きなのでしょ? そんなあなたにプレゼントがあります。新竜の尻尾です」


「……何? 神竜の尻尾……だと?」


 股間を貫く痛みすら超えるほどの驚きだったようだ。もちろん、プルーム様の尻尾ではない。ボムは俺の意図に気付いたようで、また刀を造ってくれた。俺は宙に浮いているトカゲ改め竜の後ろに回り、上段に構えた刀を真っ直ぐに振り下ろした。この間と違ってよく切れる。名刀熊徹と銘を刻もう。


「グゥッ……ガァァァー……。何をする……!?」


 俺は、刀を切断した尻尾に突き刺し、トカゲの前に突き出した。


「お前達もこうやって、ドラゴン達を切り刻んでいただろ? それも殺さず、切断しては治してを繰り返すという残虐な方法で」


 そう。これが雷竜王が不機嫌だった理由だ。人体実験をしているのは知っていたが、人体実験の被害者は、何も人間だけではないという話だ。この実験では魔物や魔獣も同じ事をされており、ニールの両親も捕まっていたら同じような運命を辿っていたのだった。もちろん、グレタも。ただ、グレタは隷属させられなかったため、魔力の吸引だけになったのだ。


「我々の研究は世界を救い、皆のための崇高な使命だ。それに引き換え、貴様のは拷問ではないか」


「何が崇高な行動だ! 頭の悪い集団のイカれた研究だろ!」


 残虐な行為に虫唾が走る。そして結局ドラゴン達は、変な液体に入れられ死んでしまった。間に合わなかったのだ。木の根が鬱陶しく感じたのは、救助を邪魔しているように思えたというのもある。


「……我……我々が、誰か分かって言っているのか?」


 麻痺して話しにくいのに、頑張って話す自称賢者風阿呆は、自身が所属する組織の自慢をしたいようだった。


「もちろん、知ってる。クラン『蛇の絆』だろ?」


「違うわー! 全然違う! そもそもクランではない」


 相当お怒りのようだ。麻痺しているのに無理して大声を出すから、顔と首がプルプルと震えていた。


「それはすまない。お揃いの蛇の紋章を入れているから、てっきり。……じゃあアレだ。トカゲ連合軍?」


「違うわー! トカゲではないし、連合軍ではない! 我々は、秘密結社の構成員だー!」


 怒り狂う自称賢者風阿呆教師筆頭兼支部長。


「あぁ。魔王国発祥の『魔結社』とかいう阿呆組織ね。というか、秘密結社なのにアッサリと話してしまいましたね。……プッ!」


 未だ立てず、地面にゴロゴロと転がる自称賢者風阿呆教師筆頭兼支部長は、自分のミスに気づき、そしてはめられたことに気付いた。わざと怒らせ情報を得るために。


「それで? その魔結社様が何用でここに? しかも、この吐き気がするような所業を、崇高な使命とか言っている始末。それに、あんたらは一番やってはいけないことをしたことに気付いていない。あの子の親に代わり、俺が貴様らに神罰を下す」


 俺は探索魔術でグレタの様子を見ていた。だからこそ、怒りで腸が煮えくりかえる思いだった。


 ――創造魔術《鉄の処女(アイアン・メイデン)》――


 俺は、前世の地球で有名な道具を使うことにした。ぶっちゃけ、これを使いたかったから尻尾を切ったのだ。真っ直ぐに硬直している尻尾があったら、この中に入るとき邪魔だろ?


「さぁ、君のための鎧を用意したよ? 神罰を代わりに下すんだ。今までのような楽なお仕置きだと思うなよ」


 そう言って《鉄の処女》の扉が閉じられ、鍵が掛けられた。次の瞬間……。


「ガァァァー……痛い! 何故だ! 竜の鱗だぞ!」


 可哀想なトカゲだ。本当の竜の鱗を知らないらしい。属性纏を施さなきゃ傷すらつけられないのが、本当の竜の鱗なのだ。刀の一振りで、切断出来る竜の鱗なんてワイバーンのような亜竜だけだ。故に、トカゲと同じだ。


「それで終わりだと思っているなら、間違いだぞ?」


 ――雷霆魔術《神罰》――


 罪の重さや数によって、雷の強さや回数が決まる。すぐに死なないように、特製鎧には回復魔術付きだ。特別サービスに感謝してほしい。


「雷に撃たれて罪を悔い改めろ。いつになったら終わるだろうな」


 時折轟く雷鳴がうるさく感じ、落雷で生じる余波がすごいため、結界を張って防ぐことにした。落雷の威力を見て、どれだけ罪を重ねたのだろうかと疑問に思った。正真正銘のクズだったようだ。


 ――結界魔術《絶界》――


「さて、待たせたな。自称賢者風阿呆教師筆頭兼支部長殿。今までの魔術を見て、それでもお前が賢者だと、まだ言えるか? 闇黒魔術しか使えないくせに。ただの魔術師兼詐欺師だろ?」


 俺の言葉に、顔を赤らめた自称賢者風阿呆教師筆頭兼支部長殿は、瞳に憎悪の炎を宿していた。


「私は希少な闇黒魔術を使えるのだぞ! 十分ではないか。それなのに、誰も評価をしない。挙げ句の果てに、禁忌魔術の使い手だと忌避するだと……。それに、貴様のは魔法ではないか。無詠唱で魔術を発動出来るか! 貴様こそ詐欺師にふさわしい!」


 自称賢者風阿呆教師筆頭兼支部長殿の闇は、どうやら相当深そうだった。気持ちは分からなくもない。俺が以前に使った闇黒魔術《支配》などが、一番いい例だろう。ただし、使えればだが。


「闇黒魔術なんて、俺でも使えますよ? 希少なのは、時空や創造魔術のことですよ。さて、下らない話はここまでにして、早速お仕置きをしましょう。あなたには本当の闇黒魔術をお見せすることにします」


 ――結界魔術《絶界》――


 ――闇黒魔術《死霊召喚》――


 ――闇黒魔術《怨嗟》――


 ――闇黒魔術《蠱毒》――


 ――闇黒魔術《無間地獄》――


 まずは、こちらに漏れて来ないように蓋をすることにした。絶界を二カ所とか正直辛い。ここに来る前に金聖虎と戦ったため、なおさら辛い。


 そして、この連続して放った闇黒魔術の説明を簡単にすると、今まで殺め苦しめた者達の恨み辛みを聞きながら、毒虫と死霊達によって罰せられるというものだ。精神干渉魔術により、一秒が百年という時間感覚のおまけ付きで。


「はっきり言って、賢者とかどうでもいい。やりたいヤツが勝手にやれ。だが、そのための力を得るために他人を巻き込むな。お前の旅はここで終わりだ」


「や……やめろ! やめてくれー!」


 幹部二人への神罰は終わったが、まだ有象無象がいる。例の神官達もだ。


「さて、毛が生えたオーク諸君。君たちを私が懇意にしている国へスカウトしよう。とてもいい国だよ。君たちなら好待遇だ」


 そこで、ボムとセルは気付いたのだろう。先ほどまでの神罰では笑い一つなく、むしろ引いている者が多いほどだったのだが、今はボムとセルが爆笑していた。二人が笑ったことで緊張から解き放たれた者もいた。


「ラース。またあそこか?」


「毛があれば、モフモフされるかと思ってな」


 俺が笑いながらボムの質問に答えると、ボムとセルは大爆笑した。


「……オーク……ではな……い」


「そういうのいいから。どこから見てもオークだからさ。君達の新しい仕事は人体実験ではなく、オークのお婿さんとお嫁さんだから。たくさん子作りするだけだが、充実した仕事になるだろう。大変だろうけど、頑張ってくれたまえ。一応、特製の薬打っておくからさ」


 そして以前に作った、不妊治療の特効薬を注射してあげた。その後、麻痺を治してからオークの国へ転送した。


 ――生命魔術《状態回復》――


 ――時空魔術《転送》――


「さて、飛べないハーピーとコボルトはどうするか……。あと、少数のトカゲ。とりあえず、放置して亡くなった者を火葬しに行くか」


 魔兵達に頼み、残りの有象無象を端にまとめておいてもらった。もちろん、ドロップ品は回収して。数人の神官達も同様にだ。


「ラース。亡くなった者達の供養なら、俺も手伝うぞ」


「俺もだ」


 ボムとガルーダも手伝ってくれるようだ。無残な遺体や解体されたものを、部屋ごと全て焼却した。ガルーダがいて本当によかった。魔力の節約が出来たからだ。


「二人ともありがとう。さて、神官達。起きてくれないか?」


 手伝ってくれた二人にお礼を言い、確認したいことがあったため、瀕死の神官達に声をかけた。ちなみに、お礼された二人は照れながら頷いていた。


「うっ……な……なんだ?」


 さすが、勇者。まだ話すだけの力が残っていたようだ。


「お前達の大事な聖剣が、この街に現れたそうだな? 早く帰って、本国に伝えなければならないのではないか? こんなところで寝ていていいのか?」


「とっくに知らせたわ! それより、何故知っている……?」


 どうやら、計画通りに進んでいるようだった。聖剣のことを報告したのなら、コイツらはもう不要だ。お仕置きをしようと思い魔力を込めたのだが、左手の掌に異常が……。


「っ!? これは……【火焔龍】が死んだ……?」


 木の根を燃やすために放った《火焔龍》が消されたのだ。簡単に消されるような魔術ではない。


「ラース。火焔龍とは、木の根を燃やしてるやつか?」


 ボムが声を掛けてきた。


「そうだな。それが消された。っ! ボム、下がれ!」


 ボムに声を掛け、俺もすぐに後ろに下がった。


「ガァァァゴォォォー」


 と、うなり声をあげながら登場した謎の生物は、登場するなり有象無象を咀嚼していた。


「……なんだコイツは!」


 突然の乱入者に、驚きと緊張が体を支配した。


「あっ」


 誰の呟きか分からなかったが、誰か心当たりがあるようだった。


「誰か知ってるのか?」


 声がした方に視線を向け質問すると、物品回収メンバー全員がセルを指差していた。


「お前かー!」


 我が家のお馬鹿さん筆頭だった。阿呆筆頭ではないのは、クズのような行動はしない愛されるお馬鹿さんだからだ。


「アイツは液体の中に入っていたんだよ」


 ガルーダが、謎の生物の情報を少しだけ教えてくれた。


「赤い丸いボタンがあったよ」


 ニールが関係するだろうことを教えてくれた。


「それを教えたのは、ギンですけどね」


 タマが、お馬鹿コンビの仕業だと教えてくれた。


「でも、それをセルさんが押したんです」


「ギン、お前もかー!」


 小出しの情報を出し、お馬鹿コンビのせいだと遠回しに言おうとする、お仕置きされたくないメンバー達。次々に情報を言っては、後ろに下がっていく。そして、このままではヤバいと思ったギンも、セルに全てをかぶせ逃げることにしたようだ。


「お前達か……。あとで覚えてろよ」


「「ひぃっ」」


 顔を青くする二人を横目に謎の生物を見ると、未だ食事中だった。ただ、先ほどよりも体が大きくなっていた。特徴も全然違う。


「キメラ……か?」


 とりあえず、ここにいるのは駄目だと思い、地上へ移動することにした。


「転移する。集まってくれ」


 俺達は謎の生物を放置して、屋敷に戻るのだった。















 ……戻れなかった。


「邪魔するな! バケモノが!」


 転移の直前邪魔され、そのまま戦闘に突入したのだった。




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