第46話 クエスト完了! in 異世界
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
聖女と共に、豚伯爵の私室までやって来た。
貪り食べていた朝食の食器は既に片付けられていて、綺麗ではあるものの、部屋の雰囲気はえらく不気味だった。
「ここから~地下に行くのですね~?」
「あぁ、机の下からな。危険だと思うが……悪いけど、ついて来て貰う」
詩葉さん達グループと違って俺達の方は、下手すると直接戦闘になる可能性がある。そこに、戦闘員では無い聖女を連れて来た主な理由は、メンタルケアだ。
「聖女、この先に入ったら……その、あまり見たく無い光景が広がってるかもしれない。でも、俺じゃ救えない方法で聖女は人を救うだろ? それを頼らせて欲しい」
「えぇ。聖女だからと言って、神スフィアの代弁者と語るつもりはありません。私はあくまでも、神スフィアの教えを広める者に過ぎないのですから。ですが……その教えで救われる者が居るのなら、いくらでも私は向き合いましょう」
思わず「本物?」と問い掛けてしまいそうなくらい、さっきまでとは雰囲気が違っていた。
間延びした受け答えではなく、確たる意思を持っての返事に驚いたが……聖女の瞳は真剣だった。おそらく、地下に監禁されてる少女についてある程度は察したのだろう。
「聖女、お前の怒りも俺が豚伯爵にぶつけてやる。行こうか」
「……はい。ありがとうございますね、一縷さん」
机の下にある隠し通路の入り口の、小さなドアを開いた。
そこから真下を見る……薄暗く不気味な雰囲気だった。垂直に手すりを使って降りていけば、先に進めるみたいだ。
俺と聖女は一度顔を見合わせて、俺が先に降りていった。
下に降りきると、雑な耐震工事でもされたかの様な石造りの通路へ繋がっていた。
凸凹になっている壁を見ると、崩れないかが心配になってくる。さっさと終わらせて帰った宝が良さそうだな。
通路を一〇メートル程進み、右へ曲がると鉄の扉がそこにはあった。
ここまで近付けば……扉越しだろうと、中で行われている惨状が音で伝わってくる。
悲鳴、絶叫、悲鳴、絶叫、悲鳴悲鳴悲鳴……。
中に居るのは一人では無い、複数の少女と思わしき声が聞こえてくる。
「……理不尽だ。理不尽過ぎるだろ……時代が違っても、世界が違っても、人ならば! やっちゃいけない事は変わらないだろ!!」
「はい。神スフィアの教えには、『身分の違いはあれど、人に変わり無し。我が愛すべき子が縛られるのは我のみ』とあります。つまり……神スフィア以外に、本人の意思を無くして人が人を支配してはなりません」
――あぁ、そうだよな。
貴族階級がある時点で、既に上下はある。それは世界がそうなのたがら仕方がない。
でも……だからと言って、個人が欲望を満たす為だけに、誰かの自由が奪われていい訳がない!
世の貴族達は言うかもしれない……「平民に何をしても、貴族だから許される」と。
俺がやってる事も思ってる事も、突き詰めれば偽善でしか無いのかもしれない。この屋敷の豚伯爵を消しても、貴族達が変わらないだろうと予想出来る。
だけど……振りかざされた理不尽で誰かが死んでしまうなんて、もう……見たく無い。
「誰にだって、生きたい理由、死ねない理由があるはずだ。踏み込むぞ、聖女! 理不尽を……蹴散らす!」
「えぇ!」
俺は消滅魔法でドアを消し去り、部屋の中へと入っていった。
◇◇◇
「おい! 建物の中に居る連中は集まれ!」
朝と昼間の真ん中の時間帯。エルミック王都のギルド内で、ギルド長が冒険者を集めていた。
だが、この時間帯に居る者のほとんどは新人で、後は特に何もしていない者だ。
「ギルド長、どうしたのですか?」
「おぉ……Bランクの冒険者が一人でも居れば面目は立つ。ちょいとした面倒なクエスト……と言うか、特殊な魔法信号で応援を要請された」
「面目ですか? ……もしかして、アレですかい?」
Bランクの冒険者であるリャクスは、少しだけ首を傾げながらギルド長を見ていた。顔を顰めながら。
そんなリャクスに対して、ギルド長も嫌な顔しかせずに頷き返した。
周囲の冒険者も集まっては居るが、緊迫した空気が無い事で、逆にどうしたら良いか分からずに居た。
そんな中で、ギルド長がポツポツと話し出した。
「豚は……コホン。どうやら伯爵様の家に盗賊が出たらしい。伯爵様は冒険者組合へ、もしもの時は緊急クエストとして応援が欲しいと頼まれていたのだ。既に金が支払われている関係で、無視は出来ん。だが……奴を助けたい者は居るか?」
ギルド長の問いに、誰ひとりとして手を上げたり擁護の声が出る事は無かった。
冒険者達は口々に、豚伯爵の悪口を言い始める次第であった。何でも屋と言われる冒険者ですら、豚伯爵関係のクエストには嫌な顔をする。報酬は良いが、金によっぽど困ってなければ受ける事はまず無い。
それでも受ける者は居るのだ……大抵の冒険者は金が無いから仕方の無い面はあるのだが。
「それで……面目ですか?」
「そうだ! 具体的に何をしろとは言わん。とりあえず駆け付けて、テキトーにやり過ごして構わない。怪我をするのはバカらしいからな! リャクス、まず間違い無く貴族街へ入る際に悶着があるだろう……時間を掛けろ! 良いな!」
「了解です! 手の空いてる者は喜べ! 金だけ入る幸運なクエストだ! 行くぞ!」
冒険者達……特に、新人冒険者は金が入ると喜びの表情を見せていた。リャクスを先頭に冒険者組合を出た冒険者達は、遅すぎず急ぎ過ぎないペースで貴族街を目指した。
◇◇◇
地下の鉄の扉の中は案の定、酷い光景だった。それに、臭いも酷い。
部屋自体は広く、奥行きが二〇メートルくらいはあるだろう。いや、もっとかもしれない。だが、そんな事はすぐに頭の中から消えていった。
――その広い部屋の中は、まるで監獄かの様に檻が並んであった。
「これは……!!」
聖女が思わず溢した声に、部屋の中に居た者達が一斉に反応した。
少女達を監禁していた主犯は豚伯爵だろうが、どうやら他にも共犯者たる人物が居たらしい。
「おいおい……どういう事ですかな? 旦那ァ?」
「……ちっ。貴様ら! どうやってこの場所を知った!? あぁ!? しかもそれ……私の仮面ではないか!?」
高身長で強面の男が薄ら笑いを浮かべながら、ナイフを取り出した。
「まぁ、良いですよ。理由はガキ共から聞きやしょう……この秘密を知られた時点で生かしてはおかねーが、な」
「クソッ……余計な人間は消した筈だぞ。おい、カサート! もしや、貴様ではあるまいな……?」
「い、いえ! 私ではございません! 何よりの証拠として、私達は協力して事を運んでいたではありませんか! も、もしや! 壺や絵画を取り戻そうと奴等の家からの刺客では!?」
豚伯爵がそれなりに整った服を来ている人物と口論しだした。
強面と向き合うが、様子を窺っているのか、飛び掛かって来る訳じゃなかった。
とりあえずここに居た以上、誰も逃がす気は無かったが……必要以上のダメージは与えなくても良さそうだ。
今までの培った感覚で、間違ってなければだが……こいつら、強くない。
他にも共犯者は居そうだが、今この部屋に居なそうだし、それに関しては置いておこう。
「おい……」
俺がそう口を開いたタイミングで、豚伯爵の服の一部が赤の光を放ち始めた。
眩しい程の光では無いが……少しだけ嫌な予感がした。
「旦那、旦那! 服が光ってやすぜ?」
「お……? おぉ! 誰かが緊急信号を放ちよったわ! すぐに冒険者共が駆け付けるぞ! ダスク、コイツらを蹴散らせ! 冒険者に引き渡してくれる!」
俺達が何かした訳では無い……もしかしたら詩葉さん達に何かイレギュラーが起こったのかと心配したが、必要の無い心配だと意識を切り替えた。
あの二人の強さなら問題無いだろうし、逃げ出せるくらいの時間はあるだろうし。
そうなると、問題になるのは俺達サイドだったりするわけで……。
(脱出の時間足りなく無い!?)
最初は目的のマナという少女さえ連れて行けばと考えていたが、他の子を考えると全員を連れて行きたい。大人しく連れ出されてくれるかも分からない状況だ。聖女の言葉がどれだけの時間を必要とするだろうか?
「ちっ……手短に終わらすか。『関節解体』」
「ぎゃああああああああああああああ!! 肘がァ!! 肘……グァァ!!」
ダスクと呼ばれていた強面の男の右肘を外す。消滅魔法で穴を開けると、どうしても出血多量になってしまう。その点、外すだけなら対人には丁度良い。この時期はまだ半袖で過ごしてる奴も多いしな。特に筋肉を自慢したいタイプの男は。
続けて手首や指の関節も外しておく。地面に膝を着くダスクから視線を外して、豚伯爵とカサートと呼ばれた男を見る。
「ひっ……貴様! な、何をした!」
「俺が何かをした様に見えるか? 見えないよなぁ? 急に痛がり出しただけだもんなぁ? ……コホン。ちょっと悪ぶり過ぎたな。とりあえず、時間も無いからお前達は拘束させてもらう」
後退り、更に先程まで自分達が痛めつけていた少女を盾にした時は、心底呆れた。世の中のどこにも、こういう奴も居るんだなと。ルフィスの国の貴族達を思い出す。ここに転移して来てから……良い貴族なんて居たかも怪しい。
「くそっ! カサート! 何とかしろ!」
「ひっ……!! そ、そうだお前達! 何か、望みはあるか?」
「お前に叶えられるのか? 少女の痛みも分からないお前程度に」
「か、金ならある! お前達は雇われた者達なのだろ?」
「盗んだ壺、盗んだ絵画……は、もう良い。終われ、お前達は……悪い、俺には救えない」
豚伯爵、カサートに手を向けてダスクと同じ様に関節を外した。
ダスクと違ったのは、その痛みに耐えるだけの精神力が無かったのか、気絶した事だ。きっと、その方がマシだけど。
「一縷さん、あの子の手枷を……」
「ああ、後は任せる」
聖女がマジックバッグから一枚の大きい布を取り出して、近くで怯えていた少女に被せた。
……あとは任せて大丈夫だろう。その間に俺は、ダスクへと慣れない尋問をする事にした。
◇◇◇
「お怪我はありませんか~?」
「だ、誰……」
「私は……私達は~依頼を受けて~マナさんという方を助けに来た者です~」
ラクラムは目の前に居る少女へと話しかけた。
部屋には檻の様な部屋が複数ある。そこに、裸のまま収監された少女達が怯えて座っている。
ラクラムは怒っていた。だが、その怒りは一縷に預ける事で冷静さを取り戻していた。自分の役目を果たさなければ……と。
「た、助けに?」
「はい~、こちらも予想以上の状況で~少し戸惑ってはいるのですが~皆さんを助けますから~、もう安心してくださいね~」
「あ……あぁ、ホントに? ホントに助かるの? っ……ぁぁ」
少女は小さく嗚咽しながらも、涙と共に僅かだが喜びの表情をを浮かべていた。
ラクラムはその少女の背中を数回撫でて、立ち上がった。そして、一つ一つの檻の前へ向かい、少女達に声を掛け続けた。
ラクラムの優しい声色が、最初は警戒していた少女達に、会話のやり取りが出来る程度には落ち着かせていた。
この場所から出られるかもしれないと、そんな可能性に賭けているだけかもしれないが。
「あなたが~マナさんですね~?」
「はい。助けていただいた事、本当にありがとうございます」
「ん~? もしかして、貴族のご令嬢でしょうか~?」
一人だけ、他の子とは立ち振舞いが違う。貴族ならではの雰囲気を纏っているとラクラムは見抜いた。
「えぇ、まぁ……今ではこの様な……くっ」
「マナさん。私達は~あなたを救出して欲しいというクエストを見て~今ここに居ます~。私だって~これでも~怒っているのですよ~」
「私だって、悔しくて……悔しくて……豚になんか……ぅう」
マナは、怒りと悲しみと自分の憐れな状況に泣きそうになっていた。
「マナさん~、ちなみに貴女のお父様の爵位を聞いても~?」
「……伯爵ですわ」
「なるほど~、私一人では考えが足りずに申し訳無いのですが~私達のパーティーには頭の良い方も居るのですよ~……仕返し、一緒にしましょう?」
ラクラムが聖女としての立場から言うなら、仕返しなんて言えない。だが、今のラクラムは一人の女の子として話を聞いていた。
「仕返し……ですか?」
「えぇ、でもそれは~他の方の話を聞いてからもう一度という事で~」
ラクラムはそう言って、他の子達にも話を聞きに向かった。この先どうしたかいか、何をしたいかを聞きに。
「私達に行く場所なんて……したい事も何も……」
「この屋敷に連れ去られたなんて周囲に知られたら……もう……」
ラクラムに出来るのは話を聞き、助言をする事までだ。彼女に仕事を斡旋する能力は無いし、人の人生が幸福であるように祈る事は出来ても保証は出来ない。
だが、そんな理由で困ってる人を見捨てていては、聖女と呼ばれる選ばれた人間にはなれない。
ラクラムは考えた。この少女達が安心してくらせる生活は、どのようなものがあるだろうか……と。しかし、彼女に責は無いのだが……彼女自身の生き方が狭かった分、残念な事に何も思い付か無い。
「皆さんの希望は~お家に帰りたいという事でしょうか? それとも、新たな生き方を見付けたいという事でしょうか~?」
「わ、私は……家に帰って変な目で見られるのなら、いっそ……一人ででも生きていけたら……と」
少女達の中では年齢の高そうな少女は、そう言った。
「怖い……やだ……やだ、誰か……一緒に、居てよ……」
別の少女はそう言った。人を信じられなくなってるのかもしれない。この場に居る同じ境遇の子達しか信じて無いのだろう。
他の子もポツポツと似た意見を言う中で、マナが「家に帰ります」と気丈にもそう言った。
「私が、皆さんと一緒に居られる様にしてみせます。絶対にです。ですから皆さんには……心苦しいですが、もう少しだけ、この場所で待っていて欲しい……ラクラム様、私一人の方が移動が楽でしょう?」
「それはそうですが~、皆さんはそれで大丈夫ですか~?」
マナが頭を下げる。少女達は一様に、困惑した表情を見せているが、マナの必死なお願いに頷いて返した。
「絶対に、絶対に皆様を助けてみせますから! もう少しだけ待っていてください」
「信じるよ」
ラクラムは、十人近く居る少女達に食料を配った。
マナに外に出ても大丈夫な様にマントを着せて、ラクラムは一縷の元へ駆け寄った。
◇◇
「一縷さん~、こちら~マナさんです~」
「そっか、話は上手く進んだみたいだな」
「助けてくれた事に関してはお礼を申します……ですが」
「あー、大丈夫大丈夫。信用も何もしなくて良いよ、警戒しとくべきだ。こんな状況になっちまったんだから、信用できる人間はちゃんと見極めるべきってな」
聖女が連れてきたマナという少女の目は、死んでいなかった。
「この後~どうされるんですか~?」
俺にとっては指の関節を外し過ぎて気絶したダスクからは、有益な情報を引き出せなかった事が残念だが、尋問の経験値として溜まった筈だろう。
この後は、パッと外に出ても良いが……人が集まっている事を考えると面倒だ。
「でも、出ない事には始まらないよな……豚伯爵とかも置いて行くのはマズそうだし。聖女、強化魔法を頼む。ロープで縛って上まで運ぶわ」
「分かりましたよ~」
「三人を……運べるの? そんな力持ちには見えないけれど?」
「まぁ、無理なら人数を減らして運ぶさ。よし! 行こうか」
俺と聖女は、マナの救出にはとりあえず成功した。問題が幾つか見付かったし、豚伯爵をどうすれば良いかも分からないけど、その辺は詩葉さんに期待したい所だ。
手すりを登って豚伯爵の私室への出入口の目の前で一度止まった。
バタバタと動いている気配は感じないし、人は居ないと踏んで、小さな出入口の扉を開け放った。
窓から射し込むランプの火とは違う光。地下の空気より何倍も美味しい気がする。
やはり地下にいると、精神が少しずつ削られるのだろう。ダンジョンに潜ってる感覚に近かった。
「よし、出て来ても大丈夫だぞ」
「はい~、よいしょ~」
「そ、外に……二年振り……ね」
「えっ!? そんなに!? 誰も助けに来てくれなかったの?」
「いえ……数回だけ来たことがあるみたいです。ですが、失敗に終わったのでしょう。そういう日は、特にその……」
言いづらそうなマナに「大丈夫ですよ」と聖女が言った。それに続けて俺も一言詫びた。それから外の様子を窺って、玄関口や庭に集まる衛兵を見て溜め息を吐いた。
「けっこう集まってるな~。詩葉さん達のせいで」
「大丈夫そうですか~?」
「問題は無いが……リコル達は大丈夫かな?」
待機組のリコルとレーロが怪しい者として捕まってなければ良いが……大丈夫だろうか?
「そうでした~、一縷さん、この伯爵さんに仕返しをしたいと考えているのですが~」
「仕返し? あぁ、なるほど。婦女監禁、拉致、暴行、窃盗だろ? この現場を誰か偉い人が抑えてくれれば終わりだろうさ。この国の法律とか知らないけど、爵位剥奪、一家追放、財産の差し押さえ……マナさんの証言を豚伯爵を嫌いな偉い人に告げれば、それで良いんじゃない? 豚伯爵が嘘を言うなら関節は外してあげるけど?」
「「…………」」
俺が伝えた事を考えてるからの無言と信じたいが、顔が少し引きつっていた。
豚伯爵の家族の方には悪いと思うが、知ってようが知らないだろうが、噂くらいは聞いたことある筈である。むしろ、貴族は噂に敏感なイメージある。それで放置していたのだから、自己責任というか、豚伯爵の責任を皆で受けてくれって話だ。
「やるなら徹底的に。仕返しするなら尚更だよ。生温い事なんて後で悔いが残るだけだぞ」
「そう……ね。分かりました。父と相談して、やれるだけやってみます」
「一縷君も、ずいぶんこの世界に染まって来たじゃない?」
不意に聞こえた声に俺達が振り返ると、そこには壮年の男性を背後に立たせた詩葉さんがシニカルな笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん! 大丈夫~?」
「すいません、一縷さん……武器に夢ち……絵画で迷ってたら何か装置を鳴らされてしまいました」
そこには詩葉さんだけでは無く、リコルやルフィス、喋らないがフードを被ったレーロまでも揃っていた。
「お、お父様!」
「あぁ……あぁ!! マナよ、マナよ! 心配したのだ。待たせて悪かった! 駄目な父を許しておくれ」
二人が感動の再開を果たしている横で、俺は詩葉さんに「タイミング良いね?」と問いかけた。
詩葉さんが一言「帳消しでしょ?」と言って、都合の良い展開が詩葉さんが起こした出来事だと察した。
「よく、父親を見付けだせたね?」
「あの、クエストを受注した店の店長に話したのよ。豚伯爵を潰せる機会よ……って。そうしたら、急いで準備を整えてくれたわ」
「なーるほど。じゃあ外の冒険者とかは?」
「あぁ、それは、豚伯爵邸に侵入者が入ったから緊急クエストとして集まったらしいわ。こんな状況になったら無駄足になったのに喜んでたわ。やっぱり嫌われていたのね」
こちらの状況も話して、詩葉さんと状況の把握をした所で、感動の再開も落ち着いたみたいだ。
壮年の男性はマナの父親でマルトル氏。伯爵の中でも上の方に位置するらしい。それを妬んだ豚伯爵がマナを誘拐したという話だ。
「君達、本当に感謝している。言い訳にしかならんが……貴族という立場上、目立った動きが出来なくてな。しかし……まだ若いのに無傷でマナを救出してくれるとは」
「ありがとうございます」
「勇者の彼等と同い年くらいではないかな? 私にとっては君達が本当の勇者だよ。このお礼は出来る限りの事をしよう。何でも言ってくれ」
詩葉さんの瞳が光った――そんな気がした。
実際にウキウキしている。これは……借金取りより質の悪いかもしれない。だが、口は出さない。こういう事は詩葉さんに任せた方が良いからな。
「えぇ、では、報酬の希望をここでお伝えしますので、七日後にまた何処かでお会いしましょう。マナさんとの時間を優先してあげてくださいね」
「おぉ……それはありがたい申し出だ。……だけど、その瞳は少しばかり怖い怖い。どうか、お手柔らかに頼みますよ? 仮面の勇者様」
終始笑みを浮かべて話すマルトル氏と詩葉さん。それはそっちに任せて、俺は待機する事にした。
安全と分かった事で、マナが地下へ少女達の保護にルフィスと聖女を連れて向かった。
「お兄ちゃん、この人が豚伯爵様?」
「そうだぞ、関節外したら気絶しちゃったぜ。その内目が覚めるかもしれないし、あまり近付かない様にな」
リコルが、豪華な部屋に自分が居ることで落ち着きを無くしていた。レーロは珍しく大人しくしていた。もしかしたら仮面を着けているからかもしれない。
それから地下から連れてきた少女達がマナと抱き合ったり、聖女に感謝を述べたり。詩葉さんとマルトル氏が笑顔で握手していたりと、この件に関しては一応の終着をみせていた。
「では皆、そろそろ帰るわよ。バイトのつもりが大変だったわね」
「でも、満足のいく報酬は手に入るんでしょ? 笑顔が怖いよ、詩葉さん」
「ふふふ、それはお楽しみよ。おーっほっほっほっほっほ」
仮面で高笑いは悪役貴婦人感が凄い出ている。似合ってるとも言いづらいが。
馬車はマルトル氏に預けて来たらしく、屋敷の外に出て仮面を外した俺達は、裏手から脱出した後は騒ぎに乗じて貴族街を後にした。
明日からのダンジョンの食材等を購入して、昼過ぎには宿屋へと戻って来た。体力的には疲れていないものの、精神的な回復が必要だと言って、俺は部屋へと引っ込んだ。
「……というのは冗談で~、武器のお試し、武器のお試し」
俺は新しい槍、矛先が三方向にある十字槍を手に宿の庭へと向かった。
「うっすら青くて陽に当たると綺麗な槍だな。名前は……『十青槍』? んー、なんかセンスが無いなぁ」
「『天光の槍』……というのはどうかしら?」
「あぁ、なんかオシャレだから採用……っ!?」
「オモチャを与えられた男の子は試したくなるものなのよ。私でも知ってるわ」
流石は詩葉さんと言うべきか、それとも俺が単純すぎるのか……ともあれ見付かってしまったなら仕方ない。
「ちょっと、この槍の練習に付き合って貰っても?」
「えぇ、今回は特に疲れてもないしね」
――詩葉さんとしばらく矛を交えて、その日は暮れていった。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




