第十三話 お風呂
とりあえず、子機の話もしたかったが、風呂に入ろうと思う。そこは、日本人の部分が残っているのだろうと、しみじみ思うのだった。そういえば、風呂は前世で入って以来だった。この世界には、生活魔法なんていう便利なものがあるから、贅沢品なのだろう。
新しい文化に触れることを、楽しみにしているボム達も入るかもしれないと思い、誘ってみることにした。もしかしたら喜ぶかもしれないからだ。
「これからお風呂に入るけど、二人はどうする? お風呂は温かい水に入るようなものなんだけどさ」
最初お風呂とは何だ? みたいな期待に満ちた顔をしていたが、説明を聞くと、酷くガッカリしだした。
「なんだ……。水浴びだろう? それに温かい水なら、この島に来る前に浴びたぞ」
なんと! 既に体験済だった。
それじゃあ、ガッカリするのも仕方がない。だが、ここは食い下がらせてもらう。ドラッグストアか雑貨屋をアンロックさせてもらおう。自分で集めたものではない素材を使うのは心苦しいが、それは駄目だとは書いていない。
旅の支度で雑貨屋を使いたい。だが、石鹸の品揃えはドラッグストア。しかし、両方は無理なのだ。
理由は、森羅属性の魔晶石っていうのが、よく分からない上に一個しかない。しかし、すぐに旅に出るわけではないんだ、ドラッグストアにしよう。なんだかんだ誘惑に負けて、火神様おすすめの本屋を買えない。
いざ、アンロック。
すると、シャッターが開く。
ヨシッ! ボムに至福をプレゼントしてやろう。もちろん、ソモルンにもだ。
「ボムはただ水に入って、浸かっただけだろ? それじゃあお風呂に入ったとは言えないな」
「あれ以上何をする必要があるんだ? 何もなかったぞ」
もしかして、それは天然の温泉ではないだろうか。それなら何もないというのもわかる。それにしても、この世界にも温泉があるなら、是非とも入ってみたい。
「それとこれとは別物だよ。騙されたと思って一緒に入ってみな。ソモルンもな」
ソモルンは興味が出てきたのか、ボムを説得しているようだ。ボムは、ソモルンに甘々だからな。
「わかった。それなら早く行くぞ」
ボムがお風呂場の方へ歩いて行く。
俺は、ドラッグストアで、ボム達にも使っても大丈夫そうな石鹸やブラシを買って、タオルも買った。あと、シャンプーだ。
そういえば、風呂場に鏡があったはず。今まで特に気にしてこなかったけど、俺ってどんな姿してるのだろうかと、今になって気になったのだ。水に映った顔は見たことあるが、髪の色とか分からなかった。それにしても、髪型が全然変わらない。楽でいいのだが、気になりはする。
風呂場に着いて、最初っから裸の二人を横目に服を脱ぐ。そして、ふと鏡に映る自分を見ると、髪の色があり得なかった。
色は違うが、ボムの毛皮みたいに、基本は青だが所々黄色が混じり、毛先は水色。瞳は金色。瞳の色はボムと同じだった。この世界の顔の美醜は分からないが、まぁまぁだと思う。とりあえずは、こんな奇天烈な髪の色でも浮かない顔なのは、よかったと思う。
とりあえず、今はそんなことより、風呂だ。まずは風呂を清潔できれいにし、魔道具だろう蛇口で風呂に湯を張る。そして、いきなり入ろうとする二人を制止し、お湯をぶっ掛ける。いきなりお湯をぶっ掛けられた二人は不機嫌になる。
それは当然だ。俺も同じことをされたら、ムカつくだろう。ただ説明しても、押し問答になりそうだったため、許可なくやってしまうことにした。
まずは、説得要員確保のため、ソモルンを抱いてゴシゴシ洗う。元からモコモコしているソモルンだが、石鹸の泡で更にモコモコしてる。体をゴシゴシし出すと、最初は警戒してたが、すぐに力を緩めて、気持ちよさそうにしてる。
「グルアァ~」
本当に気持ちよさそうに鳴き声をあげながらゴシゴシされるソモルンを、ソワソワしながら待っているボムさん。
ソモルンに目をつぶってもらって、可愛いお顔も洗う。あとは、シャワーではなく、滝みたいにお湯が流れてくる魔道具で泡を落としてあげる。
「終わったよ」
って声をかけると、
「グルアァ」
って言いながら、ペコリとお辞儀。可愛い。
お礼もちゃんと言える子だったとは、感動だ。ボムの元へ駆けてくと、一生懸命に良さを話してるみたいだった。ボムが時折、「そうか、そうか」と、頷いているからだ。そんな期待に満ちたボムを、早速洗う。だが、この一年で四mくらいにまで成長したボムは、さすがの一言。
とりあえず、座っても届かないから、横になってもらう。ソモルンも一緒にやりたいみたいで、ソモルンにもブラシを渡してあげる。コイツもすごい泡立つ。
モコモコモコモコ。熊というよりも羊だった。さすがの巨体。洗うのも一苦労だったが、御満悦のボムを見られたから、良しとしよう。そのあとは、自分の体も洗い、三人で一緒に入浴。
まぁボムは、浅すぎて、寝湯みたいになっていたのだが、三人でギリギリの大きさだったため、邪魔ではなかった。ボムは、獅子王神様みたく大きくなりたいらしく、サイズ変更スキルを持っていても、小さくなる気は全くもってないらしい。
さて、お湯に浸かった後にも大仕事が待っていた。どうやって拭くかということだ。スポンジみたいに、水を吸っているであろう熊さんの毛皮から、出来るだけ水を搾りたいのだ。そう思っていると、ソモルンがお湯から上がって洗い場へ。
何するんだろうと、見ていると、口を上に向けて魔法陣を展開。そのまま降りてくる魔法陣がソモルンを通過すると、お湯がバシャバシャいって流れて来た。お湯だけを落としたようだ。
すると、手をクイクイって動かして、ボムを呼んでいるみたいだ。なんか嫌な予感がする。
ソモルンでも結構な勢いだったわけだから、ボムだと恐ろしいことになりそうだ。すぐに端の方に避難。
すると、ちょっと大きめの魔法陣が、ボムの上から降りてくる。次の瞬間、滝かってくらいのお湯が落ちて来た。すぐ傍にソモルンがいたのにもかかわらずだ。
全部お湯を落とし終えたら、びしょぬれのソモルンがいた。また濡れたのに、楽しかったのか、グルグル言いながらはしゃいでる。肝心のボムはというと……。
「すごいぞ。ソモルン。水浴びの後の手間が面倒であまり好きではなかったが、ソモルンと一緒なら毎日でも入りたいな」
褒められたソモルンは嬉しそうに目を輝かせ、濡れたままボムに抱きついた。結局二人はまた魔法陣を潜ることになった。今度は一緒に。
風呂から出たら、子機の説明だ。
もしかしたら、寂しくて泣かせてしまうかもしれないが、いつまでもここにいるわけには行かないのだ。でも、すぐに出発するのは無理だ。自慢じゃないが、腹芸なんて出来ない。
だが、世の中海千山千の貴族や商人がいる。そんな人達から、自分自身やボムやソモルンみたいに大切な者を守るには、圧倒的な武力が必要だ。それと、お互いがはっきりと分かりやすい形で目に見える効果を発する魔道具だ。
例えば、スクロールに質問に対して嘘をつくと、魔法が発動している間は、赤い魔力に包まれて光るとかだ。質問は、俺に対して不利益になることをしているか? で済むが、効果がない者もいるだろう。
例えば、狂信者の奴らには意味はないだろう。心の底よりあなたを思ってますって言われたら、意味ないのだ。ただ、王族や貴族、商人には効果絶大だと思う。自分たちの利益を一番に考えるためなら、他人が不利益を被ろうが構わない人達ばかりだからだ。
とにかく、それまではソモルンとたくさん遊ぼう。そして、抱いて寝る。
待ってろ! ソモルン!
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やる気がみなぎります。




