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第二十五話 のじゃロリ

 さて、これから話を聞こうと思っていると、騎士風の者が街の方向から、馬で駆けてきた。だが、ここに近付くことはない。理由としては、馬が怯えて混乱しているのだ。何に怯えているのかと言うと、ボムにである。


 ボムは、何か考えがあるのか、盗賊風阿呆達が乗ってきた馬を観察している。観察されている馬は、今にも失神しそうで、周りの馬は被害に及ばないように、微動だにしない。


 それを遠目に目にしたのだろう。

 あそこには行きたくない、というかのごとく竿立ちになったり、嘶いたりと大混乱だった。騎士風の者達は、それを収めるのに苦労をしているようだったが、当然そんなものは、無視だ。


「それで、この状況を説明してもらえないか?」


 何か言いたそうにしているが、話さない。早くしてくれないかな? と思っていると、あることを失念していた。麻痺していたのだったな。


 ――状態回復魔法リカバー――


 生命魔術を使えば、全快するのだが、なんか面倒なことになりそうな気がしたため、比較的使い手が多い魔法にした。


 まずは騎士風の者達だけを回復した。

 一気に全員を回復すると、会話になりそうになかったからだ。

 だが、その考えはすぐに覆されることになった。


「貴様! 何をする? こんなことをして、無事でいられると思うなよ」


 と、女騎士風の一人が、言ってきた。

 あっ! コイツも阿呆か……。

 今の現状が分からないようだ。

 現在コイツらは、馬車に乗っている誰かさん以外は、全員拘束されている。無事も何も、お前らの生殺与奪の権利を握っているのは、俺だ。


 そのことを分かっているのは、この女騎士風阿呆と最初に絡んできて、吹っ飛んでいった盗賊風阿呆以外の全員だ。未だに痺れている者もいるのに、全員の視線がソイツに集中した。

 コイツはいったい何を言っているのか? と、今にも口から出そうである。


「馬鹿か? 貴様! 助けて頂いて、まず最初に罵声を浴びせる奴がどこにいる? 礼儀も知らんのか? 

 ……本当に、同僚が申し訳ないことをしました。貴殿の助太刀がなければ、全滅していたことでしょう。そして、あの方法が一番確実で被害が少ない方法だったと言うことは、十分理解しています。どうか、話を聞いて頂けませんか?」


 と、真面な言葉をやっと言えるやつが現れた。そう話した騎士は、先ほど一人盗賊風阿呆と対峙していた者だ。コイツが、一番真面なのかもしれない。コイツに聞こう。だが、隣の女騎士風阿呆がうるさい。まあ、すぐに静かになったから、よかった。


 理由は、ボムさんのチョップだ。カルラが昼寝中なのだ。それを邪魔する奴は、きっとドラゴンでも許さないだろう。


 おっ! みんな姿勢を正して、素直に話してくれそうだ。ボムさん、ナイス。そして、話を聞くことにした。


「私たちは、ドライディオス王国第三王女殿下の護衛騎士隊です。王女殿下は、まもなく学園国家グラドレイにある、国立魔法学園に入学されるため、その準備として、杖の新調をしにお忍びで外出されていました。

 王女殿下は、自分の使い物の材料くらいは自分で調達されたいと仰り、魔境の外縁に生えている、魔樹の枝を採りに行ったのです。その帰りにここで待ち伏せを食らい、御覧の有様です。

 ただ、部隊の中におそらく、裏切り者がいるでしょう。斥候も放ちましたが、未だ戻らず。さらに馬車を牽くバトルホースに毒を盛り、痺れて動けずにおります。どうかご助力願えませんでしょうか? 御礼は必ずいたします。私が、この身に変えましても、必ず約束を果たします」


 うーん。真面だ。驚く程に。

 これを演技で出来たら、コイツには天性の詐欺師の才能があるということだろう。まあ、とりあえず盗賊風阿呆どもの話を聞くことにしよう。コイツらにも言い分はあるだろうから。

 同じように、回復してやると……


「どうもすいませんでしたー! 仕事だったんです。確かに、お抱え冒険者です。でも、今回はギルド経由の仕事だったんです。依頼書もあります。

 依頼内容は、貴族の子女の脱走幇助だったんです。騎士が拘束しているという内容で、騎士と分かって攻撃するのは問題行為のため、知らない顔をしていたんです」


 という、滅茶苦茶怪しい話をしてくる。そこで登場。自作魔道具。連続使用は、まだ出来ないがスクロール一枚に対して一回使用のコストがかかる、嘘発見魔術である。

 それを説明して、試すが構わないか? と聞くと、構わないそうだ。


「じゃあここに手を置いて、魔力を流してくれ。生活魔法を使うときくらいの魔力で大丈夫だ。では、質問するぞ? お前は嘘をついているか?」


「いいえ」


 ……反応なし。

 どうやら本当のようだ。

 とりあえず、無罪放免かどうかは知らないが、俺がどうこうするということは、必要ないようだ。あとはギルドの仕事だ。そんな訳の分からん仕事を斡旋するのだからな。そこにも阿呆がいそうだ。


 さて、どうするかな。

 とりあえず、武装を返そう。

 一応どちらも被害者のようだし、馬が怯えて逃げられないというのもある。だが、まずはこのときになっても姿を現さない、王女殿下をどうするかなと思う。

 ちなみに、近くの街が王都らしいので、馬だけ回復して、さっさと置いていきたかったのだが、武士の情けなのか、ボムが騎士を気に入り同行することになったのだ。


 しばらくすると、今まで気絶していたらしい、王女が馬車から降りてきた。メイドを連れて。

 リアルメイドだ! と、思ったのは内緒だ。


「話は聞かせてもらった。この度は本当に助かったのじゃ。そして、護衛が無礼なことを言った。どうか許してほしい。この通りじゃ」


 そう言い、頭を下げた王女殿下は、幼さの残る顔立ちをした美少女だった。プラチナブロンドの腰までの髪に、どこか吸い込まれそうなほど綺麗な蒼い瞳。小振りながら、張りのある唇と、更に透き通る肌の白さ。絵に描いたような美少女である。

 まぁスタイルは年相応だが……将来どころか、既に引く手数多であろうことが覗える。


「ああ。構わない。阿呆はどこにでもいるからな。ただし、俺の家族に手を出す者に容赦はしない。それだけは、肝に銘じておいてもらえると助かる。余計な手間がかからないからな」


 カルラがそろそろ起き出してきそうだったため、先手を打つことにしたのだ。軽く威圧をして警告しておいた。これでも何かをして、カルラを悲しませるのなら、容赦はしない。


 そこまで言って、自己紹介することにした。同行する以上、名前も知らないでは手間がかかりそうだからだ。

 だが、話の分かる騎士と、一応王女以外は必要ない。覚える気もない。


「俺は、ラースという。年はもうすぐ十になる。職業は一応テイマーになる。短い間だが、よろしく頼む。

 そして、見て分かるだろうが、二足歩行で歩く熊だ。そして、ただの熊じゃない。名前は、ボムだ。もうすぐで起きるだろう子もいるが、くれぐれもその子の嫌がることは、しないでくれ。警告ではなく、忠告だ。あそこの熊の娘だからな」


 そこまで聞いて、皆心の中で色々突っ込みを入れたであろう。年齢、職業、訳の分からん熊に、その子供。職業なんか、詐欺としか言いようがないだろう。戦闘中も戦闘後も、熊は何もやっていないのだ。強いて言えば、チョップだけだ。

 それも、あんな態度を取らなければ、何もしなかったのだから、それは嘘では? と、言いたくなるのも分かるが、この世界の常識としては、魔物を連れている者はもれなくテイマーなので、なんの問題もないのだ。

 彼らが納得するかどうかは別として……。

 そして、混乱しながらも、しっかりと自分の紹介をする王女と騎士は、さすがだろう。


「妾の名は、リリアーナ・ドライディオスという。年は十になる。ドライディオス王国第三王女である。手間を掛けるが王都までよろしく頼む」


「続いて、私の名前を。私は、シュバルツ・レスターです。年は十八になります。職業は、騎士です。この度は、本当に有難うございます」


 と、あいさつする。

 それに、返事をするボム。


「構わん。お前が気に入ったからな」


 自分の身に変えても、主を守りたいと言う彼に心を打たれたようだ。ちなみに、その他も軽くあいさつしたが、聞き流した。


 ここでやっと、混乱した馬を収めた者達が駆けつけた。そして、阿呆だった。魔物だと、勘違いしたボムに斬りかかったのだ。しかも、ちょうどカルラを抱いてる位置に。

 それに何より、お気に入りのマントに向かって、剣を振り下ろした阿呆は、逆にボムに屠られ命を散らした。そこにいる者、皆が呆然と立ち尽くしていた。


 まあ、自業自得だろう。

 従魔の証の赤い物は、しっかりと身につけていたし、従魔に斬りかかるのは逆に犯罪なのだ。ただ、今まで手ぶらだったボムが、どこからともなく黒い剣を取り出し、次の瞬間には騎士が真っ二つになっていたのだ。

 呆然となる気持ちも分かるが、本人としては虫を払った程度である。


「おい。アンデッド対策に燃やすのだろう? 手伝ってやろうか?」


「死体持っていきます?」


 俺とボムがそう言ったところで、気がしっかりしてきたのだろう。あとから来た者達は、怒りを持った者もいたが、従魔の証をしていることに気が付いたため何も言わなかった。それも当然だ。自業自得なのだから。

 ちなみに、ボムだけではなく、カルラもプモルンも身につけている。


「いや、遺品だけを持ち帰り、死体は燃やす」


 シュバルツがそう話し、指示を出していく。無限収納庫に入れれば持って帰れるが、斬り掛かってきたやつを連れて帰る義理はない。


 そこで、カルラが目を覚ました。

 マントから出て、外の様子を眺める。その光景を見て、その場にいる者の心の中は様々だっただろう。特に一番多かったのが、先ほど自己紹介をしたときにいた者だろう。

 娘って言ったじゃん! って思っただろう。それはしょうがない。目の前にいるのは、熊ではなく竜なのだ。どう考えても種族が違うだろ。と、思った事だろう。


 だが、考えてみて欲しい。

 もう慣れてしまったのか分からないが、確実に一番おかしいのは、二足歩行で歩く、人族の言葉を普通に話す熊なのだ。それに比べれば、娘が変わった色の竜だとか、普通に思えるぞ。


 そして、カルラを見て、欲に塗れた目になる者もいたが、幸いにも最初から現場を見ていた者にそのような阿呆はいなかった。起きている者限定でだ。

 ただ、今言ったように最初からであり、王女とメイドは最初からではないのだ。王女は、純粋な興味によるものだろう。さっきからずっと、ボムを見ているからな。そのせいで、斬殺シーンを見てしまったが……。


 問題は、怪しさ満点のメイドだ。彼女は、おそらく武闘メイドというやつだろう。隠蔽系の魔道具は使っていないが、魔眼感知の魔道具を使っているため、よく分からないのだ。ただ分かるのは、王女のメイドではないのだろう。

 要注意人物だ。ボムとカルラにも注意を促しておいた。カルラは好奇心旺盛だから心配だ。


 さて、もう日が暮れる。

 戦闘があった場所で寝るのは嫌なので、少し先で野営をすることにした。


 怪しい奴。

 欲望に塗れた奴。

 そして、阿呆。

 色々な奴がいる中での野営は、果たして無事に終えられるのだろうか。




 おそらく、無理だろう。

 王都に着く頃には、何人になってるかな?




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