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暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~  作者: 暇人太一
第三章 学園国家グラドレイ
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閑話 それぞれの思惑

 ラース達が、ドライディオス王国を出国した頃、密命を受けた狂信者共は、ドライディオス王国の西の端に、来ていた。ここは、ライトニングドラゴンが、消息を絶った場所に、一番近い場所であったためだ。


 近くの村の教会の者に、確認したところ、ライトニングドラゴンは、確かに通り過ぎ、戻ることはなかったそうだ。この先は、竜が住む場所で、近付くことは叶わないと言われ、その結果を、通信の魔道具を使って、報告した。


『おそらく、竜王によって、撃退されたと思われます。これ以上の調査は、長期的になってしまいますが、いかがなさいますか?』


 異端審問官は、指示を仰ぐことにした。


『では、調査を終了し、学園国家に向かえ。そこで、素質ある者を、新たな信者とせよ』


『かしこまりました』


 その指示に応じ、即座に行動する、異端審問官。





 ◇◇◇





「何故だ! 何故僕らが、最前線に立つ必要がある!? それに、祝福はどうした? 本当に効果があるのか?」


 ところ変わり、神聖リュミリット教国の、大聖堂で叫ぶ少年。彼の名前は、真野正義(まのまさよし)。この世界に召喚された、勇者である。


 彼は独善的で、自分の正義は当然、全人類共通の正義だと、思っている。名は体を表すと言うが、どうやら本当のようだ。彼は今まで、チヤホヤされた経験しかなく、自分は選ばれた存在で、いつも輝いていなければならないと、思い込んでいる。


 故に、最初の歓待ムードは大歓迎で、可愛い女の子にも囲まれ、有頂天になっていた。そんな彼は、一緒に転移してきたおっさんを、儀式の生贄にしてから、全て上手くいかなくなっていた。ちなみに、彼には殺したという感覚はない。生贄にしたのであって、殺してはないと、思っている。


「そうよ。正義君の言う通りよ。彼が、間違ったことを言ったことなんかない。彼が神なんだもの、祝福なんか、ないに決まってるわ」


 独善的な少年を、心の底より狂信している者が、この少女。名を神尾望(かみおのぞみ)という。彼女は、幼少より彼の行動の全てを、見ていた。虐められる子には、自分の弱さが原因だと諭し、一緒に仲間に入れてあげ、救った彼の役に立つ機会を、与えてあげてきた。


 そして、今回も神の祝福とかは、どうでも良かった。儀式を終えたあとの、褒め言葉と、頭を撫でてもらうことを、第一の目的とした。彼女は、正義のためになるなら、何だってやる。


 だが、意に反することは、必ず除去する。彼女の行動理念は、至極単純なものだった。その単純な行動理念故に、迷うことなく戦い、勇者の中では、常に最強だった。


「何てことを言うのですか? 神は、存在しています。あなた方を選び、召喚されたのも、神なのですよ。それに、祝福の効果も、出ているではないですか。その左腕の痣。それは、【聖痕】ですよ。それが、広がれば広がるほど、多くの力を得られるのです。勇者様方の勇姿は、多くの方が見てくれています。正義様なんて特に、多くの女性の心を、虜にしているのですよ。望様も、騎士の方々が、噂してましたしね」


 聖女が説得を始めた。彼女の話には、二人しか出て来なかったのだが、本来勇者は、三人組だったはず。そして、その最後の一人は、現在異端審問官として、学園国家に向かっているのだった。


 その彼の名は、最上強(もがみつよし)。最強を目指したが故に、異端審問官となる道を、選んだった。多くの強者と戦えると言う理由からだ。







 勇者達は、正確には教国の駒ではない。先ほど、聖女が言ったとおり、本当に神に選ばれたのだ。教国の者が、妄信している主神というのは、本来生命神である【リイヴィス】である。だが、生命神だけではなく、【冥界神・ヘルスクロ】も、絡んでいた。この二柱の、性格は似ているが、本質が違った。


 生命神は、自分の美に、絶対の自信を持っているため、創造神が最上の女神として、崇められているということは、プライドが高い彼女には、到底許せなかった。それに対し、冥界神はというと、ドジっ娘な創造神の補佐で、彼なしでは仕事が回らないほど、優秀であったため、自分こそが創造神に相応しいという、高いプライドを持っていた。


 この二柱は、お互いに手を組み、ドジっ娘な創造神を、拉致監禁した。二柱の警戒対象としては、現世にいる三体の管理神と、創造神のペットだけであった。勇者召喚をするまでの数十年、もしかすると、百年は超えているだろう時を待ち、慎重に選び召喚したのだった。


 術式を信者に教え、人間が召喚したように、偽装もした。最悪のときは、トカゲのしっぽのように、切り捨てれば、良かったからだ。ちなみに、このようなことを考えているのは、もちろん冥界神だ。


 二柱の性格が似ていることも、本質が違うことも、理解しているのは、彼だけである。彼にとっては、生命神も、駒でしかなかったのだ。実際表に立っているのは、生命神だ。バレたときは、存在を徹底的に隠している自分には、関係ないと言って、誤魔化す気だったのだ。


 そして、二柱の特性を持った者を、召喚しようと思ったのだ。まずは、光と闇を持つ者。美と若さを兼ね備えた者。執念といってもいいほどの、欲を持つ者だ。


 それが彼ら勇者だった。奇しくも、巻き込まれたおっさんもいたが、彼もあながち、間違っていたとも言えなかった。



 まずは、勇者の真野正義だが、いつも光輝くことを至上としている彼は、基本的に輝いていない人間が嫌いだ。そして、自分の近くに置いておけば、誰もが、輝くことが出来るはずだと、妄想に似た正義を押しつけている。実際は、彼を輝かせるための道具と化し、引き立て役となっているだけだったのだ。


 そんな彼は、異世界に来るまで、同級生の少年を、側に置いていた。その同級生の名前は、神代尊(かみしろたける)。真野正義は、いつも独りでいる神代尊を、輝いていない人間だと決めつけ、一緒に行動するようにしていた。そして、毎日執拗に、心を鍛えるためだといい、パシリをさせていたのだ。


 本来、神代尊は独りではなく、真野正義が見たときに、たまたま一人だったため、真野正義が勝手に判断して、それが正しいと周囲に押しつけたのだった。さらに神代尊は、人柄も良く友人も多い。真野正義が、常に輝いているためには、彼は目の上のたんこぶであった。


 それ故、真野正義は自分の欲を満たすため、それを自分の正義だと思い、本来の自分の欲求を隠し、あたかも彼のためと、偽ったのだ。だが、結局はパシリに、使い始めただけだった。そして、この行動が原因で、本当に虐められ始めたのだ。これが、真野正義の光と闇。そして、執念といってもいいほどの、自己顕示欲だ。


 次は、真野正義を神と崇める少女、神尾望だ。彼女の言動を見て分かるとおり、光は真野正義。闇は、真野正義を崇めない、有象無象だ。本来、自分の闇を表すのだろうが、神尾望の場合は違う。


 幼少の頃に、輝く彼を見て、恋愛などという、軽薄な感情など、軽く凌駕する思いを抱いてしまった。それ故、真野正義を神と崇めることを、世の常だと、心の底より信じている。


 彼の悪口を言うのはもちろん。悪い虫や悪影響を与える可能性があるものを、徹底的に排除してきた。そのため、真野正義はイケメンで、文武両道にも関わらず、女の影は一切なかった。さらに、神代尊を側に置き始めたことで、男色疑惑に、拍車が掛かったほどだ。真野正義本人は、何も知らない。神尾望が、裏で全て排除していたことを。


 この行動の理由が、真野正義を、独占するためであった。このような異常な行動は、異世界に来ても続いた。教国側も、男性を操り人形にする、最適な方法を知っている。当然だろう。こればかりは、どの世界でも共通認識だ。最初の歓待ムードでも、狙って女性をあてがっていた。


 だが、真野正義と何もなく、女性は突如消えるのだ。それが、数回繰り返されれば、さすがに気づく。故に、真野正義に女性は、あてがわれなくなり、神尾望にも男性が、あてがわれることはなくなった。知らないのは、真野正義だけである。これが、神尾望の光と闇。そして、執念といってもいいほどの、独占欲であった。


 そして最上強は、簡単だった。いわゆる脳筋だ。将来の夢は、格闘技の世界チャンピオン。力こそ全てであり、力があれば、なんでも許されると、思っている者だった。体を鍛えることが趣味であり、それが全てでもあった最上強は、マゾヒストであり、サディストでもあった。


 自分に対しては、何処まで自分が耐えられるかを課すことで、喜びを得るような者だった。それに対し、他人には、何処まで耐えられるかを課し、苦しむ表情を見ることで、喜びを得るサディストだった。これは、彼の家庭環境に、原因があったのかもしれない。


 彼の家は、格闘技の道場であった。幼少より、体を鍛える上で、目標を設定していた。その目標を達成したとき、最高の喜びを感じてしまったことが、原因だろう。さらに、自分を鍛えている際の、両親の愉悦のような笑みが、脳裏に貼り付いているためでもあった。このような家庭環境により、最上強という人間は、形成された。


 そして、欲しいものは、力で手に入れてきた。金も女も。誰も文句を言わなかった。こうして、彼の思考も、形成されてしまったのだった。彼の光と闇は、強者と弱者。そして、執念といってもいいほどの、闘争欲。



 このような、素晴らしい素質を持った者を、見つけ出せたとき、二柱は歓喜した。そして、準備を進めるために神託を下し、準備させることにした。その準備とは、奴隷である。奴隷でなくても構わなかったが、国として存続させるためには、国民が必要だったため、物扱いの奴隷を使うことにした。


 その確保方法は、課税して、支払いが出来なければ、即奴隷というものだった。聖戦の準備として、戦費も集められて、一石二鳥だった。足りない分は、奴隷産出国の【傭兵王国ソルダーティア】から、買っていた。


 この国は、帝国の属国だが、特産品は奴隷しかなかったため、客なら誰でもよかった。それでも、足りなかったときは、帝国から攫ってきた。


 あとは、術式を教えてやり、魔力の供給は生贄が担当し、術式の調整や安定化、勇者の選別は、二柱が担当した。だからこそ失敗など、あり得るはずはなかった。だが、目の前には、選んだ記憶のない者がいた。条件から外れる者は、自動的に弾くようにしていた。故に、近くにいた神代尊は弾かれた。


 彼は、酷い扱いを、受けているのにも関わらず、憎悪などの闇の感情を、持っていなかった。常に相手が、本当にやって欲しくて、頼んできていると思っている、光しかない少年だったのだ。


 それなのに、貧弱そうなおっさんがいた。【神の目】を使って見ると、病人だった。何故だ? と、思わずには、いられなかった。自分は完璧で、ミスなどあり得ない、という思考を持っている冥界神には、目の前の現実を、受け入れることが出来なかった。


 ここで思い出して欲しい。ずっと、退屈に思っていた者が、いたことを。厳つくてゴツい、おっさんがいたことを。このゴツいおっさんは、二柱が勇者召喚を行うことを知って以来、ずっと慎重に、準備を進めていた。あの適当コンビと呼ばれる者の一人だとは、とても思えないほど、慎重に。


 そして、自分の本来の条件がバレないように、二柱の条件に、合いそうな者を選んだ。それが、病人の三十歳のおっさんだった。彼の名前は、熊野友翔(くまのゆうと)


 彼は小さい頃から、不治の病になり、成人してすぐにも病にかかり、全く働けないでいた。そんな熊野友翔は、親に働かないやつは、クズだと言われ、病気に対しても、理解を得られなかった。


 欲しいものは買えず、好きなことも出来ず、ただ将来の不安に、さいなまれながら、変わらない日常を過ごしていた。何も知らない者には、羨ましい生活をしているねと、馬鹿にもされた。熊野友翔本人は、代われるならば代わってもらいたかった。


 熊野友翔は、健康が欲しかった。何よりも。健康があれば、あとは自分次第である。何をやるのも、重要な資本は自分の体である。熊野友翔には、それが欲しかった。そして、熊野友翔の心を支えていた光は、ファンタジー小説とモフモフだった。たまに、ネットで超大型の犬を見て、将来飼おうと、治療に励んでいた。


 結婚を考えなかったのは、病気を知って付き合っていた相手が、「先が見えない」と言って、浮気の言い訳にして、去って行ったからである。結局、病人と結婚する希少種は、いないことが判明した。と、早々に諦め、犬へと走ったのだった。


 そして闇は、死後を考えるように、なっていた。死の先とは、どのような感じなのかと、恐怖に怯えもした。それでも、生きていたいという、思いもあった。たとえ、恋人にも捨てられ、家族の中にも居場所はなかったとしても。


 このファンタジーに憧れたおっさんを、あの二柱は、絶対に殺してくれる。それを俺の物にすると思い、術式にちょっと介入して、一緒に転移されるようにしたのだった。このときには、既に他の神々にも、声を掛け終わっていたため、魔法陣は魔神にやってもらった。そして、見事思惑通りになった、火神ボルガニスは、ほくそ笑んだのだった。








「このあとは、その聖痕を広げてもらいます。その方法とは、神敵を討ち滅ぼすことです。来月開かれる、聖戦に勝利すれば、貴方様は英雄と讃えられることでしょう。光輝く、貴方様の勇姿が見えます」


 そう説得する聖女に、満更でもない顔をする、真野正義。


「そうか。では頑張るとしよう。困っている民を救うため」


 そう言って、英雄と讃えられる自分を想像し、悦に入る真野正義だった。


「正義、私も手伝うわ」


 そう同調する神尾望に、真野正義は返事をする。


「そうか。手伝ってくれるか。ありがとう」


 そう言って頭を撫でるのだった。





 ◇◇◇





 実際のところ、この国が聖戦で、勝とうが負けようが、冥界神にはどうでもいいことだった。関係あるのは、生命神の方だろう。阿呆な皇帝がいる帝国でも、主神は創造神である。この国は、生命神を主神としており、宗教対立が起きている。ここで、教国が勝てば、主神としての力の証明と、自分たちの言い分の正当性を、示すことが出来るため、教国にとっては、重要だった。


 だが、結局は一ヶ国だけでしか、崇められない。本当に自他共に、創造神として名乗るためには、世界を一度破壊して、創り直す必要があった。そして、創造神を邪神と称して、討伐する計画だった。


 そのための、聖剣も渡した。あとは、勇者に頑張ってもらうだけである。だが、さすがに狂信者だけで、うまくいくとは、思っていなかった。そのため、冥界神は保険を掛けていた。


「あちらも、どうやら動き出したようだ。せいぜい、我のために頑張ってくれたまえ」


 そう一人呟く、冥界神ヘルスクロだった。



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