第7話 盗賊だよ in 異世界
よろしくお願いします!
「お待たせしました~」
「遅いわよ一縷君、早くしないとクエストが誰かに取られてしまうわ。ここが大国じゃないからって油断は出来ないわよ」
「わ、分かったよ。でも、わざわざダルタスまで護衛する冒険者が居るんかね?結構遠いでしょ?」
「ダルタスまでとなると少ないかもしれないけど小旅行気分でクエストを受ける冒険者もいるのよ。今回このクエストを発注したのは、旅の商人ね。この地からダルタスに行くのか、ダルタスに帰るのかは分からないけど…このチャンスは逃したくないわ」
「詩葉さーん、あっ…おはようございます一縷さん。あの、そのですね、クエストを出した商人さんの居場所が判りました。今は広場で商売しているらしいです。馬車を使っての移動式でやってるらしく、今行かないと見失いますよ!」
「ありがとうルフィス!…と言うことよ、行くわよ一縷君」
目は覚めたけど体はまだ目覚めて無かったらしく、どうにも力が入らないが、二人に遅れないように朝の王都を走り抜ける。人を避け、当たらないよう注意しながら目的地の広場までやって来た。朝の広場では、地面に布を広げその上に商品を置いて物を売っている者や、屋台のような感じで売っている者も居る。まるでフリーマーケット会場に来たかのような風景が広がっていた。
「それで…ルフィス、誰がそうなのかしら?」
「えっと、あ、あの方です!馬車使っている40代くらいの」
ルフィスが指を指した方を見ると、馬に車輪付きの箱と言うか荷台というか…とりあえず商品を運ばせて行商しているおじさんが居た。旅をしているだけあって若々しい顔付きに足腰もしっかりしてそうな風貌だった。髪は茶色で短めで紳士的な装いだ。
「あの人ね…行きましょう。私が交渉するわ」
「ルフィスはフードを被るとして、白金さんはいいの?」
「えぇ、さすがにフードで顔を隠してる人が交渉しても信用ならないし…それに、もうフードはいいわ。この国から先は大丈夫でしょ」
そう言って歩き出した白金さんの後を俺とルフィスは追ていく。村での交渉で俺は交渉に向いてない事が分かったから、今後は白金さんに任せた方が良いだろう。
「少し尋ねたいのですが、お時間よろしいですか?」
「私に尋ねたい事ですと?はて、何でしょうかなお嬢さん」
「ダルタスへの護衛の依頼を出したのは貴方で間違いないかしら?」
「えぇ、明後日までに見付かるといいのですがね…。行商人はよく街から街。国から国へと移動する職業柄、盗賊に狙われ易いですからね。私自身強くあれば問題ないですがそっちの方はからっきしでして。ははは……」
「そんな貴方に朗報があるわ。今ならFランクながら実力があり報酬はダルタスの街までの足と食事のみでしっかり護衛はする冒険者がいるわ」
売り込み方が直球だな…いけるのか?
「ほう…支払う報酬が足と食事だけとは実質タダだね。そんな美味い話があると?」
「在るわよ目の前に。今すぐギルドに依頼したクエストを取り下げれば実質タダで確実にダルタスまで行けるわ。でも取り下げなければどの冒険者が来るか分からない。下手するとCランク成り立ての奴が来るかも知れないわよ?」
「ふむ…。ふふっ。いいね、面白い…面白いね。分かった、クエストを取り下げて来るよ。自己紹介をしておこう…私の名前はリカルド。しがない行商人さ。それで、出発はいつが良いかな?」
イケる…だと!?
白金さんが今したのは相手を煽っただけで自分達の実力とか話して無いのに…何でだ?経験の差なのか?分かんねーな…
「私の名前は白金、こっちの男は一縷君、もう一人はルフィス。出発ははいつでもいいわよ。この街に来た理由も今達成された訳だし…後はダルタスに行くだけだもの」
「ははっ、ホントに面白いな君達は。今からクエストを取り下げて、食料の買い付けに行ってくる。出発は昼過ぎになるがいいか?待ち合わせはここにしよう。」
「えぇ、それで構わないわ。ではよろしく頼むわね。…私達は行きましょうか」
「お、おう」
うん、頼りになるな。俺が頼りにならないだけかもしれないが白金さんは頼りになる。…いや、まだこの世界に来て短いんだ。これから伸びる可能性もあるし、俺の事は俺が信じてやらないとな。
「白金さん、さっきの交渉の事なんだけど何であれで上手く事が進んだのかな?教えて欲しいんだけど」
「そうね…あのおじさんから得られた情報だけど、おそらくこの国で商売したけどあまり売れなかったんじゃないかしら?この国に来てから何日居たかは知らないけど商品の在庫が多かったわ。だから私は金銭的な報酬を提示しなかった、これが1つ目ね」
なるほど、在庫か…そこには注目してなかったな。
「それで私達は3人、一般的なパーティーら4人以上とされてるわ。普通に考えれば安上がりって事よ。それで2つ目は自信を持って話すことね。ヘタに下手に出ると気弱に見えることもあるわ。ここは交渉の時には当たり前だけど地味に大事な所ね」
「確かに白金さんはいつも自信ありって感じだよね」
「それは私が傲慢的だと?」
「ち、違うよ!ほら、白金さんが自信たっぷりに行動してくれるとこの世界に詳しくない俺と外の世界を知らないルフィスは助かるんだよ…頼りになるなぁって。ね、ルフィス!」
「は、はい!詩葉さんに頼ってばっかりで申し訳ありませんが感謝しています!」
「そ、そう。ルフィスが言うならそうなのかしらね。少し照れるわ」
おい、俺の言葉じゃ信用ならないのかよ!いや、もうそんな扱いってだいたい分かってきた。うん、俺も学習する。
「ん、んん…それで3つ目…は特に無いわね。強いて言うならノリね。以上よ」
話す相手の弱い所を見付ける事、自信たっぷりで話す事、最後はノリ。うん。為になるな。
「ありがとう白金さん」
「いいわよそのくらいわ。それじゃ、どうやって時間を潰しましょうか?散歩でもする?全然滞在もしない事だし」
「それで良いよ。昼くらいまでなら何か出来るって訳でもないし、せっかくだからね」
「私もそれに賛成です」
俺達は屋台で串焼きを食べたり、奇妙な形をした置物を見たりと昼まで時間を潰していた。結局は昼前に広場へと戻ってきてしまったが少し早いくらいでちょうど良いだろう。後はリカルドさんを待つだけだ。
◇◇◇
「やぁ、待たせたね。準備は万端かい?」
「あ、はい。大丈夫です」
リカルドさんが馬に引かせている荷台には、元々乗っていた商品以外に食料や馬のエサなどが増えていた。
「それじゃあ行こうか。ここは人が多いからね…街の外までは歩いて行くよ。その後は荷台のスペースに乗ってもらって構わないから」
「わかりました。ここからダルタスまではどのくらい掛かるんですか?」
「そうだねぇ、ダルタスまでなら馬を走らせて…勿論休みながらになるけど、それでも3日~4日くらいの所にあるかな」
「…白金さん、馬車って1日でどれくらい進むの?」
「1日の内、走る時間を休憩を除いて…簡単にする為に10時間として、馬車でならだいたい時速10㎞あたりとすると、1日100㎞近くは移動する事になるわね。それで3日~4日と考えるとダルタスまでは計300~400㎞くらいの距離があるわね」
300~400か…いまいちピンと来ないな。
「リカルドさん、盗賊に襲われそうなポイントとか在るんですか?休むタイミングも考えておきたいのですが……」
「途中で森を抜ける道がある。他はほぼ見渡しのいい場所なんだが、そこだけは左右を木に遮られてるから危険かな。森は明日か明後日くらいに通るだろうから、今はまだ警戒しなくていいと思うよ」
「森を通りそうな日には教えて貰えるかしら?夜は3人で見張りを交代するけど、森の前に3人の体調を良くしておきたいわ」
「分かったよ、Fランクらしいけど頼りになるねぇ」
「そりゃどうも。……そろそろ街を抜けるわね、一縷君、ルフィス、仕事はキチンとこなすわよ」
「はいよ」
◇◇◇
旅は順調そのもので、馬車に揺られながら優しくも少し肌寒く感じる風を浴びてダルタスへ真っ直ぐ向かっていた。
「なんかいいね、こういうの」
「一縷さん、何がいいんですか?」
「なんかこう…ゆったりした時間というか、まぁそんな感じの」
「一縷君、その感覚は分かるけど…こっちの…馬車によく乗る人達には当たり前過ぎて伝わらないわよ?」
「それもそうか…あ~風が気持ちいい」
「はい、それも少し終わりよ。魔物が近づいてきてるわ、行くわよ!」
「皆さん、お任せしました……」
こちらへ来ているのは…あれは猪か?んー、4匹いるがなんか俺が居た世界のと違う気もするが…ま、似たようなもんだろ。よし!
「俺が正面の1体をやるからルフィスと白金さんは後ろの3体よろしく!」
「ルフィスは右の1体を、私が2体やるわ」
「わ、分かりました!敵を貫け『水の矢』!」
「大事なのは急所に真っ直ぐ突き刺す事…もう少しもう少し…はぁぁぁ!」
「風よ」
ルフィスの水の矢が猪の眉間に突き刺さり、俺の槍も正面の猪を貫いた。やたらと短い詠唱だった様な気がしたが、白金さんも猪の首を断ち切っていた。
「す、凄いね君達は…ホントにFランクなのかい?」
「あ、はい。先日、冒険者登録したばかりですよ」
「ルフィス、火の矢を使わなかったのはいい判断よ…皮の素材が採れる魔物の時はね。一縷君はもう少しだけ耐えて溜めを作ったら槍の威力がちゃんと発揮されていたと思うわよ」
「ありがとうございます、詩葉さん」
「確かに少しビビった感はある。いやー、思ったより早くてね」
「まぁ、そこはこれからの経験次第だから今は何も言わないわ」
「こいつの解体は私がやろう。少し手伝ってくれるかな?」
「分かりました。ルフィス、水の魔物で血を抜いてくれ」
「分かりました」
血を抜いた猪をリカルドさんが皮を剥いで肉を削いでいく。見事な手際でほとんど一人でやってしまった。素材になる部分とそうじゃない部分とに分けて、肉は今晩の夜に食べることになった。素材はリカルドさんが買い取ってくれるらしく、俺達は少しばかりのお金をいただいた。
このくらいの強さの魔物なら、どんどん出て来て欲しいと思っていたが結局この日は魔物は現れず夕暮れ時になり、今日は休むことになった。見張りは俺とルフィスが夕方と朝方を担当して、夜目の利く白金さんが夜中を担当してくれる事になった。夜に猪の肉を焼いて食べて俺と白金さんとリカルドさんは早々に眠ることにした。
◇◇◇
「一縷君、交代の時間よ。起きなさい」
「あと、5分……いったぁ~!?」
「アホな事言ってないでさっさと起きなさい!」
ビンタだ。寝起きにビンタである。白金さんは意外と常識が無いのかもしれない…寝起きにビンタは良くない。体が目覚めるとどんどん痛みが増してく様に感じる…。ま、自業自得なんだけど。
「お、おはよう」
「はい、おはよう、私は仮眠を取るから出発の時に少し起こしてね」
「了解」
俺は白金さんと交代で焚き火に薪をくべりながらボーッとしている。だって、こんな朝っぱらから活動してる奴なんて漁師くらいだろ?しかも朝は冷える…
「缶コーヒーが欲しくなるな…微糖のやつ。…ん?リカルドさん、おはようございます。もう起きたのですか?」
「えぇ、少しトイレにね」
「なるほど、朝は冷えますもんね。特に何も見当たらないですが気を付けて行ってきてくださいね」
「戻ったらもう少しだけ寝ますんでこちらは気にしなくて大丈夫ですよ。見張り、お願いしますね」
リカルドさんが少し離れた林の方に歩いて行くのを見送って、俺はまたボーッとし始めた。
「ダメだ暇すぎる……槍でも振るかな……」
とりあえず教えて貰った事を繰り返す。構えて突く。また構えて突く。……白金さんは寝ているな。よし!
「回すぜ!槍を!!」
バトン部並みとはいかないがくるくる回転させる。戦いの時には使えない動きだが、回す練習は多対一の戦闘で動きを繋げる時に使えるかもしれないしな。多分。
「くるくる~……くらえ!!」
回転からの槍投げである。こんな所を白金さんに見られたら怒られるな。寝てるときにしか絶対出来ないな。
「いやぁ、楽しいなぁ~今度から一人の時はこうしようかなぁ」
「な~にしてるのかしら~?一縷君~?」
ふっ…俺にはこの瞬間に分かった事がある。1つ、この後説教の末に死ぬ。2つ、鍛え直されて死ぬ。3つ、死ぬ。つまり俺の人生はここでおしまいな訳だ。だけど、俺も少しは足掻こうと思ってる。相手が白金さんだからって諦めない。
「何もやましい事はしていない。一旦待ってくれ、せめて投げた槍を取りに行かせてくれ」
「地獄で根性を叩き直してきなさい!!」
「ぐあっ……!!」
まさかの顔面ハイキックだ。俺はゆっくりっと倒れて行く感覚の中で……ふっ。地獄への土産は"白"だったって事を報告する事だな。俺はタダでは死なない男……そう考えていた。
◇◇◇
「んん……ん?」
ガタゴトと揺れに気が付いて目が覚める。い、痛い…何か、顔がまんべんなく痛い。
「一縷さん、目が覚めましたか……?」
「ここはどこ?私は……だれ?」
「詩葉さん、大変です!一縷さんが変なんです!」
「いつも通りじゃない。心配ないわよ」
「目を覚まされたのですが、ここはどこ、私はだれ?って!」
「ならこう返しなさい。ここは地獄。貴方は死人ですって」
「いや、それなら白金さん達も死んでる事になるんじゃないですかね!?」
「立場が違うのよ。私は地獄の管理人。貴方はただの死人よ。ほら、くだらない事言ってないでさっさと起きなさい。今日は森を通る事になりそうらしいの。貴方は十分寝てたからもう大丈夫でしょ」
「あ、うん。顔が痛いけど。ルフィス聞いてくれよ!白金さんが俺の顔を蹴ったんだぜ?」
「話は聞きましたよ!白金さんのスカートを覗いたらしいですね。長めのスカートなのにそれでも覗くなんてイヤらしいです!」
「ち、違うよ!俺は槍の練習をしてただけなんだ!ちょっと回してたりしたけど……」
「では、スカートの中は見てないのですね、誤解してました。すいません……」
「……う、うううん。み、見てないよ。」
「一縷君、嘘は止めなさい。私の黒い下着が一縷君の目に映ってるのを見たわよ」
「いや、白だろ!……はっ!?」
「い~ち~る~さ~ん~」
「これが話術か!でも、聞いてくれルフィス。白金さんが蹴るのがいけないんだ。俺は槍を回してただけなんだよ?」
「投げてたわよね?」
「回して投げてただけなんだよ!」
「遊んでるじゃないですか……」
遊んでたな……。ごめん、遊んでた。遊んで白金さんのパンツ見れたから顔が痛いけどトータルプラス査定だな。
「よく考えたら問題無かったわ。さ、今日も頑張っていこうかね」
「どうしたんですか急に?やはりどこかおかしくなっちゃったんじゃ……」
「君達は仲が良いね。昼頃には森に入るから頼むね。森と言ってもちゃんと馬車の通る道はあるから森を抜けるのは1時間くらいかな」
「分かりました!」
「森の前で早めの昼食にしよう。森は一気に抜けたいからね」
森の入り口に着くまで辺りを軽く見渡しながら話して時間を潰していた。魔物が出ないと槍も魔法の練習もできないから退屈だった。俺の気絶の時間は思ったより長かったらしく、2時間もしたら太陽の位置が真上付近にあって、森の入り口も見えた来た。
「ここで少し休憩しよう。馬も休ませたいし。」
「一縷君、ルフィス、森での警戒の仕方を教えるわよ。とりあえず敵は森に潜んでるのは当然として、出てくるタイミングが、森の真ん中辺りか、出口付近になってくると思うわ。理由としては、真ん中なら挟み撃ちしやすく、私達は逃げにくいって事ね。出口付近は一番油断するからよ」
「盗賊って複数が基本だよな?四方から来たらどうすんだ?俺達は3人だろ?」
「そうね、配置としては、前方と左右に人を集めると思うわ。まず馬を止めて、矢で打ってくる。そして斬りかかるのが基本の盗賊のやり方だもの。私達は馬に矢が当たらない様にして、駆け抜けるのが一番だわ。まぁ、馬が止まってしまう事があるかもしれないけどその時は単純に倒せばいいだけよ」
「優先順位はリカルドさん、馬、荷物の順で?」
「優先順位はリカルドさん、その次に殲滅、壊滅よ」
物騒だな。まぁ、野放しにしない方が良いのは分かるけど…ルフィスも顔がひきつってるぞ……。
「盗賊は出来るだけ殺さずでお願いね。犯罪奴隷として売れるし、懸賞金がかかってたら儲けるわ。だから一縷君、足を消し飛ばしたりしないでね。槍の後ろで気絶させるのがベストね。今の一縷君ならおもいっきり殴るか蹴るでも相手はダウンすると思うわよ」
「いや、それはあたりどころによるんじゃない?」
「私のさっきの蹴りをルフィスにやったら首の骨が折れてる威力よ?それを耐えれる肉体があるんだからおもいっきりやったら、へっぽこの盗賊くらいだったら倒せるわよ」
なんつー攻撃してくれてんだよ…。ルフィスが遂に俺に同情をし始めたレベルだ。痛かったもんな。勇者の俺でも気絶だからな…
「私はどうしたらいいでしょうか?火か水か光しか使えないのですが……」
3つも使えるのか…十分凄いと思うぞルフィス。
「ルフィスはとりあえず馬とリカルドさんの護衛ね。基本は水魔法で何とかして欲しいけど火魔法も遠慮なく使いなさい。優先順位を間違えないようにね。なるべく私もフォローに回るわ」
「はい、お願いしますね」
「君達、ご飯が出来たよ。これを食べたら出発のしよう。なーに、盗賊も毎日居る訳じゃ無いだろうさ。気楽に行こうよ」
「一縷君……」
「ああ、気を引き締めていこう」
「ん?どうしたんですか二人とも?」
◇◇◇
「危ない!!」
「きゃっ……!?」
森に入って30分ついに盗賊がしかけてきた。ルフィスに向けて矢を放ってきた。
「リカルドさんはそのまま走り抜けて!白金さん、ルフィス!」
「矢は私が防ぐわ!」
「クソ!正面から来たよ!乱戦になる。ルフィスは護衛。白金さん馬車から左をよろしく、右は任せて!」
正面から馬の足元に矢を放たれ馬が驚き、遂に止まってしまった。
「へへ、野郎ども!いけぇ!女は取っておけよぉ」
「しゃあ!男は殺せ!女は捕まえろぉ!」
「ちっ、下衆が!くらえ、三段突き!三段突き!三段突き!」
「おい、こいつら結構やるぞ!?先に女の方を捕らえろ!」
「誰を捕らえるって?」
はっやぁー。反対側の盗賊達みんな地面とキスしてるぞ…綺麗に地面と口が密着してらっしゃる。
「お前ら止まれぇ!!」
びっくりした。リカルドさんか…リカルドさん!?えー!ルフィスが人質みたいにされてる。ナイフを首元に突きつけられてる。可哀想に…
「助けてください~」
「この女がどうなってもいいのか!?下がれ!妙なまねはするなよ?」
「私は最悪自分の命を優先させてもらうけど……一縷君は?」
「俺もそうだな」
「ボス!こいつら人質を見捨てる気ですぜ!?」
ボスかぁ…リカルドさんボスかぁ。なんだこの世界。まともな奴は居ないのか?
「えぇ……助けてくださいよ!私も死にたくないですぅ!」
「へへ、なんだかんた言ってこいつら手を出して来ませんぜ?」
「仲間もだいぶ痛め付けられましたし男の方はボコボコにしろ!女の方は…後のお楽しみだ。男が痛め付けられるのを見せ付けてやれ。」
「一縷君、耐えるのよ。後は任せて」
「うーん。リカルドだけ消すのじゃダメなのか?」
「売れそうだからダメ。まぁ、痛みに強くなりなさいな」
「訓練か?」
「訓練よ」
「へいへい。かしこまりましたっと……ぐふっ」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!おめぇら!やるぜ!!」
痛い……痛いよ……めちゃくちゃ殴られてる。顔も腹も背中も。でも不思議と意識を失う事もないし、痛いと思うが耐えられないレベルでもない。白金さんの蹴りの方がずっと痛かったぞ。
「しぶとい野郎だな!てめぇ等!手加減はいらねぇみたいだぜ!」
俺は無言で殴られ続けた。白金さんが終わらせるまでひたすら殴られ注目を集めるのが俺の仕事。嫌な役目だなぁ。
「おい、あれ持ってこい!」
「おい……金属の棒とか、人に使うもの………じゃねー……だろ」
「お前がなかなかくたばらないからな。よく耐えてるぜ?だがこいつで終わらせてやるよ!」
「おらぁぁぁ……がぁっ!」
金属の棒を持った男が俺を殴る前に前のめりに倒れた。やっとか。待ちくたびれたぞ。
「うーん、どうも体が鈍ってるわね。まだ本調子じゃないわね」
「お、おいどういう事だ!?今、一瞬でこいつらが……」
「倒れた様に見えた?リカルドとか言ったわね。あなた程度じゃそのレベルよ。盗賊に落ちるのも納得ね」
「うるせぇ!こっちにはこいつが居るんだ。何をしたかは分からねぇが大人しくしてもらおうか!」
「一縷君、気分はどう?」
「ああ、最悪だよ。痛いし痛いし、あと痛い」
「そう。ならあの男は一縷君に任せるわ。消すのはなしね。」
「いや、さすがにナイフくらいは消させて貰うよ。ルフィスもそろそろ助けてあげたいしね。……ロスト」
「なっ……!?ナイフが消えただと!?どっちだ、何しやがった!?あっ……クソが!!」
ナイフが消えて驚いた瞬間にルフィスは走り出した。それと同タイミングで俺も動きだす。
「朝練の成果を見せてやる……」
「くそ……やるか?ダメだ。こいつらには悪いが俺は逃げさせてもらう」
俺達に背を向けてリカルドが走り出した。甘い。俺が朝何の練習をしていたか知らないのか。
「くらえ!必中の槍と化し飛んでいけ!おおおりゃあああああ!!」
全身を捻ってから投げ飛ばした俺の槍がリカルドに向かって飛んでいく。真っ直ぐ。ただ、真っ直ぐに突き抜ける。リカルドをも越えて飛んでいく…
「……パージ」
「あがぁぁ!足がぁあああ!」
「はぁ……一縷君。はぁ……」
「怖かったよぉ、詩葉さぁん」
俺の槍は飛びすぎてリカルドを越えてしまった。うん、今朝から練習し始めたばかりだし、まだこれから頑張ればいいだろう。流石に逃がすことは出来ないから両足首の骨を脱臼させて貰ったた。消してもないし、治る怪我でもあるから概ね、オーダー通りだろう。最初からこれだとせっかくの経験が積めないからな。面倒くさくても地道にやっていかないと。
「それで、こいつらどうするの?ひい…ふう…みい…全員で12人か?」
「こいつらがロープを持ってきてくれたからね。縛りましょう。リカルドがボスね。これはラッキーよ」
「ラッキーって何が?」
「ほら、この子。馬と荷台が手に入ったじゃない。買う手間が省けたし、盗賊で報酬は出るし。今回は良いこと尽くしね」
「そう言えばそうだな。こいつらは暴れない様に荷台に乗せて運ぼう。寝てる間に行けるところまで行っちゃおうぜ」
「二人とも…私が人質になった時、見捨てませんでした?」
「ち、違うぞ?そ、そう作戦だ。あれは油断させる作戦だったんだ。いやー、即興にしては良く出来たもんだ。ね、白金さん」
「何を言ってるの?本当の事よ?自分の命を優先させるのは当然じゃない」
キィー!白金さんは本当にクールで格好いいと思うけど、もう少し気を使って欲しい。フォローしてる俺がバカみたいじゃないか!
「それに、別に見捨てて無いわよ。ここにナイフがあるでしょ……」
「きゃっ!」
「おい!何を……って止まってる?」
白金さんがルフィスにナイフを突きつけたと思ったら喉元で止まった。本当に刺さるかと思って焦ったが大丈夫だったみたいだ。
「ルフィスには敵の矢が来たときから風の膜を張ってあるわ。だからすぐに助ける必要は無かったのよ。」
「詩葉さん…私の事守っていてくれたのですね!嬉しいです!」
「ちょっと…抱きつかないでよね」
「えへへ、嬉しいんですもん!」
仲良き事は良いことよな。その中の入ってない気もするけど…。とりあえず俺が盗賊達にロープを巻いていこう。
「一人を手と体を纏めて巻いて、続けて二人目を巻けばみんな逃げられ無くなるな。荷台にもロープがあるし、それでいこう」
「ルフィス、馬の世話をしてきて。私はリカルドを運んで来るわ」
「分かりました。馬も今は落ち着いてるみたいですね」
白金さんが少し離れたリカルドを引きずってきた。
「いてぇ!いてぇって!おい!もっと丁寧に運べや!」
「黙りたさい盗賊。残念ね。Cランクの冒険者あたりならこの作戦も上手くいっていたかもね」
「Fランクで女がいるからこいつらにしたがミスったぜ……くそが!テメー等早く起きろ!」
「無駄よ。しっかり眠らせてあるから。それと馬も食料もありがとう。あとあなた達を突きだした時の報酬もね」
「くそくそくそ!……くら…がぁ!」
「まだ、ナイフを隠し持っていたのね…でも動きで分かるし遅いわよ。さ、リカルドも気絶したし。運ぼうかしらね」
リカルドとその仲間達を荷台に積めて、ルフィスが馬を牽き、俺と白金さんで見張りをした。途中に何回も盗賊が目を覚ますが、その度に白金さんの何らかの魔法で眠らされていく。そのまま1日が過ぎて遂に、商業の国でそこそこの大きな国土を持つダルタスへの入り口が見えてきた。どうやらあの森が国境代わりのようで、あの大きな壁に覆われている場所がどうやらダルタスの首都のようだ。
「見えて来たなダルタスの首都…もうダルタスでいいか。ソフュール王国みたいに壁に囲まれてるんだな」
「入り口にも人が居そうね。だいたい東西南北に入り口はあるけど…まぁ、このまま真っ直ぐいった所の門から入ればいいわね。」
ダルタスに近づくと商業の国だけあって、色んな荷物を積めた馬車が門の中に入るために待っている。荷物のチェックが有るみたいで時間がかかっているのだろう。…待つしかないよな。
1時間以上待ってようやく俺達の順番が回ってきた。
1話1話を長めにしてますので、誤字脱字ありましたら報告お願いします!
評価や感想、レビューにブクマもお待ちしております!(´ω`)