第十六話 誕生日
ソモルンの突然の言葉。
まさか卵をもらって欲しいと言うとは、思わなかった。それに何の卵なのか気になる。ソモルンは、卵をグリグリ押しつけてきた。俺とボムは戸惑いながらも受け取ると、いきなり魔力が吸われる感覚が押し寄せた。
そして、その卵は、最初は真っ白だったのに今は、薄い桃色に、赤や黄色が混じってキラキラ輝いていた。時折、脈動しているかのように、中から光が瞬いている。だが、すぐには生まれないだろうということで、俺は今日行う、お別れ会の準備をしに席を外す。
この一年で店を七つ開けることに成功した。主に旅の準備に必要な物を用意するための店なのだが、食のレパートリーが増えた。おすすめの本屋をアンロックして、レシピ本を買ったからだ。
両替所のお陰で素材の換金もできたから、お金がなくて困ることも、素材が余ることもなかった。素材が余ったとしても、無限収納庫に入れとけばいいのだが、忘れそうだったからだ。
あと、さすが魔境だった。
高ランクの魔物がたくさんいたお陰で、いい肉がとれる。レストランで出されるお肉は、食品スーパーで購入された物を、更に調理されたものを購入するから、余計に金額が増えていく。
それに、ランクによっては、魔物の肉の方がうまいらしいから、節約もできて無駄にもならない、更にうまい。言うことなしというわけだ。
だが、よくないこともあった。
望んでやまない、飛行船のための魔導機工房が開かなかったのだ。飛行船の足りない素材のリストアップは終了した。基本は採掘すれば、なんとかなりそうだった。だが、プモルンをもってしても、魔導機工房が開かなければ、どうしようもない。
そこで必要なのが、火炎属性の魔宝石・雷霆属性の魔宝石・無限属性の魔宝石という、お店史上最高の難易度だった。楽に飛行船を手にすることは、出来ないということだ。
そもそもの話、魔宝石とはなんなのか。その疑問を解決してくれたのは、毎度お馴染みの、優秀アバター【プモルン】。
いつもありがとうございます。
と、心から感謝し、プモルンに聞いた。
そんなプモルン曰く。
〈まず最初に、魔石とは魔物の体内で作られる魔力の供給源であり、周囲の魔素を取り込み保存するタンクでもあるんだよ。魔物にも属性があり、例えば、魔物と言うと怒られそうだけど、ボムさんで言えば、最初は大地属性だったんだよ。今は火炎属性が足されたし、その他の属性も足されたことで新種になったんだけど、基本一つか二つなんだよ。神獣でも例外ではなくてね。下級ランクの魔物は、魔術属性ではなく、魔法属性なんだけど、今はいいや。
その魔術属性の純粋な結晶のことを魔晶石と言うんだ。一つの魔術属性の結晶でだから、正確には、【火炎結晶】というように呼ばれ、これらは作ることが出来るんだ。魔力が足りなければ作れないけどね。ただ、大気にも当然ながら、属性がついた魔素があるんだよ。それが、自然に蓄積して出来た、天然の魔晶石を【魔宝石】と言うんだよ。以上。分かってくれたかな?
ちなみに、分かってると思うけど、とても高価なんだよ。古代遺跡やダンジョンでしか手に入らないから、購入するのは、王族か貴族だけだね。平民が持ってたら、殺されてでも奪われちゃうくらい貴重なんだよ。でも、ソモルンの笑顔のために頑張って〉
なるほど、そんなに高価なものが、三つも。
他の店で、魔宝石を必要としているのは、カジノだけだ。それも大地属性の一つだけ。カジノに必要なのは分かるが、ハードルが高い。ちなみに、この説明を後ろでこっそり聞いていたソモルンは、プモルンへの態度を軟化させたのは言うまでもないだろう。
そんなことを思い出しながら、準備を進めていく。
◇◇◇
一方、その頃のボム達はと言うと、卵に興味津々だった。
「なあ、いつ生まれるんだ? どんな子なんだ? ソモルンみたく、可愛くていい子なんだろうな」
ボムは、ソモルンと二人のときは、素直になるようだ。最初、ソモルンは、『大好きなボムちゃんを取られてしまう』と思っていたのだが、変わらなかったことが嬉しかった。何故なら、ボムにとっても、ソモルンは初めての友達だったからだ。
今まで強くなることしか頭になかったが、獅子王神様に「楽しめ! 楽しんでいる者には、誰も敵わない!」と言われたことが、ボムを変えたのだった。自分でも分かっている故に、獅子王神様への尊敬の心が増すのだった。
そのとき、目の前の卵が、罅が入ってゆっくり割れるとかなく、一気に塵のように消えていった。
目の前にいるのは、体全体を覆うフワフワの毛は、薄い桃色で顎の部分は、ボムと同じように赤や橙、黄色のグラデーションの毛が生えていて、モフモフだ。手足は短くソモルンのよう。頭に深い紫色の二本の角が生え、翼もある。瞳は、エメラルドのような翠でクリックリ。一番違うところは、女の子らしいマツゲがあるところだった。そんな子竜と目が合うボムに、子竜は……
『父ちゃん!』
という、いきなりの念話が聞こえてきた。そんなことを言われたボムはというと、満更でもない顔をして答えた。
「そうだぞ。俺が父ちゃんだぞ。そして、こっちのソモルンが兄ちゃんだ」
と、ソモルンのことも紹介した。
それを聞く、生まれたばかりの子竜は、二人に飛びついていく。顔をグリグリ押しつけたり、頭に乗ってみたり、喜びを体全体で表しているみたいだった。
すると、ボムが一言。
「可哀想だから、名はアイツにつけてもらうか。もう一人の兄ちゃんのところに行くぞ」
『まだお兄ちゃんいるの?』
ボムは二人を抱えると、食堂の方へ歩いて行く。
◇◇◇
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やる気がみなぎります。




