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第三十九話 初ダンジョン

 俺らは今、ダンジョンの前にいる。だが、いつもと違うところが、いくつかある。まずは、王女が、シュバルツとエルザさんとともにいる。昨日、確かに行くと言っていた。だが、ほぼ解決して、国王陛下も動き出したのだ。護衛は必要ないはずだが、約束は守るものだと言われ、連れてきた。


 そして、昨日言ったとおり、ローズさんの英才教育の完成形が、もう一人いる。カトレアだ。この子は、朝王女にカルラを紹介されて、骨抜きにされたモフリスト。行かないわけがなく、駄々をこねた。結果、ここにいる。


 そして、一番の違いは、超絶不機嫌なボムである。何故、このおデブな熊さんが不機嫌かというと、この家にいる間は、一緒に風呂に入らないことを、知ったからだ。彼は忘れていたのだろう。俺も忘れていた。俺の体には、呪いに見える魔紋がある。


 国王などの、国の中枢にいる者は、余程の阿呆でない限り、ボムが聖獣であることに気づいている。そして、セルもである。カルラを、娘と言っているのだ。カルラも同じだと、思っているだろう。ここで問題になるのは、呪いを持ってる者は、迫害されているため、聖獣を連れていると、誰からにも絡まれる。


 それを思い出したのが、今日の朝だ。彼は、マッサージを兼ねた、風呂が好きだった。マッサージがなければ、ただの水浴びである。故に、マッサージが受けられないと知った彼は、カルラがビビるほどの、超絶不機嫌になったのだった。もちろん、昨日と同じ馬も、引き続きビビっている。


「なぁ、ボム。いい加減機嫌直せよ。ほら、ダンジョンだぞ。人間の街の近くにある、ダンジョン入りたがってただろ? 人間が管理しているから、借りのギルド証が必要だから、作らないとな」


「……そうか」


 どうやら駄目そうである。仕方がない。


「じゃあ、風呂の時間を分けてもらおう。俺らの風呂の時間のときに、設置型の結界と、認識阻害の結界の両方をかけておけば、大丈夫だろう。ただ、長時間の設置型魔術には、ランクB以上の、モンスターの魔石が必要だから、しっかり確保しないとな」


 と、提案する。

 すると、徐々に機嫌が戻ってきたのか、尻尾が振れだした。


「そうか。では、頑張るしかないな。それとも、最後のボスを周回してもいいな。肉も旨いしな」


 ボスは、色竜(カラードドラゴン)だからだ。色竜は、俺達にとっては、食材でしかない。さらに、もう一つ大事なことがあるのだが、それは口に出せないため、念話で伝えることにした。


『あと、カルラの要望の、熊さんの材料集めもするぞ。まず、毛皮確保。そして、綿になりそうな物だな。それから、ランクA以上の魔石を数個だ』


『分かったぞ。それにしても、本当に熊をあげられるのか?』


『たぶんな。現物を見たら、欲しがる者がたくさんでそうだから、材料の用意をしておこう。売って金にするのも、いいからな。そうすれば、ソモルンとの再会パーティーが、豪華になる。楽しみだ』


『ソモルンが喜ぶな♪ 頑張るぞ』


 ご機嫌になったボムとともに、受付を済ます。馬はとりあえず、解放された。ギルドの出張所に預けられたのだ。中に入ると、今日中に帰りたいので、作戦を立てるボム。その作戦とは……。


「昨日も言ったとおり、パワーレベリングはしない。プモルンが、スキャナとマップの同期で、宝を探査、そして俺らが回収する。素材も俺らが拾い、回収する。あとは、駆け抜けるだけだ。簡単だろ」


「じゃあ、誰が戦闘するんだ?」


「お前に決まってるだろ。瞬殺で頼むぞ。あと、移動が面倒だから、バイク出してくれ」


 ダンジョンは、広いから余裕だが、それでいいのかと疑問に思う。


「罠対策は、しっかりしているんだろ? セルは走った方が速いだろうし、戦いたいだろう。教えた、魔力纏の練習にもなるしな」


「あのバイクに全員は乗れないぞ。どうするんだ?」


「サイドカーとかいうやつではなく、リヤカーとかいうやつがあっただろ。それをつけろ。シュバルツは、そこな。あとは、サイドカーに女二人と、俺の背中に一人で大丈夫だ。ちなみに、運転はプモルンな」


「私が背中に座ります。その方が、サイドカーに、広く座れるでしょう」


 と、即座にエルザさんが、手を挙げた。カトレアはまだ、遠慮がちで言えず。王女は、カルラと戯れていたため、気づかず。全身全霊で話を聞いていた、エルザさんの勝利である。だが、彼女達には希望があった。


「分かった。俺の背中はエルザだな。そして、俺の腹はカルラだぞ」


『うん♪』


 希望が砕け散った瞬間である。


「エルザー!」


 王女の魂の叫びは、届かなかった。そして、バイクを出して、全員が乗り込んだ。プモルンには、罠発見魔道具との、同期もしてもらっている。現在、探査とマップで、宝とモンスターハウスの位置を割り出し、効率的なルートを検索中である。他の冒険者が来る前に、総取りである。


 では、レッツ! エンジョイ! ダンジョン!



 ――属性纏《雷霆》――



 属性纏を発動して、幻想魔術で手足の強化。そこで、セルは初めて、違和感に気づいたようだ。そう言えば、教えてなかった。また今度教えてあげよう。


 このダンジョンは、解体をしなくて、いいそうだ。ただ、五層ごとにある、ボス部屋のボスは、そのまま持ち帰れるようだ。そこまでは、瞬殺していき、回収班に任せよう。


 初ダンジョンの初ボス部屋は、オークの巣だった。あの、オークの巣である。もっと言うと、前日のオークの巣であった。知った顔がいた……。


 そして、ボスっぽいやつが、次の階層への階段を、指差している。どうやら、お取り込み中のようだから、次の階層に行くことにした。もちろん、階段の手前では、一度バイクを降りる。俺は、オークのボスに、サムズアップをして、降りていった。



 二回目のボス部屋である。

 ここは、お肉パラダイスだった。鹿肉、豚肉、牛肉、鳥肉があった。この世界の肉は、鮮度が命であり、激しい運動をさせた後だと、肉が硬くなりそうでもある。雷も駄目だ。そこで、ちょうど同じ高さだから、アレが使えるはず。


 ――流水魔術《水刃》――


 ウォーターカッターというものである。ダイヤモンドをも切断できるそうだ。腕を振ると、手前から奥に向かって、通り抜けていった。水が散ると、一斉に倒れだした、肉達。すぐに回収して、解体屋送りになった。


 そして、三回目のボス部屋だ。俺の苦手なやつがいる。ボムも苦手らしい、ソイツは蛇。デカいのが一匹いる。空中には、ワイバーンがいる。この蛇は、デスサーペントと言うらしい。


 ワイバーンは、B。蛇はAランクだそうだ。ここはセルに頑張ってもらおう。そして、横を見る……いない。


「おい! セルー!」


 どちらも、素材は結構美味しいらしい。お金と肉、両方で。蛇とワイバーンは、魔石以外売ることに決めた。無理だ。食べるとか、罰ゲームだ。ワイバーンは、まだいいが、このあと、ドラゴンが待っている。似たような竜もどきより、本物がいい。


 ――重力魔術《天蓋》――


 ――氷雪魔術《氷雪山》――


 上から押し潰し、下から氷山で顎を突き上げ、突き刺す。この魔術は、刺さらなくても、近付けば凍り付く魔術である。今までは対人戦だったため、使いにくかったが、魔物なら、副次的な効果があった方が楽だ。


 ワイバーンは、俺が直接、首チョンパした。いい防具になるのだぞ。と思いながら、解体屋送りとした。あとは、蛇のみである。なかなかにしぶとい。


 そして、ついにあの世に旅立った。美味しく、食べてもらえることを祈る。ちなみに、超高級食材らしい。このボス部屋の中には隠し宝箱があった。箱ごともらい、次へ。


 十六階層以降は、ランクAの魔物しかいなかった。ミスリルゴーレムが、大群で歩いてきたり、ランドドラゴンが、道一杯で歩いてきたりと、デカいことしか、特徴のないやつばかりだった。


 ゴーレムの場合は、コアを破壊するしかないが、破壊すると、ミスリルゴーレムならミスリルしか手に入れられない。だが、コアを抜き取ると、コアと素材が、手に入るのだ。俺は、コアが欲しかったので、抜き取って倒していた。このときは、セルには素材回収に、回ってもらっていた。


 ちなみに、蛇から逃げたことに関しては、チョップ一発とデザート抜きの選択肢を与えた。もちろん、チョップ一発を選んだ。セルも一応、女の子だからだ。


 お仕置きをしながら進むと、ついに色竜(カラードドラゴン)の登場である。一匹と聞いていたのに、五体もいる。つい、○○レンジャーかよ! と、心の中で突っ込んでしまった。


 そして、このリーダー格らしき、レッドドラゴンが、やってくれた。カルラに、炎弾を飛ばしたのだ。ボムが払ったが、小さな火が、カルラの顔に飛んだのだ。ユニークスキル【無敵】のおかげで、事なきを得たのだが、驚いた拍子に転んでしまった。


 そのことを、色竜風阿呆戦隊の隊員たちは、声をあげて笑ったのだ。目に涙を浮かべ、ボムのマントの中に隠れてしまった。元々敵ではあったが、コイツらは、やってはならないことをした。知能がある魔獣とか言っていたが、結局は魔物に毛が生えた程度だったのだ。久しぶりに、本気でやれそうだ。


「カルラ。兄ちゃんが、本気で怒ってるぞ。カルラを笑ったやつを、懲らしめてくれるぞ。一緒に見よう。なっ」


 そうボムが慰めていた。

 カルラは、ちょっとだけ出て来たようだ。ホッとしながら、幻想魔術で肩から背にかけてまで、追加で強化していく。両腕である。


 さらに、脚力強化を施し、大地魔術を持っていた魔物の魔力を集め、肩、背中、腰、ふくらはぎ、足の裏に、穴を作り、そこに魔法陣を設置した。即席のバーニアである。ボムも現在練習中の、高速機動法である。


「熊さん、ラースの腕と足が大きくなったのじゃ」


 と、ボムに言っていたが、ボムは現在忙しいため、簡単に返事をした。


「そうだな」


 準備完了である。


「覚悟しろ。俺の妹を傷つけて、無傷でいたヤツはいない」


 そう言って、踏み込んだ。


 ――魔闘術《牙王》――


 元々、属性纏《雷霆》を施していた上でのバーニアだ。消えて見えたことだろう。この移動方法のおかげで、ボムから【拳聖】の称号を奪えたのだ。


 さらに、昨日のAランク冒険者風阿呆との戦闘で、魔術と格闘技の、組み合わせを考えていたが、すぐに発動出来るように、攻撃箇所に先に、仕込んでおくことにしたのだ。相手の体に直接でもいいし、拳や肘や足などでもいいだろう。


 今回は拳だ。

 魔闘術の牙王は、スキルレベルが、九以上にならないと使えない技で、回転を加えた両腕での攻撃を、同時に叩き込む。もちろん、魔力の塊を体内へ叩き付けてだ。その衝撃は、対人戦ではオーバーキルである。


 その攻撃に、火炎属性と雷霆属性の魔術を、同時展開させたものを、両手に仕込んでいる。つまり、拳が当たった瞬間、衝撃で体が浮き上がり、炎と雷が迸るのだ。相当、痛かったのだろう。怒った顔で、俺にブレスを放とうとしている。


 だが、その顎を下から突き上げ、頭上へと上がり、眉間に踵落としを叩き込んだ。色竜風阿呆戦隊のリーダーは、地面に這いつくばってしまった。そして、尻尾で俺を攻撃してきたため、バッサリ切り取り、解体屋へ。ついでに羽根も取ってしまった。


 次に、手に魔術を用意して、待機させておく。この阿呆を浮かせて、腹の真下に潜り込み、地面に魔術を設置。色竜風阿呆戦隊のリーダーを、元に戻して、スイッチオン。


 昨日の、去勢のように、拳での突き上げである。ただし、連撃である。そこまでしてから、声を掛けた。


「カルラに謝罪をする気になったかな?」


 睨みつける、色竜風阿呆戦隊リーダーである。この間、ずっと腹を突き上げられている。だが、どうやら、反省の色はないようだ。とても、残念だ。俺は、ナイフを取り出し、彼に声を掛ける。


「爪が伸びてるね。切ってあげよう」


 ナイフを振り上げ、切った。あとで、素材に利用できるように、指の解体をして、爪を得ただけだったのだが。……ここでやっと、謝ることを決めたようだ。これで思い残すことは、ない。当初の目的通り、屠らせてもらう。お前は特別にギロチンで。アイアンメイデンと迷ったが、素材が駄目になるから却下だ。さらば。


 そこまで見て震え出す、色竜風阿呆戦隊の、残りのメンバー。残念ながら、どちらかが死ぬかの、二択しかないのだから、今夜の飯になって欲しい。さらば。コイツらは、ナイフでサクッとやってしまった。


「カルラ。仇は討ったぞー!」


『兄ちゃんありがとなの。カルラ、守ってもらってばっかりなの。せっかく母ちゃんと勉強したのに……』


 悲しそうに言う、カルラ。だが、この子は思い違いをしているのだ。


「カルラ。カルラはまだ赤ちゃんだから、しょうがないんだぞ。生まれて、一年も経ってないんだ。ソモルンだって、あんな可愛い姿だけど、父ちゃんより年上なんだぞ。だから、急ぐ必要はないんだ。ゆっくりでいいんだぞ」


 俺はそう言って、手を生活魔法で綺麗にしてから撫でた。コクリと頷き、頬ずりしてきた。可愛い妹である。だが、嫉妬したボムに取り上げられ、セルと四人でしばらく騒いでいた。





 ◇◇◇





 一方、その他のメンバーは、唖然である。最初から、いろいろと、おかしいとは思っていた。年齢や職業など、意味が分からなかったが、そういうものだと、自分自身を納得させてきた。Sランク冒険者に、こだわっているのは、ボムの方で、ラースはDくらいでいいと言っていた。指名依頼が嫌なのだろう、と。


 だが、今ランクS相当の色竜五体を、一方的に蹂躙したのだ。しかも、姿形が変わったこと、一人で蹂躙したこと、果てはテイマーであること。これで、従魔たちが加わったら、どうなるのかと。


 今後の対応次第では、あの蹂躙が、自分たちに向く可能性もあると、考えていた。慎重に対応しなければと、心に誓ったのだ。


 ここで、カトレアだけは違った。自分を助けてくれたのは彼で、可愛い家族もいる。彼の性格も、家族を大切にする、優しさを持っていた。結婚するなら、こういう人がいいと、思い始めていたのだ。本人もそれが、恋だとは知らない。誰もまだ、何も知らなかったのだった。





 ◇◇◇





 さて、阿呆戦隊も回収した。お宝を持って帰ろう。と思ったら、足元に転移の魔法陣。ボムが気づいたが、間に合わなかった。俺は、何処かに飛ばされたようだ。


 そして、突然声が聞こえてきたのだった。


「いやー、すまんすまん。こうするしかなくてよ。少し、俺に時間くれ」


 




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