第四十七話 四兄妹
「初めまして、ラースです。こちらにいる熊さん達は従魔です。それと、熊さんは調教師でもありますので、丁寧な態度で接して下さいね」
とりあえず、自己紹介をしてみた。だが、全員ボムが気になるようだ。彼は調教師のため、気にしないでもらいたいのだが、無理なようだ。調教師が、何の調教師なのかは、俺も分からない。ただボムが、俺も役職が欲しいと言ったため、急遽作ったのだ。
「俺の授業は、短期間なため、中途半端に終わるような授業は、したくない。そのため、その後も継続でき、魔法や魔術を使う上で、最重要の魔力操作と魔力感知のスキルレベルを上げ、上位スキルの取得を、目指してもらうこととします。
共通内容の召喚獣契約はしますが、派手な魔法を覚えるとかはしません。思っていたのとは、違うと感じた方は、すぐにでも別の教師の下へ、行くことを勧めます。どうぞ移動を開始して下さい」
すると、ゾロゾロと出て行く。あと少しだと思っていると、王女とカトレアの二人と、熊も動き出した。心の中で、ガッツポーズをしてると、最前列の席に、移動しただけだったようだ。
二体の熊が俺を見ていた。本当にボムの子供のようだ。圧力がすごい。ちなみに、二人とも熊用の、椅子を用意していた。本当に大切にしているようだった。
だが、二人だ。
授業をやらずに済むことに、満面の笑みを浮かべている俺と、絶望の表情を浮かべている、王女とカトレア。別の教師の下へ促そうとすると、教室の扉の陰に、人がいた。
「どうした?」
元々俺の教室にいた生徒は少なかったため、顔を覚えるのが苦手な俺でも、だいたい覚えていたが、この娘二人と少年二人は、見たことがなかった。
「ここは魔法の授業の教室ですか?」
二人の少年のうち、気弱そうな方が、声を掛けてきた。
「そうだが、ここにいなかったということは、他の方だったんだろ? 何かあったのか?」
「……はい。今日は、簡単な説明と、召喚獣の契約をやったのですが、それがふるいだったようで、僕たちは契約が出来なかったため、他へ移れと言われました。もう一人の女性の先生は、魔力量の測定をして、基準値に達していなかったため、こちらへ回されました。どうせ人がいないからと……」
失礼な話だ。だが、放り出す訳にもいかない。それにしても、下らない方法で、ふるいにかけるとは、阿呆である。この学園の自称賢者は、何をしているのだろうか?
「分かった。入ってこい。ここは試験などしない。必要なのは、やる気だけだ」
そう言ったのだが、わんぱく少年とわんぱく少女は、ここで勉強しても、意味がなさそうだと、思っているようだった。すごく不満顔だ。
不満なのは、俺もである。あと少しで、面倒事をしなくても済むと思ったのに、阿呆がしたことで、予定がズレてしまった。実技はなくならないから、仕方がないが、目の前の王女とカトレアの、勝ち誇った顔がムカついた。
「始めに言っておく。何処でやるかではなく、やるかやらないかだ。魔力量を上げる方法もある。召喚獣の契約も出来る。ここで、帰ってもいい。登録だけして、授業を受けなくても、構わない。だがずっと、アイツらに見下されたままだ。やるやらないは、個人の自由。魔力量の増加訓練は、才能とは違って、やった分だけ自分に現れる。ここまで聞いて、やる気が起きないやつは、いらん。さっさと帰れ」
そこでやっと、席に座る気になったようだ。
「さて、向こうで召喚獣の契約をしたってことは、召喚獣用の召喚魔法陣を、もらったな? 見せてくれ」
気弱そうな少年に、借りて見たところ、限定召喚の術式が、組み込まれていた。派手な魔術特性を持つ、魔物限定になっていた。魔物は、魔術を使う魔物か、魔法を使う魔物の、二種類に分かれる。
当然、魔術を使う方が派手で、規模も大きく、魔物自体も強く大きい。だが、コントロールが上手くいかないで、以前あった、街が壊滅したような大惨事になったり、首輪のお世話になったりするのだ。ちなみに、その術式を外せば、魔力の質にあった、召喚獣が現れる。
この場合、必要なのは、量ではなく質だ。そうでなければ、転生初日に、あの巨大な熊さんを、テイム出来るはずはない。召喚獣の好きな魔力の質は、人それぞれである。
ただ、この術式を組み込むと、本来興味を持ってくれていても、弾いてしまうため、現れないのだ。つまり、この魔法陣を用意した、阿呆が悪いのだった。それを説明してあげた。
「それじゃあ、本来の魔法陣を使えば召喚獣と契約出来るんですか?」
気弱そうな少年が、嬉しそうに聞いてきた。
「そうなるな。今、出来るがやるか?」
「「「「はい」」」」
王女とカトレア以外は、返事をした。
「二人はやらないのか?」
不思議に思い、聞いてみた。
「フランと喧嘩してしまったら、悲しいのじゃ。それに、カルラたちを虐める子が来たら、嫌なのじゃ」
なるほど。
だが、そのための調教師がいる。本人は、暇そうに欠伸をしているが、仕事になったら、やるだろう。おそらく。
「ボムがいるから大丈夫だ。それにちゃんと良いことと、悪いことを教えるんだろ?」
全員に召喚魔法陣を配り、前の広いところを使って、呼び出しを行った。ちなみに、使い捨てタイプだ。悪用防止である。
「まずはオレから行くぜ!」
と、わんぱく少年の、ガンツが行うようだ。ちなみに、ここにいるメンバーは、オレ以外十歳である。そして、俺はまだ九歳である。同年代での不思議な授業だ。
目の前に現れたのは、ランクCのブラウンボアだった。デカいイノシシである。土魔法を使える魔物だ。確認されている範囲では、最高でランクAの、ヘビーボアにまで進化するようだ。そして、大地魔術も使えることが、確認されている、将来性がある魔物だ。
基本的に、召喚獣として、召喚されてくる魔物は、賢いものが多いのが特徴だ。そして無事契約したようだ。名前は、ナックル。
次は、わんぱく少女のサラだった。
「頼むわよ」
すると、そこには薄い緑色の、大きめのイノシシがいた。ランクCのグリーンボアだ。風魔法が使え、将来的には、暴嵐魔術が使える、ランクAのストームボアに、進化出来る可能性もある。まあ、色違いとも言える。名前は、ランス。
「次は僕が行くよ」
気弱そうな少年ジャックが、魔法陣に魔力を流した。すると、目の前には、赤いイノシシが……。もう、分かるだろうが、一応説明する。ランクCのレッドボアで、将来的にはランクAのフレイムボアに、進化が可能だ。もちろん、火炎魔術も使えるようになる。名前は、赤を意味する、ロッソ。
だが、ブタでロッソという名前にしたら、空を飛んでしまうのでは? と、思えてならなかった。あの名ゼリフを、言って欲しい。
「じゃあ私の番ね」
おっとり少女の、エリスが魔力を流していく。勘が良い人は、結果を見ずとも、分かっているだろう。俺も分かっている。目の前に現れたのは、もちろんイノシシ。青いイノシシだった。言ってしまえば、色違いだ。ランクCのブルーボアで、将来的にはアイシクルボアに、進化が可能だ。
現在は水魔法だが、進化すれば、氷雪魔術という、変わり種の魔術も、使えるようになる。希少種なのだ。名前は、女の子らしく、レイン。コイツのみ、メスだ。そしてここに、ボア四兄妹が誕生した。インチキなどしていないが、どれだけボアに愛されているんだろうか。
「……ボアに何かしたのか?」
「私たち幼なじみで、小さい頃に、ボアの赤ちゃんを、助けたことがあるから、たぶんそれだと思います」
と、エリスが答えた。それなら納得だ。ちなみに、結構デカいから、鞍をつければ乗れるだろう。騎馬隊ならぬ、騎猪隊が結成されること、間違いない。
そして、連続ボアを見たためだろう。王女達も、もしかしたら? と、考えているようだった。
「じゃあ、妾が行くのじゃ」
俺は、ほのかにボアになるように、期待した。そうすれば、このクラスは、ボアクラスとか、呼ばれそうだからだ。面白そうではないかと、思っていた。だが、どうやら期待を、裏切ってくれたようだ。
真っ白な綿毛のような、モコモコフワフワな、小っこくて丸っこい、何かがいた。瞳は青。毛と瞳の配色は、王女と同じである。まあ、毛は王女のプラチナブロンドと違って、真っ白だが。それよりも、コイツは子供であるのに、魔獣のようだ。種族名は白猫だった……。
「それはな、まだ子供だから、属性が決まってないんだ。たまにあるぞ。勉強したり、戦ったりと、環境よって変化はするが、基本的には、白を連想する属性だな。まだ子供だ。いろいろ教えてやるといいぞ」
なるほど。
と、ボア四兄妹以外は、思っていた。何故ならば、彼らはボムが、言葉を話したことの方が、衝撃的だったからだ。ちなみに、ランクCのボア達は、本当なら契約出来ない。いくら魔力の質が、好みだったとしても、力の差がありすぎるからだ。
だが、目の前にボムがいた。そのため、大人しく契約した。そして、ボムはボア達を諭したのだ。
「この者達が、理不尽なことをしない限りは、契約を全うしろ。それが、責任だ。出来んなら構わん。今すぐ破棄するか、文句があるなら、かかってこい」
と、調教師の仕事を、完遂したのだった。終わったあと、褒めて欲しそうにするボムは、可愛かった。ボムを、褒めるときの行動は、決まっている。背中を、ポンポンするのだ。俺は、もちろんしてあげ、現在は上機嫌だ。
「じゃあ最後は私」
カトレアが魔力を流すと、フサフサの尻尾を持った、狐がいた。
「神獣九尾様の、一の子分とは、俺のこと! 最強魔狐! 焔尾! 参上!」
と、小さめの体で、尻尾の先に炎を纏っている、しゃべる狐が現れた。
「ここから、俺の世界統一を始めるぜ! そして、九尾様に捧げるのだ! さあ! 我が下僕よ! とりあえず、あのデカ物からだ……」
訳の分からないことを、叫びながら、ボムを指差したが、途中で何かに、気づいたのだろう。途中から、指を戻し、ボムから目をそらした。
「ほう。最強なのか。神獣九尾の話は、聞いたことがあるぞ。かの者は、知能の高さと、魔力量の多さ故に、ダンジョンの維持を任されているそうだな。だが、最強の神獣は別にいたと思ったが、俺もいつか、最強の名を欲する者。いずれ戦うことになるのだ。今戦っても、同じだろう。そして、そちらから指名もあった。いざ、尋常に勝負」
そう言って、闘気を解放した。ボア四兄妹と、飼い主四人組は、ガクブルである。王女たちは、熊ゴーレムに、支えてもらっている。もちろん、白猫も。名前は、氷を意味する、イエロにしたようだ。
「と……とんでもない。あなた様には勝てません。死んでしまいます。最強では、ありませんでした。楽しげだったため、暇つぶしに、現れただけです。一応、魔獣ですが、話すことができ、聖獣のふりをしても、バレなかったため、調子に乗ってました。どうかお許しを」
「そうか。次は気をつけるんだな。それで、どうするのだ? 嫌なら去ればいい。強制ではない」
「ちょっと、条件の話し合いを、させてください。美味しく珍しいご飯と、お酒。お風呂とブラッシング。いろいろ見て回りたいので、お出かけもしたいですね」
その条件を叶えられるのは、ラースだけだ。
「私にはそれは、無理。彼しか出来ない」
「やはり噂は、本当でしたか。獅子王様に、ごちそうしてもらったという者から聞いて、あっちこっち、探していたんですよ。……では、食事の方は、なんとかするので、風呂とブラッシングを、お願い出来るなら、契約してもいいですよ」
どうやら、元々俺を探していたようだ。それにしても、獅子王神様は、いろんなところで、自慢しているようだ。だが、この狐はどうするのだろう。
「それは約束する」
「では、名を」
「あなたは、ギン」
どうやら、やっと終わったようだ。
「ここにいる、魔物や魔獣は、お前らの友であり、家族だ。そう思って接しろ。契約獣たちは、主人が不義理を働いた場合のみ、契約を破棄することを、聖獣ボムの名において、許可する。それまでは、家族を守れ」
ボムがそう宣言すると、生徒達は一斉に、返事をした。
「「「「「「はい」」」」」」
「うむ。いい返事だ」
ボムは満足げに、椅子に座った。そして、狐の食事はどうするのだろう。
「それで、ご飯と酒は、どうするんだ?」
「それはですね。あなた様と、親分の魔力を覚えましたので、転移させていただきます。私は、魔術特化型ですので、転移が出来るのです。ただ、九尾様のように、莫大な魔力量を、持っているわけではないですがね」
図々しい娘の召喚獣も、図々しかった。そっくりな主従関係である。
「俺の家族を虐めたら、チョップだからな」
ギンの毛が、逆立っていた。
「もちろんそんなことは、いたしません。まだ、天に召されたくは、ありませんのでね」
どうやら俺の周りには、賢い系真面魔物が、多いらしい。人間にも期待したい。
そして、第一回の説明会を兼ねた、授業は無事に、終了したのだった。
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やる気満々になります。




