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第三十一話 類友

 目の前に広がる、気持ちの良い青空。とても、建物の中からでは味わえないだろう。それもそのはず。現在、結界により隔離された、俺らのいる場所以外は、真っ平らなのだ。まあ、真っ平らというと、語弊があるかもしれない。


 多少クレーターができ、地面が硝子化して、所々燃えているだけである。何もないのだから、真っ平らと変わらないだろう。だが、こうすることで、楽をすることができると、踏んでの行動である。そろそろ来る頃だろう。




 ついに来た。警備兵が。

 彼らこそ、楽をさせてくれる重要な要素なのだ。


「これはいったい何事か? 冒険者ギルドが、吹き飛んでいるではないか」


 警備隊長らしき、壮年のおっさんが、声を荒げていた。脳筋そうな彼が、阿呆でないことを祈る。目の前でしこたま、魔術を喰らった受付嬢風阿呆が、何処からともなく現れ、話し出した。


「そちらの彼が、いきなりギルド内で魔法を乱発し出したのです。さらに、ギルドに登録しているAランク冒険者に、大怪我を負わせた上、金銭の強奪までしたのです。彼はギルドに所属していないのですから、警備兵の仕事のはずです。早く捕まえて下さい。この状況を見れば、こちらが被害者なのが分かるはずです。さらに、そこの者も一味です。王女を語ったのです。重罪ですよ。ポーアさん、早くお願いします」


 どうやら、楽はできないようだ。それ以上に、知り合いらしい。類は友を呼ぶという、パターンだけはやめて欲しいが、そうもいかないようだ。それよりも、阿呆だと思っていたが、今までで群を抜いているようだ。


 まず、魔法だと思っていることだ。魔術を使えれば、国賓待遇なのだ。魔術が盛んで、魔術師が多くいる、魔王国ですら丁重に持て成す。それに、魔法であんな隕石を落とすことは出来ない。やるなら魔法陣でしか出来ないのだ。故に、阿呆その一である。


 続いて、Aランク冒険者風阿呆から、金銭の強奪の件までは、魔力紙で出来た契約書が残っている。これはサインをした当人達が、破棄することを合意し、サインをするまでは破損しないのだ。故に、手元にあるしギルドにもある。もちろん、阿呆の元にも。これが、阿呆その二である。


 最後に、本物の王女に向かって重罪犯だと、公の前で言ってしまったことだろう。もう、コイツの旅も、ここで終わりだろう。ちなみに、ギルドの外にいた従魔や馬たちは、現在怯えている。馬たちは、昨日からの馬とは別に、他の馬もいる。もれなく、ボムに怯えている。


 理由としては、Sランクになれなかったことで、不機嫌が限界突破しているのだ。彼が不機嫌になる理由は、そこまで多くない。獅子王神様関連と、星霊シリーズ関連と、空腹だけである。


 今回は、獅子王神様とお揃いに出来ず、カルラに我慢をさせているのだ。不機嫌にもなる。だが、反対にご機嫌になっている者もいる。結界魔術を使用するときに、ボムが王女を抱き留めたのである。そして現在も抱きついて、離さない状態だった。その顔は、犯罪者と言われているのにもかかわらず、緩みっぱなしである。


 受付嬢風阿呆のせいで、カオスな状況になりつつあるが、阿呆から言質は取った。ギルド員は、ギルド内での武器の使用や、魔法の行使を禁じているのだ。今回ギリギリだったのだが、阿呆のおかげで、咎められることはないだろう。一人安心していると、やはり脳筋は阿呆だった。


「そうか。そんな犯罪者を野放しにはしておけない。覚悟しろ」


「いいのか?  こちらの話を聞かないと、後悔するぞ。あと、剣を抜いたら、攻撃の意志ありとみなし、反撃するが、手加減の保障はしないぞ」


「犯罪者の話など、聞くだけ無駄だ! 攻撃などしたら、後戻りできないと思え!」


 と、支離滅裂である。

 何もせず死ねと言っているのだ。


「反撃されるのが怖いのか? 警備兵のくせに、怪我をするのが怖く、そして無傷でいたいとは、情けない。仕事をする気はあるのか?」


 と、感想を述べてみた。

 だが、どうやら地雷を踏むどころか、踏み抜いてしまったらしい。


「どいつもこいつも、同じことを言いやがって! 安全に捕らえることの、何が悪い! 俺らが体を張っているおかげで、安全に暮らせるのだぞ! それなら俺らの体を、最優先に守ることが、重要ではないか!」


 開いた口が塞がらないとは、このことだ。それを含めての、警備兵であろう。納得して働いているはずだ。嫌なら辞めればいい。それも分からない阿呆のようだ。


「頭大丈夫か? 警備兵なんだから、相手は犯罪者が多いだろう。大人しく捕まる奴は、ほとんどいないと思うぞ。嫌なら辞めればいい。誰も止めはしない。そんな使えない警備兵なんて、いらないからな。それに、怪我をしないように、細心注意をしているんだろう。相手を捕まえるよりも。それなら、体を張ってないだろ。お前は虚言癖でもあるのか?」


 阿呆にも分かるように、懇切丁寧に諭してやったのだが、気に入らなかったようだ。顔を真っ赤にして、額に青筋を立てている。


「死刑決定ー! 中央に任せることもない。俺が直接手を下してやる」


「それこそ虚言だろ」


 彼らも、心を綺麗にしてあげなければ、ならないのか? と思ったのだが、一番綺麗にしなければならない二人が、逃げそうである。ギルドマスター風阿呆と、受付嬢風阿呆である。とりあえず、拘束しておこう。幸いなことに、瓦礫の中に、木が山ほどあったのだ。


 ――森羅魔術《操樹》――


 便利な魔術だ。

 これで十字架に、(はりつけ)にしてやった。ちなみに、これを見た真面メンバーの内、シュバルツと王女以外は、馬も含め、何が起こるのかいろいろ想像して、小刻みに震えている。あと、忘れないうちに、やっておくことがある。それは、邪魔防止と逃亡防止措置だ。


 ――結界魔術《防壁》――


 結界魔術で、一番簡単な魔術である。ただ壁を張るだけだが、ギルド周辺を覆うだけなら十分だ。これで思う存分、お仕置きができるぞ。


「磔にするとは、なんて酷いことをする。今正義の下、成敗してくれるわ!」


 と、正義感にあふれたことを、言っているのだが、ただの言い訳だろう。自分を正当化するための。

 こんな阿呆のお仕置き内容は、既に決めている。痛いことが嫌いなのだ。それならば、やってあげるしかないだろう。ちなみに、この阿呆を含めて、五人全員が剣を抜いたので、お仕置き決定だ。


 そして、彼はついに、剣を振り下ろしてきた。一瞬、Aランク冒険者風阿呆と同じように、折ることも考えたがやめた。

 コイツは弱そうだから、すぐに終わってしまうだろうと思ったからだ。そして嫌がらせを思いついた。


 ――無限魔術《魔針》――


 これは、魔力で作った針である。

 無限魔術は、少し特殊で、実際にないものを作れるのだ。重力や結界魔術も、この魔術の派生である。創造魔術も物を創るのだが、違いとしては、作ったものが、残るか残らないかである。創造魔術の方は残るのだ。

 だが、無限魔術の方は、魔力での維持だからこそ、特殊な効果をその都度、付与できるので可能性が、無限なのだ。


 さて、話を戻すとしよう。

 その無限魔術で作った針には、弱い毒と弱い電撃を、付与してある。それを避ける度に、チクチク刺していく。肌が出ているところはもちろん、鎧の隙間や用を足すための穴とかにも、ひたすらチクチクと刺していった。


 相当痛いのだろう。

 ずっと顔をしかめている。

 同時に五人から、攻撃されているのだが、隊長風阿呆にしか、チクチクしない。すると、一人が逃げ出した。勝てないことを察したのだろう。それも仕方がない。一振りも掠らないのだ。だが残念。避けながらも、罠を仕掛けさせて貰っていたのだ。


 ――大地魔術《崩落》――


 メイド風阿呆を、冥土に連れて行った、あの穴である。彼には何を贈ろうかと思いながらも、チクチクはやめない。そして、弱いながらも、毒が蓄積してきたのだろう。膝が地面についたのだ。さらに、辛いのだろう。四つん這いになる。


 ちなみに、致死性の毒ではない。ただ、体が痒くなる毒だ。実際彼は体を掻き始めた。だが、鎧で掻けない。ついには、全裸になってしまった。この毒は、掻けば掻くほど広がっていき、腫れる。


 ちなみに、魔境にいた毒虫の毒を薄めて使っている。薄めなければ、すぐに発狂するレベルだからだ。これも賢者の遺産で知った。治す方法は簡単だが、彼は出来ないだろう。痛いからだ。


「必死に掻いているところ悪いですが、もっと酷くなりますよ。治す方法はあるんです。大丈夫ですよ」


 と満面の笑みで、丁寧に言ってみたが、彼の耳に届くことはないだろう。何故なら、俺も親に言われたことで、同じことを思ったのだが、痛いのは我慢できる。だが、痒いのは我慢出来ないのだ。彼は今まさにその通りの、状況にいる。


 それを見た残りの、警備兵風阿呆は、絶望を浮かべている。だが、大丈夫。安心して欲しい。時間があまりないのだ。メインイベントの、磔阿呆がいるため、モブ中のモブその二は、適当にお仕置きをする予定である。穴の中のモブも含めて。


 この結界の中で笑顔でいるものは、唯一王女だけである。昨日の惨劇を知らず、背が低いことで、今の惨劇もよく見えない。さらに、ボムのモフモフを、堪能しているのだ。


 ちなみに、ボムは元々綺麗好きである。温泉に入るくらいには、綺麗好きだ。だから、臭いもなく安心して、モフモフできるのだ。むしろ、ほんのり天日干しした布団の匂いがして、眠くなるのだ。そんなほんわかな一部を除いて、現在も殺伐とした蹂躙が、繰り広げられていた。


「教えろ! これを……この痒みを止める方法を」


 やっと治す方法があることに、気付いてくれたようだ。さっきまでは、俺の言葉も届かず、どうしようかと思っていたが、これで先に進める。それにしても、必死の形相である。だが、気持ちは分かる。


「いささか人に頼む態度ではないが、時間もないので教えましょう。それは、腫れている箇所を切りつけて、膿を全部出し、消毒液で消毒した上、ポーションか魔法で傷を治す。それか生命魔術で治す。以上」


 これが彼に出来ない理由だ。激痛だからである。股間にも刺したのだ。ただ消毒液を使わない方法もある。光魔法の浄化を使えば、消毒の代わりになる。だが、罰が軽くなるから、教えるつもりはない。思いつく頭でもないだろう。

 思いつければ、教会まで我慢すればいい。教会に行けば、浄化を使える人がいるだろう。もしかしたら、警備兵にもいるはずだ。さて、彼はどうするのだろう。


「できるわけない! 解毒剤を持っているだろう! 寄こせ」


 意外に頭がいいようだ。

 確かにある。

 最初はそれを使った、お仕置きをするつもりだったのだ。時間がかかりそうだったから、次の機会に持ち越しにしたのだ。


「そんな楽をしては、教訓にならないでしょ? こんなことを、二度としないようにと、後悔させるために、犯罪奴隷として服役する人もいるはず。それを短時間で、学習させようと思うなら、高密度でやらなければ、無理だろう。俺の師匠も言っていたぞ。密度が大切だと」


「知るかー! 俺は犯罪者ではない! 街を守っているのだ! 俺は貴族だぞ! こんなことをしていいと、思っているのか?」


 どうやら貴族だったようだ。だが警備兵の隊長。それも一般層のだ。爵位も低く、家督もないのだろう。それに残念だが、何も怖くない。本当に怖いものは、カルラを悲しませたときの、プルーム様のことを言うのだ。アレに比べれば、何も感じないのである。


 そろそろ警備兵風阿呆共には、退場して頂くことにした。


「分かりました。俺が治してあげます」


「本当か? でかした」


 そう言いつつも、阿呆の言葉は無視である。


 ――大地魔術《地剣の舞》――


 手を地面に付け、大地魔術を発動した。これは、岩石や鉱石を使った、武器創造魔術である。もちろん、魔力供給を止めれば土に戻る。ボムがやっているのは、この応用である。そして、もう分かっただろう。俺がコイツの代わりに、膿を出してやるのだ。もちろん消毒も。


 ――大地魔術《崩落》――


 ――大地魔術《操岩》――


 ――火炎魔術《炎弾》――


 ――生命魔術《薬物生成》――


 そして、慈悲深い俺は、消毒槽を造ってやった。穴を開け、岩で枠を造り、加熱消毒をした上で、原液の消毒液を、並々注いでやった。ちなみに、頑張れば上がってこれる、深さである。俺が何をするのか、分かったのだろう。逃げだそうとした。


 ――属性纏《雷霆》――


 だが、無駄である。

 逃げる阿呆を追い抜く瞬間には、後ろ半分を切り刻んだ。ちなみに、俺も剣王術を使えるのだ。楽勝である。そして、動きの止まる阿呆に、連続して斬りつける。さらに、細かい部分も、丁寧に手早く斬っていく。そして、大事なところもである。


 全て終わる頃には、体から汁という汁が、噴き出していた。あとは、穴に落とすだけなのだが、触りたくないし、剣で押すと死ぬかもしれないため、たまたま近くにいた、警備兵風阿呆を使うことにした。


 ソイツの胸倉を掴み引き寄せ、そのまま背中を隊長風阿呆に押しつけ、押し込んだのだ。もちろん、穴に落ちるとき、手伝ってくれた警備兵風阿呆は、引き戻してやった。


「……うぅっ……」


 本当に痛いときは声が出ないのだ。俺も骨折したときは、声が出なかったのを覚えている。まあしばらくしたら、消毒液は消えるだろう。



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