第四十五話 入国
新章突入です。
「カルラー!」
現在、カルラにとって最大のピンチが訪れていた。
遡ること、数分前。
泉に到着した俺達は、馬車を降り、景色を楽しもうとしていた。カルラは、大はしゃぎで空を飛んでいた。そんな元気な姿を見て、和んでいると、突如現れた巨大な物体に、カルラは丸呑みされたのだった。
そして、現在。
目の前にいるクソ野郎は、【聖獣・ファフニール】とかいう、竜のようだ。だが、そんなものは関係ない。カルラを丸呑みにし、愉悦に浸っているのだ。死刑決定である。
――大地魔術《大地隆起》――
地面に立っている竜を、いつものように、股間を槍で突く。それも特大の槍で。衝撃と痛みで、目をかっぴらき、口を開けていた。
「ボム! 外!」
そう言って、飛行魔術で口の中へ、入っていった。昔の拷問方法を思い出したが、まずはカルラを探すことを優先した。
◇◇◇
『ここはどこ? 父ちゃんは? 真っ暗で見えないな……。カルラ独りになっちゃった。 ずっと独り? イヤ! そんなの絶対イヤ! そうだ。兄ちゃんの真似をしよう。暗いときは、灯りを点けるんだよね』
カルラは独りになるのは、イヤだった。絶対に、父ちゃん達の下へ帰るんだと、心に決めた。そして、プルーム様との勉強の日々を、思い出した。
「良いか? カルラ。暗くて怖い場所に入ってしまったら、とりあえず、力いっぱい、この魔術を使うのじゃ。出来れば、上に向かってじゃ。そうすれば、兄ちゃんや父ちゃんが、絶対に迎えに行く。二人が行かなくても、母ちゃんが行くぞ。絶対じゃ。忘れるんじゃないぞ」
この言葉を思い出した、カルラは、力いっぱいの魔力を、練り始めた。そして、魔術式を展開した。
――神竜魔術《咆哮》――
多重展開に、複数の立体魔術式。複雑な魔術式が展開し、魔力の奔流が迸った。本来強靱なはずの、竜の胃袋を突き破り、竜の背に一筋の穴を穿ったのだった。尋常ではない痛みに、大いに暴れた竜だが、外には怒れる暴君がいたため、前門の虎後門の狼という、状況に陥っていた。
上空に逃げようとしても、狼が邪魔をする。そして、喉に違和感を感じ始めたのだった。それにしても、本来、竜神であるプルーム様しか使えない魔術を、カルラに教える辺り、プルーム様の溺愛ぶりも、尋常ではなかった。
◇◇◇
「何だ? 今の。もしかして、カルラか?」
――氷雪魔術《絶対零度》――
喉に、この凍結魔術を放って、最終的に首が砕け散ればいいと、思っていた。本当は、歯を一本一本抜いてやろうと思っていたのだが、臭いため、さっさと出たかった。
「カルラー! カルラ、何処だー!」
『兄ちゃん!』
「カルラ! 無事だったか?」
『うん! 母ちゃんに言われた魔術使ったの! あとね、こっち来て、誰かいるの。傷付いてるの』
カルラに誘導されていくと、丸っこい何かがいた。とりあえず、他にないか確認して、ソイツを持って首へ。
――竜闘術《竜衝波》――
そろそろ首も凍っただろうと思い、渾身の一撃を叩き込んだ。すると、凄絶な音を立て、崩れていった。俺はカルラと、丸っこい何かを抱いて、外へ飛び出した。そして、俺ら全員を生活魔法で、綺麗にした。
「カルラー!」
『父ちゃーん!』
お互い叫びながら、ハグ。
ただ、カルラは、ボムの腹にくっついただけだったが、カルラは嬉しそうだった。
――生命魔術《完治》――
――生命魔術《薬物生成》――
――神聖魔術《浄化》――
カルラが助けたがった、丸っこい何かに回復魔術を施し、体力回復薬を飲ませた。最後の浄化は、竜の体内に長時間いたため、濃密な魔素と毒素が、蓄積していた。それを除去したのだ。
「何だそれは?」
ひとしきり感動を堪能したボムは、謎の生物に興味津々なようだ。
「カルラが助けてあげてって頼んだから、治してあげたんだよ」
『兄ちゃん、ありがとう♪』
お礼を言って、いつものようにスリスリしてくれた。可愛い子だ。ボムもセルもされたのに、嫉妬しているようだ。
「コイツが目を覚ます前に、あの竜の宝を見てみよう」
「宝とは何だ?」
「コイツは宝を守る者、という称号があるらしく、首のところにある、赤い魔石が宝箱のような物らしいぞ。あとは、素材にするか。ドラゴンパーティーも出来るかもな。プルーム様方に教えなければな」
『お宝ー♪』
その石をくりぬき、あとは解体屋送りである。石の中には、星金貨含む金銀財宝に、宝石や魔剣。魔道具やマジックアイテム。そして、一番驚いたのが、大地属性の【オーブ】があった。これは俺が探すべき物だったため、内心興奮したのは、言うまでもないだろう。
この石の中身を全て、無限収納庫に入れた。この石も素材になるからだ。マジックアイテムで、ボムが気になった物が数点あったが、またの機会になった。丸っこい物が起きたからだ。よく見ると、真っ黒に濃い青の縞がある、子虎だ。瞳は、金色だった。
「ここはどこだ? オイラは確か食べられたはずだ。お前らも俺を食べるのか? それならば、その前に一矢報いてやる」
何故か話せる子虎が、飛びついてきた。だが、ボムチョップ一撃で、撃沈した。
「いいか? お前は、俺の可愛い娘のカルラが、助けてあげてって頼んだから、ラースが助けたのだ。分かったら、お礼を言って去るがいい」
ボムが脅しながら、説明した。そして、さよならをするようだ。
「そうだったのか。ありがとな。今度お礼するからな」
そう言って、寂しそうに去ろうとしたら、珍しくカルラが、待ったをかけた。
『待って。独りなの? 独りは寂しいの……』
そう聞かれた子虎は、コクンと頷いた。一応、【神魔眼】で確認してみた。
【名前】
【性別】 オス
【年齢】 5
【種族】 氷結嵐虎
【Lv】 50
【魔法】 雷霆魔術
火炎魔術
流水魔術
時空魔術
氷雪魔術
【スキル】
[ノーマル]言語Lv.10
魔力制御Lv.10
魔力把握Lv.10
身体制御Lv.10
牙闘術
爪闘術
影術
身体異常無効
精神異常無効
状態異常無効
物理攻撃無効
魔法攻撃無効
看破
隠密
心眼
超感覚
[ユニーク]武王
【称号】 聖獣の食糧
転生者「ラース」の従魔
新種聖獣への進化
【加護】 獅子王神の寵愛
火神の加護
水神の加護
戦神の加護
魔神の加護
というものだった。
変わっているところは、影術とユニークスキルの武王だろう。影術は、元々の能力のようだった。影に潜んだり、移動したりと、なかなか使い勝手が良さそうだ。
ユニークスキルは、セルの賢王と、ほとんど同じだが、魔術よりも身体能力が上がるタイプのようだった。そしていつの間にか、テイムしていたようだ。それならば、名前をつけてあげなければならないが、再びの名付けを、少し憂鬱に思ってしまった。
この場合、黒だったり闇だったり、黒い方に目が行きがちになるが、今回は縞の方の青に、行かせてもらおう。ベンガル語で青は、ニールらしい。そして、ベンガルと言えば、ベンガルトラである。決定!
「いつの間にか、テイムしていた。だから、一緒に行こう。お前の名前は、『ニール』だ」
「本当に、一緒に行ってもいいのか?」
チラッと、ボムを見る。
「カルラが連れて行きたいなら、いいに決まってる。それに、ラースがテイムしたのだろう。カルラを虐めるなよ。虐めたら、拳骨だからな」
『一緒に行くの? やったー! でも、ニールの父ちゃんに怒られないかな?』
「……父ちゃんと母ちゃんは、人間に殺された」
『ごめんなの』
そう言ってボムをチラッと見るカルラ。
「理由は、悪さでもしてたのか? お前の知能の高さと、その年での聖獣への進化ってことは、両親は聖獣だろ? 聖獣を討伐するなんてことは、滅多にない。さっきの阿呆みたいなことをしなければな。それに、聖獣を討伐出来る人間が、ラース以外にいるのか?」
疑問に思ったボムが、怒濤の質問を投げかけた。
「悪さはしてない。魔境の奥地で暮らしていたんだ。あの塔がある森に。でもある日、たくさんの人間が来て、魔物や魔獣を捕まえだしたんだ。変な首輪をはめて。父ちゃんたちは、オイラを人質にして、首輪をはめられたけど、あまり効果がなくて暴れたから、強いやつが来て殺された……。オイラは、母ちゃんが死ぬ前に、遠くに放り投げてくれて、助かったんだ。
食われたり、素材になったりするなら、弱肉強食の世界だから、理解できる。でも、変な首輪をはめて、連れて行かれるようなことは、意味が分からない。変な奴らに復讐したくて、修業してたんだ。でも食べられた。本当に助けてくれてありがとな。巻き込むと悪いから、テイム解除してもいいぞ。その子、可愛いから狙われるぞ」
再び、ボムチョップ炸裂。
「何言ってるんだ? ラースのテイムは、解除出来ない。それに、迷惑だからと、放り出すわけなかろう。そんな情けないことしたら、師匠に合わせる顔も、獅子王神様に合わせる顔もない。確かセルも似たようなことをされたのだったな? 俺の臣下と弟分だ。俺が成敗してくれる。それにお前がいれば、ここ数日俺を苦しめている、悪寒の原因対策になるかもしれないからな」
ボムは、最近悪寒が止まらないらしい。この悪寒の原因に、心当たりがあるらしく、本当にそれが原因ならと、焦っていたのだ。おそらく、ニールを生贄にするつもりだろう。小っこい割には、モフモフだからだ。だが、彼は知らない。小っこいのでは駄目なのだ。
「ごめんな……」
「またチョップを喰らいたいのか? お礼は、ごめんではない。ありがとうだ」
「ありがとな」
『いいよー!』
それから、みんなで泉見学をしたのだ。綺麗で泉の底に、何かありそうだったが、高ランクの魔物がいたため、諦めた。面倒だったからだ。カルラが丸呑みにされたときの、ボムの怒気に当てられて、底に引っ込んでしまったからだった。とりあえず、移動を開始したのだった。
そして、バイクで走ること数日。やっと、到着したのだった。ちなみに、テイマーズは、馬車の中でトランプをしていた。代わり映えのしない外を見ているのに、飽きてしまったらしい。
現在、門で並んでいる。
そして、ふと貴族用の門を見ると、Sランク冒険者用とも、書いてあった。そちらに馬車を走らせると、驚く門衛がいた。当然だろう。馬じゃないのに、動いているからだ。
「と……止まれ! 何用でこちらに来た? 一般用は向こうだ」
そう言って、さっき並んでいたところを指差した。
「こちらは、Sランク冒険者も兼用何ですよね? でしたら、俺もSランク冒険者ですから、大丈夫ですよね? お疑いならば、ギルドに問い合わせて下さい。あちらで待つよりも、早く済みますしね」
そう言って、ギルド証を見せた。いわゆる、キャッシュカードのようなものだ。実際、キャッシュカードも兼ねているからだ。色は白金である。
「確認する。これは偽造判定の魔道具だ。今からこれに差し込む。何も問題がなければ、青に光る。更新していなければ、黄色。偽造していれば、赤だ。では、始める。……青だな。
失礼しました。どうぞお通りください。ただ、こちらから通った場合、ギルドでの報告数義務が生じるため、ここから真っ直ぐ行った、中央広場にある、ギルドに行ってください。この通行証を見せれば、すぐに手続きは終わります。従魔の登録がありますが、新たな従魔がいた場合、必ず登録してください。最近、従魔が連れ去られる事件が、発生しています。どうか、お気をつけ下さい」
丁寧に質問してくれた彼は、どうやら真面系のようだ。これは幸先いいかもしれないぞ。
「ご丁寧に説明ありがとうございます。では、早速ギルドに、伺わせて頂きます」
そう言って、ギルドに到着した。馬車を降り、馬車とバイクをしまい、ギルドの中へ。
「おい。ガキが珍しい従魔連れてんじゃん。どうだ? 俺に売る気はないか? 今、この国は従魔で一儲け出来るからな」
という、テンプレじみたクソ野郎がやってきた。まだ、一回目だ。許してあげよう。
「寝言は寝てから、言ってください。そんなことでしか、金を稼げないほど、落ちぶれていませんので。冒険者から犯罪者へ、ジョブチェンジですか? 一人でやっててください。あと、警告です。次、絡んだら許しませんよ?」
優しく諭してあげたつもりだ。
「テメェ! 俺が誰だか分かってねぇみたいだな? どうやら、死にたいらしい。ぶっ殺す!」
彼の仲間達だろう。
ギルド職員から見えないように、人壁になって隠していた。そして、剣を抜いて、振りかぶってきた。コイツも残念なやつだったかと、呆れてしまっていた。冒険者に対する、夢と希望を返して欲しい。
「足元がお留守ですよ」
金的からの、ローキック。膝をついた後の、首元への手刀。いつもの手順である。だが、そこからは違う。頭を持って、顔面に膝蹴り。膝立ちで、顎が上を向いた阿呆の、無防備な腹に蹴り、顎が下がって、前に倒れかけている阿呆に、トドメの踵落とし。この雑魚に、スキルを使う必要はない。
「本当に寝言を言うために、寝てしまわれたのですか? あなたたちも、眠りたいようですが、一度目はチャンスをあげます。二度目はありませんよ。彼のようになりたくない人は、寝てしまった彼を、お家に連れて帰ってあげてください」
そう、笑いかけると、蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「貴族用の門から通ったので、伺わせて頂きました」
そう言うと、先ほどまで絡んできた者含め、驚いていた。あちらを通れるのは、王侯貴族かSランク冒険者だけだからだ。
「これはこれは。我が国にようこそいらっしゃいました。この国でも是非、ダンジョンに挑戦して頂きたいですね。こちらの手続きで結構です。お越し下さいまして、ありがとうございました」
「時間があれば是非」
そう言って、ニールの登録も済ませ、帰ることにした。
面白いと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。
やる気が満ちあふれます。




