第四十話 新興国
既視感を覚える光景である。
以前は、厳つくてゴツいおっさんだった。今回は、ゴツいが爽やかそうに笑う青年だった。
「俺の名前は、リオリクスって言うんだ。そうだな、【獅子王】って言った方が、分かりやすいか? プルームの言ってた、ラースってお前だろう? 苦労したんだぞ。熊といつも一緒にいるし、変なのに絡まれすぎだし、なかなか一人にならないからよ。仕方なく、先にダンジョンに来て、プルームの加護を持つ人間が、ボスを倒すと、発動するように設定した、転移の魔法陣を、設置してきたんだ。それで今ここにいるってわけだ」
納得はするが、混乱していた。この人が、ボムの尊敬する、獅子王神様というわけだ。何故、ここに呼び出したのだろう。
「呼び出されて不思議だって顔してるな? 理由は、子機とかいうものが欲しいんだ。正確には、そこに入っている、酒と飯だな。プルームのやつが自慢してきたんだよ。それで、獣人国から来たってわけだ。あまり、離れてもいられないから、強行手段を取らせてもらったわけだ。頼む。俺にもくれ。お礼はするから」
手を合わせてお願いする獅子王神様。まあ悪用しないなら、全然構わない。
「お礼は別にいらないですよ。このローブの素材をもらいましたし、ボムも話を聞いたら、是非って言うと思いますよ。それよりも呼んだ理由って、ボムに会えないからですよね?」
「そうなんだよ。発破をかけるつもりで、言ったんだけど、ボムって言ったか? あの熊さん本気にして、分かりました。って言うものだから、俺からも本当のことを言いにくいってわけだ。だが、今回その発破がいい方に向いたなら良かった。それに、十大ダンジョンを攻略して、塔に行くんだろ? それじゃあ、まだまだだな。
守護している神獣は、何もしなきゃ、襲ってこないからいいとしても、中の最奥ボスは、神獣と言っても過言はないからな。塔は各層に、神獣がうじゃうじゃといると思え。あそこの守護は、【天帝】だからな。守護してるものの強さで、周囲のものの強さが変わる。覚えておけよ」
まだ足りないのか……。
というか、あのダンジョン、誰が攻略するためにあるんだ? と、思わずにはいられなかった。そして、聞こうとしたが、聞けなかった。
「それじゃあ、ボム達も心配しているだろう。子機ありがとな。一応、お土産持ってきたからやるな。【炎帝石】と時空属性付与の魔導書だ。プルームから聞いていたからな。じゃあまたな」
何も聞けないまま、送還された。そして、地面を叩くボムがいた。心配してくれたようだ。
「ただいま」
「おい。大丈夫なのか? 何処に行っていた。カルラが泣いてしまったぞ」
カルラを見ると、涙がポロポロと、流れていた。泣いている顔も可愛いが、泣かせてしまったのは良くない。だが、俺は悪くないはずだ。
「カルラ。心配掛けてごめんな。【獅子王・リオリクス】様に呼ばれたんだ」
と、撫でながら伝えた。
ボムはポカーンとしたあと、俺の肩を掴み、どういう事だ、と詰め寄ってきた。
「プルーム様に自慢されて、子機が欲しくなったんだって。あと、強さはまだまだだってさ」
「そうか。まだか……」
「でもボムの名前呼んで、いい方向に向いているって、笑顔で言ってたぞ。可愛がられてるんだな」
「そうか♪」
どうやら、照れているようだ。
とりあえず、お宝をしまって、バイクもしまって、ダンジョンを出た。すると、目の前にギルド員がいた。
「ここから出て来たってことは、踏破したのですか? さすが聖獣様御一行ですね。これからもお願いしますね」
と、ボムとセルに、頭を下げていた。セルはともかく、ボムは拾ってただけだぞ。お宝を見つけるときも、俺が迎撃と見張りで、その時ボムはカルラとはしゃいでいただけだ。
なんだコイツ?
と、思ってしまい、そして全員が思ってしまったようだ。コイツも、オークの巣に行きたいのか? コアを持ってきたから、魔物は生まれず、あそこはオークの砦になる予定だ。これから定期的に、種馬を送り込んでやれば、人を襲わないで、オークの国が出来るかもしれない。阿呆も矯正されるなら、いいことだろう。
そして、コイツも住人にしてやろうか? と、思わずにはいられない。さらにその後、俺はオークの神になるだろう。オーク神ラースって、少しカッコいいかもしれない、と思っていたら、怒鳴り声が聞こえた。
「お主は阿呆か! たとえ聖獣だとしても、ギルドが管理しているダンジョンに、テイマーなしで入れるわけなかろう。逆に聖獣をテイムしている、テイマーを褒めるべきであろう。首輪をしていないということは、実力で従魔にしているということじゃ。そんなことが分からんとは、昨日に引き続き、ギルドとは、阿呆しかいないのか? これは、父上に報告させてもらうのじゃ。失礼する」
王女が、キレたところを、初めて見た。ボムも、間抜けな子だと、思っていたのだろう。とても驚いていた。だが、ここで忘れていたことがあった。獅子王神様の衝撃で、すっかり忘れていた。中で両替所を使うことを。
「待たせたな。帰るぞ」
と、馬に声を掛けるボム。
そして、ボムはふと馬車の中を見た。自分も乗れそうな広さで、入口は頑張れば、入れるだろうと。ボムは馬車に興味津々だった。そして、ボムと馬の目が合った。即座に、馬は首を振り、俺を見る。
「ボム。馬車が壊れる。体重を考えるんだ」
「そうか? 頑張れば行けると思うぞ」
いや、無理だ。
それよりも、寄るところが出来たことを、伝えなければ。
「どっちかのギルドに寄るぞ。連名の推薦状を持っているし、素材……特に蛇を売らなきゃ、金がないぞ。熊のこともあるしな」
「じゃあよるか。面倒事は、手早くな。今日は、風呂に入らなきゃいけないからな」
マッサージが必要なようだ。カルラと楽しそうに話している。
そして、中間層のギルドに到着。そこには、知った顔がいた。真面系冒険者だ。
「昨日ぶりですね。今日はどうしたんですか?」
「……ああ。今日は、パーティーメンバーが死んだことを、報告に来たんです。あと、昨日のことですね。いろいろと情報が錯綜していて、結構大変みたいで……もちろん、世の中知らなくてもいいこともありますよ」
彼らは、年下の俺に、何故か敬語で話す。それよりも、俺は売られてないようだ。良かった良かったと、安心していると、阿呆は何処にでもいた。ちなみに、王女は目立つため、ローブを来て、フードを被っている。カトレアもである。カルラは、ボムに抱かれていた。
「おい。ローグ。お前こんなガキに、敬語で話すとか、テイマーにビビってんのか? じゃあ引退だな」
って言って、笑ってる阿呆がいた。ローグと呼ばれていた、真面系冒険者に、この阿呆のことを聞くと、生粋の阿呆だった。
「名前は、どうせ覚えないでしょうから、省きます。彼は貴族の三男坊で、家督がないものですね。それでも、生まれが生粋の貴族ですから、俺達みたいな成り上がりで、貴族お抱えになるやつが嫌いで、よく絡んで来るんです。あとは、その家の権力を使って、グランドマスターと友達とか、言ってますね」
王女はその話を聞き、何やら呟いていた。
「どうやら、組織改革が必要なようじゃ」
間抜けな子じゃなかったのか。と、安心した瞬間だった。そして、三男坊風阿呆貴族は、カルラを見て一言。
「珍しい竜だ。寄こせ。剥製にする」
と言った瞬間、入口から依頼ボードを突き破り、奥のギルドマスターの部屋まで、吹っ飛んでいった。残念ながら、手短という御注文。さっさと、終わらせよう。ギルドマスターの部屋へ行き、三男坊風阿呆貴族を引きずってくる。
「お邪魔します。今片付けますから。では、お邪魔しました」
思いっきり蹴飛ばした、三男坊風阿呆貴族を、無理矢理壁に頼掛けて立たせ、サンドバッグ開始である。パーティーメンバーは助けようとするが、それよりも前に伸して、同じように立たせる。
パーティーメンバーは、男一人に女三人である。男一人は、助けようとしなかったため、放置である。きっと、俺と同じく、パシリだったんだろうな。同じような目をしている。そして、この四人の阿呆共は、もちろん全裸である。防具は、彼の慰謝料にしてあげよう。
続いて、反復横跳びのようにステップを踏みながらの、サンドバッグ開始であった。そろそろ、ギルドマスターが来そうだったため、注射してオークの国へ送った。ちなみに、コイツらは死にそうになっても、転送されないようになっている。公爵と違って、裁判とかしないからだ。一生オークに仕えてくれ。旅の途中、オークに会ったら、あの国のこと教えてやろうかな、とも思ったのだった。
「何処に行ったのですか?」
と、ローグ達が聞いてきたため、正直に答えた。
「オークの国だよ。これからは、阿呆矯正施設として、利用するつもりなんだ」
と、満面の笑みを浮かべ、答えた。プモルンに、防具を素材として鑑定してもらい、その金をもう一人の男へ渡した。
「ありがとうございます」
そう言って帰って行った。
こいつが、いいやつかは知らないが、襲ってこなければいいことあるよ、とアピール出来ればいいと思ったのだ。そして、ビビったギルドマスターは、別の誰かを呼んでいた。これには後々本当に感謝した。
「これは何事だ?」
そう言い、現れたおっさん。全身武装で来た。そこに、ギルドマスター来て、阿呆な事を言う。
「お待ちしてました。襲撃されたのです。そこの者に、あなたの友人が、何処かに連れ去られてしまいましたよ」
その返事に、脳筋風阿呆その二が、何かを言おうとするが、長くなりそうなため、印籠を出すことにした。
「冒険者ギルドには、真面系ギルドマスターは、いないんですか? これを見てください。そして、俺は強盗されかけた、一般人です。ギルドは、いつから一般人に、武装して襲撃し、金品を奪うことを良しとする、組織になったんですか? グランドマスターがクソ貴族と、連んでいるからですか? それなら、施設に送りますよ?」
と言って、推薦状を出した。
それを見た、グランドマスターは信じられないのか、叫び声をあげた。
「偽物だ。こんなことをしたら、重罪だぞ。捕縛して突き出してやる。後ろのお前らもだ」
いいことを聞いた。周りの皆さんにも、聞いてもらおう。
「あなたは、それが偽造で、俺を含めたこちらにいる全員が、犯罪者だと言うから、捕まえるということでいいですね?」
と、大声で言った。
チラッと見てみると、どうやらここには、真面系ギルド職員がいるようだ。俺の行動を訝しんでいるが、阿呆の二人は分からないようだ。
「その通りだ。覚悟しろ。ギルドマスターも手伝え」
「かしこまりました」
と、言う二人に現実を突きつける。
「そうですか、残念です。出番ですよ。モフリ権プレゼントです」
そう言うと、ガバッとフードを取った王女。その目は、輝いていた。そして、ボムの目は死んだ。
「妾に対する不敬なのじゃ。警備兵を呼ぶのじゃ」
ローグ達は知っていた。
昨日まで一緒だったからだ。ちなみに、彼らの馬は朝まで元気だった。ボムと離れられて、喜んでいた。だが、ギルドで主達を待ってると、見たことある馬たちが、近付いてきた。ボムの姿に気づかなかった、馬たちは声を掛けた。そして、気づいた。暴君の姿に……。彼らは今、外で苦労話を交換中だったのだ。
それはさておき、彼らはギルドの地下室で、拘束された。ギルドの改革で、裁判を行う必要があったため、気をしっかり持たせて置かなければ、ならなかったのだ。
公爵達は、俺がやった後だったというのと、自分が変なこと言って、同じことにはなりたくなかった、国王たちが頑張り、形だけの裁判で十分となっていたのだ。
ちなみに、公爵達を連れてきてくれと頼まれていたら、場所を教えるから、自分で行って来てくれと、言うつもりだった。それを察した、賢い系真面貴族筆頭の辺境伯が、必死に止めた。理由としては、そう言われて行くのは、国王ではなく部下であるからだ。
この場合の部下は、辺境伯として、強兵を持っているため、彼が行かされる可能性が高く、そして、行きたくなかったから、必死だった。息子も是非見習ってほしいものだ。
さて、真面系ギルド職員に印籠と、ダンジョンコアを見せる。すると、実績として扱い、無事Sランク冒険者となったのだ。その際、初登録で、いきなりSランク冒険者になったのは、獣人国にいるリオリクスという方と俺の、二人しかいない。期待していますよ。と、俺に伝えてきた。最初からこの人に来てもらいたかった。
「お揃いだ。次からもお前が担当してくれ」
と、ご機嫌のボムであった。そして、そのまま換金して、屋敷に戻った。
素材の山に飛んで喜ぶ受付嬢と、白金貨の山に喜ぶカルラ。不思議な光景を見て、初のダンジョン攻略は無事終了したのだった。
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