第二十二話 卒業試験
あれから、約半年経った。
それはもう地獄のような日々だったことは言うまでもない。
あれから知ったのだが、ここは竜の巣なのだそうだ。たまたまこの辺りは、プルーム様が住んでるからいないだけなのだ。まあ、プルーム様に憧れた竜族が勝手に住み着いているとのこと。
そして、ここにもダンジョンはある。
いや、あったのだ。
暇つぶしがてらプルーム様が、攻略してからは、宝物庫のような、倉庫のような使い方をしているらしい。今はカルラの遊び場だ。さらに言えば、俺らの修行の場でもある。
なんとダンジョンコアを使いこなし、モンスターを次々に出しては、倒し続けた。場所の拡張もなく、罠もない、ただ広いだけのダンジョン。たまにカルラが、カッコいいという理由だけで選んだモンスターが出てくるのだが、あの子の言うカッコいいには、無条件に強いというものが含まれている。
それが辛くなってきたとき、つい言ってしまった。
「カルラ。勉強はしないのか?」
言った瞬間後悔したが、時既に遅し。
悲しい顔を浮かべたカルラを見て、鬼の形相をしたプルーム様の修行が、激しくなったのは言うまでもない。そのあと、必死にカルラのご機嫌をとり、なんと笑顔を取り戻すことに成功する。そこでやっと、プルーム様の機嫌もマシになるのだった。
そのことが後を引いているのかは、分からないが、今無茶苦茶な難題を吹っかけてきている、目の前の竜神。
「お主らがここまで早く、強くなったのは嬉しいぞ。カルラのおかげでもあるな」
えへへぇ~。
と、照れるカルラ。
「そんなお主らには、卒業試験を与えようと思うのだが、是非頑張ってほしい。内容は、自ら進んで人間の奴隷となった【雷霆竜】の討伐じゃ。
此奴は、自分の番と子を嬉々として殺して、人間に献上した愚か者じゃ。我が手を下してもいいが、小物と見下している、お主らがやった方が、屈辱的じゃろう。もちろん成功した暁には、褒美をやろう」
失敗したら、死ぬやつだ。
だが、胸くそ悪いやつだから、情けは必要ない。カルラもボムも不愉快そうだ。カルラは父ちゃんに、愛情をいっぱいもらってるからな。
しかし、そんなに甘くない。
竜族は、それぞれ種族と年齢を加味した、階級が存在する。まず種族だが、属性竜と色竜が存在する。その他は、亜竜であって竜族ではないのだ。そして、年齢順に古代竜・老竜・成竜・子竜となっている。ただ、古代竜は属性竜の、各属性一体ずつだけ。そして、色竜の子竜でランクBで、成竜になるとランクSなのだ。他はそれ以上なのだ。
件の竜は属性竜の成竜なのだ。
つまり、規格外に含まれるやつなのだが、何故に自分から奴隷になったのか分からん。阿呆か? 阿呆なのか? 疑問に思うが、答えが分かることはないだろう。
まあやることは、変わらないのだ。
ただ、属性竜は鱗の上に、自分の属性の魔力を纏っている。それが一番厄介だ。触れれば、魔術を喰らったのと同じだからだ。傷もつけられない。まさに無駄。俺の戦法との相性が最悪なのだ。
さて、竜の巣に、竜を狩りに来た阿呆を、狩りに来た俺とボム。父ちゃんと兄ちゃんの活躍を、観戦しに来たカルラ。弟子の修行の成果を、見学と称し酒盛りをする、プルーム様と正体不明の人物。ローブについたフードを目深にかぶっているため、全然分からん。気にしても仕方ないので、放置である。
そんなメンバーの前に、首輪をしてるのに意識がしっかりしてる、黄色の鱗に白い毛に黄色が少しまじっている、ドラゴンがいる。何やら愉快そうに笑っている。全言語理解のスキルがあるせいか分からないが、コイツが何故笑っているか分かる。
『グフフフ。めんこいメスだ。今降伏すれば、俺の番になることを許そう。まだ幼いが、少しくらい待ってやる。まあ他は、奴隷だな。命があるだけ有り難がれ』
不愉快極まりない。
ボムも我慢出来そうにないらしい。プルーム様は、「負けることは許さん!」と、叫んでいる。俺ももちろん許す気はない。本当に気持ち悪い!
さて、早速始末することにした。
俺は手を地面に当て、魔力を流す。
魔法陣を描き、消える。
素早く動き、数カ所ほど繰り返す。
この魔法陣が見えるのは、俺と魔力のパスが繋がっている、ボムだけだ。実際には、何カ所も魔力を込めて触れたが、魔法陣がないところもある。体の何処からでも魔法や魔術を発動することが望ましいと言われたため、練習したのだ。
今回手で直接触れているのは、分かりやすい方が、ブラフにもなるかと思っての行動だ。魔力視を持つドラゴン対策に、全て魔力を流してやった。
さて、これで地面に落ちたらヤバいというのが分かってくれたであろう阿呆を、ついに叩き落とす時がやってきた。さっきから見下すように、パタパタと空を飛んでいる。
ボムも分かっているのだ。一人では手こずるのが。倒しきれなくて逃げられるなら、まだいい。だが、カルラに何かあったら目も当てられない。無敵スキルを持っていても、心は無敵ではないのだ。心に傷を負って、家から出なくなってしまうのは、悲しすぎる。故に、全力でやる。卑怯と言われても。
ボムを見ると、黒いプレートアーマーに、青い高温の炎が巻き付いていた。黒だから、おそらくアダマンタイトだろう。そして、手には黒いランス。こちらはほんのり青い炎の膜で覆われているようだった。上手に焼けそうだ。俺は、ボムも準備が出来たことを確認し、空に手をかざす。
――重力魔術《天蓋》――
この魔術は、何処までも続いていそうな天に蓋をしたような、それでいて、その蓋が近づいてきて、押し潰す魔術なのだ。
使いづらい点を挙げるとしたら、範囲が広すぎる。だが、目の前のデカ物には、ちょうどよかった。見事地面に叩き落とすことに成功する。
――大地魔術《岩石杭》――
ここで先ほどの遅延魔術を、発動した。
全て拘束魔術だ。鎖などという、甘いものではない。杭を打ち付けるのだ。返し付きで。まずは、四肢。そして尻尾。動揺している隙に、口だ。理由は、ブレスが怖いからだ。
おっと! まだ翼が残っていた。
――暴嵐魔術《嵐牙》――
風で出来た牙が、翼を根元から切り裂いた。
今までで一番の叫び声をあげようとする。
口が開かないから無理だけども……。
さらに今まで、牽制に徹していたボムがランスを構えて突進。その脅威が分かったのだろう。焦り出す阿呆。だが、もう遅い。ランスの先が阿保の顎の比較的柔らかい部分に触れた瞬間、ジュッと音がしたときには、ボムは突き抜けていた。
最後まで口を開けることも出来ずに、そして見下していたため、何も出来ずに命を散らした。
最後の仕事としては、カルラに何かあると嫌だから、隷属の首輪を火炎魔術で焼却した。
無事、卒業試験をやりきったのだ。
そして、いつの間にか、正体不明の人物はいなくなっていた。
『かっこよかったよー! 父ちゃんは、最後消えたのー!』
興奮しながら、カルラは抱きついてきた。
俺に……。
理由は、ある。
ボムは今、モフモフじゃないのだ。
全身鎧で高熱を放っている上、カルラには怖く見えるそうだ。初めて見たときは、泣いたくらいだ。そして、ボムも泣いた。心の中で……。
これでも、かなり努力した形なのだ。
それも、ボムだからだ。
そして、それに気づいたボムは、急いで武装を解除する。魔術で作っているから、魔力供給を止めれば、消えるのだ。カルラの視界に入る、真っ赤なモフモフ。目をキラキラさせて、ボムの腹へとダイブ。胸じゃなく、腹にだ。星霊シリーズは、ボムの腹が大好きなのだろう。
そして、プルーム様が何やら持って歩いてきた。
「ご苦労。見事打ち倒した。約束通り、褒美をやろう。
まず、飛行船を造る前段階として、魔宝石が必要だと言っておったな? 確か、火炎・雷霆・無限属性の魔宝石だと。それに、飛行船を造る素材の中に魔法金属も必要だとな。魔法金属を掘るために、山に行くのだろう? なら、火炎属性の【炎帝石】は、大丈夫だろう。さらに、これから学園国家に行くなら、オークションに間に合うじゃろ。そこで、無限属性の【不屈石】が手に入るはずだ。そして、前置きが長かったが、この中では一番手に入りにくい、雷霆属性の【雷光石】は、我からやる。
……と言いたいが、これは【雷竜王】からの褒美じゃ。娘と孫の仇を討ってくれた、礼じゃそうじゃ。竜王は、あまり動けないのだ。強大故に、私怨で動いたら、世が滅びる。そして、我が手を下さねばならなくなる。じゃから、感謝をしていた。肉を食らうときは、呼んで欲しいそうじゃ。酒も気に入っておったぞ。では、いよいよ我からの褒美じゃ」
そう言って、目の前に置いたのは、山ほどの赤黒い毛と、深い緑色の鱗だった。まさか! と思い、プルーム様に視線を移すと、笑って話し出した。
「どうじゃ? 良い物じゃろう?それで、装備を作るといい。そこで、くたばっている竜も使ってやれ。残ったら売ればいい。誰も持ってない装備になるじゃろう。じゃが、装備に使われるような存在にはなるなよ。そんな情けない弟子を持った憶えはないぞ」
そう言って、カルラを抱きしめ、帰って行った。俺はそれをしまい、ドラゴンもしまった。即、解体屋送りだ。
プモルンに、装備の作成を頼んだのだが、ボムがあることに気づいた。
「それって、プルーム様の鱗と獅子王神様の毛だろう? お前だけズルいぞ」
そうなのだ。
山ほどの毛の正体は、獅子王神様の毛なのだ。尊敬する存在の毛を使った装備が欲しいのだろう。もちろん、全部俺が使うわけでもないし、こんな物売れない。値段なんかつけられない。
では、どうするのかというと、毛布とか作ろうと思っていたのだが、どうしても欲しいようだ。だが、先ほどもそうだったが、基本自分で作り出せるのだ。そして、やっと思いついたのが、マントだ。留め具を子機にすれば、収まりもいいだろう。カルラを隠すこともできる。そう提案すると……
「でかした。そうする」
大喜びでそう言うボムを、静かに採寸するプモルンが窘めていた。
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やる気がみなぎります。




