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真っ白な僕ら


その後、教室に帰ってこれまた初めてのホームルームを済ませ、無事に解散となった。

さあ、さっきのポスターでも見に行くかぁー……と思って席を立ったそのとき、

「なぁ」

俺の前に座っていたやつに、突然話しかけられた。

当然まだ名前も覚えられていない俺は、誰だっけ……と記憶のひきだしをさぐりまくる。

しかし、そいつは人懐っこい笑顔で俺に話しかけてきた。

「お前、乙場だっけ? 」

そうだけどお前誰だっけ、とは言えない俺をよそにこいつは話を続ける。

「さっき軽音部のポスター見かけたんだけどさ、お前も見た?」

「えっ、お前も? えっと……」

名前がどうしても分からない。

そりゃそうだろ、初対面でクラス全員覚えられる方がおかしい。

ただでさえ人の名前覚えるの苦手なのに、それは無理な話だ。

「遠藤な」

さっきから言葉に詰まっていた俺を見かねたのか、相手から口を開いた。

そうだ、遠藤夏樹だ。

女みたいな名前してるなー、とか思いながら配られた名簿を眺めていたのを思い出した。

「あぁ、遠藤もあのポスター見たんだ、偶然だな」

「そりゃあんなクソ目立つポスター貼ってあったら、嫌でも目に入るだろ!……でさ、俺すごい興味あるんだけど、一人で行くのはちょっとな?な?」

「俺もついてこい、と」

「おー!まじか!!ありがとおおお」

ついて行くとまでは言ってないけど、遠藤は手を合わせてはしゃいでいる。

こいつのテンションの高さとフレンドリーさにつられて、俺も自然に笑顔が溢れる。

「じゃあ明日の放課後な!」

「第二音楽室でいいんだよな?」

「おーう」

トントンと予定が決まっていく。

確か、詳しい場所と活動時間はホームルームでもらったプリントに書いてあったはずだ。

遠藤はテスト頑張ろうぜ〜、と言って手を振りながら去っていった。

なんか嵐みたいなやつだな。

あいつがいなくなった途端、急に俺の周りが静かになった気がする。

そんなことを考えながら、俺も教室を後にした。

明日は初めての課題テスト。

頭は大していい方ではないが、一応勉強してみよう……というか、課題やらなきゃ明日確実に死ぬ。

その日の夜、俺が白紙の課題を前にどんな目にあったかは言うまでもない。



__翌日、放課後の教室に残る俺と遠藤は、顔面蒼白だった。


「なあ湊、ほとんど解答真っ白でも赤点回避できるかな……」

「……無理だろ、俺も問3ダメだったから人のこと言えないけど……」

おわかりの通り、テストは死ぬほど難しかった。

途中から頭を抱えて、考えるのを放棄したくなるぐらいだ。

さすが(自称)進学校、問題がえげつない。

頭も真っ白、解答用紙も真っ白。

悲しいことに、真っ白づくしのデビュー戦?となってしまった。

……それは置いといて。

「まぁそれは忘れてさ、遠藤も軽音入るんだろ?」

「入るつもりだけど、とりあえず体験だけな。……てかそろそろお前も夏樹って呼べよ」

「ああ、ごめん」

会ってから2日しか経ってないのに、遠藤……もとい夏樹はすでに名前で呼んでくる。

でも、馴れ馴れしいとは思わなかった。

なぜか幼馴染に再開したかのような、そんな懐かしい感じさえする。

「湊は何の楽器やるんだよ」

「俺は……」

はっと我にかえった。

俺は美術部に入りにここに来たんじゃないのか?

軽音部に流されそうになっていたけれど、本当は憧れの先生に会いに来たんじゃなかったか。

「……俺はまだ決めてないよ。元々美術部目当てで入学したようなものだし」

確かに軽音部と聞いて心が揺れなかったわけではない。

むしろ、はっきりと胸の鼓動が聞こえた。

兼部できたら喜んでするのに、進学校だしできるわけないか。

「兼部はする気ないの?」

「えっ!この学校できるの?!」

俺の心を見透かしたような夏樹の言葉に戸惑うと同時に、やりたいことが両方できるという願っても無いチャンスに胸が高鳴った。

俺の反応を見るやいなや、ニヤッと笑う夏樹の顔が輝いて見える。

「じゃあ決まりだな。ちょうど軽音部もやってる時間だし、今から見に行くか!」


__5分後


ガラッ

「失礼しまーっす!」

本来なら失礼するんだったら帰れよ、とでも言われそうなボリュームで夏樹が声をかけた。

……否、叫んだ。

そうでもしないと聞こえないレベルの音量だったのだから、仕方がない。

俺も夏樹よりは幾分か小さいが、声をかけてみる。

「君たち、入部希望?……ちょっと待ってて。おーい!演奏やめろー!!」

そう叫んだのは、女子の先輩。

肌寒いのにもかかわらず、半袖のジャージを着て汗を流していた。

「やめろって言うてるやん!」

ふざけてギターを弾き続ける男の先輩にも、容赦なく関西弁で食ってかかる。

怒られた先輩は、少しばかりしょんぼりしているようにも見える。

「やっと静かになった……初めまして。部長の野崎です」

「1年の乙場 湊です」

「同じく遠藤 夏樹です!」

軽い自己紹介を済ませると、彼女はこちらを気にしつつ、さっき叱った部員のところへ行った。

他の部員も交えてなにやらヒソヒソと話しをしているようだ。

俺と夏樹はどうしたら良いかわからないので、とりあえず教室に入ってドアを閉めておいた。

「…じゃあこれで行こか。新入生!立ったままじゃなんだから、ここに座って!」

先輩はイスの埃を払い、俺たちに座るよう促した。

よくみるとこの教室、かなり古くなっている。

壁紙は所々めくり上がり、床には傷が山ほどある。

エアコンもつけてはいるのだろうが、あまり効いていない。

「それでは、今から新入生歓迎ゲリラライブを行います!……と言っても1曲だけなんやけどな」

そう言ってハハッと苦笑いをした先輩はドラムセットの前に座り、何やら金具を弄って調節?を始めた。

……と、俺はここまでで気になっていたことが1つある。

「なぁ夏樹」

「なんだよ」

「先輩、すっごい可愛くない?」

細身で色白、顔は女優で言うと○瀬はるかを幼くしたような感じ。

「だよな。俺も……」

夏樹が頷いて何かを言いかけた。


__その時。


腹の底に響き渡る振動。

巨大な音の波が押し寄せてくる。

生で聞くバンドの演奏は、今までイヤホンでなんとなく聞き流していた音楽と同じだとは思えなかった。

突然の爆音に驚いたのもあるが、

……何より先ほど話していた先輩の音には思わず息を飲んだ。

素人の俺でもわかる……この人は本当に音楽を楽しんでいる。

それぞれのパートの軽快でありながら重厚な響きは、俺の身体を動かすのに十分だった。

勝手にリズムに合わせて身体が揺れる。

他の楽器も演奏しているはずなのに、俺にはなぜかずっとドラムしか聞こえていなかった。


気持ちはすぐに固まった。

俺にはドラムしかない、と。



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