閑話 神聖リュミリット教国
ここは勇者召喚を行った国。
この国は既に、ラース達の言うところの、阿呆の集団なのだ。この国の南端には、魔境であり聖域の密林が広がっている。ここには、多種多様な植物が自生していて、様々な効能が期待出来る薬を作ることができるのだ。もちろん聖域だ。神獣もいるが、植物を多少採るだけでは、気にも止めず過ごしているだろう。
それなのに、その密林の水源のほとりにある、創世教の総本山を放棄し、新たに、聖戦という名の宗教戦争を行いやすいように、北端に移した。移したとは言うが、本物の総本山とは違い、何の加護もついていないのだ。ただのデカい建物だ。神聖でも何でもない。
本来は、自動で障壁を張ってくれているのだが、当たり前のように甘受していたため、全く気づかない。あることにもないことにも。
更に言えば、召喚には膨大なエネルギーが必要なのだ。始原竜を持ってしても無理なほどに。それをどう行ったかというと、聖戦に兵士として使えない者と、各国で買い付けてきた奴隷、そして、さらってきた魔法士である。特に魔法士は一般人よりも魔力を持っている。そして、集めた人達を魔法陣に入れ、魔術によって命や魔力などを搾り尽くす。
そんなことをして、創った物はというと、デカい扉だった。そこがゲートとして、召喚を行うための門になったのは言うまでもないだろう。犠牲となったものの人数は、小国なら一国分になるだろう。故に、この建物は呪われているのだ。
さらに現在この建物は、アンデッド製造工場になっている。小競り合いで傷ついた者を安置しておくだけで、不死の兵士ができるとして、喜び、率先して兵士を運んでいる。
そんな国から早々に退避出来たラースは、ある意味では幸運だっただろう。そして、そんなラースをパシリとして使った後、殺害した三人はというと……
――奴隷になっていた。
あの儀式と称する殺害をした後は、祝福を受けられると思っていたのだが、それは違った。儀式の目的としては、殺人に忌避感を抱くということをなくし、正当なものとしての認識を刷り込むためのものだったのだ。
更に言えば、祝福と称して、宝石に見える首輪を取り付けたのだ。これで自由はない。ただの人形に成り下がったのだ。そして、いずれはアンデッドになる道しか見えない。彼ら三人の旅をここで、終わってしまったと言えるだろう。
そんな人形を得てホクホクの、教皇含む幹部たちが今、戦々恐々としながら目の前の問題と向き合っていた。
「どういうことだ! ライトニングドラゴンだぞ? 隷属の首輪ですら、縛られない存在の反応が消えたとは、どういうことなのだ!」
そう、類は友を呼ぶということなのだろう。あの阿呆の主人は阿呆共だったようだ。そして、首輪には逃亡防止の発信機がつけられていて、解放されたりすれば分かるようになっている。
奴隷は、所有物だ。勝手に解放することは、世界共通で禁止されている。ただ、それを罰する法は、どこにもない。
理由としては、隷属の首輪か奴隷紋を刻むのだが、それを解除出来るのは持ち主か魔紋を入れた魔術師の持つ鍵だけなのだ。だから、出来るわけないというのが、世界の共通の認識でもある。出来ない事に法を定めているほど、暇ではない。
故に、法もなければ罰もない。だから、ラース達の今回の行動は、咎められることはないのだった。
それよりも阿呆共の心配事は、仮に倒されただけなら、まだよかった。困るのは、奴隷の解除の方だろう。この国の多くの国民は、違法奴隷だった。違法奴隷は、違法行為を証明出来れば解放される。出来ればだが……。
だが、誰も出来ないという認識だった解除を、やってのけてしまったのではないかと、深読みしてしまう者にとっては、気が気ではないだろう。
このままでは、国が滅びてしまうかもしれない。そう判断した教皇たちは、異端審問官を呼び出した。
「我らの教義に異を唱え、妨害している者がいる。その者に裁きを与え、さらに信者のさらなる確保を新たな密命とする」
「謹んでお受けいたします」
「そなたらに神の加護があらんことを」
教皇が命令をだし、狂信者がそれを受ける。
そして、聖女が祈りを捧げるという。
まさに、茶番を演じる阿呆共だった。
間もなく、この阿呆共に神の鉄槌が下ることなど露ほども思わず、ただただ自分の欲を満たすためにほくそ笑むのだった。
――世界統一という下らない欲望を胸に――
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