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第十九話 決意

「どうだ? ボム。なかなか快適だろう?」


 潮に乗って海を進む、ラース達一行。


「まあまあだな。もう少し速ければ、文句もないんだがな」


 一刻も早く、ソモルンを迎えに行きたいのだろう。逸る気持ちも分からないでもないが、せっかくの冒険を自分のせいで楽しめなかったなんて聞いたら、きっと悲しむ。あの子は本当にいい子なのだ。

 ちなみに、カルラはボムに抱かれながら、爆睡中である。まだ赤ちゃんだ。よく寝て、大きくなってほしい。


 そうこうしているうちに、目の前に島が見えてきた。左に見える島は、朝までいた無人島より大きいだろう。そのすぐ右に三つ小さめの島が見えるのだが、ボムによると、更に奥にある島じゃないと大陸に渡れないらしい。

 ボムはそこから無人島に行ったわけではないが、そこから渡ろうとして見に行ったそうだ。人間の関所があって、面倒くさいからやめたんだそうだ。


 だが、何故だろう? 左の島に向かって流されている。しかも、かなりの速度で……。ボムの言った、フラグのせいか? だが、今はどうでもいい。向かっている先は、一番大きな島の南端。そして一番大陸から遠い場所。このまま行けば確実に座礁だ。


 しょうがない、最後の手段にとっておいた、おデブさんを背負っての飛行魔術を使うときが来た。と思って、ボムに声をかけようとしたのだが、何かに乗り上げ、そのまま宙を飛んだ。乗り上げたときに多少速度が落ちたが、慣性で飛んでしまったらしい。もちろん船は大破。文字通り海の藻屑となって消えていった。


 そして俺達はというと、カルラはもちろん飛んだ。そして俺も飛んだ。






 ――おデブを背負って……。


 めちゃくちゃ重かった。

 空を飛んでるのに、重力で滑空しているみたく、ドンドン降下していく。ただ、スゲー柔らかく、モフモフだった。ぬいぐるみを彷彿とさせる、幸せボディだ。それを見たカルラは、遊んでいると思ったのか、ボムの上に乗っかっていた。そして、無事着陸。


「ご苦労。意外に面白かったぞ。なあ、カルラ」


『うん。またやりたい』


 カルラとは子機による念話で話せるのだが、念話を無視して聞くと、キュイキュイ言っているのだ。可愛いすぎる。



 さて、どうするか。

 さすがにそろそろ暗くなってきたから、今日はもう無理だろう。船は、沈んだアレだけだったのだ。沈まないように、あの有名な名前はつけなかったのだが。それとも、カルラと一緒にあの有名なポーズを決めたから、いけなかったのか?

 まぁいい。過ぎたことだ。


「じゃあもう暗いし、ちょっとだけ進もう。出来るだけ大陸に近い、東へ向かって」


「わかった。だが、俺はカルラを見てるから、戦闘になったらお前がやれよ。あの魔術のこともあるんだからな」


 ボムはボムなりに、気にしてくれているようだ。




 そして三人は進む。

 気持ち悪いくらい何も起きずに……。

 そして、今日はここまでと思って、カルラを抱いたボムと二人、目の前にある黒っぽい岩を背に座り込んだ。それにしてもこの岩、ほんのり温かいのだ。まぁ自分の体温のせいかもしれないと、思うことにした。装備はほとんど揃えられず、シャツにズボン、革で出来た胸当てくらいなのだ。自分の熱くらい伝わるだろう。


 ふと、ボムとほぼ同時に視線をあげた。


 特に理由もない。

 魔力把握も、看破、心眼を常時展開出来るまでにし、更に隠密で気配を消しているのだ。それぞれ、魔力感知、気配察知、危機察知、気配遮断を最大のレベル十に上げなければならない、上位スキルだ。それにボムには、聴覚・嗅覚・視覚上昇の統合スキルである、超感覚もあるのだ。だからこそ、そこは安全だと思って気を抜いていたのもある。だがそこには、驚愕のものがいた。



 その瞬間。

 そのものとの目が合った瞬間、時間が止まったように感じられた。一度死を経験している身としては、あのときよりも強烈な衝撃が体を駆け巡った。そして、気づいたのだ。さっきまで背もたれにしていたのは、目の前に生き物の尻尾の一部だったことに……。


 そして、目線を外すことが出来ないまま、どれだけたったのか分からなかったが、汗が噴き出すのを止めることが出来ないまま、唯々時間が過ぎていった。そして最初に口を開け、言葉を発したのは、まさかのカルラだった。


『初めまして。カルラって言うの。大っきいドラゴンさんは、なんていうお名前なの? 大っきい体、かっこいいなあ』


 と言ったところ、その真っ赤な瞳のドラゴンさんは、目を細めて、


「そうかそうか。かっこいいか。我を見てそう言ったのは、そなたで二人目ぞ。では、自己紹介をしようぞ。我の名は、【始原竜・プルーム】じゃ。よろしくな。可愛い娘よ」


『えへへへへっ。可愛いって言われちゃったー♪』


 まさかの始原竜とは……。

 というか、こんなのと同格の獅子王神に喧嘩売ったのか? うちのおデブさんは……。無理だろう。

 ちなみに、獅子王神にだけ、神がついているのは、ボムがそう言っているからである。本来は獅子王であるが、獣人族の王も、自分のことを獅子王と言っているらしく、それが気に入らないボムが、差別化するために神をつけているらしい。


 話を戻すが、度胸が据わりすぎなカルラにも驚きながら、このままじゃマズいと思い、即座に挨拶することにした。


「初めまして。ラースと言います。隣にいる熊は、従魔のボムと言います。この度は勝手にお邪魔をして申し訳ありません。明日には出て行きますので、今夜だけ、隅でも構いませんので、こちらにお邪魔させてもらえないでしょうか?」


 自己紹介をして、そうお願いしてみると、意外な返答が待っていた。


「よいよい。丁度暇を持て余していたところだ。それに、この娘は星霊怪……竜だろうか。おそらくそうであろう。そなたらからも悪い気は感じられないし、この子も楽しそうにしておる。それならば、安心じゃろう。……人柄は……な。

 実力に関して言えば、二人とも、完全には任せられないな。我らの主の家族を任せるのじゃ、当然じゃろう? こんなに可愛いのだ。何かあったら、我でも怒り狂ってしまうかもしれないぞ」


 最後にニヤリと笑いながら、怖いことを言う。


「それにだ、そこの熊さんは獅子王に挑戦した者じゃろう? 久々に面白いやつが来たって、態々念話使ってまで自慢してきたわ。これだから、ダンジョンに住むのはやめられないとも、言っておったな。既に守護者がいるというのに……全く」


 あれ? 呆れているとでも言いたそうにしているが、羨ましそうな顔をしているぞ? ボムはボムで、自分のことを褒めて、自慢してくれていたことに感激していた。


「ボムと言ったか? 今のままでは、彼奴に傷なぞ一つもつけることができぬぞ。リベンジの約束をしたのだろう? 今のままでは、どんなにレベルを上げても、せいぜい聖獣の中の上と言ったところか。神獣になるのも到底無理だぞ。それ以前に、頼まれたお使いも果たせぬじゃろう。それでもいいのか?」


 カルラを頭の上に乗せながら、そう尋ねる。

 当のボムは、即座に首を振り、否定を表した。

 それを見た、始原竜は満足そうに頷き、今度は俺を見る。


「そうかそうか。さて、お主は転移者で転生者だな? 大凡の話は聞いている。創造神様の解放をしてくれるのだな。できる限りの支援をすることを神々と約束している。だから、成功率を上げるために、二人揃って強くしてやってもよい。選ぶのはお主らじゃ。ただ未熟なままカルラを連れ歩くことを我は許さん」


 若干の威圧を込めながら話す様は、その本気度を伺わせるのに十分だった。そしてまず返事をしたのは、ボムだった。


「ソモルン……すまん。少し遅れる」


 そうスカーフに向かって言い、始原竜に向かって頭を下げた。


「俺を強くしてください。カルラやソモルンを守れる力を得るために。俺の目標を達成するために。お願いします」


 俺の名前はなかったが、途中チラッと俺を見てきたから、いつものツンデレなのだろう。俺もみんなを守れて楽しい冒険にするために。だが、俺は言わせてもらう。


「俺も強くしてください。ボムやソモルン、カルラ、まだ会ったことないけど、ソモルンの兄弟のグレタも、みんなを守れて楽しい冒険にするために。お願いします」


 そう頭を下げると、嬉しそうに笑いながら、そして悪戯っ子のような顔をしながら話し出した。


「そうかそうか。お主らの願いは、この【始原竜・プルーム】が承った。だが、ラースはボムのこと守ると言ったが、ボムはラースのことを守らないのか?」


 ニヤニヤしながら、そう聞くと、ボムが元々赤い顔を更に赤くしながら、言った。


「守ります」


「よいよい。満足じゃ。今日はもう遅いから、明日からにするぞ」


 そう言い終えると、カルラが話し出した。


『カルラは? みんな強くなるんでしょ? カルラも父ちゃんや兄ちゃんみたいに強く、大きくなりたいの。それにそれに、プルーム様みたく、かっこよくなりたいの』


「カルラは、我とお勉強じゃ。強いだけでは意味がないからの。悪い人間や魔物、中には聖獣も居る。そんなやつらから身を守るためには、知識も必要だぞ。それよりも、カルラにはプルーム様と呼ばれたくないのぉ。他にないかのぉ」


 悲しそうにする始原竜を見たカルラは、しばらく考え、満面笑顔を浮かべ、言った。


『母ちゃん!』


 始原竜は、目をこれでもかってくらい見開き、それでも嬉しそうにしていた。


「そうか。母ちゃんか。我が母ちゃんで本当に良いのか?」


 大はしゃぎで始原竜の周りを、クルクル回って頷き返していた。


『うん。母ちゃん!』


 最後は、幸せそうな笑顔を浮かべ、硬そうな顔に抱きついていた。



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