第二十八話 後始末
さて、上手に焼けた阿呆は、口の中は多少良くなり爛れも治ったが、コイツが誰なのかを判別出来ない顔になっていた。まあまあのイケメンだったのに、残念だ。これでは、せっかく男色愛好家を邁進させてやったのに、社交会に行けないではないか。唯一のミスだと、反省したのだった。
続いて、触りたくない奴はまだいる。現在、蓋をされた穴の中にいるメイドだ。とりあえず、蓋を開けてみた。だが、見えない。仕方がない。
「照明」
生活魔法で灯りを点けると、ありとあらゆる汁を出し、痙攣している女性が一人と、デカい虫が一匹。一応、あの虫の毒を、回収しておこうと思って、魔術を使うことにした。しかし、どう見ても硬そうだ。一瞬重力魔術で、押し潰そうかとも思ったのだが、メイドも死んでしまう。それはダメだ。
そこで、いいことを思いついた。女騎士風阿呆の剣を、また借りよう。剣の先にロープをくくりつけ、魔術を発動する。
――暴嵐魔術《風刃》――
雷霆魔術の雷刃と同じような物だが、雷刃とは違って放電による副次的な効果はないので、近くにいるメイドも当たらなければ、無事であろう。そして、先に返しが出来るように刃の形を作り、投擲術を使って投げる。まるで銛のように。
すると、見事虫の胸に命中。そこまで終わらせると、冒険者の意識が戻ってきたので手伝わせることにした。
「あまり時間がないので、手伝ってもらえませんかね? このロープを引くだけでいいんです」
各々手伝わなきゃマズいと思ったのか、すぐに動き出した。チラチラと足元を見ているのは、罠が怖いのだろう。彼らにトラウマを植え付けてしまったようだ。そして、上がってきた虫をなんちゃってアイテムバッグに突っ込んで、剣の魔術を解除した。
即、解体屋送りで、毒は無限収納庫の方にしまっておく。ストレージの方に入れておくと、カルラやソモルンが触ってしまうかもしれないからだ。薬は子供の手の届かないところへ! が、基本である。
あとは、メイドだ。
生活魔法で綺麗にしてもいいが、心も綺麗になりそうな方法がいいだろう。と言うことで、冒険者を横目にしながら、穴に向かって魔術を放り込んだのだ。
――流水魔術《渦潮》――
穴を水が満たしていき、グルグルと激しく渦巻いていく。横で真っ白な顔をした冒険者達を一瞥して、メイドが綺麗になるのを待つ。しばらくすると、びっしょりと濡れたメイドがそこにいた。渦を伴った水は、渦だけを消し去りそこに残っていた。水は魔術で作っても残るのだ。不思議だが、生活魔法ですらそうなのだから、気にしても無駄だ。
プカプカと水死体のように、浮いているメイド。チラッと冒険者を見ると、気付いてくれたらしい。またも、女騎士風阿呆の剣を使って、メイドをたぐり寄せる。一応生きているようだ。なかなかにしぶとい。
それにしても、女騎士風阿呆の剣は、役に立つではないか。本人と違って。ライトニングドラゴンと通じる物があるのかもしれないと、一人思うのだった。
その女騎士風阿呆は、特に怪我という怪我はしていない。強いて言えば、貫かれた胸だろうが、雷の放電により、焼かれていて止血も済んでいる。それ故、放置でいいだろう。
あとは、竜体験ツアーを楽しんでいる、お客さん達だけである。まあ、本物の竜は、この阿呆共のようにただ上下しているわけではないので、全く違うのだが空を飛べるのは、いいことだろう。
「楽しげにしてるが、そろそろ終わりにしてもらおう」
そう言い、魔法を解除したのだが、横からの視線が痛い。きっと、楽しんでいるのは、目の錯覚だ! と、言いたいのだろう。そんなことは分かっているが、とりあえずは無視だ。
そして、モブ中のモブにさらなるお仕置きをと、思ったのだが無理なようである。足音が聞こえてきたので、生活魔法で綺麗にして、メイドと男色愛好家の横に並べた。俺がやったのではない。冒険者達である。あとは、草に支配された、女騎士風阿呆なのだが、命令を聞かせる方法は、あるにはあるが面倒なので、放置することにした。
そこまで終わって、やっとシュバルツ達が来た。何名か、冒険者達の人数が減っているが、騎士風阿呆共の人数は変わっていないはずだ。そこで、この光景を見て混乱しているのだろう。シュバルツが質問してきた。
「これはいったい……。何故このようなことが?」
そう、俺に聞いてきたので、全員で返答することにした。
「俺がやったことではあるが、皆に聞きたい。俺とこの阿呆共のどちらが悪いだろうか? 悪いと思う方を指差して欲しい」
すると、全員が阿呆共を指差した。あの無口な女騎士もだ。
当然だろう。
カルラを寄こせと言って、集団で襲って来たのだ。返り討ちに遭ったからと言って、被害者面するのは許されない。そして、自分達もこうなりたくなかった彼らは、もちろん敵対するという選択肢を選ぶことはしないのだった。
先ほどからいくつもの魔術を使い、あり得ない体術も使う。連れている熊も規格外と来ては、彼らにはどうすることも出来ない。これが一般人とか言っているのだ。夢なら覚めてくれと、心を一つにする。馬を含めて。
そしてそんな彼らのハードな一日は、まだ終わっていない。すぐにでも寝てしまいたいが、許されない現実が、まだ目の前にあるのだ。
「彼らはほとんど関与していないので、客観的に説明することが、出来ると思います。ですから、彼らに聞いて下さい」
そう言われた冒険者達は、早く解放されたくて一生懸命に説明する。そして、無口な女騎士と馬は、肯定するかのごとく、縦に首を振り続ける、首振り人形と化したのだった。暇になった俺は、結界を解除してカルラを迎えに行った。
『兄ちゃん、かっこよかったよー! ありがとう♪ 守ってくれて』
カルラは、俺の頬にも感謝のキスをしてくれた。可愛い妹を守るのは、俺の生きがいの一つである。当たり前のことだった。
「ご苦労。よくやった。なかなかに面白い罰だったな」
ボムさんにお褒めの言葉を頂いたところで、説明が終わったらしい。
「申し訳ありませんでした。まさかこのようなことをするとは思わなく、配慮に欠けていたことを、深く謝罪いたします」
と、シュバルツが土下座で謝ってきた。
「シュバルツさんが、したわけではないので、気にしないで下さい。ただ、家族を寄こせと言われて、すぐに差し出すような屑は、この国にいるのですか? それならば、差し出さなかった俺が、おかしかったのかもしれませんが、普通はいないでしょう。それともこの国は、家族を差し出すことを義務付けているのですか? そのようなことがあるならば、残念ですが、あなたたちを助けることは、できません」
半ば、八つ当たりであった。
いくら竜でも、家族なのだ。
それを国に献上しろとは、頭がおかしすぎて、むしろ国の指示かと思うくらいだ。そして、シュバルツは分かっている。それが許されるなら、目の前にいる俺が、王女を奪っても構わないだろう? と、言っていることを。
もちろん、そのようなことはしない。だが、心情的にはそういうことだ。自分は良いが、他は駄目だという理屈は通らないのである。忠告も警告もした。それでも起こったことに、いささか怒りがにじみ出てしまったようだ。
「そんなことはありません。王都に帰った後、厳正なる処分をし、正式な謝罪をさせて頂きます。それまで、どうか御容赦いただけないでしょうか?」
真面な騎士がそこまで言うのだ、大丈夫だろう。王女や無口な女騎士も頭を下げている。
「そうか。なら、あとは任せた」
ボムも納得のようだ。
そのあとは、阿呆共の武装を解除していき、拘束していく。そこで、ふと気付いた。コイツらどうやって運ぶんだ? 足が動かない奴も、廃人一歩手前のやつも、草人間もいる。どうしようかと、考えていると、近くに林があるのが見えた。
「ソイツらを運ぶのに、荷車か何かが必要だろう。ちょっと作ってくる」
そう言い、林へ向かう。
実際、この林にはずっと来たかった。理由としては、お忘れかもしれないが、騎士が放った斥候が戻ってきていなかったと思う。ソイツがいるのだ。コイツが裏切り者で、この国の暗部らしい。
今回のことを遠目で観察しており、コイツが下手な報告をして纏わり付かれるのは、はっきり言って迷惑だ。始末出来るときにするのが一番である。
遠目から俺が近付くのが見えたのだろう。動き出したのだが、無駄である。
――属性纏《雷霆》――
雷霆属性の魔力を纏っていることで、その特性を使った、移動や攻撃が出来る、お気に入りのスキルだ。プルーム様の下で学んだ中で、一番の収穫であった。
次の瞬間には、斥候の首はサバイバルナイフの斬撃を受け、宙に舞っていた。とりあえず、装備品や身分証明などを剥ぎ取り、馬の鞍とともに、燃やした。馬は捕まえたことにしようと思ったのだが、どうやら逃げてしまったようだ。まあいいか。この林には、そこそこ強い奴がいるから、ソイツのご飯になるだろう。召し上がれ。そして、お粗末さま。
そして、木を数本倒しプモルンに荷車を作って貰い、なんちゃってアイテムバッグに入れて、野営地に戻った。荷車を出したときには驚かれたが、面倒だったので、錬金術だということにした。決して、嘘ではない。製材するときに使うからだ。
やっと飯というところで、カルラと王女が、もじもじしている。そういえば、王女は今まで、何をしていたのだろうか。カルラも珍しく、もじもじして、ボムに何かをおねだりしていた。
「おい。娘。一緒に飯を食わないか?」
ボムから王女への、まさかの夕食のお誘いである。そんなボムに、王女はというと……まるで待ってました! というかのごとく、頷いた。
「是非」
「じゃあ来たい人は小屋の中へ」
そう誘い、結局全員で中に入ることになった。だが、うちにはテーブルとイスはない。テーブルマナーとか関係ない。それでも構わないかと、聞いたところ大丈夫だそうだ。
冒険者達はそれが普通の野営だと思っているし、騎士二人も遠征で慣れているため、特に何もなかった。
とりあえず、いつものようにプモルンに出して貰って、それを運ぶという、二度手間である。あまり大容量のアイテムバッグはない。あんなデカいバイクが、入っているのだ。そこから、大量の食事が出て来たら、さすがに怪しまれるため、カモフラージュ用キッチンがあるのだ。
実際簡単なものなら、ここで作るし、洗い場として使ってもいる。そして、見た目にも珍しい、料理が並んでいく。さすがに、酒はなしだ。
食べ始めたあとは、初めてのボムやソモルンのときのように無口になり、バクバクと咀嚼していった。おかわりを続け、最後にデザートを出して食事を終えたのだが、相当衝撃的だったのだろう。何人かは、未だに放心していた。
ちょうど一息つけたので、ずっと聞きたかったことを聞くことにした。
面白いと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。
とても喜びます。




