第45話 うっかりしてた二人だよ in 異世界
お待たせしました!
夏の暑さで全然やる気が出ないですね……
( ノД`)…
では、よろしくお願いします!
聞いていた豚伯爵の私室の扉の前に、俺と詩葉さんは立っていた。気配を感じ取れる詩葉さん曰く、部屋には誰も居ないらしいが、念のために扉へ小さな穴を開けて覗いてみた。
「調度品が多いけど……普通の私室って感じ。ベッドとかは無いから寝る時は別の部屋なのかもな」
「そう……なら一回、中を調べてから戻りましょうか」
鍵の掛かっていなかったドアを開けて、踏み心地の柔らかい絨毯が敷かれた部屋へと入った。まず目に入るのが正面にある机、それから壁が見えないくらいある本棚だ。部屋は至ってシンプルだった……だが、違和感がある。それは詩葉さんも感じ取っていたようだ。
「何か……不自然に狭いわね」
「……それか! 本棚で圧迫感があるだけかと思ったけど、やっぱり狭いよね!?」
「えぇ、普通に考えるのならば……メイドの居た部屋より少し広いだけなんてあり得ないわ。仮にも伯爵家の当主なのだから」
絨毯や机、小物に至るまで値の張る物……というのは何となく分かるが、思えば思うほど部屋の狭さが不自然だ。
だが、俺や詩葉さんに取ってその不自然は不思議では無く、理解出来る範囲のものでしかない。この部屋と隣の部屋とのドアの感覚を考えても、間違いなくアレがあるだろう。
「何か仕掛けでもあると思う?」
「この本棚の数ですもの……ふっ、片っ端から本を推して行くわよ」
「いや、それ時間が掛かりすぎない!? ……ん? やば!?」
少しワクワクしている詩葉さんには悪いと思うが、急いで手を握って姿を消し、部屋の隅っこへと移動した。急にどういう事かと詩葉さんが手を握って催促してくるが、音も消しているから伝える事は出来ない。だが、見てればもうすぐ分かるだろう。
まず鳴ったのは部屋のドアを叩く音だった。
「旦那様、お食事のご用意が出来ておりますが」
メイドの一人だろうか、そう声を掛けた時点ではまだ部屋に豚伯爵は居なかった……筈だった。だが――
「うむ、入れ」
そこには、居た。
どっぷり、でっぷり、たっぷり……そんな表現で表せる体型に、脂汗を額から流している男の姿。およそ、イケメンとは言えず、欲にまみれた瞳、いや、顔全体からそんな雰囲気が伝わってくる。なるほど、豚伯爵とは的を得ていたと再確認していた。
「失礼致します。今日のメニューは……」
「ラリュート、そういう話は不要といつも言っているだろ! 私は忙しいのだ! 頼んでいた精のつく料理であるならば話をするまでも無い」
「はい、旦那様……では、配膳させて頂きます」
運ばれた料理の内容を見て、朝からどんだけガッツリ食うのかと少し引いた。香りはとても食欲をそそるのだが、さすがにあの量は要らないというか、朝から食べきれる気がしない。
「旦那様……今日のご予定は……?」
「3日振りに予定が空いたのだ、“地下”へ潜っている。ふふっ、昼に一度戻るから“エサ”と“片付け”の人員を用意しておけ」
「……承知、致しました」
そのメイドさんは今まで見たメイド達よりは歳上そうだが、それでもまだ幼い顔を悲痛に歪めて部屋から出ていった。何が辛くてそんな顔をするのか、何故そうしてまでこの屋敷で働いているのか分からないが、それも全て後回しだ。
地下、という言葉で豚伯爵がいきなり現れた原理も何となく理解できた。きっと仕掛けは本棚ではなく、机の下にあったのだろう。なら、とりあえず地下の場所への行き方も分かったとして動いても良さそうだ。下準備は完了だな。
豚伯爵の食事が終わるのを待って、予想通りに机の下から地下へと入って行くのを確認してから、魔法を解いた。
「本棚じゃないとは……少し芸が無いわね」
「いや、そこは諦めよう!? たしかに、本棚が動いたりしたら盛り上がるけど……じゃなくて! とりあえず皆の所に戻って作戦会議でもしようか」
「地下の事……を考えると出来るだけ早く動きたいわ。それこそ、地下にあの豚が居ようともね。お願いするわよ、一縷君」
「あぁ、と言っても頼みの綱は聖女だけどな。俺は護衛的なものだから」
地下ではきっと、そういう事が行われて居るのだろう。豚伯爵は噂に違わぬ人間性を持っていたというだけのこと。依頼書にあった人物もそこに居ると考えるとやるせないが、今の俺は冒険者だと割り切るしか無い。やることは変わらないしな。
「じゃあ、戻ろう」
「そうね」
来たときと同じく様に駆け抜けて、屋敷を後にした。
そのまま貴族街を出て、馬車の待つ場所へと戻ってきた。
「あ、一縷さんと詩葉さんですよ!」
「詩葉姉! お兄ちゃん、お帰り!」
「ただいま~」
危機感の欠片も無く馬車の外で話していた二人が先に気づき、馬車の中に居た二人が遅れて出てくる。
「あら~」
「待ったんですけど~、お腹すいて来ちゃったんですけど~!」
忙しないアホエルフであるレーロは一旦無視して、作戦会議へ入る事にした。
皆で小さく輪になって、見てきた事、聞いてきた事、返さないが拝借してきた物に関しては皆に伝えた。
「わぁ! 仮面だぁ! どうどう? 似合ってる?」
「リコル……似合ってて可愛いんだけど、魔力が減っていくからむやみやたらに着けないようにね?」
「わわっ! そうなんだぁ……私は魔力が少ないからなぁ」
「でも、可愛いかったですよ! リコルちゃん」
赤い仮面を着けたいけど着けれないリコルが、少し残念そうにその仮面の裏側やデザインそのものを見ていた。
「仮面は嫌なんですけどぉ……」
「大丈夫よ、貴女が着けてた束縛系の効果があるマスクじゃないから……それに目元だけじゃない」
「でもでも、私は着けなくて良いと思うんですけど!」
「そんなに嫌か? でも、顔が分からなくなるのは俺達に取ってはメリットあるだろうし……そうだ! 詩葉さん、レーロの仮面に認識阻害系の効果って付与出来ないかな? 常に仮面はおかしいかもだけどさ、耳も誤魔化せるならローブで隠すよりも安心感は増すしさ!」
詩葉さんは少し考えた後に「……チッ」と舌打ちを入れてから、リコルの為に御守りを作ってくれたあの付与師並みの人が居れば大丈夫と言った。やっぱり馬が合わなかったんだな……。
だが、あの人は帝国に居るし……この王国にも付与してくれるお店はあると思うけど探す所から始めないとだ。少し面倒だが……レーロは爆弾みたいな奴だし、出来るだけ早めの対応が必要だからやらないとだなぁ。
「うむむ……それなら着けるのも仕方無いと、思うん……です、けど……。絶対! 絶対に変な効果を付けるのはやめて欲しいんですけど!」
「レーロさん……もう少しだけ一縷さんを信用してあげてくださいね。あ……でも、自分だけ良い武器を手に入れてるんですもんね、これはなぁ~」
ルフィス……!! お前って奴はいつの間にそんな意地悪な言い方を覚えてしまったんだ。これはきっと、詩葉さんの影響だな。
「ルフィス……お前が向かうのはその武器の置いてある部屋の近くだ。後はお好きに」
「そんな……私が人様のを盗める訳ないじゃないですか! 買ってください!」
少し悩んだ俺は、手持ちの中で一番安い額の硬貨を詩葉さんに渡した。
「どういう事?」
「たしかー、あの部屋に置いてあった武器ってー、閉店セールか何かで安かったんだー、それで買っておいてー」
「そんな棒読みで言われてもね……でも、はいはい。受け取っておくわ」
「そっちは任せたから。んで、作戦も開始したいから早速メイド服に着替えてみようか」
◇◇◇
「この先は貴族街となります。貴族の方は家紋を、それ以外の方は通行許可証の提示をお願いします」
馬車を運転しているのはリコルでその隣でローブを被っているのが俺だ。この時点で既に警戒されているが、更に中からメイド服姿の女の子が出てくれば余計に不信感を与えるだろう。
だが、片目を布で隠しながらもメイド服を着こなしている詩葉さんは、通行止めをしている番人としても可愛く映るのだろうな。少し表情が緩んだ様にみえた。
「貴族の方ですか? でしたら家紋を……ぅぐ……」
「おい! 大丈夫かっ……はっ!! これ……は?」
「通して……貰えるかしら?」
耳を通り抜ける落ち着いた声色に、二人の男の意識は刈り取られたと言っても良いだろう。二人揃って「どうぞ……」と許可を出してしまうのだから。屋敷のメイドよりは耐えたものの、実に恐ろしい魔法だ……対抗する手段は目を逸らして意識を保つくらいしか思い付かない。
リコルが馬車をゆっくり走らせて、豚伯爵家から少し離れた路地で停車する。ここで、リコルとレーロは待機しててもらう。
「ふぅ……なんだか、緊張しますね」
「ルフィス、貴女と私はメイドよ。メイド服は見付かった時の保険と思って。ルートは確保しているけど、見付からないとも限らないのだから。慎重に行くつもりだけど」
「修道服じゃない制服というのと新鮮ですね~、一縷さんの事をご主人様と呼べば良いのでしょうか~?」
「いや、そこまで役作りはしなくていいから……」
ヘッドドレスや広がりのあるスカートが珍しいのか、聖女はメイド服を触ってばかりだった。案外、気に入ってはいるのかもしれない。
「じゃあ……私とルフィスは絵を持ち出した後、速やかに撤退して馬車に戻るわ。二人を待つけど、時間が掛かったら先に脱出しておくから」
「うん、俺達は最悪消えながら逃げるから。臨機応変に対応していこう! 最悪なのは誰かが捕まる事。それ意外なら何でも良い! ……さぁ、行こうか!!」
◇◇◇
屋敷の四階、絵画の部屋に入る前に武器庫に二人は来ていた。
「うーん、こっちの方が振りやすいですかねぇ」
「打撃用のほら……先端で殴れる棍棒と、魔法発動を補助する用の指揮棒みたいな杖の二つ持てば良いんじゃない?」
まるでショッピングセンターで買い物をしているかの様な雰囲気で、二人は武器を選んでいた。
ルフィスはどちらかと言えばデザイン重視で、白金詩葉は性能を重視する傾向にあった。そんな二人がすんなり武器を決められる訳もなく、気付けば侵入してから時間はだいぶ経過していた。
「そうですねぇ……詩葉さんのアドバイス通りに二つの武器を用途別に使い分けようかと思います。魔法杖は性能重視で、棍棒はビビっと来たものにしますね!」
「えぇ、とりあえず魔法の触媒にする杖ならコレが一番良さそうよ? 木製だけど良い材質だもの、魔力をよく吸い込んだ木から作られているのね……まぁ、そこそこより一つ上のランクって所かしら」
だが、女の子の買い物が一度始まれば、それは満足するまで終わらないという事だ。
勿論、その間も屋敷のメイド達は動いているし、住人も動くだろう。だから、滅多に来ないだろうと思われていた四階に誰かが上がってくるのも不思議では無かった。
「あれ? リューシーさん、このドア……壊されてるんですが?」
「ホントだわ……壊れてるじゃなくて壊されてるんだものね、どういう事かしら?」
後輩メイドのラターナがドアの下に落ちている木屑を拾い上げる。そして、やはり不自然だと思った先輩メイドのリューシーがすぐに行動に移した。
自分達の仕えている主人に敵が多いというのは、誰もが知っていた。というリューシーも、別に伯爵に忠義を誓っている訳でも無く、給金が良いという理由だけで働いてるに過ぎなかった。
その敵が多い主人だからこそ、“もしも”の時に備えて対応策を色々と考え設備投資をし、屋敷にいろんな仕掛けを作っていた。
リューシーがした事は簡単、各フロアにある魔力を流すと他の階にある部屋にも危険信号を放つ魔方陣を起動させただけだ。
――すると、各部屋の天井が真っ赤に染まった。
これが危険信号だ。今までこの装置が発動したのは二回ある。それは、どちらも恨みを持った人達が徒党を組んで攻めて来た時だった。
その二回とも敵の数が少なく犠牲はあったものの、伯爵にダメージは無かった。でも、今回は分からない。ドアが壊れているから発動させるのは、少し早計だったかもしれない。
「まぁ、その時はその時ね。ラターナ、すぐに自分の部屋に戻って安全を確保して!」
「ぞ、賊ですかね!? リューシーさんはどうするんですかっ!?」
「決まってるでしょ、給金の分は働くわ! とりあえず奥様方の確認に行ってくるから!」
二人のメイドが去るのを、じっと耐えていたこれまた二人のメイドは冷や汗を流していた。
「「やっちゃった……」」
武器を決めて、マジックバッグに収納した所で天井が急に赤に染まった。まさかの展開に焦った二人は、部屋の外にいたメイドの話を聞いて理解したのである。自分達がどれほど武器に夢中になっていたのかを。
「とりあえず、急いで絵を持っていくわよ!」
「は、はい!」
幸運なのはすぐにメイドがどこかへと行った事。だが、今度は誰かを連れて戻ってくる可能性もある。それを危惧した二人は、急いで絵画の部屋へと移動した。
その部屋の天井も赤に染まっていて、不気味な空間を演出していた。既に一縷と二人で選んでいた三枚からルフィスが美人画を選ぼうとしたのだが、ここでも問題があった。
(ど、どうしよう……どれが依頼の品か分かんないよぉ)
「ルフィス、この世界の基準から言うと……どれが美人画だと思う? 思わず盗みたくなる感じの」
「え、えっと……その、そうですね! どれも大変価値のある絵だと思いますよ、はい」
ルフィスには才能が無かった。元々才能の乏しい少女ではあったが、特に無いのが芸術の才能だった。
だが――彼女には、高い幸運度があった。そして、紛うことなき善人であった。更に、軽くビビりでもあった。
そんな彼女が出した答えは至ってシンプル。逃げの一手だった。
「詩葉さん、この中には盗みたくなるような美人画はありません!」
「そう……なのね。ルフィスが堂々とそう言うなら、そうなのでしょうね。確かに壺もあの部屋には無かったし……」
白金詩葉は少し考えて、結論を出した。
壺と絵、その二つは最悪諦めても問題は無いだろう……と。最初の潜入の時に、豚伯爵の私室の下に僅かに人の気配を感じとっていた。つまり、拐われた『マナ』という人物は居るだろうと確信をしていた。問題は、気配が一人では無く複数人あったこと。それと、それをうっかり一縷に伝え忘れていた事だ。
僅かな気配で確証があった訳ではない……それでも伝えておけば良かったと少しだけ後悔していた。
「ど、どうしますか? 詩葉さん」
「一縷君が最後に言っていたでしょ? “俺に全部任せておけ”って」
「……え? そんな事言ってましたっけ? なんか“捕まるのは良くない”みたいな事を言ってた気がしますけど……」
「……さぁ、逃げるわよルフィス!」
「何か、言葉が違う気がしますけど! 分かりましたよ!」
二人は魔法を使い、四階から人気の無い方へと飛び降り、そのまま屋敷を後にした。
最後に四階から見えた景色は、貴族街の衛兵が屋敷に向かって動いていたのが見えていた。残ってる二人に心で応援しながら、待機メンバーの安全を確保に向かった。
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