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第四十四話 熊さん

「王女殿下が戻って来ました。それでは、再開いたしましょう」


 そう司会が言うが、何人か衣装が替わっている。どうやら、ボムの怒気がここまで届き、シミーズが量産されたらしい。王女は俺のことを諦め、俺らを誘導して自分の席の隣へと案内した。


 なんと、本当にボムの席が用意されていた。おデブさん用に木の切り株のように、ズッシリしていて、クッションを敷いてあった。もちろん、仕掛けなどなく、ボムも安心して座ってるようだ。俺は、王に近付いたとき、思いっきり威圧し、


「お礼は必ず……」


 と、告げた。

 対策を講じ出した、賢い系真面貴族達だが、既に遅い。手綱をしっかり引いておけと、何度も忠告していたはずだ。今更焦っても全く意味はない。


 そして、俺らの順番になった。

 貴族達は、平民が王女の横に座っているのが許せず、さらに、どうせしょうもないものだと、思っているのだろう。鼻で笑っていた。だが、今からあげるものは、この王女にあげるのが、惜しく思えるほどの物だ。カルラに頼まれていなければ、没収である。


『兄ちゃん、熊ー!』


「わかったよ。今出すからな」


 そう言って先ほどの、赤い熊のぬいぐるみを出した。そこで、ただのぬいぐるみだと言って、馬鹿にしていたやつがいたが、これはぬいぐるみではない。


「王女殿下、この熊の頭に手を置き、魔力流して名前をつけてあげてください」


 そう説明した。少し名前を考えて、説明通りに行っていった。


「名前は、『フラン』じゃ」


 すると、ムクリと起き上がる熊。目に光が宿り、二足歩行で立っている。さすがに、話はしないが、ゴーレムだ。体は、毛皮と魔綿で作り、どちらも魔力を通すため、魔力で常に覆っている。学習機能を持っていて、教えたことは覚えていく。ご飯は魔力であるから、魔石でもいいし、魔力を与えてもいい。


 魔力満タンで、最大八時間連続稼働する。待機状態にしておけば、大気に浮いている魔素を取り込んで、自動充電する。そして、ご飯は是非お口に入れてあげてほしい。魔力が空になった魔石は、しばらくすると、吐き出してくる。


 さらに、一番の目玉は、このデブの腹だ。この中は、子ども一人くらいは余裕で入れるが、空間拡張で少し広くなっているため、緊急事態には、動くシェルターになっている。もちろん口から入る。おまけ機能としては、単体であれば色竜くらいは、相手をすることが出来るのだ。それを説明して伝えた。


「スゴイのじゃ。国宝級なのじゃ」


「ちなみに、魔力を登録した人の命令を厳守します。登録は一人だけです。大切に可愛がってください。そして、いろいろ教えてあげてください」


「妾だけのモフモフなのじゃ。それならば、妾の前から、いなくならないでほしいのじゃ。ゴーレムだからといって、妾の盾にならないで欲しいのじゃ。命を大切にしてほしいのじゃ。これはカルラが頼んでくれたのか?」


「カルラも一緒に作ったんですよ」


「……そうだったのか。ありがとうなのじゃ」


 と、涙を流しながら、喜んでいた。抱きつこうとするのを、ボムが止めていた。


「熊さん。なぜ邪魔するのじゃ?」


「リボンが崩れる」


「残念なのじゃ。フランをありがとうなのじゃ。大切にするのじゃ」


 ふと、視線を感じ、其方を見る。辺境伯一家の、モフリストが見ていた。ソッと目を逸らした。すると、肝が据わっている一族の末っ子が、俺の腕を取り、抱きついてきた。先ほど、あそこまで突き放したのに、すごいなコイツと思っていると、王女よりは、将来期待できそうなものを押しつけて、キラキラした目で、ガン見してくる。


「アレ欲しい」


 ただ一言だけそう言った。


「そうか」


「作ってくれるの?」


「そんなことは言っていない」


「じゃあ、どうして作ってくれないの?」


「今日、国を出るから、作る暇がないんだよ」


「じゃあ、今日国を出なければいい。私と一緒に学園国家に行けば、お互いが楽」


「口調が変わってるぞ?」


「そう? いつもはこっち。あれは遠慮してたの」


 今は? と思ってしまった。調子の狂う、娘である。


「今作るから、色と動物を言ってくれ。そして、一緒には行かない。急いでいるからな」


「青で熊さん」


「ちょっと待ってろ」


「うん」


「ちなみに、材料はもうないからな」


 そう告げると、モフリスト共は、ガックリとうなだれた。そして、十分後。


「出来たぞ。名前をつけて魔力を流せ」


「ガル」


 そして、動き出した熊のぬいぐるみに抱きついた。


「ありがとう。可愛い。大切にするね」


 そう言って、青い熊さんと席に戻っていって自慢していた。


「あの熊もデブだったな」


 そう言って、ボムは笑っていた。モデルは、お前さんだよ。と、一人思っていた。そして、お開きになった。


「では、当初の約束通り、さよならだ」


 馬車付きバイクへ跨がった。


「本当に行ってしまうのか?」


「ああ」


『リア。バイバーイ』


「ガルをありがとう。また学園国家で会ったら、よろしく」


 この娘は、たくましいようだ。まあ、コイツに怒っていたわけではないからだ。本人も分かっているのだろう。そして、一路学園国家へ。













 夜、離宮へと来た。

 言ってなかったが、魔法陣設置型の固定転移魔術なら、使える。座標が必要だから、一回行った場所しか行けないのだが、今はそれで十分だった。だが、どうやら気づいていた人物がいた。


「どうしても駄目かのう?」


「あんたが言ってただろ? 二度と同じ事をしてはいかんって。あんたの息子は、二度同じ事をした。警告はしていた。残念だが、売られた喧嘩は買う質なんだ。だが、殺しはしない。カルラの友達の親だからな。感謝してほしいものだ」


「阿呆でも儂の息子じゃ。ただで通す訳にはいかない」


「そうか。時間もないし、本気で行かせてもらう」


 幻想魔術で手足を強化。


 ――属性纏《火炎》――


「それが属性纏というやつか。それに、変わった魔術を使うようだ」


「どうやら、属性纏を知っているようだ。それなら威力も、知っているだろ?」


 そう言って、剣を構えていた隠居の前へ。


 ――魔闘術《爪撃》――


 そして、剣を切り飛ばした。


「まさか……。アダマンタイトじゃぞ?」 


「だから?」


 ――魔闘術《武流》――


 そう言って抜き手を鎧の上から右肩と、左腿に突き刺した。これで動けまい。俺達がいる場所は、ちょうど離宮の入口辺りだった。そこで、隠居の持ってポーションなどを、まとめて回収して、俺の持ってる成功ポーションとともに、反対側の隅へ置いた。


「あんたは、ボムが気に入っていたから、殺さないし、治療薬も置いていく。ここまで来て、飲むんだな」


 それだけを言い残して、国王の元へ。だが、どうやらお取り込み中のようだ。


「何故カルラやラースに、あのような真似をしたのじゃ? いくら父上といえど、やっていいことと悪いことがある。妾の友達に酷いことをしたのは、一生許さないのじゃ!」


「あの者たちは魔王だ。何人も騎士が殺されているそうだ。それにあんな苛烈な真似をして、私にも威圧したのだぞ? 許されていいものではない」


「報告を、何も聞いていないのではないか? 従魔に剣を向けたのじゃ。当然であろう。むしろ、正確な判断も出来ない、無能な騎士が、国を守れると思っているのですか? それに、苛烈な真似をしたと言いますが、もっと酷いことをしていたのは、公爵達であろう? そして、野放しにしていたのは父上です。あの阿呆共に、妾は殺されかけ、その仕返しをしてくれたのです。もちろん助けてもくれました。それに父上や母上は、ラースに命を救ってもらったのですよ。恩を仇で返す真似をして、恥ずかしくはないんですか? 父上の思慮の欠けた行動で、妾は親友を失いかけ、妾の命の恩人の信頼を失ったのじゃぞ? この責任をどう取るつもりじゃ?」


「父親に、そして、王に対する言葉ではないぞ。お前も、悪魔に毒されたのではないか? 学園国家への入学は取り消して、洗脳を解かなければな」


「何を言っているんですか? 洗脳されているのは、父上の方なのではないですか?」


「うるさい! 私は正常だ!」


 阿呆な展開を見てたけど、このままじゃ埒があかないため、さっさと終わらせることにした。


「愚か系阿呆王族筆頭だから、しょうがないだろ」


「ラース……。何故ここに?」


「悪魔め! 衛兵!」


「天罰を与えに、悪魔参上! ちなみに、衛兵は眠いから寝てるよ。さて、カルラが受けた傷の、お礼はしなきゃな」


「どうしても駄目か?」


「知ってるか? まあ知らないだろう。カルラは、さっきまで泣いていたんだ」


 濃密な殺気を飛ばしていたようだ。意識を失っていた。そこからは、ただの作業だった。骨を砕いては回復させを繰り返し、痛みで気絶して回復させを繰り返した。四肢の骨を砕いていった。そのあとは、顔面がパンパンに腫れるほど加減して殴り、全裸にして、城門に吊した。顔が腫れてて誰か分からないから、言い訳は作れるだろう。


 ちなみに、股間には真っ先に槍を突き刺した。カルラ割引によって甘くした、お仕置きだ。じゃなきゃ今頃はオークの国である。そして、伝言を書いた手紙を残し、その場をあとにした。




 カルラの元へ帰ってきた。もう泣いてないようだ。俺達の可愛い妹であり、囚われの創造神様の、可愛いペットでもある。囚われの創造神様の代わりに、神罰を下すのも、役目の一つである。そんなカルラは、現在ボムの頭をかじっていた。


「ただいま。どうしたんだ? お腹空いたのか?」


『おかえり。兄ちゃん。何処行ってたの? 心配したー。父ちゃんは、カルラのこと、おデブさんになったって言ったの。カルラ、おデブさんじゃないのにー。』


 飛びついて来ながら、話し出した。ボムに目をやると……


「違う。大きくなったから、重くなったなって言ったんだ」


「なるほど。だがボム、理由は何であれ、女の子に重いは、禁句だ。これは何処の世界でも、共通認識だ。大人しく謝れ」


「そうなのか。すまんな、カルラ。父ちゃんを許してくれ」


 ペコリと、頭を下げる熊さん。なかなかに可愛い光景だ。


『いいよー。だけど、代わりに泉が見たいの。父ちゃんと一緒に見た、本に載ってたやつ』


 この本とは、ボムがソモルンと一緒に観光するための、ガイドブックである。ダンジョンの蛇などを売ったおかげで、山のようなお金が手に入った。その時に、欲しいものはないかと聞いたら、ガイドブックが欲しいと言われたため、買ったのだ。


「確かに、ここから近い。寄って行くか」


 そう言って俺を見る。俺が運転手だからだ。カルラの笑顔のために、ボムの名誉挽回のために、泉に行くようだ。


 そう言えば、さっきの蛇で思い出したが、あのときギルドの金が底をついたから、しばらくしたら他のを買い取りたいって言われていた。だが、結局無理だったようだ。学園国家でオークションに参加するため、お金が欲しかったが、仕方がないだろう。


 あと、あの熊のぬいぐるみを、生産ギルドに登録しようとしたら、ゴーレムなどの魔法関連は、魔法ギルドの管轄だと言われ、時間がなかったためやめた。それと、国を出る際に、商業ギルドに寄り、ボードゲームをまとめて卸した。売り上げの一部は、俺の口座に入金されるそうだ。


「じゃあ、泉に行こう」


『わーい! 楽しみ♪』


 最後は、カルラの笑顔を見ることが、出来たのだった。最愛の妹は、とても可愛かった。






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毎日一喜一憂しながら、喜んでおります。

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