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第二十九話 無双

 その気になっていたこととは、無口な女騎士のことだ。


「その、聞いてもいいのか迷っていたのだが、そちらの……エルザさんだったか? エルザさんの声が出ない理由を聞かせてもらえないか?」


 シュバルツは、彼女に確認を取り、許可が下りたため、話してくれた。


「以前、まだ殿下の護衛に、配属される前なのですが、ある貴族の領地で、疫病が蔓延したのです。そのときに、救援物資を届けに行ったのが、彼女の部隊で、そこで罹患(りかん)してしまった後の、後遺症になります。

 その貴族の対応が、遅れて他の罹患者のほとんどは死に、助かったのは、一部の者だけになります。ただ後遺症を持ったのは、彼女だけです。理由は、その貴族の親族の薬を優先したため、彼女の手当てが、遅れたのです」


 なるほど。阿呆が多い国のようだ。だが、その薬はおそらく、粗悪品だったのだろう。今からでも、治せるレベルの症状を、当時、薬を飲んで治らないのであれば、それは粗悪品以外の、何物でもないだろう。誰が用意したのかは分からんが、悪意しか感じられない。


「それ治りますけど、治します?」


「はっ?」


 シュバルツがコイツ何を言っているんだ? という顔をしてきた。そして気付いたのだろう。


「失礼しました。つい。治せるなら、治してあげて欲しいです」


 本人も王女も切実そうな表情をしている。そして、何故かカルラも……。それに気付いたボムが一言。


「やれ」


 女騎士の前に行き、喉に手をかざした。


 ――生命魔術《完治》――


 これほど適した言葉はないだろう。一種の病気の症状だ。それを治療もせず、放置してきただけ。それなら、完治させればいい。


 彼女に視線が集中する。すると、声を出そうとする。長い間声を出さなかったのだ。緊張もあるだろう。


「……あ……こ……声……がで……る」


 涙が頬を伝う。

 久しぶりに聞いた自分の声を確かめながら、話し出した。


「ありがとうございました。一生声が出ないと諦めてもいました。この御恩は一生忘れません」


 そう言って頭を下げた。

 安心した。お礼を言える人だった。転生して、最初の第一人族を、吹っ飛ばして以来、頭のおかしい奴ばかりだったため、お礼が言える人を見るのは、新鮮である。


『兄ちゃん、すごーい! ピカーって光ったの』


 カルラはそう言いながら、抱きつこうとしたのだが、抱きつかれることはなかった。ボムがガッチリと掴んでいたからだ。カルラも不思議そうにしていた。


「まぁあの中で、真面な人でしたからね。友好的な対応には友好的に、敵対的な対応には敵対的に、というのは、普通でしょう。カルラのお願いでも、ありましたから」


「カルラちゃん、ありがとうございます」


 そう言って、カルラにも頭を下げていた。カルラは、えへへへへ~♪ と、照れていた。そして、各個人で野営をするため、解散となったのだが、王女がもじもじしていた。


「どうかされました?」


 そう言われた王女は、意を決して言ったのだ。


「モフモフさせて欲しいのじゃ」


 これが打ち合わせの成果なのである。しかし相手はボムだ。普段なら嫌がるだろう。そして、現在も嫌そうだ。だが、カルラがまさかの一言を言った。


『一緒に遊ばないの?』


 悲しそうに、そう言ったのだ。

 そして、カルラにダダ甘のボムは、あっさり陥落するのだった。


「明日も早いからな。少しだけだぞ」


『わーい! ありがとう♪ 父ちゃん』


 ボムは満更でもない顔をしていた。そして、許可が出た王女の隣には、エルザさんがいて、彼女もモフモフに、便乗するようだ。最初からずっと、狙っていたのだが、色々あって、お願い出来ないでいたそうだ。


 そして、ソモルンもそうだが、星霊シリーズは、本能的に人を選ぶ感覚鋭いようだ。カルラも一番はボムなのだが、王女とは遊びたかったようだ。エルザさんのことを、何も言わない辺り、エルザさんも問題ないのだろう。


「それでは、失礼するのじゃ」


 そう言い、カルラに手を触れた。もちろん、ボムが抱いている。


「では、私も失礼して」


 エルザさんもカルラに触れた。二人は恍惚(こうこつ)としていた。そして、一段落した後、次に行くようだ。


「では、次なのじゃ」


「次とは?」


 王女の言う次は、もちろんボムだ。だが、ボムは自分ではない、何かをするだろうが、それが何か分からないようである。


「もちろん、熊さんなのじゃ」


「はっ? 俺か? 俺はいいよ」


 その言葉に悲しむ王女と女騎士。そして、悲しむ二人を見て、悲しむカルラ。


「……今日は特別だぞ」


 カルラに弱すぎる、ボムなのである。速攻でモフる二人を、面倒そうに相手をするボム。そして、お茶を飲む俺とシュバルツ。現在小屋にいるメンツである。


『兄ちゃん、アレ出して! アレやるー!』


 ボムも解放される! と、思ったのだろう。


「早く出せ」


 と、急かす。

 アレとは、ボードゲームである。

 技工神様に何か作って店をやれと言われ、カルラのおもちゃ用に、いくつか作ったのだ。ボムは気に入り、ソモルンともやると、言っていたくらいだ。三人で出来る物は、一つしか知らないので、それを出した。ダイヤモンドゲームというやつだ。俺も昔、よくやったゲームだ。


 そして、ルールを説明していく。

 女性陣三人が遊んでる間、ボムはカルラを抱きかかえ、通訳に徹していた。カルラが楽しむためには、労を惜しまない熊さんなのだ。子煩悩を通り越して、親馬鹿だった。



 それからしばらくして、お開きになった。明日も早いからだ。小屋を出て行く前には、おやすみの、モフモフをして行った。そして、鍵を掛けるとか、中途半端なことはしない。魔法陣を小屋に直接描き、結界を張る。


 そして、就寝したのだが、どうやら寝かせてくれないみたいだ。ボムを見ると、気付いていても、起きる気はないようだ。面倒だが、仕事だから仕方がない。装備を整え、外へ行くと、ちょうど暗部が数名、王女のテントへ近付いていた。


 もう、連絡していたのか?

 と思ったが、聞き耳を立てていると、定時連絡がなかったため、様子を見に来たようだった。お仕事ご苦労様。だが、残念。楽しみにしている、晩酌からの娼館コースは、二度と味わえないのだ。さらば。


 ――属性纏《暴嵐》――


 ――魔闘術《疾風》――


 夜に雷は、目立ちそうだったため、暴嵐属性に留め、速さに重点を置いた、攻撃方法で瞬殺した。早く寝たいのだ。今日は、おデブを空を飛びながら運んだり、戦闘したりと、なかなかに濃い一日を送っている。


 身ぐるみを剥ぎ取り、メイドが入っていた穴に、放り込んで置いた。現在この穴は、転落防止として柵をつけてあり、ゴミ箱として利用している。明日出発前にまとめて燃やし、穴を塞ぐのだ。

 燃やすのは面倒だったので、そのまま放置した。乗ってきた馬は、ボムに怯えていた馬の近くに繋いで置いた。彼らが諭してくれるだろう。


 小屋に入り、横になるとボムが一言。


「ご苦労」


 相変わらず、偉そうだ。

 だが、律儀にも起きて待っていてくれた。それで、良しとしよう。







 そして、明くる朝。

 外が騒々しい。何か気になり外へ。


「おはようございます。どうしました?」


「おはようございます。これ、あなたが?」


 冒険者の一人が穴を指さし、聞いてきた。ああ。忘れてた。


「昨夜、夜盗が出ましたもので、屑入れに入れて置いたんですよ」


 と、笑顔で言ってみた。


「そ……そうですか。それは、お疲れ様でした。屑は屑入れにですよね。わかります」


 引きつった笑みを浮かべ、そう返してきた彼は、なかなかに、肝が据わっているようだ。


 昨日の晩飯がお気に召したようで、期待の目を向けてくる。まぁ昨日、後始末を手伝って貰ったのだ、今回くらいはいいだろうと、小屋へと招待して、全員で朝食を取り、出発の準備をすることにした。


 昨日なんちゃってアイテムバッグから、バイクや飯が大量に出るのは、おかしいと思っていたが、そもそもこの小屋が出て来ていたのだ。完全に失念していた。まあ、何も言うまい。察してくれ。

 そして、バイクへ乗り込む。


 さぁ! 出発! 


 と思ったが、そうもいかないことを思い出した。まずゴミを燃やし、穴も埋めた。続いて、新たに増えた馬を、檻に改造した荷車に繋ぎ、冒険者が操る。馬の数が増えたため、そこそこの速度が出ていたのだが、バイクには及ばない。暇になったのだろう、ボムとカルラが遊びたいようだ。


 サイドカーを切り離し、好きに移動させることにした。カルラの指示を聞いて、ハンドルを操るボム。異世界だとしても、群を抜いて不思議な光景だろう。そして、可愛く微笑ましい。満足したのか、帰ってきた。再度、サイドカーを装着して、走ること約一時間。昼頃には、王都を目にすることが、出来たのである。


「到着ですね。このあと、どうします?」


 このあとの予定を聞くことにした。個人的には、冒険者ギルドに行きたい。お金が、そろそろ補充しなければ、不安な額になってきたのだ。さらに、ここに来るまでに冒険者に聞いた話が本当だとしたら、宿がない。テイマーを泊める宿がないため、スラム街か外壁の外で小屋生活なのだ。


 そして、学園国家に行くためには、何か実績が欲しいらしく、王都近くにあるダンジョンでもサクッと、踏破しようと思っている。一番早いのは、Sランク冒険者になることだ。Sランク冒険者は、どの国もフリーパスなのだが、面倒事が待っていそうで、出来れば御免被る。


 学園国家は、意外にもテイマーに優しいらしく、高級宿もあるそうだ。テイムや召喚術の授業があるからだろう。だから、さっさと行きたかったのだが、そうもいかない。


 昨日、カルラを含めた女性陣が意気投合して、数日後にある、王女の誕生日パーティーに誘われているのだ。カルラが……。

 必然的に、俺達も行くことになる。しかし、昨日の惨状を見て、よく誘う気になるものだ。俺なら無理だ。実際、シュバルツも驚いていた。しかし、カルラの鶴の一声で、ボムさん陥落。


『友達のお願い聞くのー! 誕生日行くー♪』


 という、可愛いお言葉である。だが、一つ言いたいことがあるため、言わせて貰う。


「昨日のようなことをする阿呆が、また現れたら同じことになるが、構わないよな?」


「是非お願いするのじゃ! 友達を傷つける者は許さんのじゃ! 妾もカルラを守るのじゃ」


 そう言った王女に抱きつくカルラ。


『リア、ありがとう♪』


 王女は、抱きつかれたのが、嬉しかったのだろう。モフモフしながら、毛並みを堪能していた。それにしても、愛称で呼んでいるみたいだ。


 約束のことを思い出していたら、このあとの方針が決定したようだ。


「まずは、冒険者ギルドへ向かいます。今回王女殿下は無事でしたから、急ぎ報告する必要はなく、王城に敵の手の者がいた場合に備え、裏付けを行っておこうと思います。さらに、この時点で騒ぐ者がいた場合、あぶり出しが可能となるため、しばらくはこのままいつも通りに行動しようと決めました。情報が漏れないように、檻の穴を塞いで空気穴くらいにしてもらえませんか?」


 さすが。真面系騎士。しっかりしている。それに、冒険者ギルドへ行けるのだ。文句があるはずないだろう。


 これ以上、バイクで行くのはマズいので、降りることにしたのだが、ボムが荷車に乗ろうとした。壊れるから、辞めてほしい。


「少しくらい歩けばいいだろう。もう目の前だぞ。それに、馬が死ぬ」


「失礼な。馬は、そう簡単には死なないぞ。なあ?」


 失礼というのは、どうやら馬に対してのようだ。だが、馬たちも、おそらく死ぬかもしれないことを、分かっているのか、何も言わない。元々話さない馬だが、コイツらは表情豊かなのである。特に、ボムの行動について常に観察し、一喜一憂しているのだ。


「返事の仕方を忘れてしまったのか?」


 ボムがそう言うと、バトルホースまで一緒に嘶いた。


「ほら、言った通りだろ」


 自分で言わせておいて、よく言う。冒険者は間もなく解放されるだろう。阿呆共もだ。だが、果たして馬は解放されるのだろうか。少なくとも、バトルホースは解放されない。自分の主がこの熊の娘を、家に招待しているからだ。他の馬は、それが分かっているのだろう。同情の目を向けた。




 そうこうしているうちに、王都の門が見えてきた。


 冒険者になり、冒険に思いを馳せるもの。早く解放されたいもの。モフモフとの別れを惜しむ者。主人の無事を願う者。それぞれの思いを胸に……いざ! 王都へ!

 

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