第四十一話 疑惑
「嫌なのじゃー! 絶対に帰らないのじゃ」
そう必死に、城への帰宅を拒否する王女。ダンジョンから辺境伯宅へ、戻って来ると、王女の両親とともに、賢そうなオジ様が応接間にいた。そして、王女に地獄の言葉を、投げかけるのだった。
「さあ、支度をしろ。帰るぞ」
という、絶望の一言を。そして王女は、心の底から拒否した。
「何故帰るのじゃ? ここは、今王都で一番安全な場所なのじゃ。それに、聞いたのじゃ。お兄様方が犯人なのはもちろん、その母上及び親族、そして臣下もじゃということをな。それならば、まだ城は安全ではなかろう。何故自分から、死地へ行かねばならぬ。それに、モフモフ権を手に入れたのじゃ。やっとなのじゃ。やっと手にしたのじゃ」
王女は、モフモフのことに関しては、人一倍頭が回る。確かに王女が言うとおり、わざわざ死地に向かう必要はないのだが、国王達は、ここにいさせたくなかったのだ。昨日の惨劇を見たからだろう。そして、平気そうに、熊と手を繋ぐ娘。俺なら、卒倒するだろう。さらに、もう一つ理由があったようだ。
「今日、先ほど報告があった。どうやら神隠しが、発生しているようだ。貴族の子女が、何名か行方不明らしい。最後に目撃された場所では、巨大な熊が目撃されているらしい。聖獣様に限って、そのようなことはないと思っているが、王女という目もある。だから、城に戻るのだ。護衛も多くつける。安心しろ」
もちろん、犯人は俺だ。
全員気づいている。
……違った。
国王以外、全員気づいている。阿呆王子は、この国王のせいかもしれない。ちょっと阿呆気味である。昨日の何を見ていたのだろう。そして、その貴族の子女は、真面だと思っていたのだろうか?
ちなみに、この場で、王女を応援している人がいた。三人である。昨日から泊まっている者も、王女の魂の叫びを聞きつけ、一緒に話を聞いていたのだ。
御夫人方が、三人いたことを覚えているだろうか。この三人は、ローズさんの御友人である。趣味も同じだ。もう分かるだろうが、モフリストである。故に、モフリ権を得た、王女の気持ちが分かるため、応援しているのだ。
「父上は、もしやそっち系なのか? そっちに行っては、駄目なのじゃ。施設へ行かされてしまうのじゃ。それは、駄目なのじゃ。それに、騎士だけじゃ、安心出来ないのじゃ。たとえ、父上の親衛隊や、近衛をつけられたとしても、暗部から守り抜くことなんて、確実に言えないのじゃ。
さらに、今日はドラゴンパーティーなのじゃ。料理の質も違う上、食材の質も違うのじゃ。妾にとって地獄なのじゃー! それよりもラース。何故黙っておるのじゃ。権利を、プレゼントしてくれたじゃろう。使えるように、取り計らっては、くれないのか? それは、約束を破るということじゃろう?」
必死だ。
この王女必死である。時間もないし、面倒だから強硬手段で行こう。
「面倒なため、ちょっと手荒くなりますよ?」
「構わぬのじゃ」
許可が下りたため、強硬手段決行である。だが、先程からの王女の言葉と、強硬手段の話を聞いた、怒り気味の騎士が隣室からやってきた。
「この者よりも、下と言うことか。失礼ながら、王女殿下には人を見る目がないようだ。テイマーなぞに、劣る我らではないぞ。聖獣様におんぶに抱っこなぞ、情けない。恥の上塗りなぞせず、大人しく帰りましょう」
阿呆がいた。
施設へ送ろうと思ったが、国王にバレていないし、新しいオジ様に、手の内を晒すのも嫌だったため、保留である。
そして、やることは簡単。威圧をするだけである。漏らそうが、どうなろうか知らない。魔力を練り、魔力に威圧を乗せ、王女の仮想敵にピンポイントで、ぶつけた。
「か……か……か……」
何か言いたいようだが、よく聞き取れない。
「なんて言いました?」
威圧を喰らった国王、新しいオジ様、そして騎士達は、顔を土色に変え、ズボンにシミができていた。喰らっていない、それ以外の人は、よく分からないような顔をしていた。ただ昨日の、救出ミッション前からいるメンバーは、分かっているが何も言わない。自分に向けられるのが、嫌だからだ。
ぶっちゃけ、新しいオジ様は、何も言ってないし、何もしていない。だが、最初が肝心だと思い、体験版をプレゼントしてみた。優しい心遣いである。そして、そのオジ様は、辺境伯を見る。辺境伯は、首を小さく横に振った。どうやら、助けは来ないようだった。
「帰ってもらえますか? もらえるのなら、ゆっくり瞬きをしてください」
そう言うと、素直にしてもらえたため、解除である。そして、崩れ落ちる帰宅者達。
「お客様がお帰りです。あっ。イリス様は一緒にドラゴンを、食べて行ってください。甘いものもありますから。今から帰る方以外は、パーティーに参加してくださいね。ただ、使用人の皆さんも、一緒に食事をしますので、嫌な方はあちらの、シミーズとお帰りください。止めはしませんよ」
と、言い放った。
「よくやったのじゃ。さすが妾の護衛なのじゃ。母様も一緒に、ドラゴンを食べるのじゃ。友達も紹介するのじゃ」
そう言っていた。
そして、ボム達を紹介していたのだが、ボムの機嫌が少し悪いようだ。おそらく、お腹が空いたのだろう。急がねば、猛獣の唸り声ような、腹の音が轟いてしまう。あれは、すごくびっくりするのだ。
「失礼する。あいさつが遅れた。この度助けて頂いたことは、本当に感謝している。このお礼は、改めてしたい。そして、大分遅れたが、私の名は、カイル・フォン・ゼクス・グリフォード公爵だ。よろしく頼む。私の領地には、グリフォンの保護地区がある。其方の家族のように、可愛い子もいる。よかったら、今度見に来て欲しい。そして、今夜は親交を深めさせて頂きたい。もちろん妻のセシリアも一緒に」
どうやら、賢い系真面貴族筆頭の辺境伯にも、仲間がいたようだ。
「是非、今度遊びに行かせて頂きます。今夜は楽しい晩餐会にしましょう」
そう言って、お互い笑顔で握手をした。そして、夫人方とも、あいさつをした。その時に、何故ボムが不機嫌なのかを聞かれたが、空腹だと伝えると、それぞれの使用人に指示をだし、シミーズを馬車に突っ込んでいった。
「では、ドラゴンパーティーの開幕です。門衛さんにも食べてもらいたいので、結界を張っておきました。安心して食べてください。あとで、滅多に食べられない、ドラゴンの内臓も出しますからね。お酒、お茶、ジュース、水は、あのテーブルです。自分でついでください。では、実食!」
「「「「「旨ーい!」」」」」
霜降りや赤身、尻尾や顔の肉、様々な部位を、ステーキのように豪勢に焼いて、サッパリしたタレや甘辛のタレで食べていく。ボムの機嫌も戻り、カルラも爆食いである。カルラの小さい体の、何処に入っているのか、不思議である。
もちろん、少し早いがお供えをして、ソモルンやプルーム様、リオリクス様にメールでお知らせをして、それぞれの取り分をストレージへ入れた。プルーム様は、雷竜王と食べるらしく、多めに入れておいた。当然、酒もである。ソモルンへは、メールではなく、ボムが直接、念話で教えていた。ボムも黙々と食べている。
「おい。内臓を出せ。焼いたやつな」
ボムは、ホルモン焼が好きなのだ。初めて食べたときは、こんな旨いものが食べられるとは、思わなかった。と、ソモルンと騒いでいた。
その後デザートまで、一通り食べ終わり、談笑していた。内容は、今後についてである。その際、おデブな熊さんは、女性陣にモフられていたため、死んだ目をしていた。
「ラース殿はこのあと、何処かに行く予定はあるのか?」
そう聞いてくる公爵にお使いの話をした。
「学園国家グラドレイで、お使いを済ませなきゃいけないのと、ある方の救出任務のお使いがありますね。その二つが終われば、少しはゆっくり出来るかもしれませんが、武闘大会で優勝するとかのお使いもありますから、まだ先のことは、よく分からないですね。ただ近いうちに、学園国家には行きますよ。王女の誕生日パーティーが済み次第ですね。そのための、Sランク冒険者のギルド証でしたからね」
そう告げると、何やら難しい顔をする、辺境伯と公爵。それに悲しそうな顔をする、モフリスト達であった。そして、嬉しそうな顔をする、ボムであった。
「では、それまでに、膿を出し切らねばな。王女の身の安全が確保されている今が、重要となるというわけだ。それから、誕生日の話で思い出したが、謁見以外で従魔は城の中へ入れないが、誕生日パーティーではどうするのだ?」
そう辺境伯が告げると、モフリスト共が固まった。カルラを招待して、ボムやセルも誘うことに成功したのに、おまけの俺しか、中へ入れないということは、ほぼ無意味だと思ったのだろう。
「母様。どうすればいいのじゃ。カルラが、中に入れないのは嫌なのじゃ。カルラを呼べたのは、奇跡なのじゃ。説得の末なのじゃ。これを逃したら、一生後悔するのじゃ」
「落ち着きなさい。手はあります。庭園でやればいいのです。何も問題はありません」
そう言うイリス様も、落ち着いていない。野暮だと思ったが、言わずにはいられない一言を言ってみた。
「問題は、山積みですよ。あと、二日間ですよね? セッティングのし直し、警備の問題、料理や飲み物の見直し、衣装の変更。それ以外にもありますよ。ぶっちゃけ、無理でしょう」
そう悪魔の宣告をしたところ、凄まじい殺気が漏れてきた。発生源は、モフリストである。
「カルラのために、不可能はないのじゃ。カルラも、妾の誕生日会に来たいじゃろう?」
『うん! リアを祝うー♪』
そして、いつもならここで、ボムの一押しがあるのだが、今日はない。そこでモフリストの視線が、ボムに集中する。カルラの視線もだ。
「……俺は、カルラが行きたいなら行くが……あまり無理を言っては、良くないのではないか?」
どうやらこのおデブさんは、行きたくないようだ。理由は、ソモルンに早く会いたいのだろう。
『父ちゃん、駄目なの? 父ちゃん、行きたくない? 父ちゃん、駄目ならカルラ、我慢するよ……』
そこで気づく、おデブさん。
自分が、親友に早く会いたいというのを理由に、娘の友の誕生日会を、我慢させるようなことは駄目だ、ということにだ。
「そんなわけないだろう。カルラの友の誕生日会なのだぞ。ただ、無理してしまえば、ラースの言うところの阿呆貴族共が、娘に絡んでくるだろ。それならば、無理をするのではなく、確実な方法を考えなければな。と、考えていたんだ」
見事な言い訳だ。
『そうか。父ちゃん、すごいー!』
俺は、そんなボムをジト目で見てやった。
「な……なんだ? その目は。本当だぞ。本当に考えていたんだからな」
動揺しまくりのおデブさんに、救いの手を差し伸べてやろう。
「じゃあカルラのために、ご提案を。聖獣様に、祝いに来てもらったということにして、入城の許可証を出せば、いいんじゃないですか? 最初から聖獣と言っておけば、絡んでくるやつは、阿呆貴族決定ですしね。安心して更生施設に送れるというものです」
「それじゃー! さすがじゃ。妾の目に狂いはなかった」
王女大興奮である。
「でかした。それならばいいだろう」
『兄ちゃん、ありがとう♪』
絶賛の二人だが、今回はカルラに抱きつかれなかった。ボムさんが、ガッチリ捕まえていたからだ。
そのあと、談笑が一区切りしたところで、風呂へ。ボムのマッサージを入念に行い、セルは初めての、お風呂を体験した。カルラも洗い、サッパリしたところで、結界を利用して、プレゼントの仕様を決めた。カルラも手伝った。ボムは、湯に仰向けで、浮かんでいただけである。さすが、おデブさんな熊だ。その巨体で浮くとは。
そしてセルは、湯船の縁に顔を乗っけて、浮いていただけである。こいつは、風呂が初めてだから、許そう。やっぱりプモルンが、一番の働きものであった。あとは、設定通りに組み上がるのを待つのみ。
いつも通り、風呂から上がり、就寝するのだった。この夜は珍しく何も起きず、朝まで熟睡したのだった。
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