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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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第五十九話 決行

 プルーム様大激怒事件が解決し、食事も終わった頃、そろそろ作戦を開始しようと思い行動を始めた。


「じゃあ、ギンは転移の用意してくれ。俺が転移したら迎えに来るからな」


「はーい!」


 俺の言葉に手を挙げて、返事をする同行メンバー。だが、何故か行く予定のなかった者もいた。


「ギンとタマは、行かないんじゃなかったのか?」


 それにコイツらは酔っぱらいだ。それが理由で同行禁止だったはず。


「酔いは醒めました。先ほどのアレで。それに、今回の作戦の出来次第では、グレタ様の救出の確率が上がるのでしょう? それならば、リオリクス様の部下として全力で協力させていただきます。これでも、魔術特化型です。探索も得意ですよ」


 と、タマが答えた。

 おそらく、獅子王神様の評価を上げておきたいのだろう。先ほどの事件が、尾を引く可能性を考えて。さらに、手柄を立ててここに居座るために。


「じゃあ、ギンは?」


 ギンは獅子王神様の部下じゃないから関係ないはずだ。


「主のカトレア様が、自分が行けない代わりに行って来てくれと、願ったためです」


 なるほど。さすが、賢い系真面貴族筆頭の娘だけある。図々しいだけではなかった。俺の中では少しだけ評価が上がった。ただ、ある者の中では爆上がりしたようだ。


「カトレアはいいやつだったのだな。褒美をやってもいいな」


 我が家のおデブさんのボムさんだ。このおデブさん、人の名前を覚えない。俺も人のことを言えないが、王女は未だに王女だ。カトレアのことは、娘としか呼んだことがない。俺もボムも。


 それなのに、しっかりと名前で呼んでいるということは、ボムの中では重要人物になったということだ。それに加え、救助の対象がソモルンの弟ということも関係していたからだろう。きっと。


「じゃあ行くか」


 魔力を込め始めると、玄関の扉がノックされた。またかよ! と思いながら、完全武装で扉を開けると……真っ赤だった。視界を全て赤が、埋め尽くした。


 そもそも、思い出してほしい。今は夜だ。灯りを点けず、扉を開けたのだ。それなのに、視界一面が赤を認識出来ることがあり得ない。


「えっ? 赤?」


 困惑する俺に、上から声が掛けられた。


「すまん。ノックするために近づき過ぎたな」


 そう言って、目の前の赤が下がっていく。すると、全体像が確認出来た。その姿は夜中でもはっきりと視認出来るほど、爛々と赤く輝いている体。色とりどりの羽根。そして、大きな嘴を持った巨大な鳥だった。


 その巨大な鳥は、驚いて固まっている俺を横目に話し始めた。


「お初にお目にかかる。俺の名前は、【煉獄鳥・ガルーダ】。火神・ボルガニス様の創りしダンジョンを守護する者なり。同輩が迷惑をかけ、本当にすまなかった。俺はここにお詫びと代役に来た。話を聞かせてもらったが、これから何処かに行くそうだな? 何か手伝うことがあれば、手伝わせて欲しい」


 俺は先ほどまでいた虎より丁寧に話してくる新たな神獣に対して、どのような態度を取ればいいか分からなかった。おそらく、元々の性格は火神様のような性格だろうことは、無理してそうな話し方から分かる。タマや水神様が言ってた口実を作って来たのだろう。


「ラース。わざわざ手伝いに来たのじゃ。好きにさせろ。それにソイツは、我の住処に近いところを守護していたため、阿呆なことはしないはずじゃ。時間が惜しい。早くしろ」


 俺達の師匠であり大魔王でもあるプルーム様の機嫌を損ねるのは、自殺行為だと先ほど証明されたばかりだ。ここはさっさと転移してしまおう。


「では、お願いが一つ。学園の学園長が俺達の行動により、どう行動するか監視をしてもらいたいのです」


 そう言うと、不思議そうに聞いてきた。


「それだけでいいのか?」


「ええ。お願い出来ますか?」


 俺がそう返事すると、頭を縦に振り了承してくれた。


「分かった。任せろ」


 そう言うと、今の今まで真っ赤だった体が不可視になった。その直後気配が消えたと思ったら、結界が破られたことで飛び立ったことを確認した。ちなみに、また結界を張り直したのは言うまでもないだろう。雑さが誰かに似ていたのだった……。


「じゃあ今度こそ行きます」


 ギンの展開した魔法陣に乗り、俺は転移するのだった。





 ◇◇◇





「離せー!」


「誰が離すか。この二人を取り押さえろ。そっちの神官達もだ」


 しばらく連絡が取れず帰ってきたと思ったら、一緒にいた神官達とともに暴れ出した適合者達。この二日間で、適合者が三人も使い物にならなくなっていた。


 この者達の言う適合者とは、ラースの言うところのトカゲ達のことだ。彼等はラースが考えていた通り、人体実験により後天的に属性纏が出来るようになったのだ。そして、その実験の確率は低くかった。故に、彼等にとっては貴重な人材であった。


 それなのに、三人も失うことになった。一人は完全に消息を絶ち、帰ってきた二人はボロボロの上、隷属の首輪をしている。それだけでも最悪なのに、二人よりボロボロの、おそらく神官だと思われる者達とともに、アジト内で暴動騒ぎを起こしたことで死傷者多数。さらに、適合者を失うことになった。


 いったい何が起きているのか、さっぱり分からなかった。それに間の悪いことに、明日のオークションの準備のため支部長も来ていた。


「明日のオークションで出品する【不屈石】を割ってどうする。これでは計画が狂ってしまう」


 この割れた【不屈石】こそラース達が狙っていた物だったのだが、今あり得ないことが起こっていた。本来【不屈石】というのは傷すらつけられないほどの石であり、無限属性だけあって周囲の魔素により修復も可能な石だ。


 故に、不屈であった。


 その石が割れたという。

 あり得ない事だったというのに、この男は何にも思わないようだ。その理由は、最初から偽物だったからだ。本当の目的は、その偽物を使って大勢の客を呼ぶことだった。それなのに、その重要な小道具が壊れてしまったのだ。彼等にとっては、最悪の事態だった。そして、ラース達にとっても。


「この状況はいったい何です?」


 その場に、最も来て欲しくない人物がやってきた。この現場をまとめていた男が現状の説明をしたことで、支部長も事態の把握が出来た。


「……では、計画を早めましょう。そこの四人は、礎になってもらいなさい。それから、あの言うことのきかない鳥も」


 そう言い残し、イラつきながら去って行った。





 ◇◇◇





「ここか。確かに牢だ」


 信じてなかったわけではなかったが、無事に転移出来てホッとしたラースは、周囲の状況を確認した。


「どうやら結界は万全のようだ。それなら、さっさと迎えに行くか」


 ――時空魔術《転移》――


「お待たせ。魔法陣に入れるように集まってくれ」


 ――時空魔術《転移》――


 そして、また牢に戻って来た。これからグレタ探索&嫌がらせ作戦を始めるのだが、これだけ人数がいるのだ。班を分けて行動してもいいだろう。


「班分けをしよう」


「じゃあ俺とソモルンとカルラとニールとセルは、ラースと一緒な」


 俺の提案に、ボムが即座に返答してきた。だが、いつもと同じメンバーだし、せっかく十人いるのだから、もうちょっと細かく分けてもいいはずだ。


「それじゃあ、分ける意味なくないか?」


「俺は面白いものが見たい。だが、みんなを仲間はずれにはしたくない」


 ボムがそう言うと、待ったがかかる。


「では何か? 我は仲間はずれにしてもいいと?」


 そう。ボムの発言の中に、プルーム様の名前はなかったのだ。それに気付かされたボムは、慌てて返答した。


「そんなことないですよ。そもそも分ける必要はないと思います。今日は下見なのだから」


 俺の提案が悪いということにするようだ。


「そうじゃろう。ラースも、そう思うよな?」


 俺には肯定以外の道はないようだ。


「……そうですね。みんなで行きましょう」


 結局十人揃って、ゾロゾロと潜入作戦をすることに。俺は、俺に責任転嫁したボムの尻尾をニギニギしてから行動した。尻尾を触っても怒らないでいるのは、悪いと思っているときの態度である。その態度を見て、尻尾を握ることで許してあげることにした。


 牢から外に出ると、周囲は隷属の首輪をはめられた従魔や召喚獣で溢れかえっていた。おそらく、テイムされていない魔物や魔獣もいるだろうが。


「嫌がらせ作戦第一弾。隷属解放運動」


 ――神聖魔術《解呪》――


 ――生命魔術《完治》――


 ――清潔(クリーン)――


 牢に向かって放たれた神聖魔術によって、首輪がボトボト外れていく。ボムが牢の鍵を音が鳴らないように焼き切り、牢の扉を開けていく。


「帰ってもいいし、復讐しても構わない。もう自由だ。好きにするといい。ただ、俺達に向かってくるなら覚悟をしてほしい」


 そう言うと、戦闘特化型の魔獣や魔物の背中や肩に、魔術特化型の魔獣や魔物が乗り復讐に行くようだった。それにしても、魔物達がパーティーを組んでいたのには驚かされた。


「ギン、首輪を集めてくれ」


 ギンは転移の魔法陣を使ったことで、現在は肉体労働しか役に立たないのだ。ギンが集めた首輪を、魔術で焼却処分した。


「じゃあギン、案内頼む」


 この作戦の立案者で、グレタの場所を把握している者だ。案内人には最適だろう。ただ、現在戦闘能力が皆無だったギンは先頭に行きたがらない。タマとともにセルの背に乗り、口頭で指示するようだ。


「ここは牢の最奥ですから、このまま数カ所ほど牢が続きます。グレタ様は牢の中でも宝物庫に近いところにいるようで、近くには研究所のような場所もあります。ちなみに、グレタ様の牢は意味不明な術式が組まれていましたので触れませんでした」


 どうやら、俺とプモルンが探索した位置と同じようだ。


「じゃあ嫌がらせ作戦第二弾行くか」


 ――無限属性《探索》――


 指を鳴らし、その音により探索する魔術だ。ソナーみたいなものである。


 探索魔術の結果から、騒動が起こっていることが確認出来た。あのときのトカゲ夫婦達が暴れていた。しっかりとお仕事をしているようで、お仕事を与えた側としては嬉しい限りだ。そして、見つけてしまった。支部長と呼ばれた人物を。


 その者は、自称賢者風阿呆教師筆頭だった。確かにアイツは闇黒魔術が使える。周囲の者の精神に干渉して、姿を変えてるように見えるかもしれない。


 だが、腑に落ちない点がある。あの雑魚が聖獣であるニールの両親を殺せるとは、到底思えなかった。闇黒魔術は精神干渉や毒が主な手段であって、戦闘にはあまり向かない。属性纏も、そこまで脅威ではない。それに、あの自称賢者風阿呆教師筆頭はトカゲではなかったのだ。属性纏はできないだろう。


「ラース、どうした? 早く行かないのか?」


 ボムが待ちきれないようだ。


「敵のボスがいた」


 するとその直後、ニールは駆けだした。俺はすぐに駆け出したニールの尻尾を掴んだ。


「なんで止める!」


「ソイツは別人だよ。そもそもニールも会ったことあるはずだ」


 そう。これが一番腑に落ちなかった点だった。数日前、学園で会っていた。親の仇を目の前にして、お互いに無反応なのはあり得ない。いくら闇黒魔術で姿を変えても、臭いや魔力の波動は変えられないのだ。魔獣であるニールが気付かないはずはない。そう説明すると、ニールはやっと落ち着いた。


「ニールの父ちゃんと母ちゃんを殺したヤツは、ここにはいないよ。明日も来ないよ」


 いきなり話し出したソモルン。そのソモルンに、みんなの視線が集まる。


「ソモルン、どういうことだ?」


 ボムが代表して聞いた。全員が同じことを思っていたため、大人しく聞いていた。


「ニールが探検の話をしてくれたでしょ? それで、変なヤツが占拠してるって聞いたから調べたの。でも、調べてる途中で『神託が下った』とか言って、転移しちゃったの」


 あの【創世の塔】で、口を開けて魔術を放っていたのはこれだったのかと、その様子を見ていた全員が思った瞬間だった。


 さすが、創造神様のペット。調査能力の高さも最強クラスだということか。プルーム様が驚いていないということは、これがこの怪獣の普通なのだろう。


 それはさておき、一番気になるのは『神託が下った』という部分だろう。転移魔術は、そこまで難しくない。だから、魔法陣の知識と必要な魔力量があれば、誰でも出来る。


 この世界は適正属性がなければ、その適正属性以外は使えないと思っている者が多いが、そんなことはない。ただ、使いやすいってだけだ。説明はとりあえず置いておくとして、転移魔術は適正がなくても使えるということだ。だから、そこまで重要ではない。


 しかし、神託が下ったことで何処かに行ったとしたら、今行われている行動は神の意志によるものだということだ。一瞬、火神様に確認を取ろうと思ったが、いくら神の意志によるものだとしても、ニールの家族を殺したことは許せないことだ。それなら、知らなかったことにして、好き放題やらせてもらおう。


「今聞いたことは、聞かなかったことにしよう。それが一番といいことだと考えたが、どうだ?」


「ラースに考えがあるなら、俺は構わないぞ」


 ボムが賛成してきたことで、全員が賛成した。いつもツンデレのボムは、こういう時には真っ先に賛成してくれるから助かる。


「そして、もう一つ悲しいお知らせがある」


 俺の表情に、グレタに何かあったのか? と、思ったのだろう。だがそんなことがあれば、こんなところでいつまでも話していない。


「明日のオークションで購入予定の【不屈石】は、偽物だったため割れたようだ」


 この瞬間、飛行船のお預けが確定した。ボムとソモルンは絶望した。相当楽しみだったのだろう。飛行船の改造計画も立てていた。


「……騙したのか?」


 ボムがお怒りのようだ。


「俺も騙されたんだ。ねっ! プルーム様」


 この話は元々プルーム様からの情報だった。故に、俺は何も悪くない。


「違う。ここの者達は、俺達を騙したのか?」


 どうやら俺を責めていたのではなく、ここの阿呆共にお怒りのようだった。


「そうだ」


「許さん。ぶっ飛ばしてやる」


 ボムは、心に復讐を誓ったのだった。彼のぶっ飛ばすは、相手の死が確定しているのがとても残念だ。出来ればオークの国の国民にして、世界統一を果たしてもらいたかったが、今回はお預けだろう。


「とりあえず、嫌がらせ作戦第二弾行っとくか」


 ――創造魔術《魔獣兵・麻痺》――


 ――創造魔術《魔弓兵・麻痺》――


 ――創造魔術《魔槍兵・麻痺》――


 ――創造魔術《魔剣兵・痒み》――


 魔法陣から現れる獣の軍勢。この獣達に攻撃されると、麻痺して動けなくなる。こうすれば、陽動にもなるし捕縛も楽だ。現在、魔物や魔獣達の復讐も落ち着き、魔物達が全員送還魔法陣を展開し終えたところだ。


 そこで、阿呆共が混乱から立ち直りかけているところに、新たな混乱をぶち込む。さらに、その獣達に乗り兵士が攻撃する。たまに当たりを引くと、懐かしの痒み地獄が待っているのだ。


「我が僕共よ! 聞け! 体に蛇の刻印がある者と、それをかばう者を攻撃対象とする。闇黒魔術を使う者は、最優先で仕留めろ! さぁ、行くのだ!」


 号令の直後、魔獣兵に乗った魔兵達が、隊列を組んで進行を開始するのだった。




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