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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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第五十三話 説教





 ◇◇◇





 一方その頃ボムはというと、ボアの群れに囲まれていた。それもギガントボアとかいう、知能は魔物だが実力は聖獣クラスという巨大なイノシシ。その大きさは、手をクロスさせてビームを出す某ヒーローよりは高さがあり、それに伴い体も丸い。そんなボスが一体と、ジャイアントボアとかいう少し小さめのイノシシが一体。さらに巨大な牙を持ち、その牙で攻撃することが得意なファングボアが数体いた。


 どうやら暇つぶしのために、ボムの前に現れたらしい。そんなイノシシ共を目の前にして、ボムは何か考えていた。


「最近は、戦闘の全てをラースに任せきりだったな。ラースは、次々に戦法を生み出していくからな。それをただ教えてもらうのは気が引ける。何かないかと思っていたが、お前らを倒すのにもちょうどいいのがあったな。悪いが実験台になってもらうぞ」


 ――魔剣術《大地の構え》――


 ボムは、大剣を地面に突き刺した。すると、地面から突き出た剣が、無差別にボア共を襲った。その攻撃はファングボアに大打撃を与え、瀕死に追い込んだ。だが、効かなかった巨体の二体は、突進による波状攻撃をしかけるつもりのようだ。ボムの先ほどの攻撃は、障害物を作ることによって時間を稼ぐことがメインであって、ファングボアへの大打撃はおまけ程度であった。


 そして、その時間稼ぎが功を奏した。ボムの体は赤い炎の揺らめきが高熱の青い炎に変わり、その青い炎自体が鎧を形成していった。さらに、右手に纏わり付くと十文字槍の形になり、ボムは自然と構えた。構えるボムの前に、ジャイアントボアが突進してきたのだが、カウンターで突きを一閃。通り過ぎた瞬間、首から始まり腹を切り裂いたが、焼き切っているため血が垂れることもなく絶命していた。


 次はギガントボア。コイツは途中で気付くも時既に遅く、急には止まれずジャイアントボアの後を追うことになった。コイツらに少しでも実力に見合う知能があれば、ボムが魔力を練っていることに気付けただろう。この技は魔獣特有の攻撃方法で、スキルですらない。ただ、魔力を収束させ魔力量で劣る場合、量に対して質で対抗するためのテクニックである。


 これを教えれば喜んでくれるかな? と、ボムは思っているのだった。普段はぶっきらぼうで、ソモルンやカルラのことしか考えていないように見えるボムは、実のところラースのことが大好きだった。美味しい物を知ることが出来たり、ソモルン達に出会えたりと、プルームと同じで代わり映えのしない毎日に飽きていた。


 でも、ラースに出会ってからの日々は、毎日が輝いて見えるのだ。そんな日々を贈ってくれたラースに、心から感謝していた。そして、やっぱりお風呂でのマッサージが、一番のお気に入りであった。ボムはボア達にトドメをさし、ストレージにしまい次へ行くことにした。


















 ところ変わって、セルは現在大ピンチであった。目の前には、三体の色竜(カラードドラゴン)が存在している。赤・黄色・青と、ラースがいたら「信号か!」と、ツッコミを入れていることだろう。


 以前、ラースが踏破したダンジョンの最奥にいた色竜と同等の強さだとしたら、今のセルには厳しい相手であるのは間違いなかった。あのときは、ラースが怒って本気で戦っていたことで楽に見えていたが、いざ向き合ってみると圧力が半端ではなかった。セルは、プルームの修業を受けるのは今回が初めてである。つまり、属性纏を習っていないのだった。


 ボムやラースに教わってはいるが、ボムと違って戦闘狂ではないセルは、戦闘に対する勘というものが、ボムに比べて鈍いのだ。その点、ボムは天才の部類に入り、教えた側から覚えていった。もちろん、それはプルームやラースの教え方も上手いのだが、分からないことはラースに買ってもらった本を読んだり、実際に試してみたりと勉強家だった。


 それに対しセルは、魔獣の間は基本的に速度重視だったため、勝負勘や戦闘勘といったものではなく、隙を覗う洞察力を鍛えていた。それ故、魔力纏といった武技系のスキルを覚えるのが苦手だった。


 ちなみに、別に覚えなくてもいいが戦いになったときに、あるとないとじゃ勝率や生存率が全然違うと、主であるボムに言われたことで覚えることに。


 そして生死を分かつ戦いが今、目の前にあった。セルは思った。もっと真面目に修業していればと。


「ラースは、こんなのを相手にしてたの? 無理でしょう。聖獣と言っても、下の方なのに……。うちの化け物達なら余裕なのでしょうけどね」


 そこで、ラースが言っていたことを思い出した。確か属性纏が出来ないのは、魔術の使い方を理解していないのが原因なのだと。意味が分からなかった。魔物や魔獣達は、無意識に本能的に魔術を使っている。そのため、使い方と言われても分からなかった。実際に、プルームも属性纏の説明では苦労した。ボムも意味が分からなかったが、ラースが理解してボムに説明したため、意外にも早く修得出来たのだ。


 そのことを思い出したセルは、魔術の仕組みを元に魔力纏を行ってみた。魔術の仕組みを簡単に言うと、色のついた魔素を集めて現象を引き起こしているということだ。セルはお馬鹿さん故に、これしか覚えていない。ボムは、もっと詳しく説明出来るのに。


 だが、今はそれで十分だった。何故なら、属性纏《雷霆》が使えるようになったからだ。ラースが、速度重視のセルには雷霆が向いていると勧めてくれていたことから、一番練習していた属性だった。なんだかんだ、ラースに教えてもらっているテイマーズだった。そのおかげで、本来のスピードもあり青と黄色は倒せた。しかし、残ったレッドドラゴンは、進化してしまった。


 竜族は他の種族に比べ進化しやすいが、戦闘中での進化は稀であった。それほど、セルが脅威だと感じたのだろう。以前も話した通り、属性竜は属性纏を常にしている。レッドドラゴンからの進化は、フレイムドラゴンである。つまり、常に属性纏《火炎》の状態にあるのだ。これで触れなくなったが、転生悪魔たるラースの嫌がらせなどを見ていたセルは、簡単に諦める気は全くなかった。まずは、魔術で嫌がらせをすることにした。


 ――流水魔術《濃霧》――


 ――氷雪魔術《氷牙》――


 ――流水魔術《雲竜水》――


 ――氷雪魔術《氷柱》――


 ――暴嵐魔術《嵐牙》――


 ――雷霆魔術《轟雷》――


 ――複合魔術《極光砲》――


 セルは濃霧によって視界を奪い、同時に纏わり付くような湿気にイラついてくれればと考えた。さらに、竜の感覚では氷の礫や水鉄砲のように感じる魔術を、チマチマと嫌がらせ目的で放った。


 そして、目論見通りイライラした竜は、攻撃がおおざっぱになっていった。そこを見逃さず、威力よりも副次的な効果を期待しての雷霆魔術。少し痺れてくれれば御の字だと思い攻撃したが、思いのほか効いたようだった。これはチャンスだと判断して、自分の種族名にもなっている魔術を使ってみることにした。練習の成果を発揮するのは今しかないと信じて。


 ずっと、ドラゴンブレスに憧れていたセル。口からブレスのような物を出したくて、ラースに相談していたものが、最近やっと使えるようになったのだ。それは多重展開魔法陣を使って、強制的に魔術を複合させる技だった。簡単に言うと、レーザービームのようなものが口から出るのだ。


 付属効果は、その時に込めた魔力で一番大きく質が高い属性の効果が反映されるようになっていた。今回は、森の中でフレイムドラゴンということもあって、流水属性がメインのようだった。魔術を発生させる魔法陣が縦に重なっていき、一つの筒のような形になった。そして、流水属性を主体として、暴嵐や雷霆、火炎、氷雪属性を含んだ魔術が完成し、フレイムドラゴンに向かって放たれた。


 喉元に大きく穴を穿たれたフレイムドラゴンは、そのまま前に倒れ絶命したのだった。この魔術は、属性竜の古代竜(エンシェント)の、ドラゴンブレスに匹敵する威力だった。


 これはまだ若いセルの現在の威力であって、今後も威力の上昇の可能性がある魔術だというのは間違いなかったのだが、お馬鹿さんなセルは気付くことはなかった。ただただ、お気に入り魔術の戦闘デビューと成功に驚き喜んでいただけだった。そして、ドラゴンの肉の旨さを思い出し、急いでストレージにしまい次に行くのだった。
















 ここは泉。

 つまり、プルームがいる場所であった。ここには現在、【天帝・セレール】がいた。彼女は、本来創世の塔の天辺に住んで周辺の守護をしている。管理神で一番真面目だということで、この役目を与えられているのだが、今回はその真面目な性格が原因でミスを犯してしまった。


 それは、グレタの拉致についての問題だった。最近創世の塔の周辺の魔境で、異変が起きていたことは知っていた。だが、近くで人間が生活していれば異変がある方が普通だと看過し、グレタを送ることもせずプルームが知らせた現在まで気付くことはなかった。プルームの用とは、このことについて問い詰めることだった。


 ソモルンもそうだが、星霊シリーズは管理神に懐いてくれる。グレタもわざわざ天帝に会いに来たほどなのだ。懐いてくれているのは間違いない。それなのに何も思わないのか? と、疑問に思わないはずはなかった。カルラを心の底から愛しているプルームだからこそ余計に疑問と、そして怒りが湧いてきたのだ。そして、その怒気に当てられた魔物達は姿を消し、代わりに天帝・セレールが舞い降りたのだった。


「何しに来た? プルーム」


「何しに来たじゃと? お主こそ、何をしていたのじゃ!」


 森に混乱を生み出したプルームを咎めに来た天帝だったが、怒りの度合が尋常ではなかった。それも、自分に向けられていることに気付いたのだった。


「私は、ここを守護するという自分の役目を果たしているに決まっている」


「では、何か? その守護のためにグレタが拉致されても構わないと、お主は言うのじゃな? 本気でそのようなことを言うのなら、相手になるぞ?」


 そう言い、竜の姿に戻ったプルーム。それに対し、意味が分からないといった天帝だった。


「何を言っている? グレタは帰った。それに、拉致とはなんだ?」


 本当に意味が分からなかったのだろう。プルームに、そう尋ねた。


「お主は森の問題を甘く見て、そのままグレタを帰した。そして人間に隷属の首輪をはめられ、現在囚われの身じゃ! 心配になったソモルンが、我の弟子に捜索を頼み、やっと所在が判明したのじゃ。数年間捕まっていたのにも関わらず、お主は何をしておった? お主の、お膝元で捕まったのじゃぞ? お主の役目とは、そのような適当なものなのか? グレタに、もしものことがあってみよ! お主、無事で済むと思うなよ?」


 プルームの話を聞き、唖然とする天帝だった。自分の役目を馬鹿にされたのには腹が立ったが、それよりも弟のようについて回る可愛いグレタが、人間ごときに捕まったことが驚きだった。そのことに、気付かなかった自分が許せなかった。そして、プルームの言うとおりだと思い、何も言い返せずにいた。


 ちなみに、この光景はラース達にも見えた。それと同時に、あそこに戻るくらいなら魔物を狩っていた方がいいと思っていた。それも全員だ。ラースは、子機の通信機能を切断したいくらいだった。


 それはさておき、プルームの怒りはまだ収まらないのだった。最初はビクビクしていたニールも、まだ母親が必要な年だけあって懐いてくれ、カルラ同様に「母ちゃん」と呼んでいた。そしてニールの両親が死んだ理由も、グレタの拉致と関係があることが、ラースの話により分かった。


 たとえ、どうにもならないことだったとしても、塔の天辺にいるだけの守護など無意味だと言ってやりたかったのだ。その気持ちが、嬉しかったのだろう。ニールはプルームの横で号泣していた。ニールも男の子だ。ボムやラースの前では、泣くことはしない。強い父と兄のようになることが目標のニールは、気持ちだけでも強くいようと寂しくても悲しくても、泣くところを見せないでいたのだ。


 そんな我慢を続けたニールの瞳からは、ダムが決壊したかのような量の涙が溢れていた。その姿を見て、自分達を不甲斐なく感じ見ていた者達がいた。父と兄だ。自分たちの前で無理をさせてしまっていたことに気付き後悔していたのだ。この泉に戻って来たくはないと思っていても、ここにいるニールやカルラが心配になり戻って来ていた。それも全員。


 そのことに気付いていたプルームは、自分の弟子達が優しい心を持っていた者達で、本当によかったと思い嬉しくなった。おかげで、やっと怒りが収まり、グレタの救出後はグレタへの謝罪とソモルンへの謝罪。さらに、今後同じようなことにならないよう、異変があったら念話連絡をさせることにした。ここでようやく落ち着き、お昼になったことに気付いたプルームは、ラース達に一応連絡をして天帝含めて昼食を取ることにした。


「ただいま戻りました」


 そう言って、戻ってきたラース達だった。





 ◇◇◇





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やる気が満ち溢れてきます。

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