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第二十四話 テンプレ

 俺は今、空を飛んでいる。

 俺だけが、飛んでいるのだ。

 大陸に渡るためには、竜の巣から最短で、島を二つ跨ぐ必要がある。船で行くと、前回のようなことになりかねない。これ以上、ソモルンを一人にはさせたくない、ボムは飛行魔術の強要をしてきたのだ。街中では、目立って余計遅れると説得し、人里近くまでの移動ということで、なんとか納得してもらった。


 だが、考えてみて欲しい。

 いくら命令で、二m半になっているとは言え、そして、神様謹製の身長が、百七十五cmで固定されているとは言え、十歳にもなっていない少年が、長時間おデブを抱えるのは、虐待だろう。


 そこで、竜魔術が役立った。

 竜には翼があるが、あんな薄い翼では、あんな巨体は持ち上がらない。あれは、コントロールするための操縦桿みたいなものであり、本来は周囲の魔素を掌握して、飛んでいる。

 そして、この装備のおかげで多重展開魔術を行うことに成功した。ライトニングドラゴンを拘束した、遅延魔術の応用だ。


 まず、基本となる飛行魔術の魔法陣を展開。

 そして周囲の大気を制御し浮かせ風の防壁を張る、暴嵐魔術の派生である大気魔術を展開。さらに、後方への推進力となる、火炎魔術の派生である爆炎魔術を展開。そして、おデブを長時間運ぶための、肉体強化をするため、無限魔術を常時発動させる。


 このように、魔術てんこ盛りで、おデブとカルラを運んでいる。普通は、従魔が運ぶのではないのか? という、テイマーの在り方を、ことごとく覆してくれている。そして、そんな彼は今、カルラとはしゃいでいる。空の散歩を楽しんでいるからだ。

 そんな二人を上から、見ている俺。



 ――そう。上から見ているのだ。

 背負っているわけではない。

 彼らは、今、気球に乗っているのだ。

 もちろん、風船みたいな部分は俺。

 故に、彼らは楽しんでいるのだ。

 乗り物が好きだから、余計に。


「これいいなぁ。ソモルンにも乗せてあげたかったな。でも飛行船はこれよりすごいらしい。早く出来るのが楽しみだ」


 何とも自由で楽な発言だろう。

 だが、俺も飛行船には乗りたいから、もちろん頑張る。



 そんな楽な空の散歩は、終わりを迎えた。

 海を越え、火山を越え、山脈もこえ、街道が通っているのが確認でき、俺達は平原へ降りた。ちなみに、通り過ぎた火山には、十大ダンジョンの一つがあるらしい。


 そして、とりあえず街を目指して、冒険者登録をすることに。近くに換金出来る場所がある場合は、両替所が使えないから、死活問題だった。売却品には、ライトニングドラゴンの素材もある。こういうとき、ボムには四足歩行になって、背に乗せて欲しい。だが、以前も頼んだが、嫌なんだそうだ。理由は、カルラを撫でられないからとのこと。


 仕方がないから、歩いている。

 ちなみに、賢い魔獣などのモンスターは出てこない。何故なら、最強の獣と最強の竜の魔力の残滓が残っている、装備を身に纏っているのだ。まるで、そこに存在しているように、魔獣の目には映っているだろう。


 だが、世の中阿呆は何処にでもいる。

 目の前には、お決まりのゴブリンさん。

 お目当ては、やはり可愛いカルラちゃん。

 生憎と、ゴブリンの魔石も心臓もいらない。

 そして、ゴブリンの素材は耳と魔石だけ。

 解体屋で済ますとしても、いちいちストレージや無限収納庫に、入れなければならない。手間がかかるだけだ。だから、そのまま退場してもらうことにした。


 ――大地魔術《大地鳴動》――


 そう言いながら、地に手をつけ魔術を発動した。そこにいた、数十のゴブリンは、穴に飲み込まれていった。そして、ゴブリンがいなくなった後、大地は元に戻ったのだった。最初からそこには、何もなかったかのように。


『兄ちゃんすごーい!』


 ちょっと大きくなった、カルラが褒めてくれた。相変わらず可愛い。そして、悔しがるボム。


「俺がやればよかった」


 かなりの後悔があるようだが、おそらく次もやらないだろう。雑魚に構うより、カルラを構っていた方が重要だと考えているからだ。




 それからは、先ほどのことを遠巻きで見ていたのだろう。何も起きなかった。これが冒険でいいのか? と、別の意味で不安になるほどだった。


 それがフラグとなったのかは、知らないが千里眼出みている先で、どうやらテンプレが起こっているようだ。ただ見えるだけで、聞こえはしない。こういう場合、大体襲われている方を助けるが、果たしてそれが正しいとは限らないだろう。

 故に、正義の味方のように、現れるようなことはしない。人の数だけ正義は存在するのだから。


 俺とボムはフードをかぶり、ボムはマントの中にカルラを入れる。近くまで行って様子を見ることにする。手遅れになる前に、とかは思わない。それなら俺は、ここにいないのだから。


 すると、声が聞こえる位置まで来たので、身を隠し、話を聞くことに。


「貴様達、こちらに乗っている方が、どなたか分かっているのか? 手を出せば、無事では済まないぞ」


「誰でもいいんだよ。聞く気もない。知らなければ、一般人と同じだろう?」


「馬鹿な! それなら問答無用で叩き切るのみ! 覚悟しろ」


「そちらも仕事なのは分かるが、こちらも仕事なのだよ。仕事で死ぬのは、真っ平御免だ。故に、俺も本気で行かせてもらう」


 というような会話が、騎士風の男と盗賊風な男とで繰り広げられていた。というか、毎度思うのだが、馬車見ても分かるわけないし、わざわざスゴイ人だと教えるのは、阿呆のすることでは?

 それに残念だが、あの騎士ではあの盗賊風の男には勝てないだろう。だって、盗賊じゃないからだ。どこかの貴族のお抱え冒険者らしい。まあやってることは、盗賊と同じだから、討伐しても構わないのだろうが、あの貴族がいいやつとは限らんだろう。

 助けた後に、カルラをよこせとか言ったら、殺すしかなくなる。たとえ、俺が許しても、熊さんが許さないだろう。それは、二度手間というのだ。


 ここは素通りしよう。

 頑張れば逃げられるのに、逃げない理由も分からないというのも理由の一つだ。相手も馬に乗ってるが、馬車の前は何もないぞ。騎士が足止めして、馬車を発車させるのが一番無難だろう。馬車を牽く馬はバトルホースというランクDのモンスターなのだから、ただの馬より逃げられる確率も高いはず。


 幸いにも少し先に街がある。

 そこまで行ければ、冒険者も警備兵もいる。

 何故その判断を下さない?

 お前も阿呆なのか?


 まあ俺には関係ないことだ。

 ボム達に説明して、真っ直ぐ突っ切ることにする。もちろん、手を出されたら、ソイツは人生にさよならしてもらう。武器に手をかけ、殺そうとするなら殺される覚悟を持たねばならない。自分だけが常に、生者でいられるとは限らないのだから。故に、敵対者には情けは無用なのだ。


 三人でトコトコ歩き、近付いていく。





  ◇◇◇





 騎士は目の前の敵に勝てないだろうと、半ば自棄になっていた。本来はお忍びだとしても、もう少し人数がいるはずだった。だが、先触れも出したり、魔物や盗賊の露払いに出していたりしていた。もちろん、斥候も放ったのだ。それなのに、待ち伏せが気づかなかったということは、誰かが裏切っていたということだ。しかも、その裏切り者は、ご丁寧にも遅効性の毒を馬の餌に混ぜていやがった。


 故に、痺れて動けない馬では、逃げることも出来ない。主を守れないまま、逝くことなど出来はしなかった。絶望にも似た何かを目に宿し、相手を見やると、ソイツは右を見て訝しんでいた。


 私もつられて目線を追うと、不可思議な一行が歩いて来るではないか。一人は、ローブを着ていることから、魔法士に見えないこともない。だが、杖を持っていない。そして、よく見ると、下には黒っぽいフルプレートアーマーのようなものを、着込んでいるのが見える。騎士なのか? と思わないでもないが、剣も槍も持っていないのだ。フードで顔が隠れているため、年齢の程はよく分からない。だが、その佇まいから、只者ではない何かが感じられた。


 そして、その後ろを歩く巨体。

 私の目がおかしくなっていないのなら、その姿は、熊なのだ。だが、熊は二足歩行でなどで歩かない。魔族なのか? とも思ったが……そんな話を聞いた覚えはまったくない。だが、近付いて来たのなら、手を出すのはマズい。これ以上、敵を増やしてなるものか。騎士は、無視を決め込むことにしたのだ。





  ◇◇◇





「おい! 貴様ら、何もんだ? この状況を見て分からんのか?」


 盗賊風阿呆が叫んで来た。

 だが、無視して先を行く。

 なかなかに急ぐ旅なのだ。

 お使いを、まだ一つも達成していないのだから。そして、それが気に入らなかったのか、盗賊風阿呆がまた叫ぶ。


「止まれ! 止まれと言っているだろうが! この人数見て、ビビってんのか? だから、逃げようってんだろ? さすが、テイマー様だな。臆病者の鑑だ」


「……あぁ。目撃者がいると、マズいのか。大丈夫だ。おそらく誰にも言わないから。じゃあ、失礼する」


 心配事をなくしてやった。

 だが、納得する頭は持っていなかったようだ。


「誰がそれで納得する? おそらくって何だ? 言う気満々じゃねぇか! もういい死ね」


 そう言い、長剣を振り下ろして来た。

 だが、その男の斬撃は当たることはなかった。


 ――魔闘術《轟破》――


 奴が長剣を振り下ろした瞬間には、懐に入り込み、掌底を叩き込んだ。この技は、魔力の塊を叩き込む技で、鎧など着ていても意味をなさない。

 故に、避けるしかないが、斬撃を放つ際の体重移動のせいで、すぐには動けないところを狙ったのだ。そして奴は、後方へと吹っ飛んでいった。これは、副次的な効果で、こういう技ではない。それくらい、雑魚だったというわけだ。


「さて、どうする? 攻撃してきたってことで、全滅でいいんだろう? みんな仲良く、犯罪奴隷になろうぜ♪」


 そう言って、ウキウキしているのは、ボムだ。阿呆の一人が吹っ飛んだ事と、熊が話したことで衝撃のダブルパンチだったらしく、その場の俺達以外の全員の思考が停止した。


「ボム。何でウキウキしてるんだ?」


「プモルンに聞いたんだ。功績を積めば、いきなりSランクになることも可能なのだと。いいよな。お揃い」


 ああ。獅子王神様の話のやつか。

 まぁ状況がよく分からんから、馬と馬車以外をまとめて倒して、捕縛してから話を聞くか。面倒くさいのは勘弁だ。


 ――結界魔術《絶界》――


 ――雷霆魔術《雷波》――


 結界魔術で馬、馬車、熊、カルラ、俺を隔離してから、雷霆魔術で一気に痺れさせた。後は、縛るだけ。


 油断しないように、鑑定眼を使って、魔道具や武器を回収していった。ちなみに、ドロップアイテムだから、売却予定だ。もちろん被害者の方には、返す。

 だが現時点では、どちらが被害者なのかは、分からない。ただ言えるのは、どちらも俺の魔術による被害者なのは、間違いない。まあ正当防衛ってことで許してくれ。ちなみに騎士は、叫んでた男の他に、女騎士が二人いた。


 さて、何を聞かせてくれるのだろう。



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