第二十六話 盗賊風騎士
ここで、進めるだけ進んでおきたいのだが、馬の数が足りない。正確に言うのなら、俺達が乗る馬がないのだった。だが、まだ会ったばかりの者の馬車にも乗るのも、乗せるのも嫌だろう。
そこで冒険者には、二人で乗ってもらうことにしたのだが、なぜこうなっているかというと、ボムの我が儘が原因である。
ボムは、馬を一頭端に連れて行き、魔術で踏み台を作る。そこで、馬も気づいたのであろう。本人としては、無理だ。と、猛抗議していたのだが、受け入れられることはなかった。そして、馬を諭し始めたのである。
「分かっているだろう。お前がすることは一つだけだ。俺を乗せることが、一番早く帰れる方法だぞ。ご飯をいっぱい食べて、よく寝たいだろう? さっきの阿呆みたく、真っ二つにはなりたくあるまい。さあ、その背を貸すのだ」
と、後半は脅しだったが、効果てきめんだった。しかし、物理的に無理だ。ボムは今、プルーム様に貰った魔道具を身につけて小さくなっているのだ。ちなみに、腕輪だ。意外にも気に入っている。
そして、大きさは変わるが重さは変わらないのだ。体重計がないから、はっきりとは分からないが、馬が圧死する重量であることは、間違いない。これではマズい。移動手段が一つなくなる。
「ボム。死ぬぞ。その馬。ソイツが死んだら、ソモルンに会うのが遅くなるぞ? いいのか?」
そこでピタリと止まるボム。
「それは困るな。だが、走るのは嫌だぞ。あれは、出せないのであろう?」
ボムが言うあれとは、気球のことである。正確には違うのだが、彼には変わらないようだ。
このままでは埒があかないし、馬が必死に助命を訴えてきている。仕方がない。趣味で作った、アレを出すか。
ぶっちゃけ、馬も乗れなければ、馬車も御せないのだ。歩くか、走るか、空を飛ぶしかない。もう、カルラが見られたのだ、構わないだろう。
「以前作ったアレを出すから、それで勘弁して馬は放してやれ」
「そうか。アレを出すのか。まあ馬は残念だが、しょうがないな」
そう言い、解放される馬。
コイツは、ボムに観察されていた馬でもある。今日一番の被害者は、間違いなくコイツであろう。とりあえず、バトルホースを治してやり、続いて、なんちゃってマジックバッグから、乗り物を出す。
バイクである。
しかも、サイドカー付きで。
更に言えば、コイツにプモルンをセットすることで、同期して補助もしてくれる、マジックバイクである。名前はダサいが、とんでもない代物である。
まず、武装がついている。
自動運転も可能だ。実際には、プモルンが運転するのだが、ボムも運転している気になれるのは、楽しいらしい。ボムは普段、サイドカーに乗っている。カルラと一緒に。
サイドカーにも武装はついているし、切り離しても魔力タンクが空になるまでは、自走できるのだ。他にもあるが、使うか分からないから、まあいいだろう。
そして、一番の目玉は、カーナビならぬバイクナビだ。ほとんど、プモルン任せであるが、行きたい場所や情報を入れれば、道案内が可能になる、優れものである。
続いて、このバイクは、解析防止のため、要所要所にロックがかけられており、解除を失敗すると爆発する仕組みになっている。
天罰設定である。
さらに、盗難防止のため、俺の魔力紋を一位に登録し、二位にボムを登録してある。カルラのものは、登録していない。好奇心旺盛な子に、危険なおもちゃを持たせたらいけないのだ。
そして、エネルギーの充填にも安全性を第一にしており、雷霆属性の属性纏によって充填しているため、今のところできるのは、雷霆属性の神獣か俺かボムしかいないのだ。
故に、おそらく大丈夫だと思い、出したのだが、メイドがヤバい。目の色が、通貨の単位に見えるほどだった。
あと、さっきからずっと、気持ち悪い目でカルラを見ている男と、阿呆な女騎士。もう一人の大人しい女騎士は、真面そうなのに、コイツは病的にまで見下しているみたいだ。
まあ今は無視しよう。
カルラを抱いたボムが乗り込む姿は、先ほどまで馬を脅していたとは思えないほど、可愛かった。その姿を見た王女は、ボムとカルラを見て頬を緩めている。可愛いものが好きな、お年頃のようだ。強欲な愚者どもに、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
そして、移動してしばらくすると、大木がある場所が見えてきた。近くに小川も流れているようだ。
水は生活魔法があるんだから、関係ないのでは? と、思ったのだが、魚を確保出来るかもしれないとのことだ。王族は、硬いパンは食べないか。
ついて早々、まずバイクをしまう。
そのとき、ポーチを見ている者が何人かいるが、生憎とそのポーチは、ただの布で出来たポーチである。俺のお古で作ったのだ。
これなら盗まれても、チクリともしないからいいだろうと思ってだ。むしろ、パンツも使ったから、ざまぁと思うかもしれない。
さて、護衛の仕事は受けたが、雑用をやるとは言っていない。冒険者ですらない、一般人に言ってきているのだ。しかも、値段設定もしてない報酬で。
つまり、勝手に野営の準備をして、勝手に飯を食っても構わないはずなのだ。
俺らは、プルーム様のところで、小屋を造った。そして、目の前にあるこれも造った。小屋二号である。拡張機能付きテントを創るまでの、代用品だ。しかし、残念ながら、風呂はついていない。
その小屋の中に入り食事をしようというところで、邪魔が入ることになる。
そこにいたのは、女騎士風阿呆と、気持ち悪い男である。
「なんだそれは? そういう物は王族か、我ら貴族に献上する物だろう。平民ごときが使っていい物ではない。それが分からないとは、親の顔が見てみたい。慰謝料代わりにそこの竜をよこせ。それで許してやる。高く売れそうだ」
「そうよ。私達に攻撃しておいて、殿下の護衛とか、きっとよからぬことを企んでいるんだわ。殿下のために、排除しなくては。あなたたちもそう思うでしょう? 今手伝えば、竜を売ったお金は山分けよ」
と、阿保みたいなことを話していた。
この場所には、殿下はいない。
彼女はシュバルツと打ち合わせをしているのだ。モフモフを触るために。
そして、馬とともに、離れたところから見守るというか、逃げている冒険者。この場にいる阿保は、しゃべっている二人と、あとから駆けつけてきた騎士風の者と、なぜかメイド。
まとめて処理するにはちょうどいいのだが、いささかイラつくことを言っている。まず、カルラが怯えてボムに抱きついてしまった。これから美味しく楽しい食事だったのに、怖い思いをさせてしまった。
更に言えば、俺らはこの国の国民ではないのだ。頼まれてここにいるのだ。王族も貴族も関係ない。まだお世話になっていない。むしろ、お世話をしているのは、俺達だ。
あと、言っては悪いが俺の両親は神々だから、不敬なのは、お前達である。
そして、最後に殿下のためと言いながら、欲に目が眩んだだけの亡者である。殿下はモフモフしたいのだから、傍迷惑なだけであろう。
チラッと横を見ると、お怒りの熊さんが一言。
「やれ」
そう言いながら、震えるカルラを撫でるボム。その様子を見た馬は失禁して震えだし、冒険者はシュバルツ達を呼びに行った。
果たして、連れて戻ってくるまでに、立っている者はいるのかどうかは知らないが、おそらくいないであろう。なぜなら、誰も許す気はないのだ。
だが、阿呆世にはばかる。
と言う言葉が出来そうなくらい、阿呆がたくさんいる。その内の一人が、先ほどの気持ち悪い男なのだが、まさかの提案をしてきたのだ。
「俺が一騎打ちをしてやる。たかが平民ごときに大勢でやるなんてみっともない真似はできない。有難いと思えよ」
「平民ごときに集るのは、みっともなくないのか? それに、手間だから一辺にかかってきてくれた方が助かるのだが、そう言う機微が分からないとモテないぞ。まさか、社交界では男色愛好家を称しているのではないだろう?」
そう挑発すると、額に青筋を浮かべ、顔を真っ赤にして怒りだした。
「殺してやる……殺してやる」
「出来もしないことを言うなよ。弱く見えるぞ?」
挑発を繰り返しながら、地面を十カ所程魔力を流しながら歩く。
もう、辺りは薄暗く、周囲の状況把握が重要になってくる。相手は、俺の挑発で俺にしか目を向けていない。そして、俺は腕を組んでその場で佇む。
「そんなに怒っていていいのか?」
そう話したところで歩き出し、立ち止まる阿呆。目標地点に辿り着いてくれたことに感謝しながら、魔術発動。
――大地魔術《槍》――
次の瞬間、奴の股間に岩の槍が突き抜け、体が浮いた。これは、自作の罠魔術である。まだ有線でしか発動できず、さらにコントロールが難しく手の指の数までしか、使えないのだ。そして、強力な魔術は魔力供給が安定せず、発動出来ない。
だが、それを補って不可視性と、発動の速さが優れているのだ。
それによって出来た岩の槍を、射程範囲外だからといって気を抜いていた股間に叩き込んでやったのだ。
生物は基本地面に立っている。
そのため、大地魔術はとても有用なのだ。そして、容赦なく尖った槍を股間に食らった奴はというと、鎧の効果も意味をなさず、凄絶な音を鳴らしながら去勢された。激しい痛みのためか、地を転がっている阿呆に素敵な言葉を贈ろう。
「これで名実ともに、男色愛好家を邁進出来るな。感謝しろよ。だが、望みはある。部分欠損回復のポーションを手に入れるか、回復魔法士に股間をさらせばいいだけのことだ。その度胸があるのならな」
そう言うと、冒険者達は、股間を隠し地面を確認していた。
そして、ボムは手を叩いて大爆笑である。カルラにも、兄ちゃんがやっつけてくれるぞ。と言って、観戦モードである。
やっと麻痺したのか、起き上がってきた阿呆が鬼の形相で話し出す。
「卑怯だぞ! 魔法を使うなんて卑怯だ」
訳が分からない。
「なら、その立派な剣で貫いてみせてくれないか?」
そこまで言うのだ、剣なら負けないと言うのだろう。だが残念なお知らせがある。剣聖の称号は、あそこで手を叩いて大爆笑している熊さんだ。つまり、あれより弱いと言うことだろう。
それなら安心である。
「うおぉぉぉぉぉ!」
と叫びながら、突きを放ってきたのだが、武技でもないのか?
そんなもの効くわけないだろう。
俺の体の周りには常に、魔力の膜で覆っているのだ。鎧がどうのとかの次元ではない。鎧やローブにすら届いてないのだ。
「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」
混乱する阿呆を見て、なんだか面倒になってきた。ボム達も腹が減ってきたことだろう。
「さて、いいかな? そろそろ面倒になって来たのだが、覚悟を決めてくれ。じゃあ、いくぞ」
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