第三十二話 新しい従魔
「続いて君たちだが、まさか許してもらえるとは思ってないよな?」
また竜体験ツアーでもいいが、やったばかりだから、出来れば他がいい。観客もいるから、なおさらだ。この観客とは、もちろん馬含む、真面系メンバー達のことではあるが、逃げ遅れた冒険者風阿呆達のことでもある。
そして、思いついたのだ。
担当神が、法を司っているのだ、お仕置き系魔術のトップであることは、間違いない。まず、彼らをまとめて穴に入れる。そして、魔術を発動して、穴を塞ぐだけである。
――闇黒魔術《幻夢》――
精神系魔術で、夢を見せている。
さらに、暗闇であれば効き目は、増大するのだ。穴を塞ぎ、しばらく放置するだけ。見せている夢は、彼らの仕事が怠慢だったことにより、被害を受けたであろう事を、体験してもらう、体験ツアーその二である。
「さて、彼らは体験ツアーへと旅立った。彼らは休暇を満喫している。邪魔をしないであげてくれ。それと、全裸さん。ポーションを渡しておこう」
そう言って、失敗ポーションをプレゼント。あれくらいの切り傷であれば、確実に治せる。若干傷跡が残り、味覚が死ぬだけだ。なんの躊躇もなく、飲む阿呆であった。
痛みが消えた今、怖いのか恥ずかしいのか、穴から出てこない。これでは罰にならないから、鎧や装備を残して、服の部分だけ燃やしてやった。裸にエプロンで、萌える男はいるだろうが、裸に鎧で、萌える人間はいるのだろうか。いたとしたら、ソイツは種族を間違えた奴だけである。今日日オークですら、服を着ているのだ。
「さて、メインイベントを始めよう。何か言い残すことがあるなら聞くが、どうだ?」
磔阿呆の二人にそう聞くと、ギルドマスター風阿呆が喚きだした。
「儂にこんなことをして無事で済むと思っているのか? 儂の後ろには、さるお方が控えているのだぞ。儂に何かあれば、お主なぞ真っ先に、始末されるのだぞ」
と、叫ぶ脂ぎったじっさま。
だが、コイツの言うことは、間違いないらしい。すでに、暗部が来ているようだった。騎士を引き連れているようだが、所詮防壁も破れない無能である。というか、そろそろこの国の暗部コレクションが、コンプリートしてしまう。大丈夫なのか? と疑問に思うとともに、王は何をしているのだろう。不思議だ。
「そこんところ詳しく」
「誰が言うか。それを聞くために、生かしているのだろう? 言ったあとは、アイツらみたいに、なるのが分かってるのに、言うはずなかろう」
さすが、組織の管理をしていただけのことはある。なかなかに頭が回るようだ。だが、唯一間違っているところは、話しても話さなくても、結果は同じである。
「儂が何も出来ないと、思っているのなら間違いだぞ。我は、高ランクの魔獣を使役しているのだ。やれー! コイツを殺せー!」
どうやら、テイマーであったようだ。どのような魔獣なのだろう。一人ワクワクしていると、建物の陰から、俺の髪の毛みたいな色をした、そこそこデカい狼が歩いてきた。
蒼や水色、白や黄色と、本来は綺麗な毛並みなのだろう。だが今は汚い。それに首輪をしている。あれは、ライトニングドラゴンの首にあったやつだ。隷属の首輪である。そして、攻撃態勢に入った狼。ここで飛び込んで来るかと思われたが、珍しいことが起こったのだ。
「グルルアァァァァァ」
と、突然のボムの咆哮が鳴り響く。あまりの驚きで、カルラ以外が全員固まってしまった。俺もだ。カルラは、咆哮と同時に目を覚まし、狼を一瞥すると、笑顔でボムに抱きついていた。馬や他の従魔達は、頭を垂れ微動だにせず、蒼い狼は動きを止め、ボムを見る。ボムは王女を退かして、歩いてくる。狼の前に行き見つめると、狼も頭を垂れた。異様な光景である。まるで、王にかしづく騎士のようだ。
『首輪を取って、綺麗にしてやれ。コイツは俺の従魔にする』
従魔が従魔を持つってどんな状況だ? と、思わないでもないが、ボムなら何でもありなのだろうと、思考を放棄した。
――神聖魔術《解呪》――
首輪がボトリと落ちた。
そして、首輪は焼却処分して、生活魔法で狼を綺麗にした。
『名前考えとけよ』
そう念話を残して、狼を連れて行ってしまった。狼はボムにカルラの説明を受け、頷いていた。カルラは、大きめの狼の背に乗って、はしゃいでいた。
ちなみに、この狼はメスである。初お姉ちゃんGETで、大喜びなのである。王女とエルザさんは、新しいモフモフに期待をしているのだが、ボムの機嫌が気になっていて、集中出来ないのだ。尻尾を見れば。分かるのにと思うが、今はそれどころではない。
「俺の従魔だぞ! 高値で買ったんだ! それに従魔の盗難は、犯罪だぞ! 首輪を外すのもだ!」
と、大興奮である。
「従魔をどう手にするかは自由だが、あまり気持ちのいい方法ではないな。それに盗んだのではなく、野生に帰ったんだ。お前も家に帰るだろう。同じことだ。それに、馬鹿じゃないから、知っているぞ。隷属の首輪を外すことは、基本的には出来ないから、法も罰則もないことをな。だから、裁かれる理由はない。お前は、釣った魚が逃げる度、裁判を魚相手に起こす阿呆なのか? 今回は縁がなかったと思って、諦めることだ」
怒りで本当に爆発しそうだが、話す気もない奴は、さっさと処分してしまおう。まだ、一番ムカつく受付嬢風阿呆がいるのだ。
面倒だから非道徳的だが、楽な方法を使うとする。
「最後通告だ。素直に話すなら、優しくしよう。話さないなら、それでもいい」
シュバルツは、何故? と言う顔をしているが、問題ないのだ。始めから、この方法を使う予定だったのだから、阿呆共が絡んで来ようが関係なく。ただ騎士や王女の前で、チャンスを与えた方が、後々楽であったためだ。
「ふんっ! もうすぐで応援も来るのだ。何も話す必要などないわ!」
「素晴らしい解答を感謝する。これで手間が省ける」
狙い通りの言葉が聞けて、少し舞い上がりそうだったが、なんとか堪えた。
――闇黒魔術《支配》――
この魔術は簡単に言うと、隷属の首輪の上位互換である。いいところは、一度かけてしまえば、好きなときに、オンオフが出来るところだ。犯罪組織で、今すぐにでもトップになれる方法だ。そんな下らないことはしないだろう。おそらく……。ただ、尋問に向いている魔術ではある。
「冒険者を派遣して第三王女を誘拐させようとしたのは何故だ? そして、何故この貴族お抱えの、冒険者だったのか。さらに、依頼をしたのは誰で、さるお方とやらと、関係があるのかを答え、証拠があるなら場所と、物の詳細を言え」
うつろな目をした、ギルドマスター風阿呆が話し出した。よく、こういうとき邪魔されて、話さず死ぬパターンは面倒だから、すでに《防壁》を《絶界》に切り替えてある。今までの《防壁》のように、攻撃をしていると、消し飛ぶだろうが、大丈夫だろう。
騎士により一般人もいなくなり、丁度よかったのだ。これで邪魔されることもないだろう。さて、話を聞こう。
「……冒険者を使って、王女を誘拐しようとしたのは、さるお方から依頼があったからだ。その冒険者達を使うのも、依頼に含まれていた。その冒険者達の数名は素行も悪く、誘拐を企てそうだと言う理由が一つ目。次に、政敵のお抱えの、冒険者が起こしたことならば、その政敵にもダメージを与えられるからだ。依頼に関して言えば、成功しても失敗しても構わなかった。企てたという事実があればよかった。さらに、死んでくれていれば、処分する手間も、弁明もなく楽だった。そして、さるお方とは、アハト公爵閣下である。そして、証拠はギルドの地下倉庫にある」
真面系メンバーは、絶句である。事実をなかなか受け入れられないでいる。
「じゃあ最後だ。まず、受付嬢風阿呆、こっちを見ろ」
もう一人の磔阿呆に声を掛ける。
「あそこにいるのが、誘拐対象の第三王女で、間違いないな?」
受付嬢風阿呆は、まだそんな冗談を? という顔をしていた。そもそもこの現状の原因は、コイツなのだ。
「そうだ」
受付嬢風阿呆は、目を見開いて、口も顎が外れるかというくらい開けていた。徐々に顔色を変えて、土色になっていく。この現状の原因が自分だと、やっと気付いたようである。そして、全裸隊長も。
聞きたいことは、聞けたので魔術は解除することにした。自我があった方が、お仕置きになるからだ。人形にお仕置きして、喜ぶような屑ではない。
まぁ阿呆のお仕置きは、喜んでいないが、面白くはある。ポリシーは、殺さず殺すである。人は殺さないけど、心は死ぬかもしれない。現に今、全裸隊長は大人しいのだ。今日のお手伝いさんに決めた。
「全裸隊長。服はないけど、鎧を着て手伝ってくれないかな? 暇なら、もう一周してもいいけど」
と言ったら、スゴイ速さで鎧を身につけ、敬礼した。ボムさん爆笑である。そして、ボムの機嫌が直ったことを知った、周囲のメンバーと馬や従魔は、体の力を抜いたのだった。
そして、ギルドマスター風阿呆の、魔術を解いて一言。
「ご苦労様です。アハト公爵も困ったものですね」
と、言ってやる。
ちなみに、魔術に掛かっている間は、夢を見ている感じらしく、記憶はなんとなくあるそうだ。賢者様の資料からの抜粋である。
「何故だ……? やはりあれは、夢ではなかったのか?」
若干混乱しているようだけど、追い打ちを掛けさせて貰う。
「事細かに説明をして頂き、ありがとうございます。公爵様にも、お伝えしておきますね。なかなかに面白いことを、お考えになるのですね、と。もちろん、あなたの名前を出し、紹介頂きましたと、伝えておきますよ。ご心配なさらずとも、大丈夫ですよ」
と言ってみた。何も大丈夫ではないだろう。人生詰んでいる。
「やめろー! やめてくれ! 何でもする! だからそれだけはやめてくれ! 証拠の場所も分かるまい! 何もなければ、勝てない相手だぞ!」
と、必死の形相で叫んでいる。お仕置きのレベルではないのだ。仕方ないだろう。だが、もう忘れたのだろうか。闇黒魔術があることを。
「証拠は、ギルドの地下倉庫にあるんだろ? さっき教えてくれたじゃないか」
この世の終わりのような顔をしていた。コイツは、これでいいだろう。実際に俺に何かしたわけではないからだ。そっと目を受付嬢風阿呆に移すと、目が合った。激しく首を横に振っている。
ボムは、狼に向かって何か面白いことをするぞ! と、言っていた。ハードルを挙げられて、若干悩む。だが、何処の世界も、ヌルヌルが嫌いな女性が多かったはず。それのスペシャルコースにしよう。
「あなたには、スペシャルコースを用意しました。きっと楽しんでもらえるはず。少し準備をしますので、お待ちを」
と、満面の笑みで言ったのだが、受付嬢風阿呆は既に震えていて、聞いてないようだった。まぁいい。とりあえず、モブ中のモブを出して、魔術解除。あのメイドのように、汁という汁を出して、痙攣していた。……汚い。また、洗濯機を使うことにした。
――流水魔術《渦潮》――
全裸隊長の方が、マシだったかもしれない。尋問があったから、長引いてしまったのだ。全裸隊長だけだと、大変だろう。
「そちらの冒険者の方々。スペシャルコースで、遊びたい方は別として、手伝ってくれないかな?」
と、冒険者風阿呆共に聞いてみた。全員手伝うようだ。真面メンバーも、前回の影響か、反射的に動こうとしたのだ、ボムが制止したため、来なかった。
――大地魔術《大地隆起》――
文字通り地面を盛り上げる魔術だ。そして。
――大地魔術《操岩》――
盛り上げた地面と鉱石だとを操り、作り上げていく。まず始めに、モブ中のモブがいた穴を塞ぐ。そして、それとは別に、暗く深い穴を開ける。続いて、ちょっと離れた位置に土を盛り上げ、風呂のようにする。最後に、かなり大きく高い、風呂のようなものを、土で造った。
――森羅魔術《操樹》――
滑り台のように横に繋いでいく。
一番高い風呂を大風呂とし、二番目に高い風呂を中風呂とする。最後は、穴が空いただけだが、小風呂とする。
まず大風呂では、服を燃やしたいから、空にする。続いて中風呂には、全裸隊長に使った毒と同じものを使って作った、特別製ローションを、たっぷりと入れておいた。類友は、お揃いが好きという話を聞いた。小風呂には、プラネタリウムが楽しめるように、自ら穴の中へ。そして、底に灯りの魔道具を設置した。完成である。
つい、汗もかいてないのに、汗を拭う仕草をしてしまった。みんなもワクワクしていることだろう。そう思い、視線を移すと、ボムさん達人外三人組以外は、顔面蒼白で震えているのだ。あの王女までもである。
彼らは、完全に観客なのに不思議だ。まあいいだろう。そして。
いざ! 開幕!
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