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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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第五十四話 再会

いつも読んでいただきありがとうございます。この話から一話が少し長くなりますが、この章だけです。まだまだ未熟ですみません。

 俺達の目の前には、黒に近い青から白に近い青まで、様々な青という色を持つ巨大な鳥がいた。これが【天帝・セレール】という、最後の管理神ということを本能で感じ取った。


 プルーム様に初めて会ったときに感じた死を予感させる気配ではなく、リオリクス様に転移魔術で呼び出されたときに感じた圧倒的な存在感とも違った。そこにいるという存在感は確かにある。だが、死を感じるでもなく圧力を感じるでもなく、ただそこにいるのが当たり前という存在感だった。


 これは三体の管理神の役目によるものだろう。まず【始原竜・プルーム】は、龍脈の管理が主な役目である。この世界の最も重要な元素は、魔素なのは間違いないだろう。これが枯渇すれば、間違いなく死ぬ。暴走したり、バランスが崩れたりしても。だからこそ、その管理神に対しても同じように感じてしまうだろう。


 次は、【獅子王・リオリクス】。彼は、大地の管理を役目としている。死を意味するよりも存在感が一番分かりやすく、はっきり感じる要素であるのは間違いない。その圧倒的な存在感とともに、安心も与えてくれる存在でもあった。


 最後に、【天帝・セレール】。彼女は、大気の管理を役目としている。大気……空気とも言うが、誰が意識しているだろうか。そこにあるのが当たり前のもの。無くては困るものなのに、普段から考えている者はいるだろうか。故に、それを管理する者も同様にいて当たり前の雰囲気を醸し出していた。それでも神々しさを明確に感じさせていたのは間違いない。


 そんなセレール様は、現在神々しさの欠片もなかった。小さくなった鳥が、俺とボムに向かって頭を下げているのだ。その光景は可愛いものだった。先ほどまでは、神々しさも相まって目を合わせることさえ躊躇っていたのだが、今は凝視してしまっていた。


 理由としては、目の形と大きさだ。先ほどまでは鋭く怖い印象だったのだが、今はカルラの目のように、長いマツゲが特徴のクリクリの目だったため、すごく可愛いのだ。ちなみに、クリクリの目になったことで瞳の色もはっきりした。鮮やかでいて、吸い込まれそうなほど澄んだ紫色だった。そんなセレール様が口を開いた。


「私のせいで迷惑をかけてしまった。すまないが、グレタを助けてあげてほしい」


 俺とボムは、特に迷惑とは感じていなかった。ソモルンに頼まれたことだ。叶えてあげられることなら迷惑でも何でもなく、進んでやってあげたいことだった。


「セレール様。気にしてませんよ。昨日、グレタの居場所も様子も把握しましたので、近日中には必ず迎えに行きます。そしたら、会ってあげてくださいね。きっと喜んでくれるはずです」


 俺の言葉に驚いた様子のセレール様。目と口を開けて、固まっていた。


「……喜んでくれるか? 何もせずに、苦しい思いをさせているのにか?」


 やはりグレタのことが可愛いのだろう。プルーム様に言われたことが、かなり尾を引いているようだ。


「グレタはソモルンの弟ですよ。そんな小さなことを気にするわけありませんよ。それにそんなこと言うのなら、創造神様は一生星霊兄弟に嫌われてしまいますよ。あと、グレタに怪我があっても俺が必ず治します。ですから、セレール様はしっかりと抱きしめてあげてください。お願いします」


 そう言って、俺とボムは頭を下げた。グレタの様子を見たとき、無敵スキルのおかげで怪我はしていなかった。だが、ずっとセレール様の名前を呼び続けていた。


 助けてとは、言っていなかった。ただ、また会いたい。一緒に昼寝をしたい。など、一緒にしたいことを檻の中で呟いていたのだ。その寂しさを埋めることが出来るのはセレール様だけ。だからセレール様には、グレタを温かく迎えることだけを考えて欲しかった。救出は、俺とボムが必ず果たすとソモルンに約束したのだ。その想いを理解してくれたのだろう。セレール様が一言。


「了解した」


 そう言ってくれた。これでグレタの願いが叶えられると、安心できた俺達は昼食にすることにした。


『兄ちゃん! 何獲ってきたの? 美味しいのあった?』


 カルラが、起き抜けに質問しながら抱きついてきた。あのプルーム様の怒りの中、爆睡出来るカルラはきっと大物になるだろう。撫でながらも、そう確信していた。


「牛だな。体は硬かったけど、身は柔らかそうで美味しそうだったぞ。すき焼きにしたら、最高だと思うな!」


 あの牛を倒したあとも、ずっと牛の相手をしていた。ボスみたいな巨体の牛が来たときは、少し焦ってしまった。


「すき焼きとは何だ? 旨いのか?」


 我が家の食いしん坊の熊さんは、新たな食い物との出会いの予感にワクワクしていた。


「美味しいものだ。だが、これはソモルンがいるときに出そうと思っているのだが、どうする?」


 俺は溶き卵をつけて食べるのが好きだから、ソモルンがいないと説明が難しいのだ。


「ソモルンのことなんだが、ソモルンは行き違いになる可能性があるから無人島に残ったんだよな? ここにグレタがいるのが確定しているのなら、無人島にいる必要はないよな? ということで、ソモルンを連れて来ようと俺は思っている」


 ボムの衝撃の発言に驚いた。だが、一理ある。そろそろボムも我慢の限界なのだろう。連れて来るのは、いいことかもしれない。


「確かに、これ以上ソモルンに寂しい思いをさせるのは気が引けるしな」


 俺が賛同すると、嬉しそうにするボム。理由は、移動手段を持っているのが俺だから、俺の賛同を得られれば一瞬で連れて来られるからだ。


「じゃあアレで連れてってくれるのか?」


「もちろん」


「やったー!」


 バンザイして喜ぶボムは、可愛い熊さんだった。だが、プルーム様の待ったがかかった。


「飯が先じゃないのか?」


 何もしてないはずのプルーム様は、空腹のようだった。しかし、ソモルンと一緒にご飯を食べたいボムが悲しそうにしていた。


「プルーム様、すぐに戻りますので簡単なものをつまんでいて下さい」


 と言って、サンドイッチを出して魔術を展開した。同行するボムは俺の肩に手を置く。カルラは空腹ということで、お留守番である。


 ――時空魔術《転移》――


 固定型の長距離転移魔術。俺が現在使用出来る、三種類の転移魔術のうちの一つである。その魔術を使って、無人島のあの城に転移した。





 変わり映えのしない元自宅に転移してきた俺達は、周囲を探すがソモルンの姿を見つけることはできなかった。おそらく自分のお家にいるのだろう。


「ラース、気球であの樹まで行ってくれ」


 どうやら、俺式気球に乗って行くようだ。気球に乗り込むボムは、ソモルンのことで頭がいっぱいなのだろう。短い尻尾が揺れていた。


「じゃあ出発」


 島の中央に生えている精霊樹に向けて飛び始めたのだが、おデブさんがまた重くなっていたこともあって速度があまり出なかった。


「ラース。遅いぞ」


 そして、原因のおデブさんからのクレームが入った。


「どこかのおデブさんが重いんだよ」


「俺は成長したのであって、太ったのではない」


「デブはみんなそう言う」


 というようなことを言い合っているうちに、精霊樹に着いたため降りることにした。





 ◇◇◇





 古城にラースとボムが転移してきた頃、ソモルンは最近の日課であるユニークスキル【無敵】の練習をしていた。ある日、無敵なのだから何でも出来るはず。そう思い、大好きなボムを驚かすために練習し始めたのだ。最近その成果がやっと出てきて、さらにいろいろ試していた。ボムの形をした子機を抱きしめながらの特訓である。


 そして今日は天気がよかったため、精霊樹の上で練習しようと思い、お家の外に出ると何処からか大好きなボムの声が聞こえてきた。最初は幻聴だろうと思った。ずっと会いたいと思っていたせいで、幻聴まで聞こえてしまったのだろうと、自分が少し恥ずかしかった。だが、その考えはあっさりと覆ることになった。


「……おーい! ソモルーン! 俺だぞー! 迎えに来たぞー!」


 大好きな親友が、手を振って近付いて来る姿を目にしたソモルンは、喜びで涙がこぼれ落ちるのだった。





 ◇◇◇





 ボムは親友のソモルンの姿を見つけると、太った体を揺らしながら走り出した。あの走るのを嫌がって、馬や馬車に乗りたがっていたボムが。


「ソモルーン!」 


 最初は気付かれなかった。だが、そんなことは気にせず、手を振り声をかけ続けていた。


「……おーい! ソモルーン! 俺だぞー! 迎えに来たぞー!」


 すると、ボムのことに気付いたのだろう。ソモルンのクリクリの瞳から、涙がポロポロとこぼれ落ち手を振り返してきた。そしてソモルンは口を開け、ボムの名を呼んだ。


「ボムちゃーん!」


 ソモルンは短い手足を目いっぱい広げ、ボムに飛びつき腹に抱きついたのだった。涙で顔をびちょびちょにしながら、ボムとの再会を喜んでいた。


「ボムちゃん、会いたかったよ。ずっと待ってたの」


「すまんな。修業してて、遅れてしまった。だが、グレタの場所が分かったのだ。これからは、ずっと一緒だぞ!」


「本当? 嬉しい!」


 俺は、何か違和感を感じていた。


「ソモルン。話してる?」


 そこで、やっと俺の存在に気付いたのだろう。ラブラブな新婚夫婦のような二人は、顔を赤くして照れていた。その状態を隠すかのように、ソモルンが質問に答えた。


「うん。無敵スキルの練習したの。無敵なんだから、何でも出来ると思って。ボムちゃんと、もっと気軽に話したくて頑張ったの。驚いてくれた?」


 照れながら話すソモルンは、とても可愛く俺に癒やしを届けてくれた。


「驚いたに決まっているだろう。ソモルンも修業していたんだな。俺と一緒だな」


 お揃いが好きなボムは、嬉しそうにしていた。そしてここに来た理由を話し、一緒に行くことになった。


「ラース。俺と同じマントを作ってあげろよ。あと、獅子王神様からもらった爪の武器も頼んだぞ。ソモルン、街に行くときは子機を赤い物にしておくんだぞ」


 ソモルンと会っても、ラースへの態度は変わらないボムである。星霊シリーズにはデレデレ。それ以外にはツンデレなのだ。そしてソモルンへの注意も忘れない、しっかり者でもあった。


「うん。ボムちゃんと同じ形の腕輪にする」


 そう言って、さっきまでボムの形をしていた子機を赤い腕輪にしていた。そのあと、ボムが抱き上げ転移した。





「ただいま戻りました」


 そう言って戻ると、サンドイッチの山は残り一切れだけだった。さらに、先ほどまでいた巨大な鳥がおらず、代わりにかわいい系の美女がいた。おそらくあの美女がセレール様だろう。


「あと一切れじゃぞ」


 プルーム様から追加の注文が来た。すき焼きは夜にして、ステーキと厚焼き玉子を出すことにした。ボムとソモルンのリクエストだ。


「初めまして。ソモルンです。よろしくお願いします」


 ペコリとお辞儀をしながらあいさつする姿に、プルーム様とセレール様は頬が緩むのを止めることが出来ずにいた。ボムはセル達に、自分の親友でカルラの兄ちゃんだと説明して回った。さらに、プモルンの元になった存在だとも。ソモルンとカルラは再会を喜び合っていた。


 その後の昼食会は、楽しく笑顔が絶えないものになった。ソモルンはニールも可愛がってくれ、何で話せるのかの質問にも答えていた。それを聞いたカルラも、頑張ると言っていた。


「さて、ラース。いつグレタの救出を始めるのじゃ?」


 食後のお茶を飲んでいると、プルーム様が聞いていた。いつかは聞かれると思い、答えを用意しておいたのだ。


「明日行われるオークションが終わったらになります」


 欲に目が眩んだと思われたのだろう。プルーム様から怒気が放たれた。


「早速、誤解してますね」


 さすがに、少しは慣れてきた。それに、今回はボムやカルラ達にも説明してあったため、少しだけ余裕があった。


「誤解じゃと?」


「はい。オークションの商品が欲しいのではなく、敵の親玉がオークションに来るそうです。その阿呆がグレタを捕獲して、ニールの両親を殺した者らしいので、お仕置きをしたいのです。ただ、顔も姿も変えどこにいるのかさっぱりで、オークションくらいにしか会える可能性がないのです。それに、この魔境に住んでる聖獣を殺せた方法を知りたいと思いまして。ちなみに、このことは賢い系真面騎士筆頭のシュバルツをつけてきたゴミ共に、闇黒魔術を使って直接聞きましたので御安心を」


 誤解の内容を説明すると、なんとか納得してくれた。怒気には慣れたが、その後の折檻は無理だ。俺も必死である。


「それと、オークの国なるものを作っているよな? あれで何をするつもりじゃ?」


 誰に聞いたのだろう。まだバレたくなかったのだが、少し説明しなければならなくなってしまった。


「……まだ始められないのですが、俺の住んでいたところには刑務所という場所がありました。そのような物を造ろうと思っています。刑務所を簡単に説明すると、犯罪者を閉じ込め更生させ、社会に適合させるという希望と期待の施設ですね」


 そう説明しても、よく理解出来ていなかった。俺も、お茶の間で見てた内容くらいしか分からないため詳しくは知らないが、もうちょっと説明しようと思った。お馬鹿さんなセルもいるからだ。


「もっと簡単に説明すると、緩い犯罪奴隷です」


 この世界の犯罪奴隷は、その国の法律に従い裁かれたあと、まずは賠償金分を資産と奴隷労働によって支払われる。その後刑期が始まり、刑期満了まで務めあげれば解放されるのだが、基本的に鉱山奴隷で人権などないため刑期満了になる前に死ぬ。


 その代わり抜け道は多少ならあるが、基本的には冤罪など存在しない。鑑定スキルや魔法があり裁判は神殿で行われるため、虚偽の発言をすると神罰が下るのだ。法の担当神は冥界神であり、神罰の内容は闇黒魔術系統になる。簡単な内容は、毒や精神障害である。


 それに比べれば元の世界の裁判や刑務所は、緩いと言わざるを得ないだろう。刑務所の中では食事も出るし、国によっては買い物も出来る。将来社会に出たときのためにと、スキルを身につけたり資格を取得出来たりと至れり尽くせりだ。


 その犯罪者に殺されて将来も何もなくなった者もいるのに、税金で生活していても必要経費とされている。そして、いつか更生するという希望と期待の想いが詰まった夢の施設である。そう説明すると、不思議そうに聞いてきた。


「そんな施設を造ってどうするのじゃ?」


 さすがに、同じ物は造らない。この世界にあっても無駄だからだ。


「似たような物であって、同じではないですよ。オークの国を本格的に創るにあたって必要な物があります。土地と外貨ですね。土地はなんとかなります。怒られるかもしれませんがね。ただ、外貨は難しいですよね。オークに物を売る者はいないですからね。そこで、あそこに阿呆共を飛ばし必要な労働力を確保します。次に、オークの割に賢い系真面魔物ということで技術を与えます。例えば、鍛冶技術。労働力は阿呆共もいますし、オークは働き者ですから自分たちもいます。そして、高品質の武器などの安定供給ができ、阿呆共も新技術を学べて更生も出来る。いいこと尽くめでしょう」


 他にもいくつか考えていることがあったが、本気で怒られそうだと判断し、まだ言わないでおいた。阿呆共を多く見せ、俺の対応に納得させるために。あの狂信者共への復讐も含まれている計画なのだ。失敗は許されない。


「まだ言っていないことがありそうじゃが、今日はこれぐらいにしておいてやろう」


 さすが年の功。鋭さはボム以上だった。


「年寄りじゃと思ったか?」


「……いえ」


「女性に年齢のことを言っても思ってもいけないのは、何処の世界でも同じじゃ。気をつけるのじゃぞ」


 そう、釘を刺してきた。そして、その場にいた男全員が頷いたのだった。




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