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第6話 冒険者だよ in 異世界

お待たせしました。よろしくお願いします!

 

 草原で狩ったウサギや鳥を紐で括り付け背負いながら、ようやくモータルの端にある村に着いた。なるほど、確かに王都が地平線に見えてるな。この世界が不思議パワーで球体じゃなかったら、地平線に見えるのはやばいけど小さい国で地平線に見える事を考えるとやっぱり球体で王都までは4㎞~5㎞くらいってとこだろう。


「森の中を走って抜けてきたけど王都までなら今日中にも着きそうだな。」


「そうね、この村で少し休憩してから出発しましょうか。」


「はぁ…はい。すこし、休みましょう」


 どうやらこの国は小さい代わりに村の1つ1つはそこまで小さくないらしく、この村も道路の整備や他の建物も綺麗にすれば街は無理でも町くらいにはなれるんじゃないかと思うほどではある。


「料理出してくれる所はあるかな?少しお腹すいて来たんだけど…ていうか、喉も渇いたし。」


「聞いた方が早いかも知れないわね…」


「じゃあ、聞いてみるか…ん?言葉って通じるの?ソフュール王国じゃ通じたから何の疑問も抱かなかったけど、ここ他国なんだよね?」


「一縷さん、それなら大丈夫です。人族の大陸語は統一されておりますので…この国でも通じるはずですわ。勇者様が別の大陸の言葉も理解できるかは分かりませ…詩葉さん、そこはどうなんですか?」


「通じるわよ。勇者としての力と一緒に与えられたのか、聞けるし話せるわ。でも書くのと読むのは勉強しないと無理ね、それでも習得にはそれほど時間はかからないんじゃないかしら?人によるけど」


「どうしてそこで俺をみるんですかね?いや、普通に考えて話せるし聞けるなら文字くらいすぐ覚えられるだろう?」


 俺がそう言うと白金さんは紙に何かを書き始めた。


「一縷君、この文字とこの文字の違いが判るかしら?」


 紙には『//|』と『/|/』と書かれていた。線が3つ書かれていて斜め線の位置が違うのが分かるが…これが文字だとでも?


「ちなみにこれはどんな意味で…?」


「左がおはよう、右がおやすみ…ですか?」


「ルフィス、よく勉強していたわね。正解よ。一縷君、亜人の住む大陸じゃ亜人達が自分達でも覚えられる様に簡単な物にしようと突き詰めたら一周回って理解出来なくなったのよ…亜人は頭より体力馬鹿が多いけど頭は普通に馬鹿だから…さて、一縷君はどのくらいで覚えられるのかしらね。」


「ル、ルフィス…さっきのおはようとおやすみ以外で知っているのは?」


「後は、こんにちはとありがとうとごめんなさい…くらいですかね。私も亜人の大陸語を勉強しようと思ったんですけどダメでした」


「それだけ知っていれば十分よ。今の亜人でもどれくらいが文字を書けるのかしらね。」


 なるほど、うん。諦めよう。そうだよ。話せて聞ける、十分じゃないか!


「さ!お腹すいたしご飯ご飯」


「せめてルフィスを見習ってチャレンジくらいはしなさいよね…」


「あれは無理に決まってるだろ!何だよあの文字…いや、もう文字でもねーだろ。」


「はぁ…それもそうだけどね。まぁいいわ、ご飯にしてすぐ王都に向かいましょ。食べて休憩したら走るわよ」


「ま、またですか~」


 村の人に聞くと料理屋は複数あるらしく、その中でも食材を持ち込めば料金を調理代だけにしてくれる店があるというのでそこに向かった。


「物々交換の風習が残ってるとこういう店もあるんだな。」


「金の無い冒険者の為って所かしらね。私達も宝石類を換金しないと今の手持ちは少ないから助かるんだけど」


 その店に行くと冒険者風の男が2,3人居るだけでけっこう空いていた。店に入ると夫婦で経営しているのか40代くらいの奥さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい、村の人じゃないね、旅の者かい?」


「そうです、これから王都まで行くんですがその前に空腹を満ちそうと思いまして、食材は持って来てます…森で狩ったやつですがいけますか?」


「大丈夫だよ。ウサギと鳥だね…余った素材をくれると言うなら3人前はタダにしておくよ!」


「本当ですか!?二人共、それでいいかな?」


「いいわよ。」「それで大丈夫です。」


「…という事なんでそれでお願いします。」


「分かったよ、希望の料理はあるかい?焼くのが1番早いんだけどね、煮たり蒸したりは時間がかかるよ?」


「私は焼いたものでいいわ」「俺も」「私も」


「じゃあ、座って待っていておくれ。」


 それから10分ちょっとくらいで料理が出てきた。塩であっさりと焼いたものとタレを和えたものの二種類あって、とても美味しそうだ。


「パンは1人1つまで付けるけどいるかい?」


「3人分お願いします。」


「あいよ。…じゃ、ゆっくりしていっておくれ。」


 塩味の方を食べる。シンプルで肉の歯応えもあってめちゃ美味い。タレの方も食べてるのに食べれば食べる程さらに食欲をそそられる。タレにパンを付けるとさらに美味い。ふぅ…満足だ。


「美味しかったな。高級食材じゃない、こう…平民の贅沢というか…俺の身の丈に合った料理だからこそ満足した。」


「分からないでもないけど…語彙力を鍛えなさいな」


「でも、凄く美味しかったです!旦那さんの腕がとても良いんですかね?」


「満足してくれた様で良かったよ!うちの旦那が作る料理は美味くてね、冒険者達には人気なのさ。ま、こんな所にくる冒険者なんてたまにしかいないけどね。」


「本当に美味しかったです、ご馳走さまでした。」


「ご馳走さま。そろそろ行きましょうか」


「そうですね。ご馳走さまでした!」


「またいつでも寄っておくれ!」


 店を出て王都に向けて歩きだす。今走るのは流石にヤバイ。消化してくれないと吐いちゃうな…俺とルフィスだけっぽいが。


「王都に入る時はまた消えるとして、入ったらどうするんだ?」


「入ったらそのまま人気の無いところまで歩いて魔法を解くわ。その後はギルド…の前に換金したいわね。」


「換金ならギルドでも可能ですよ!昔は宝石店でのみだったらしいんですけど…せっかく宝石を手に入れても冒険者には入りづらいという理由からギルドでも換金出来るようになったんです。」


「宝石店って貴族が行くイメージしかないもんな。なら、とりあえずはギルドで宝石の換金と冒険者登録だな。」


「大まかの予定を言えば、クエストを受けてお金を稼ぐ事、馬を手にいれる事、ダルタス国まで行く事。この3つくらいかしら。…もちろん強くなることは常によ。」


「了解。モータルにはダンジョンはないのか?」


「どの国にも1つはダンジョンがあると思いますよ。たまに増えたり減ったりする事があるらしいですが…」


 ダンジョンって増減するんだ…良いことなのか悪い事なのな分かんないな…資源が増えると考えるか、危険が増えると考えるか…


「クエストもダンジョンにいるモンスターの素材とか魔石を集めたりする物も多いでしょうね。勿論、商人の護衛とかもあるでしょうがそういうの……そうね。」


「詩葉さん?どうされたんですか?」


「モータルからダルタスまで行く商人の護衛なんてクエストが有ればわざわざここで馬を手に入れたり食料も買い込まなくて済むわ。あ…でも、冒険者に成り立てじゃ護衛のクエストなんて無いわよね。」


「成り立てだと受けられないのか?」


「おそらく、護衛のクエストはCランク以上じゃないと受けられないわ。成り立てのFランクじゃ信用もなにも無いもの。」


 なるほど…成り立てじゃいくら実力があっても信用されていないのか。一定の水準に達した冒険者じゃないと護衛はダメか。


「逆に言えば、信用さえ手に入れればFランクでも依頼してくれるんじゃないか?」


「どういう事かしら?」


「逆に言うと、信用さえ手に入れたらこっちのモノって事だろ?」


「一縷君、アイデア…と言うか逆に言ってみただけなのね?」


「ごめんなさい、具体例とかなにも無いです…浮かんで無いのに逆に言ってみました…」


「良いのよ、一縷君だもの…具体例は一緒に考えていきましょう。一縷君の発言が無かったら私は諦めていたかもね。そういうとこ助かるわ。」


 呆れられたのかと思ったら褒められた…くっ、怒るに怒れないし、憎むに憎めないし、喜ぶに喜べない!なんだこの気持ちは…!?


「まずは王都でクエストがあるか確認しないとですね?」


「そうか、まずもってクエストが無かったら意味無いもんね。クエストを誰も受けなかったらいいんだけどなぁ。」


「クエストが有ったら自分達から売り込んでみるのも良いかもね。今なら私達安いわよってね。」


「や、安いですか…なんかアレですね」


「あら?アレって何かしらルフィス?」


「え!?いや、何でも無いですよ!違いますから、詩葉さん!そんなニヤニヤした顔で見ないでください!」


 ルフィスが顔を真っ赤にしながら反論してるが説得力が皆無だな、そろそろ王都側からも歩いてる人物が判る頃だろうし、腹の具合も丁度いいしそろそろ行くか。


「ルフィスお腹は大丈夫?」


「え?お腹?…そう言えば最近太っ…って、一縷さん、何を聞いてるんですか!」


「一縷君、急に何を聞いてるのよ…まるで犯罪者ね。」


「いや、ちがっ、そうじゃなくて!走れるかって事!そろそろ向こうからも見えるだろ?…ていうか、犯罪者は酷いよ白金さん。」


「あら、そういう事だったのね。うっかりしてたわ」


 白々しい…完全に分かっててからかってる人の目をしている。


「すいません、私ったらまた…そういう事なら大丈夫です!いつでも走れます。」


「よし、じゃあ行こうか。」


 俺達は手を繋ぎバニッシュで姿を消した。今回はミュートを使わない。急に周りの音が消えたら流石に怪しまれるから入るときは抜き足差し足忍び足ってやつだ。姿がなければ多少の雑音は誤魔化せると思っている。



 残り1㎞を切った所から走りだし、俺達の足ならゆっくり目に走っても3分はかからなかった。王都に入る門は一般用と貴族用に別れていた。今回は入り口も大きくてガヤガヤと雑音の多い一般用から入る事にした。2列に並んで1つの門の右と左に別れているため、真ん中はがら空きだった。普通に歩いて入れたよ。お邪魔します。そして、裏路地に入って人の有無を確認してから魔法を解く。


「潜入成功。」


「魔法によるセキュリティの強化とかされてたらどうしようかと思ったけど大丈夫だったわね。」


 どうしようかと思ってたなら、そう教えてくれよ…魔法の探知とか大国ならあり得そうだし、ここが小国で良かったよ。


「この国は数回程度ですが訪れた事がおりますのでギルドの方向も何となく分かりますわ。こっちです。」


「あれ?たしか…こっちです!」


「んん?おかしいですね…あ!こっちです!」


「はぁ…はぁ…たしか、たしかあっちに…」


「もう…もういいんだ。これ以上無駄に走らせないでくれ…」


「中々の酷い言い方ね一縷君。でもそうね、ルフィス迷いすぎよ。」


「す、すいません。最後に来たのは10歳になる前でしたので正直あまり覚えて無かったです。」


「結局最初の場所に戻って来たけど、ギルドってどこにあるんだ?」


「おや?君達はギルドを探しておるのかね?さっきから走り回っていたようだが…ギルドは真っ直ぐ行ったあの建物じゃよ?ホッホッホ」


 報われない!?ルフィスの頑張りも何もかもが報われない…


「ご、ごめんなさい…わ、私が…」


「悲しい思い出として後に笑えるわよ。ね、一縷君」


「そ、そうだね…とりあえずギルドの場所も分かったし…行こうか」


「ず、ずびばぜん~~」


 可哀想なルフィスを連れてギルドまでやって来た。白金さんが何とかルフィスを泣き止ませホッとしている。


「やっぱりギルドに入ったら絡まれるのかな!」


「何で少し楽しそうなのよ…いえ、気持ちは分かるけど」


「何でお二人共楽しそうなのですか?」


「「お約束だから!!」」


「お、お約束ですか…」


 お約束だ。ギルドに入ったら何故か絡まれる。理由は様々だが絡まれる。…怖そうだったら白金さんに任せよう。俺達は建物の中へ踏み出した。



「今日は何のクエスト受ける?」

「あれとかいいんじゃないか?」


「今日は稼ぐぜぇ~」

「さっさと行こうぜ」




「「…チッ!」」



「一縷さん、詩葉さん!露骨にガッカリしないで下さい!あと舌打ちは止めてください。」


「そ、そうね。私としたことが少し取り乱したわね。」


「俺達のワクワクを返していただきたい。」


「お二人の気持ちは分かりました…でも、ギルドに入って絡まれるなんて相当態度が悪いかいきなり何かやらかさない限りは無いと思いますよ?」


 そ、それもそうか。初めての冒険者ギルドでテンションが上がっていたのかもしれないな。そうだよな…いきなり絡んでくる奴とか普通に考えておかしいよな。


「す、すまんルフィス。少し舞い上がってた。さっそく登録しに行こうか。…その前に換金か?」


「一緒に出来るか聞きましょう。そっちの方が早いわ」


 俺達は受付に行こうとしたが冒険者がけっこう並んでるから最後尾に並んだ。


「おい、オメー等は新人か?見ない顔だが」


 こ、こえぇぇぇぇ。なんだこの人顔に傷だらけじゃねーか!


「え、あ、は、はい。今日からその、冒険者に…ですね、成ろうかなぁ~なんて思いまして。」


「そうか…この世界は楽じゃねぇが夢がある職業だ。せいぜい頑張れや!後ろのローブの子はお前のコレか?男ならしっかり守ってやらねーとな!ガハハハ」


「そ、そうですね!頑張らせて貰います!」


 いい人じゃんか!めちゃくちゃ頼りになりそうだし、はぁ…イメージと全然違うな!いい意味で。


 その後も順番が回ってくるまで強面兄さんにアドバイスを貰っていた。


「本当、アドバイスありがとうございました!」


「へへっ…じゃ、頑張れよ新人!」


「おい、いつまでしゃべってんだ!さっさと行くぞ新入り!」


「へ、へい!…じゃ、頑張れよ新人!」




「…………は?」




「ぶふっ…相変わらずみる目が無いのね一縷君…ぷ、ぷふ…」


「一縷さん…こ、これ…は…ぶふっ!」


 いやぁあああああああ!誰か殺してくれぇぇぇぇぇぇ!


「あははははははは」


「ふふ、ははははは」


「強面が新入りやってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 この後ギルドの職員さんに怒られた。笑われながら怒られた。そんなの初めてだよ…。



「すいません、お騒がせしました…3人分の冒険者登録にお願いします。…あと換金も。」


「あ…はい。元気…だしてください…」


「あ、はい…大丈夫です…そうだ、この国を出るクエストとかですね、ないですかね…?」


「はい…探しておきます…冒険者登録をしますので必要事項を記入してください。登録料で1人銀貨1枚となりますが、換金分からお引きしてよろしいでしょうか?」


「それでいいわ。さ、ルフィス書くわよ。」


「はい。」


「銀貨…銀貨…ん?ルフィス、銀貨1枚っていくら?」


「はい?銀貨1枚は銀貨1枚ですけど…?」


「あ、ルフィスに聞くとそうか。白金さん、俺達にするといくらくらいの価値なんだ?」


「そうね…。価値が変わってなければ、この銅貨が百円、銀貨が千円で比べて大きいでしょ?大銀貨が一万円ね。手元に無いけど金貨、大金貨、白金貨ってのもあるけど10倍ずつって思ってくれていいわよ。」


「はえ~…百円はまぁ分かるけど、千円からも硬貨って不思議な感じだな。銀貨と大銀貨も模様が違うんだな。」


「ちなみに、このパーティーは必要経費以外はお小遣い制度を採用します。」


「ブーー、ほらルフィスも!ブーブー」


「え?あ、いや、何でですか?」


「こうした方が話がスムーズになるんだよ!ほら!」


「わ、分かりました。ぶーぶー」


「お黙りなさい!お金の管理は私がします。あなた達はお金の感覚分かるんですか…答えは否!あなた達には無理です。いいですね。」


「月々いくら貰えますか?」


「稼ぎ次第で変わりますが、最低大銀貨1枚くらいとします」



 1万円か…必要経費は出してくれるみたいだし全然いいな。



「あの…他のお客様も居りますし、早くして欲しいんですが……あ、こちら換金の分です……」


「あ、すいません。書き終わりました」



と言っても、白金さんに書いて貰ったのだが……。



「そうですか……では、この紙にご自身の血を一滴落としていただいていいですか?……針をどうぞ」


「え?これ、紙に……いいんですか?」


「大丈夫よ。この紙に血を垂らしてギルドにある職員だけが使える魔方陣を使えばカードになるのよ」



 凄い機能だな。紙に書いた情報がそのままカードになるのか。血が本人証明になるわけか。



「痛い…はい、これでお願いします」


「お預かり致します。少々お待ちください」


「一縷君、さっき換金した分が結構なお金になったからとりあえず大銀貨を渡しておくわね」


「それ銀貨10枚にできる?」


「いいわよ。ルフィスは?」


「私も同じでお願いします」


「んー、どうせダルタスに行くならそっちで装備は揃えた方が良さそうね。今日はここで宿を取るわ。取っておくから街を観てきていいわよ」


「マジか、なら暗くなったらギルド前に集まるって感じで」


「ルフィスは私と行動よ。女の子1人って危ないからね」


「わ、分かりました」


「お待たせ致しました。こちらがギルドカードとなっております。再発行にはお金がかかりますので無くさないようにご注意下さい。それでは冒険者ギルドとカードについて説明致しますね……」



 ギルドについて要約すると、ギルドではクエストの発注と受注が出来る事。冒険者にはFランク~Sランクまである事。クエストは自分のランクの1つ上は受けられるが下は受けられない事。指名された場合はその限りではない事。自分が訪れた街で緊急クエストが発せられたら必ず参加する事。クエスト失敗には違約金が発生する事。くらいが主だな。


 カードについて要約すると、名前、年齢、性別、ランクなど紙に書いたことがそのまま書かれている。他の機能として、クエストを受ける時はカードに受注記録や達成記録がされる為、毎回提出する事。ランクアップの方法は地道にクエストをこなすか、その実力があると認めさせる事。その判断は各ギルドのギルド長がする事くらいかな。あと、ギルドにお金を預けるとカードに記録され、他のギルドでも引き出せる事かな。



「説明ありがとうございました」


「いえ、仕事ですから。今日はクエストを受けていかれますか?」


「明日からにするわ。あとダルタス行きのクエストが出たら教えてね。私達が受けるわ」


「護衛のクエストはCランク以上となってますが……」


「そのクエストを出した人物に売り込みに行くのよ。馬買うより安く済むからよろしく頼むわよ」


「は、はぁ。ですが、他の冒険者がクエストを受けられる場合は受注しますのでその点はご理解ください」


「分かってるわ、じゃあルフィス宿を取りに行くわよ。一縷君…迷子にはならないでよ?」


「絶対なるからギルドから近場を散策する事にするよ」


「懸命な判断ね。じゃ、また後で」


「また後で~」



 さぁ、初めての1人旅だ。どうしようか、どうしようか。青果店で果物でも買おうかな。



「ん?」


「ママどこー?」


「えっと……ごめん、分からないけど」


 小さな女の子が…5歳くらいだろうか、迷子らしい。


「…っく…ひっく…う…うぇ…」


 泣くな、あと5秒もすれば必ず泣く。それだけは分かる。逆に言えばそれ以外分からない。どうしようか、どうしようか!


「お兄さんに任せて!絶対見つけてあげるから!笑っておくれ!」


「…うっく…ホントに…?ママ見つかる?」


「ああ、ママも君の事探してるだろうし、すぐ見付かるよ!一緒にママを探そう」


「分かった!お兄ちゃんと探す」


 良かった…とりあえずは泣き止んでくれたな。どうしよう。ギルドに捜索依頼だすか?でも、金は使いたくないしな。


「とりあえず目立つように肩車しようか?」


「うん!高いやつして!」


「…よいしょっと!ママ居たかい?」


「ママいない…」


「ママの見た目を教えてくれるかな?」


「えっとね、ママも私と同じで茶色の髪でねとっても美人なんだよ?パパがいつも言ってるもん」


 なるほど、すれ違う3人に1人は茶色っぽいぞこの街。


「ママの名前聞いてもいいかな。あ、お兄さんの名前は一縷って言うんだ。」


「ママはね、ソーラってお名前でね、私はねミリヤっていうの。」


「ミリヤちゃんって言うんだね、ちゃんと自分の名前言えて偉いね。その調子で自分のお家は分かるかな?」


「今日は村からね、王都にお買い物に来たからお家はここじゃないの…」


 そのパターンね。はいはい。分かりました……さ、ギルドに捜索依頼を出そうかな。


「お母さんを探してくれる所に行こう。」


 俺はさっき出たギルドに戻り、たまたま空いていたさっきの受付までクエストを発注しに来た。


「すいません、この子、お母さんとはぐれたみたいなんで探して欲しいんですが。この子はミリヤちゃんでお母さんは茶髪で名前はソーラさんと言うそうです。村から買い物に来てはぐれたらしいです。」


「事情は分かりました。クエストボードに依頼を発注しますね。報酬はどうしますか?」


「すいません、相場が分からないですけど。」


「そうですね…こういう場合は見つけた方に報酬をお支払するので最低でも銀貨5枚以上ですね。確実性を出したいなら銀貨9枚以上は報酬として出した方がいいと思います。ギルドの規則として発注手数料で銀貨1枚はいただきます。」


 全財産か…しょうがない。来月まで待つ。来月までの辛抱。来月…来月…


「わ、分かりました…報酬は銀貨9枚で…手数料込みの大銀貨1枚です。」


「お兄ちゃん苦しそうだけどだいじょうぶ?」


「ああ、お兄ちゃんは頑張るよ。ミリヤちゃんのお母さん見つけるからね。」


「では、これでクエストを発注いたしますので。先に報酬の大銀貨をこちらでお預かりいたします。その子のお母様が見付かるよう祈っております。」


「ミリヤちゃん、これで大丈夫だからね。この辺りをもっと探してみようか。」


「うん!」


 それから日が暮れるまで探したがミリヤちゃんのお母さんはまだ見付かっていない。ヤバイ、流石に泣き出しそうだ。


「ママ~、ママ~」


「大丈夫だよ!お兄ちゃんがついてるから!ね!」


「ママ~、うわぁぁん」




「いったい何をしているのかしら?」



「ミリヤ!」


「あ…ママ!ママーー!」


 俺はミリヤちゃんをおろしてあげた。


「もう!アレほど離れちゃダメって言ったのに。心配したんだから!」


「ごめんなさい~、ママ、ママ~!」



「助かったよ白金さん。ギルドで別れた後にあの子に会ってさ。今まで探していたんだ。クエスト見てくれたの?」


「クエスト?…私達はその子を探してた母親に会っただけよ。だから冒険者ギルドにでもって…」


「そうだったんだ、まぁ、とりあえず見付かって良かったよ。あと、俺がクエスト発注したから、銀貨9枚回収してきて。」


「一縷さん、報酬に全額使ったんですか!?」


「え、まぁ、そっちの方が確実らしかったから…」


「お兄ちゃんありがとう!」


「本当にありがとうございました。この子を保護してくれたのがあなたの様な方で良かったです。」


「お兄ちゃんしゃがんで!……チュッ…ありがとうお兄ちゃん」


「あらあらこの子ったら。」


「…頑張った甲斐はあったかな。出費の何十…いや何百倍以上の報酬だな…。」



「ほー…言うじゃない。そう…ならクエストの達成報告はしなくてよさそうね。良かったわね、その子にほっぺにキスして貰えて。さすが一縷君ね、見返りを求めない心。大銀貨1枚で少女を助ける話。物語に出来そうね。」




「すいませんでしたぁ!ちょっと格好付けてみただけなんですよ。白金さんお願いします。銀貨9枚回収してください。どうか、どうか~」




「一縷さん、カッコ悪いです…」



 白金さんに拝み倒してようやく、ギルドに報告しに行ってくれた。銀貨は1枚減ったけどクエスト発注の経験とミリヤちゃんのキスを考えると安くすんだな。…一応近場は散策できたし…


 その日は白金さん達が取ってくれた宿でゆっくり休めた。肩車して歩き回ってたからさすがに身体も疲れてたらしく朝までぐっすりだった。朝になって白金さんにドアをノックされるまで気づかないレベルでだ。




「一縷君、早く支度しなさい!売り込みに行くわよ!」


 どうやらダルタス行きのクエストが見つかったらしい。


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