第44話 ほら、勇者だから……拝借というか? in 異世界
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門から家まで距離のあるタイプの豪邸。庭師によって綺麗に整えられている庭。外観は殆どが白で、お金が掛かっているのが一目で分かる。
それを……俺と詩葉さんは門番が立つ場所から堂々と見ていた。
姿を消して、音も消した状態で入れば、特殊な技でも無い限りは見付からないだろう。現に今も、年上の門番が欠伸をしている若い門番に注意をしているが俺達に気付いている様子は無い。
壁の高さが厄介で、俺や詩葉さんならともかく……聖女は乗り越える事が難しそうだった。とりあえず正面から入るには門を開ける必要があるし、それは皆を呼びに行く前に催眠を掛ければ大丈夫だろうという事で、俺と詩葉さんは正面から少し離れた場所にある壁から侵入することにした。
「ふぅ。さて、魔力の残数は……まだ大丈夫だな」
「そう、ならすぐにでも動けそうね。中々のスリルで楽しいわね」
俺達は木を背にしながら庭の様子を確かめた。周囲に人気は無い。だが、屋内に入ればそれなりの人が居る筈だ。豚伯爵と呼ばれ、人に恨まれている人物だ……用心棒を雇っている可能性もある。俺は単眼鏡を覗き込んで、窓から建物の中を視ようとした。
「おっ、メイドさんがいる」
「何か“有益”な物は視えるかしら?」
「……無いです」
こちらの窓から視えるのは通路ばかりで、重要な情報は特に見付けられなかった。メイドさんは、幾人か見付けられたが……まだ少女と言っても良い年齢の子が多い様に思えた。
メイドになるにはメイド学校に通うのか、それとも見習いとして雇われてから育っていくのか少し気になる。そもそもメイド学校とかあるのだろうか? 職を……奪う事になってしまうかもしれないのか。
「詩葉さん、手を」
「行きましょうか。とりあえず建物の裏側に回ってみましょう? まだ音は消さなくても良いから」
「了解」
庭を駆けて、建物の裏側へ回った。そこにはテーブルや椅子があり、ティータイムに使われてそうなスペースが広がっていた。
午後から来ていればここで鉢合わせていた可能性もあっただろうが、今は午前だしセーフだった。近くには裏口と言っても良いガラス張りの扉もあって、俺と詩葉さんは、そこから入る事にした。
「ここからは音を消すけど……最初はどっちに?」
「とりあえず最上階から探して行きましょう? そこから下へと行く感じで」
「じゃあ、最上階まで走って、安全そうな部屋まで行こう」
周囲の様子に気を配りながら、不法侵入を果たす。床は綺麗な大理石で、まるで高級ホテルの雰囲気だ。位置的に、真っ直ぐ進めば正面玄関の方に向かうのだろう。右と左には部屋が幾つかあるだけで階段は無かった。
俺達はとりあえず真っ直ぐ進んだ。すると、玄関から入った所にある絨毯の敷かれている広間へと出てきた。この部屋には階段があったり、左右に通ずる通路があったり……およそ中心部と思える場所だった。ここが客人を迎える場所だとすると、俺達がさっき入ってきた場所は使用人が使う部屋か物置とかだったのかもしれない。
左の通路から荷物を手にした少女メイドが歩いてくる。視線の高さまで荷物を持って歩いている姿は、心配したくなるほど危なっかしい。だが、今は構っている余裕は無い。「転ぶなよ」と、心の中で声を掛けて螺旋状の階段を上って行った。
二階に上がるとそこも部屋ばかりだった。中が私室か物置か……何の部屋かは分からないが、やはりホテルみたいだった。
「今日の予定はどうなってますの?」
「はい、奥様。本日はミラムル伯爵婦人であられます、ユーハス様がお開きになるお茶会へ参加する予定となっております」
「そう……ルカとサハリーは?」
「ルカ様は午後からお出掛けになる予定です。サハリー様は、学園へと向かわれました」
「あの人……は?」
「旦那様は……昨夜から地下室へと」
「そう。分かったわ……では、ドレスの用意でしておいて」
「かしこまりました」
歳は三〇後半ぐらいだろうか? やや顔色が悪そうだが美人と称して偽りの無い女性が、メイドを連れて歩いていた。奥様と呼ばれていた事から、豚伯爵の奥様なのだろう。曲がり角を曲がって行くのを見送ってから、俺達は階段を上がって行った。二階にはどうやら奥様住んでいるようだな。
外からみた感じだと、全部で四階建ての筈だ。三階は少し作りが違っていて、吹き抜け……というか、パーティー会場にでもするのか、何も無い広間となっていた。必要な道具は左右の扉の奥にあるのか分からないが、やろうと思えばダンスパーティだって出来そうだ。それくらい広いスペースがあるだけの場所だった。
「ここまで見た限りだと、意外と部屋が多いな……」
「そうね。目的の物がある場所の目星を付けてから動かないと、自分で探すのは骨が折れそうね……」
「メイドさんか執事でも捕まえる?」
「四階を調べてから決めましょう。私の予想じゃ……四階に収集家として集めた物を飾っていると思うわ」
「その心は?」
「三回がパーティ会場だもの。要人を集めた際に、コレクションを見せ付ける為には四階にあった方が便利でしょ? それに、一階に置いてあった調度品はどれもソコソコの品でしかなかったしね。ねぇ、一縷君? どうせなら一つや二つ……」
金に目が眩んでいる詩葉さんにチョップして、目的の達成を第一にと言い聞かせた。それに、そんな事をしたらただの盗人になるから嫌である。俺達はあくまで、盗まれた品を盗み返すだけである。
「分かってるわよ……言ってみただけでしょ! ほら、行きましょう」
「あれ? 消えなくて良いの?」
「大丈夫よ。下と違って、この階と上の階からは人の気配が感じないから。たぶん、普段からは立ち入らないのでしょうね。豚伯爵だもの、きっと部屋は一階か地下よ」
納得である。豚伯爵と称される人物がわざわざ毎日四階まで上がるイメージが出来ない。収集家なんて話を聞いたが、ただ集めて満足するタイプなのかもしれない。それはイメージ通りでもあるかな。
四階に上がると、『絵画』『骨董品』『工芸品』『武器庫』『書庫』と文字がプレートに彫られて貼り付いている部屋があった。
「とりあえず絵画と骨董品かな?」
「そうね、でも一応……全部見ておかない? 一縷君も欲しいでしょ、新しい槍とか」
「うぐっ……た確かにそうだけど」
「何か仮面とかあれば、正体を隠せるかもしれないわよ?」
詩葉さんの囁きに惑わされながらも、俺は鋼の精神を持ってして、先に目的を果たす事にした。まずは、『絵画』の部屋からである。
「鍵が掛かってるみたいだ」
「任せて」
「おっ、流石は詩葉さん! ピッキングも朝飯ま……」
「ふんっ!」
バリッ……と、木製の扉の鍵穴周辺が木っ端になる音を聞いた。流石の俺でも誰かが侵入したと証拠が残る力技は駄目だと思うのだが、詩葉さんは臆せずやってのけた。人はこれを蛮勇と呼んだりするのだろうか? 俺にはただの野蛮にしか見えないのだが……
「詩葉さん、正気?」
「いや、だってこれ……ドアノブじゃなくて、鍵を差し込んで捻ったら開くタイプの扉よ? こっちの方が早いわ」
「いや……うん、次からは俺が開けていけばいいか。とりあえず中に……」
壊れた扉を押して開くと、壁一面に無造作に絵が飾られていた。一五畳くらいはありそうなスペースに、所狭しと飾られた絵の景色は不揃いで芸術的なセンスがあるとは言えない。だが、一枚一枚の絵だけを見るのなら、人を惹き付ける魅力的な絵ばっかりである。飾られずに床に立て掛けられている絵だって綺麗な絵だ。
「くっそ……たしか美人画だったろ? 人物画は幾つかあるけど、俺には分かんないぞ……?」
「こればっかりは私にも……この世界の人との感覚が一緒とは言えないし。ルフィスに頼るしか無いかもしれないわね。一応、幾つかはピックアップしておきましょうか」
「だな。とりあえず女の人が描かれてるやつを取り外して置いておくか」
風景画も多いが、人物画だって少なく無かった。その中から女性の描かれている物を集めて、俺と詩葉さんで選んだのを三つほど部屋の中心に置いておいた。
人の絵が多いからか、何だか見られている気分になってくる。不気味な感覚を振り切るように、俺は部屋を後にした。
次に入ったのは『骨董品』の部屋だ。やはり壺が目立つが、他にも年季物みたいなアンティーク品が並べてあった。正直に言うと、骨董品も全く分からない。まだ興味も無い年頃だと言い訳させて貰いたいが、今回は大丈夫だ。調べておいた情報がある。俺達が探しているのは『金の壺』だ。それさえ見付ければ、絵とは違い、問題無しだったりするのだ。
「金の壺、金の壺……無いな」
「こっちにも無いわね……別の場所なのかしら? 面倒ね」
「お気に入りは自分の部屋にあるとか……かな?」
「可能性はあるわね……仕方ない。とりあえず他の部屋でいろいろと漁って、メイド服の調達や豚伯爵の部屋を聞き出しましょう」
他の三つの部屋も見て回った。俺の鋼の精神は意図も簡単に崩れ去り、新しい槍の前で心踊ってしまっていた。
無骨ながら丈夫そうな槍、先が三ツ又になっている槍、両端の先端が尖っている槍など、種類は豊富だった。
その中でも俺が特に気に入ってしまったのが、全長は俺の身長より長く、三ツ又とは少し違い、先端と左右から矛先が伸びている、『十』の字にも見える槍だ。少し青みがかっているのもポイントだな。それに、これなら振り回した時にだって突く事が可能だ。しかも、柄の部分も金属で頑丈だ。少し重たいというデメリットはあるものの、俺にとっては気にならない程度だ。正直……欲しい。めちゃくちゃ欲しい。
「一縷君、良い武器はあった? 隣の部屋から仮面を幾つか貰ってきたわよ。仮面舞踏会でも開いていたのかしらね……種類は豊富だったわ」
「……っと、この仮面着けたらバレないものなの? 目元しか隠せないけど」
「細かい所は良いのよ。顔が一部でも隠れてたら言い逃れ出来るし」
一つの仮面を投げ渡されて受け取った。青色をした仮面のデザインはともかく、顔をはっきり見られない為とするならば、着けた方が良いのもたしかだろうな。
見る限りヒモの様な物が無い。だから仕方なく、何となくで目元に寄せて、仮面を張り付けた時に違和感を感じた。
――手を放しても、仮面が落ちることは無かった。
「不思議よね、こんなのだって魔法具になっちゃうんだもの。貴族のお金の使い道って……本当に不思議よね」
「いや、まぁ……そうだな? よし、貰っておこうか。なんか、ズルいし、この槍も貰っておこう……かな」
完全にただの盗人になった瞬間だった。が、ただの仮面を魔法具と化してしまう資金がある豚伯爵からなら、槍の一本くらい良いだろうという気持ちが勝ってしまった。だからという訳では無いが、豚伯爵とこの槍に約束をしよう。
――魔王はどうにかしてみせる……と。
これはただの自己保身というか、単なる言い訳であるが、言っておかないと相手が豚伯爵とはいえ、罪悪感が沸々と沸き上がって消えてはくれない。勝手な約束ではあるが、どうか聞き入れて欲しい。槍くんは良いよって言っている気もする。
それに、俺の知っている勇者は、よく人の家からいろいろと拝借している。魔王を倒す為にだ。つまり、今回のこの槍とかも、その路線で豚伯爵には許して貰おう! ……駄目か。流石に許されませんね。
「さて、一回の捜索に移りましょうか。途中、メイドでも捕まえてメイド服の予備を保管してある場所を聞き出すわよ!」
「了解!」
四階の部屋を後にして、俺達は一階まで階段を下りていった。
◇◇◇
「メイド服の予備は何処にあるのかしら?」
「はい。この通路を進み、右へと曲がった後、奥から三番目の部屋にあります」
「そう。では、豚……ここの主の部屋はどこに?」
「はい。それは、反対側の通路を進み、左へ曲り、最奥の一室です」
「ありがとう。『貴女は何も見ていないし、誰とも話していない。作業へと戻りなさい』」
捕まえたメイドさんの前に現れ、秒で催眠を掛ける。レベル差がありすぎたのが良かった。下手に耐性があったなら、こう上手く催眠が掛かる事は無かっただろう。まぁ、詩葉さんからすれば時間が掛かるか掛からないかの問題に過ぎないのだが。
「とりあえずは服の入手ね。ここからはメイドに遭遇する事も多そうだし、注意して行きましょう」
「だな」
俺達は再び姿を消して、音を消して歩きだす。
すれ違うメイドが増えてる気がした。そろそろ本格的に仕事でも始まったのかもしれないな。
だが、どうにも腑に落ちない……考えすぎかもしれないが、すれ違うメイド達の顔に不満の表情は見られなかった。豚伯爵の噂の数々を聞いて、メイド達も不当な扱いを受けているのかと思っていたのだが、違うのかもしれない。違うのなら良い……そこに問題は無いのだが、どうにも腑に落ちない感覚があった。考えすぎと言われればそれまでだが……。
(ここか……姿を出しても良いのか?)
魔法を解除した途端、隣の部屋から誰かが出てくるという可能性がある。忍び込んでいる以上、あらゆる『かもしれない』には注意していかないといけないだろう。
(そうだ! このままでノックしてみれば!)
俺は予備の服が置かれている部屋の扉を叩いた。そして……。
「ユミラル? 今開けますね」
中から人の声が聞こえてギョッとした。その瞬間に、繋いでいる手を少し強く握ってしまった。そのお陰で詩葉さんにも俺の考えが伝わったのだろう。部屋からメイドが出てくる前に、詩葉さんは俺から手を放した。
「はい、おまたせ……し……ま?」
「『メイド服の予備を三つ用意して。でも、貴女は誰にも会ってないし、何も渡していない。部屋に一人で居ただけ』」
「……はい。承知しました」
掃除でもしていたのか、箒を手にした水色の髪をした女の子が部屋から出てきた。詩葉さんの機転で対処は上手く行ったが、少しだけ心臓の鼓動が速くなった気がする。
掃除少女からメイド服を三着、無事に手に入れられた。これで後半の作戦の時に、穴だらけの作戦だが、新人メイドとして少しは誤魔化せるだろう。
よし、次は……豚伯爵の部屋に行くか!
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