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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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第五十二話 地獄再び

 昨夜、ボムやカルラに怒られた俺は、朝早く目が覚めてしまった。何かイヤな感じがしたためだ。そこで早めに朝の支度を終わらせ、完全武装で朝食にすることにした。そこへちょっと不機嫌なテイマーズが起きてきた。そして、一言。


「客」


 ボムの言葉を聞き玄関に近付くが、そのまま開けたら危険だと危機察知のスキルが働いた。俺は両手両足に防御特化の魔物の能力を幻想魔術で施した上、属性纏《大地》という防御向きの属性纏を使うことにした。それから扉を開けると、美人が立っていた。だが、来て欲しくない美人だった。


 その人物は右手を振りかぶり、右ストレートを俺に打ってきた。俺はなんとかガードをしたが、意識がとびかけガードも粉々になった。このままではマズいと思い、防御主体から速度主体に変更することにした。


 ――属性纏《雷霆》――


 速度主体に切り替えた跡、最初にやらなければならないことがある。俺はとある存在を取りに行き、怒り狂う人物の前に掲げた。取りに行った存在とは、もちろんカルラだ。すると、何が起きたか分からなかったカルラが、目の前の人物を見て目を輝かせた。


『母ちゃん!』


 それ行け! と思いながら放してやると、怒れる人物……その名も【始原竜・プルーム】に抱きついた。プルーム様も目を輝かせて、抱きついてくるカルラをしっかり抱き留めた。


「カルラ! 元気にしてたか? 昨日の夜連絡をもらって、心配で急いで来たのだぞ」


 実際に急いだのは雷竜王だったのだが、本人もそんな野暮なことを言って、矛先が自分に向くことを避けるため口をつぐんでいた。


『兄ちゃん、起きたらいなくて寂しかったの。いっぱい探したのに見つからなかったの』


 カルラがそう言うと、ギロリとプルーム様に睨まれた。だが、俺にも言い分がある。


「カルラは、父ちゃんがいればいいんだろ?」


 焦った俺がそう言うと、カルラは悲しそうに俯いた。よく見ると、目がウルウルしていた。そこで、言葉が足りなかったことに改めて気付いた。


「カルラ! 間違えた! 寝てるときの話だよ。寝てるときは、ボムの腹の上だろ? だから、父ちゃんが一緒にいれば安心すると思って、言わずに出掛けたんだよ」


 チラリと俺を見て悲しそうにしていた。プルーム様の機嫌が、どんどん悪くなっていく。


「お前知らないのか? カルラは夜中起きて、途中からお前の腹の上で寝ているんだぞ」


 という、いつの間にか玄関に来ていたボムから、衝撃の言葉が発せられた。はっきり言って、知らなかった。朝起きても、腹の上には何もなかったからだ。そのことを伝えると、ボムから理由を聞けた。


「俺が毎朝目を覚ましたら、毎回回収してたからな」


「じゃあ分かるわけないだろ」


「俺は分かるぞ。毛の倒れ方とかで、すぐにな」


 これは、知らなかったとはいえマズい展開だ。


「何か言い残すことはあるか?」


 子を思う親の怒りは尋常じゃないことは分かっているが、理不尽だと言いたい。


「カルラ! ごめんな。兄ちゃん、報連相守るから許してくれないか? 兄ちゃん、何でもするから。な?」


『……いいよ。もう……カルラを置いていなくならないでね』


 そう言って、ポロポロと泣き出してしまった。


「カルラが許したのじゃ。先ほどの拳骨でチャラにしてやろう。次はないぞ」


「はい」


 こうして、やっと恐怖の大魔王襲来による災害は終了した。その災害による人的被害は、俺だけで済んだのだった。そして現在、一人悲しく自身に生命魔術をかけて治療していたのだった。やはり、プルーム様を怒らせてはいけない。この日まで無傷で阿呆共をお仕置きしてきたのに、今回は一撃でボロボロにされてしまった。そしてカルラが泣き止んだところで、プルーム様からボムへ質問が飛んだ。


「ところで、その玉のような体はなんじゃ?」


 カルラを抱いたまま、不思議そうにボムを見るプルーム様。


「ほとんどの戦闘は俺がしてましたし、ダンジョンも歩かずバイクに乗ってましたので、運動不足なのでしょう」


 俺はボムの怠け具合をチクることにした。怒られ仲間を作るために。だが、そんな俺の予想を裏切る存在がいた。


「ダンジョンの中であの乗り物に乗ったのか。面白いことをするのう。まあその体では戦いにくいじゃろうから、一度元の大きさへ戻り魔力を練り、魔力纏をやる感覚で馴染むまで続けろ。そうすることで、体が大きくなり腹も以前の大きさへ戻るはずじゃ。そのサイズ変更の腕輪を着けている間は、成長の阻害があるからな。それが終わってから、用を済ませに行くぞ。まずは、飯じゃ。用意しろ」


 俺だけでなく、ボムも怒ってもらおうと思っての企みは、一瞬で砕け散ったのだった。そしてボムは満面の笑みを浮かべて、俺の肩に手を置いた。


「浅はかな考えだったな。さあ、飯だ」


 そう言われ、ホールに行くのだった。


 そして、ホールに行くとモフリスト共含め勢揃いしていたのだが、先ほどの俺に対しての怒気が漏れていたのだろう。その存在感から、正体を気付いてしまったテイマーズと、タマとギンが跪いていた。それに対して、プルーム様が「楽にしろ」と言ったため、若干の混乱が起きていた。


 当然だろう。タマとセルとニールは聖獣である。聖獣に跪かれ命令する美人とは、何者なのだろうという疑問が湧いても不思議はない。しかも、プルーム様の陰に隠れて目立たないが、【雷竜王・グローム】もいた。人型であるため気づかれてはいないが、普通の人間とは思われてはいなかった。


 竜王は強さだけなら神獣クラスとも言われる存在であるため、普段のような緩い雰囲気ではなく、緊張感がある雰囲気になっていた。その光景と俺とボムの態度を見て、プルーム様は雷竜王に声をかけた。


「やはりラース達は平気ではないか」


 まだ存在感のことが納得出来ず、根に持っていたようだ。雷竜王はその話を説明し、俺達に返答させることにした。


「ああ。最初は我慢してましたが、今は慣れですね。ただし、普通のとき限定ですよ。さすがに、戦闘態勢時や怒気を放っているときは我慢しかないですよ」


 と、俺が答えると、雷竜王はドヤ顔しながらプルーム様に向き直った。


「……もうちょっと頑張れ」


 と、イラつきながら俺達に言った。そしてその後は、朝食を取りながらプルーム様の簡単な紹介をした。カルラの母親で、俺とボムの師匠だと説明した。簡単な説明であったのにもかかわらず、全員驚いた顔をしていた。次に、ここにいるメンバーの説明を簡単にした。すると、プルーム様はタマがここに来た目的が、リオリクスのお使いだと知りため息をついた。


「では、素材が必要だからダンジョンに行くということじゃな? じゃが、お主達にとっては遊びにも修業にもならんじゃろ。そこでじゃ、ちょっと別の場所へ行こうではないか。もちろん、ラース達一行とグローム達魔獣以上の者だけじゃ。他の者は、行ったら危ないからな」


 ニコニコしながら、話しているプルーム様。楽して素材を集め、金も稼げるダンジョンの方がいいのだが、拒否権がないようだ。


「お金を稼げないと、カルラも楽しみにしている飛行船のための、不屈石が買えないのですが……」


 これでなんとか出来ないかと思っての発言だったのだが、どうにもならないようだ。


「素材を売ればいいし買い取ってもらえなかったら、我に考えがあるから大丈夫じゃ」


 と、自信満々に言ったプルーム様だった。俺達はいったい何処に、連れて行かれるのだろうか。そして無事に帰って来られるのだろうかと、疑問が次々と湧いてくるのだった。ちなみに、カトレア達も来たがったが、学園があるため無理だった。俺は、今日は授業がないため、行かなくてもいいのだ。むしろ、煙たがられていることを考慮して、行かない方がいいという方が本音である。






 そして俺達は今、【創世の塔】周辺の森にいた。ここはニールの生まれ故郷である。木は基本的に【神樹】である。


 【神樹】とは、魔素の循環を行う上で、魔素の吸収と龍脈への放出の役割を担う重要な樹木である。性質として様々な色のついた魔素を吸収しているため、木自体が漆黒のように黒くとても硬い。そして【神樹】と対をなすのが、世界樹であり精霊樹でもある。


 この説明についてはまた改めて話すことにして、重要なのは、その神樹に囲まれているほど魔素が濃い魔境であると言うことだ。外縁部ですら、ランクA以上の魔物しかいない。そんな場所に連れて来られたのだった。ちなみに、修業に全く関係ない者がいる。雷竜王グロームと、腹を元に戻したボムの脇に抱えられた、タマである。


 雷竜王は既に諦め、倒した魔物と引き換えに子機と欲しい酒との交換を申し込み、師匠権限で受理された。ただ、酒の本数は一本だけにした。そして、タマは攻撃力が乏しく防御力も自信がないため、最後まで行きたくないと抗議したが、聞いてもらえずボムに取り押さえられ、現在強制的にここにいる。


 ちなみに、転移で逃げたら何処までも追いかけると脅されていることから、逃げることはしない。あと、ニールは出来る限り修業し、危なくなったらカルラと勉強会である。


「では、お主達は昼食までに、獲れるだけ獲ってこい。もちろん競争じゃ。子機を通して合図を出すまでじゃ。終わったら、この泉へ戻ってこい。子機を持ってないグロームとタマは二人一組で動け。グロームは、ラースから子機を受け取れ。タマは残念ながら、リオリクスに確認が取れるまでは保留じゃ。そしてラース達はバラバラに動けよ。セルは奥まで行くな。分かったら行け」


 という、地獄の修業の開始が告げられた。戦闘狂のボムでも、今回はさすがにワクワクはしていなかった。既に、フル装備だった。まあこの中で一番可哀想なのは、言うまでもなくタマなのは間違いない。プルーム様は、戦闘を放棄している聖獣が嫌いという理由から、修業をするのは仕方がないことである。今後の関係を考えるなら、真面目に修業に取り組むことが、今取るべき最高の行動であるのだが、気付いているかは分からない。


 ちなみに、折檻が決まっているやつはいる。朝いたのに、逃げたやつがいるのだ。聖獣ではなく魔獣だが、魔狐のギンは熊ゴーレムに隠れて逃げた。故に、アイツは折檻を受けることが確定してしまったのだった。何をされるのだろうか、少し楽しみでもあった。


「いってきます」


 そう告げ出発した俺は、とりあえず強さの基準が知りたくなり、ちょうど牛がいたため討伐対象にした。俺達は基本的に、食べられる魔物しか討伐対象としない。今回は普通の牛だと思い、基準として選んだのだが、すぐに後悔することになった。


 ――属性纏《雷霆》――


 雷霆竜(ライトニングドラゴン)のナイフにも属性纏で覆い、突き刺そうとナイフを前に出したのだが、ガキィィーンと鳴り、ナイフが折れた。


「はっ? マジか……」


 ただの牛ではなかった。すぐにナイフを捨て、幻想魔術を発動した。そして、今度は抜き手を試した。


 ――魔闘術《武流》――


 この技では、切り傷を少しつけただけだった。ちなみに全員知らないが、ここは森の最奥である。俺達は当初ニールが襲われた付近での調査と、相手の強さを測るための魔物討伐だと聞かされていた。だが、よくよく考えれば、プルーム様はそんな中途半端なことはしない。最奥の魔物を狩って来られれば、その手前程度の実力しかない者達など、烏合の衆だろうという考えなのだ。


 出来るならば塔に入らせただろう。だが、ルール上無理だったため、塔に入らずに済み助かった。そして、俺は気付いた。ここが最奥だということに。さらに、ピンチだということに。


「こうなったら、魔術なしとか言ってられんな」


 ――大地魔術《竜爪》――


 竜の爪を象った十の槍が牛を襲う。やっと危機だと感じた牛は、これを跳んで避け、俺を攻撃対象と認識した。


 ――雷霆魔術《召雷》――


 ――流水魔術《豪雨》――


 ――氷雪魔術《凍結》――


 ――暴嵐魔術《嵐牙》――


 ――大地魔術《地剣の舞》――


 雷霆魔術だけでは仕留められないだろうと判断をし足止めに使い、さらに牽制としての効果も期待した。足が止まった牛に水をかけ凍結させ、完全に動きを止めると、硬い皮に少しでも傷をつけ槍を突き刺すことにした。そして突き刺した槍の石突きを、大地魔術を使い追加で作ったハンマーで思いっきり叩き押し込んだ。


「グガァァァァ」


 と絶叫しながらも、まだ倒れないようだ。それならばと、トドメをさすことにした。


 ――大地魔術《振動》――


 派生というより応用の魔術だ。槍を弾いた振動を増幅して、穂先から放たれるようにした。すると、喉から少し上向きで入った槍から発せられた振動が脳におよんだのだろう。ついに、倒れ込んだ。無限収納庫に入れられるか試してみると、入れることが確認できた。このとき、ようやく倒したのだろうことが分かった。そして倒せたことに少し安堵し、ナイフの残骸を拾った。


 それから、こちらに向かう気配に相対するのだった。



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やる気が満ち溢れます。

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