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閑話 ドライディオス王国

本日は閑話を二話掲載します。この話は一話目です。明日からは新章になります。

 翌朝、城門の前には、人集りが出来ていた。城門に吊された、全裸の男を一目見て、話題に乗り遅れないようにするためだ。どうやら、その全裸男は、顔を含めて全身が、膨れ上がっていた。そして、股間からは、おびただしい量の血液が、垂れていた。男性はその痛みを想像し、身震いしたことだろう。女性は、憐れみの目を向けていたのだった。


 そんな民衆の元へ、この国では有名な騎士団長と、隠居したはずの前国王が、駆けつけてきたのだ。どうやら、隠居はポーションで回復したようだ。


「散れ! 見世物ではない!」


 そう、騎士団長が言うが、これは完全に見世物であった。民衆の誰もが思った。騎士団長がここまで必死な様子から、この全裸男は、身分の高い人物なのだと。だが、外見から誰かを判別出来ない。顔含めて体は、パンパンに膨れ上がり、髪の毛や体の全ての毛はなくなり、ツルッツルになっていたからだ。これでは、特徴が一切ない。


「こちらの方は、どちら様ですか?」


 と、聞く民衆もいた。

 だが、その言葉を無視して、全裸男を降ろし、去って行ってしまった。この日から、国王の姿が見えない上、前国王の姿を見かけるようになったことで、あれはまさか現国王なのではないか? という噂までたった。


 事実あれは、現国王である。だが、箝口令が敷かれているため、大事には至らなかった。帝国の間者もいたが、とりあえずは放置である。理由としては、王族が下らない理由で暗部を使い回して、結果、壊滅したからだ。現在は、残った者達だけで、最優先の任務を行っているのだった。


「だから、言いましたではないですか! はっきりと! 手を出すべきではないと! 彼らは我が国の恩人で、陛下や第三王妃様、そして殿下、我々家臣までも、救って下さった恩人である。それに、友好的に接していれば、普通の少年だったのだ。それを……本当に愚かな行為をしてくれましたな! 報告を何も聞いていなかったのですか? 

 彼らは、王都近くにある、ダンジョンを踏破したことにより、Sランク冒険者になったのです。色竜(カラードドラゴン)の五体を、一方的に蹂躙したのですよ? それに、あのようなぬいぐるみを作れる技術力に、おそらく賢者であろう実力。せっかくの人材を放出してしまって、何が王か! たとえ不敬と言われても、言わせてもらう! この阿呆ー!」


 賢い系真面貴族筆頭は、キレた。普段冷静さを求められる辺境伯は、あまり怒ることもなく、声を荒げることもない。それ故に、現在は多くの貴族達が驚いていた。もちろん、前国王を同じであった。


 辺境伯の領地は、常に敵対国の帝国や、魔境の森と接している。それ故、ある程度のことには動じないが、初めてボムに会ったとき、ラースが戦闘したところを見たとき、これは敵対しては駄目だと、瞬時に判断した。


 忠告をしてくれていた娘に大いに感謝した。途中阿呆な息子に邪魔をされたが、なんとか事なきを得た。そして、頭を下げ、国王達を助けてもらったのに、結局この有様である。


 何度も言った、帝国と戦争になるよりも、恐ろしいことになると。彼一人で十分この国が終わることも言った。聖獣様がいることもだ。そして聖獣様方を蔑ろにしたことが、獣王国にバレた場合のリスクと損害も。


 獣王国は、聖獣様や神獣様を、信望している。聖獣様をテイムしている者は、神の御使いだと思っている者もいる。反対に、神様を従わせるなんて不敬だ。という者も、当然いる。


 重要なのは、聖獣様を大切にしている、という点だ。今回の誕生日パーティーは、聖獣様がわざわざ、祝いに来てくれたということを宣伝し、阿呆貴族が余計な真似をしないようにしていたのに、王族がやってしまったのだ。手綱を引く者がやってしまったことが、問題だった。


 それが、何故か既に獣王国に伝わっていた。獣王国は、既に使節団を派遣することを決め、ドライディオス王国へ向かっていることを、獣王国にいる間者より報告があったのだ。


 困った国王含む王族が、賢い系真面貴族筆頭を含む、全ての貴族を招集しての緊急会議が、開かれたのだった。賢い系真面貴族達は、何度も言った。事情説明を王族としての謝罪を、本人がするということを。それなのに、ツルツルとパンパンを理由にして、拒否してきたのだ。それならば、王など辞めてしまえ! と、思ったが、ラースの伝言を読んでいたため、それも出来なかったのだ。その内容とは……


『ごきげんよう。愚か系阿呆王族筆頭の関係者諸君。この度は、度重なる不愉快な行為を、ありがとう。感謝の意を申し上げたく、参上した次第である。まず、王女暗殺を企む王族から始まり、冒険者ギルドの腐敗、統治や部下の管理も真面にできない、無能な国王。聞いていた話だと、この大陸で一番真面だったはずだが、どうやら違っていたようだ。そもそも妹を殺そうとする者が、国王になろうなんてゾッとする話だ。同じく妹を持つ身として、恥ずかしく思う。国家転覆罪にも関与していたのに、未だに処分も出来ていないで、有耶無耶だと言うではないか。王女の身の安全を確保するために、熊型ゴーレムを贈らせていただいた。そして、国王には是非とも、善政を行っていってもらいたい。そんな彼に、少しばかりの贈り物をさせてもらった。目立たないように配慮したため、少し見にくいが、股の間を見てもらいたい。小さな魔法陣が見えるはずだ。

 話は変わるが、彼は特製の槍で、股を貫かれている。当然その時の痛みは、尋常ではなかったはずだ。その痛みを再現する、術式を組み上げて、設置型にしている。発動に必要な魔力には、もちろん彼の魔力を使っている。ちなみに、下手な回復魔法や生命魔術を使わない方がいい。当然プロテクトをかけているから、魔法を施した者にも、同じ痛みが襲うことになっている。痛みだけで、実害はないが、おすすめはしない。女性は、痛みを体験出来るから、希望すれば別ですがね。さて、長くなりましたが、善政をしていれば、ただの痣ですが、それ以外なら、死ぬまで罰を受けてもらうことになるでしょう。判断基準は、俺にも分かりません。

 追伸。まずは獣王国への対応を、楽しみにしていますよ。 阿呆更生施設所長 ラース』


 というものだったのだ。

 何故、獣王国のことを知っているのか、ということもあるが、あの魔法陣の方が問題だった。ここにいる貴族は、代理以外は男だ。今まさに、戦々恐々としていた。あんなものが、一生つきまとうと、考えるだけでも、恐ろしかった。そして、彼らの会議は、深夜まで続くのだった。


 結果、謝罪を行わなければ、股間に激痛を伴うことを説明し、回復魔法を使える第二王子を連れてきて、回復魔法を施したところ、泡を吹いて気絶した。もちろんシミーズの仲間入りであった。


 その光景を、みんな見ていた。そして、回復魔法を使えない、第一王子は安心した瞬間だった。だが、彼らは気づいていない。いつまでも処分されず、遊び呆けていた王子達にも、魔法陣を施していたことを。彼らは後日、女遊びをしていたときに、初めて知るのだった。


 結局、使節団に対して説明し、怒り狂う獣王国の者に、本人に謝罪を済ませたこと、一応は許してもらえたことを説明した。そして、贖罪の方法は、魔法陣と王のことを話したことで、納得してもらえた。使節団が、男性だったことが、不幸中の幸いだっただろう。痛みを共感することが出来たのだ。そして、これからの地獄もである。こうして、この騒動は、どうにか無事に、終了したのだった。






 伝言に、続きがあった。関係する者を辺境伯宅に集め、読むことにした。


『こんにちは。ラース一行です。獣王国について、何故知っているか、疑問に思っていることでしょう。理由としては、出国する際に商業ギルドに寄ったところ、獣王国の方が、ボムやセルに気づき、少し話をすることになったのです。その日の夜に、食事に誘われましたが、簡単な理由を話して、断りを入れたのです。彼がまさか獣王国の密偵だとは、思いませんでしたがね。さて、本来の話をします。

 熊のゴーレムは、魔眼を持っています。毒物の検知も出来るため、何処にでも、一緒に連れて行くことを勧めます。魔力で覆っている限り、防塵・防水・防汚対応となっていて、一緒にお風呂にも入れます。これから学園に行く際は、護衛は連れて行けないが、魔道具の扱いとなる熊のゴーレムは、連れて行けます。この熊の口に手を入れたり、空の魔石に属性魔力を入れ、魔晶石を作ったりすれば、魔術を使うための下地が出来ます。この熊を、どうぞよろしくお願いいたします。カルラに楽しい思いをさせてくれた皆さんに、感謝の言葉を申し上げます。ありがとうございました。またどこかで会いましょう』


 最後の最後まで、王女の安全を思ってくれていた。感謝の言葉しかなかった。それに真っ先に応えたのは、王女だった。


「さっさと、学園国家に行くのじゃ。そして、お礼を言うのじゃ。それしか、妾に出来ることはないのじゃ。泣かせてしまったカルラには、それ以上の笑顔もプレゼントするのじゃ。あの国は、不安定で阿呆も多い。妾がカルラを守ってあげるのじゃ。フラン、力を借りるのじゃ」


 決意を胸に。そして、頷く赤熊フラン。ここでモフリスト共が動いた。


「旦那様方、私達も向かおうと思います」


 辺境伯夫人に、公爵夫人、そして侯爵夫人、さらに第三王妃まで頷いて、ボムをモフリに行くようだ。


「確かあそこには、未踏破のダンジョンが、いくつかございましたね。材料があれば、私の子も作ってもらえるかも。でしたら、いつ会えるか分からず、ボーッとしているよりも、場所が分かっている今、行くべきです」


 と、辺境伯夫人が言った。そして、頷くモフリスト共。


「でも、ラースは怒っていたのじゃ。作ってくれるとは、限らないのじゃ」


「リア。あれはあの人に怒っていたのよ。私達には、関係ありません。あなたに怒っていたのは、カルラちゃんへの、対応の不備にです。あなたの親友を、あなた自身が招待したのに、人任せにした上、カルラちゃんに、寂しい思いをさせてしまったことを、怒っていたのですよ。あなたは、それを分かっておらず、ただ謝るだけでは、相手に伝わりません。本当は、自分で気づくまで、待とうと思いましたが、それでは私の子が産まれないと思い、今回は手を貸すことにしました。忘れないようにしなさい。あなたのすべきことは、カルラちゃんの信頼を取り戻すことです。そうでなければ、ラースさんの怒りは、収まりませんよ。ただ、私に対し、少し怒っていたようですが、それは、なんとかなるでしょう」


 そう話す、イリス第三王妃である。モフリスト共は、いつでも自分の欲求に、正直であった。


「それに、ラース君達を一国と考えた場合、怒らせたままにするよりも、誠心誠意謝った方が、この先も希望があるのではないですか? 言うなれば、私達が使節団です。 どうです? いい考えでしょう?」


 と、ドヤ顔をする、セシリア公爵夫人だった。


「シュバルツとエルザも行くのなら、大丈夫だろうが、護衛を何人かつけねばな」


 という辺境伯に、待ったが掛かった。


「いいえ。その護衛が真面とは限りません。その場合、さらに拗れます。護衛は、ロンもいますし、子熊が二人いますから、大丈夫です。帰りも、きっと増えていますしね」


 と言うローズ辺境伯夫人である。


「子熊とは何のことだ?」


 不思議そうに、聞く辺境伯。


「フランとガルのことですよ」


「何処が子熊なんだ? 十分デカいだろう」


 そう突っ込む辺境伯だ。


「あの熊さん、そっくりの熊さんですよ。彼の子どもに決まっています」


 満面の笑みで言う、ローズ夫人。熊のモデルは、確かにボムだ。だから、子供とも言えなくはないだろう。そして、モフリスト共は、何故かボムが一番好きなのである。


「では、早速準備を開始し、完了次第、強行軍で向かいますわよ。待っていて下さい。私の熊の子。あと、ラース君一行」



 このとき、ラース達に悪寒が走ったという。そして、ボムへと、モフリスト共の魔の手が、迫っていると言うことを、彼らはまだ知らなかったのだ。

 

 

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