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第4話 貴族はヤバいよ in 異世界

話が動き出します!

よろしくお願いいたします!

 

「せい!はっ!そら!」


「まだまだね。最終的には槍が体の一部に感じられる様になってもらわないと。それじぁ、槍に振り回されてるわよ」


 パレードまでの数日は王城の中庭でひたすら槍の訓練をしていた。槍を初めて使った日からまだそんなに時間は経っていないけど自分の中ではそこそ上手くなっていると思っていた。まだまだダメらしいけど。


「ふぅ…。そういえば、白金さんって何が出来て、何が出来ないの?」


「そうね…。ユニークじゃない魔法関連ならほとんど使えるといってもいいわね。だから、出来ないのはあなたみたいなユニークスキルね。」


「そうなんだ。あの…聞いていいかな?魔王と戦った事、なぜ倒しきれなかったのか。なぜ魔王討伐のやる気があるのか」


「面白い話でも何でもないわよ?暗くなるし、しかも話すと少し長いわよ?」


「…うん。それでも聞いておきたい。」



「そう。分かったわ。そうね…私がここに初めて来たのはこの世界で100年前、私達の世界では3年前の…偶然にも中学の入学式の日だったわ。私は両親と一緒に学校まで行っていたの。その途中で魔方陣が足元に現れて、気付いたら両親と共にこの世界に来ていたわ。その時はソフィアに会うこともなく、この国とは別の国に来ていたわ。」



 白金さんは両親と3人でこの世界に来たのか。



「どの時代でも同じで、最初は王様の話。その後は水晶に触れてステータスを見たわ。でもね、この水晶が特殊な物で触った者の位置が分かるようになる魔道具だった。その時はステータスなんてものに浮かれて、逃げ道が塞がれていってる事なんて気付かなかったわ。その時のステータスに私は魔法に関しては天才的な才能が有ると記された。私は才能があったから良かった。いえ、魔王なんてのに立ち向かわないといけなくなったから良くなかったかもしれないわね。でも、才能が無かった両親よりはずっと良かった」



 どうりで色々と警戒しているのか…。才能が無かった両親はいったい…。



「私は才能を伸ばす為に専門的なトレーニングを受けたわ。魔法に関する知識なら何でも取り入れた。いつの間にか無意識のうちに魔王を倒してこの大陸を救うんだ! なんて考えていたのよ。両親とも離されてひたすら勇者としての力を育てていた。その頃両親はどうなっていたと思う? 地下牢に閉じ込められてたのよ。私に会いたいと言っても聞き入れて貰えなかったらしいわ。食事も質素な物。私は美味しい物を毎日食べていたわ。何故に両親に会わせて貰えなかったのかもっと考えるべきだったわ。両親も別のトレーニングをしていると言われた私はそれを鵜呑みにして信じて勇者として街と街を行ったり、ダンジョンを攻略したり忙しくしていたわ。私以外にもパーティーメンバーも見つけて一緒に強くなっていったわ」



 両親が……地下牢に。ずっと1人で強くなっていたのか。それに水晶で洗脳に近い事までされていたのか……。



「それから3年くらい経ったかしらね。丁度この姿にちかかったから。魔王の勢力は日々勢いを増して攻めてきていたわ。あまりの戦力に亜人の大陸とも手を組むぐらいだった。その中でも私は最前線に立って魔族の幹部達を倒していったわ。でも、魔王リーガルだけは倒しきれなかったの。何度も傷付いて撤退して、それでもまた立ち向かって……何度も何度も。その頃には両親の事なんて忘れていたわ。戦って戦って、ようやく追い詰めたけど私達のパーティーも満身創痍。回復役の魔力もなくて最後の最後で特殊な封印をする事しか出来なかったわ。封印した時にソフィアが現れた。現れて、思いだしたの。思い出したというか洗脳が解けたのね、両親の事を思い出した。それで霧島君も行ったソフィアと会った部屋に連れて行かれて聞いたのよ……両親が地下牢で死んだことを」



 死ん……だ? 気付いたら死んでいた? そう、だったんだ。



「私は少しソフィアの居たところで呆然としていたわ。どのくらい時間が経ったかも分からない。ひたすら泣いて、ひたすら後悔して、ひたすら恨んだわ。あの国を、この大陸を、この世界を。ソフィアは言ったわ。私に、この世界に残るか元の世界に帰るかと。私はすぐに帰る事を選んだわ、装備品も所持品も何もかも置いてね、そしてあの日に戻った、成長した身長も何もかも。戻らなかったのは両親と私の記憶と想い。不思議とこの3年間私に両親が居ない事で不都合は起こらなかった。何もかも都合よく事が進んだ。きっとソフィアが何かしたんでしょうね。そして、今私はまたここにいる……はい。ここで話は終わりよ。ご静聴どうもありがとう」


「あ、うん。どういたしまして?」


「そうね。追加で言うと人族は魔王に滅ぼされれば良いと思っているわ。でも……もう100年も経っているんだものね。私が怒りをぶつける相手が魔王しか居ないの。だから私は魔王を今度こそ……」



 お、重かった……。予想ではもっと倒しきれなかったから今度こそは! みたいなノリだと思ってた。話聞き終わった後にイカす一言でも……と思っていた自分が恥ずかしい。何か言わないとだよな。えっと、えっと……なんて言えばいいんだろ。



「とりあえず、その、俺は……死なないつもりだよ?」



 あぁぁ……!! なんか変な事言っちゃった!? おぉう……空気読んで適当に一緒に頑張ろうとか言っておけば良かった



「……そう。ふふ。その言葉ちゃんと聞いたわ。霧島君。出会ってからそんなに時間は経ってない人に言うのもなんだけど、私、あの日から意外と寂しがり屋になってしまったみたいなのよ。だから……」



 "私を1人きりにしないでね"



 白金さんはそう言った。何故だろう。今の白金さんはとても危ない状態なんじゃないかと思った。危険と知っていても突っ込んで行ってしまいそうな、自分の命を軽く見ている様な。そんな感じ。多分、白金さんは守るモノが無いから…両親がいなくなってしまったから簡単に死地へ飛び込んでしまう。そんな事はさせたくない。自分の命を軽くして欲しくない。……男として恥ずかしいけど僕も言っておかなければならない。



「白金さん。君が居ないと俺はすぐ死ぬだろう。だから……」



 "俺をちゃんと守ってくれ、君を1人にはしないから"



「ははっ。どうなの? 男としてその台詞は」


「最高に恥ずかしいね。俺も強くなるよ、守ってやるって言えるように。俺達は一蓮托生だ」



「一蓮托生……うん。気に入った。気に入ったよ霧島君。変わった人だと思っていたけど違ったね、凄く変わった人のようね。まだ出会って数日なのにプロポーズとは恐れ入ったわっ」



 プロポーズ……? え? いや、そんなつもりはない! 一人にしないとか一蓮托生とかギリギリの事言ってたかっ!?


「あ、いや……プロポーズというか。その、言葉の綾というか……雰囲気に流されたというか」


「私を1人にしないと言ったのは嘘なのかしら……ぐすっ…」



 えっ!? 泣いちゃった!? ど、どうすれば……。



「う、嘘じゃない! ……よ?」


「言質はとったわ。では、今後ともよろしく頼むね一縷君(・・・)。槍の練習でも再開しましょうか」




 や、やられた……女の涙には散々気を付ける様に教えられてきたのに!? すいません、実践で使えなかったです。女の涙には勝てないみたいです。


 でも……これで俺にも死ねない理由が一つ増えた。白金さんを死なせない為に俺は死ねない。変な理由かもしれないけど、俺には死ねない理由が必要だ。生にしがみつく為に理由が欲しい。それが両親との約束だから。



 ◇◇◇



「霧島様、白金様。今日はパレードですので衣装を用意しましたわ。」


「王女様、パレードっていったい何すればいいんですか?」


「勇者であるお二人には街の人々に手を振って貰うだけで大丈夫ですよ。出来れば愛想も良くしていただけると助かるのですが…」


「シルフィス王女?まさか私に言ってますか?」


「い、いえ、霧島様に言いました!」


「ぼ、僕ですか!?すいません。そんなに笑えて無いですか?」


「い、いえ、そんな事ありません!」


「ではやはり、私に?」


「い、いえ…」


「白金さん、この辺で止めておこう。すいません王女様、悪ふざけが過ぎました。」


「よ、良かったです…嫌われてしまうかと…」


 まさかここまで素直に受け取ってしまうとは…イジワルはたまににしておこう。


「では、着替えにいってきますね。馬子にも衣装かもしれませんが」


「まごにもいしょう…ですか?どういう意味でしょうか?」


「えっと、僕みたいな人でも衣装が立派だと立派な人に見えるっていう意味なんだけど…」


「そ、そうなんですか!?私はとんだ失礼を。勇者様はすでに立派なのにそれを服のお陰にしてしまおうとしていたのですね!こんな服いりません。霧島様はそのままで…」


「待って待って!ごめん、使うタイミング間違えた。僕の居た所では謙遜する事を良しとする風習があってね…。ホントは王女様が用意してくれた服を着たい!」


「そ、それなら良かったです…」


 これは迂闊に謙遜も出来ないぞ…気を付けないと。俺は勇者。俺は勇者っと。


「白金様はこのドレスで良かったでしょうか?ドレスならやはり華やかな色の方が良いと思ったのですが、白金様には黒の方が似合うと思いまして…」


「シルフィス王女…」


「は、はい!」


「とっても素晴らしいわ!漆黒!いいわよね!霧島君もそう思うでしょ?シルフィス王女、よくやったわ。」


「ありがとうございます!」


「いや、漆黒ではないと思うが…まぁ、似合いそうだしそこはいいか。」


 今度こそ俺達は着替えに行った。今度は白金さんの乱入も無く、着替えに成功して戻ってきた。白金さんはまだの様だ。


「霧島様、そのコートも良くお似合いですわ!」


 俺に用意された衣装は黒のスーツよりは長いコートの様なもので、その下はヒラヒラの付いたシャツだ。ズボンは普通の黒のやつだ。つまりほとんど黒である。これで白金さんも黒いから、黒の服で眼帯の所までお揃いである。ちなみにこの眼帯、シワシワになっても気付いたら新品同様になっている。さすがは神からの贈り物だ。


「着替えて来たわよ」


「待ってまし…」


 振り向いたら言葉が止まってしまった。黒い髪に黒いドレス。肌の色以外はほぼ黒である。なのにとっても似合っていた。白金さんの大人びた表情と黒のドレスがよく似合っている。正直、可愛いより綺麗だと思った。


「似合ってますね…黒が」


「ありがとう。一縷君も似合ってるわよ」


「白金様!本当にお綺麗です!つい見惚れてしまうくらいに」


「ありがとう。後は馬車に乗りながら手を振るだけね。戻って来たら貴族達のパーティーに参加かしら?」


「えぇ、お疲れの所申し訳ありませんが貴族達にもいろいろありまして…」


「分かっているわ。一縷君、今日の疲れはダンジョンで吹き飛ばすわよ。特に貴族のパーティーは疲れるから気を付けてね」


「マジですか…。作法とか分からないですよ?」


「大丈夫よ。私の隣にいて笑顔を見せておけばいいわ。」


「私もお隣にいますので任せてください!そして、近々ダンジョンへ行きましょう!」


「よろしく頼みます」


 二人に頭を下げて俺達はパレードの出発準備をした。




 俺達は街中を馬車で見せ物になりながらゆっくりと進んでいき、右へ左へ手を振りながら街を1周して帰って来た。民も忙しいから小国程度だとこんなもんだと教えて貰った。街には老若男女が沢山集まってくれていた。そこで首輪をしている人を見かけた。もしやと思って聞いてみたらどの国にも奴隷という者はいるらしい。犯罪を犯したもの。売られた者。理由は様々だけど奴隷は貴重な労働力らしい。王女様は奴隷の待遇の改善を試みようとしたが他の貴族に説き伏せられたらしい。


 パレードは俺達の存在を公表するものだ。白金さん曰く、大国の方で何らかの動きを見せるかもしれないらしい。まぁ、居ないと思っていた小国に勇者が居るんだもんな。正直、放っておいてくれるのが1番なんだけど、もしかしたら、大国にいる勇者達に俺達の連絡がいくかも知れないから知られる事自体は別にいいらしい。というか、知られてもこっちは知れない。大国とは協力も何も無い…というスタンスが白金さんの考えだ。クラスメイトなんてほとんどの人は知らないからどうでもいいけどさ。



「霧島様、白金様。貴族達とのパーティーは夕方頃から開催しますのでそれまではお休みください。時間になりましたらお呼びに参ります。」


 メイドさんにそう言われ部屋へと戻ってきた。なぜか白金さんも部屋に来て人のベッドに腰掛けてるけど、もう気にしない事にした。1人で居るより暇にならなくてすむし。


「白金さんはパーティーとか出たこともあるんでしょ?踊ったりするの?」


「有るけど…そうね。だいたいは貴族の挨拶をずっと聞いてるだけよ。前に居た場所では貴族の数もここよりずっと多くて、全員の挨拶が終わるまで何時間もかかったわ。パーティーでは踊る事もあるけど私は踊ったこと無いわね。あと、息子を紹介とかされたわ。正直、これが1番面倒なのよね。魔王討伐で忙しいのに息子を紹介してくる貴族の精神を疑いたくなったわ。しかも、やんわりと断らないといけないから…まぁ、この話はいいわ。つまり貴族に言質を取らせない様にだけ注意すればいいわ。」


「なるほど…俺に出来るかな?なんか押しきられそうで怖い。娘さんとか紹介されたらどうしよう…」


「ダンスの誘いをされても最初は王女様か私にしなさい。後は格の高い家から順に、優先順位を守らなかったら後がやっかいだからそこは気を付けて。判断つかなかったら王女に聞けばいいわ。娘を紹介されても今は魔王退治で忙しいの一点張りでいけるわよ」


「ま、そもそもの話、ダンスなんて踊れないんだけどね」


「まぁ、それもそうね。…少し練習しましょうか。踊るかどうかは別にして流れだけでも知っておいた方がいいわよ?」


「そう…だね。別の時に踊る事があるかもしれないし、教えてください。」


「それじゃあ始めるわよ。まず真っ直ぐ立って……」


 それからメイドさんが呼びにくるまで教えて貰った。どうやら俺にはダンスの才能も無いらしく、さすが消滅の勇者ね、才能が消えてるわ。なんて言葉を頂いた。でも、俺が出来ない訳じゃなくて、白金さんの求めている水準が高過ぎるだけだと思う。


「こちらが会場になります。シルフィス王女殿下もすぐにいらっしゃいますので少々お待ち下さい。」


 ペコリと頭を下げて、案内してくれたメイドさんはどこかへ行ってしまった。


「あー、やばいやばい緊張してきた。注目とかされたこと無いし緊張するなぁ…」


「私達は勇者なのよ?もっと威張り散らすくらいでいいのよ。」


「それはちょっと過激すぎない?」


「貴族達はなんとか私達の地位や名声を利用したいだけなの。魔王とかそんなのは自分達には関係ない事だと思っているのよ。だから、貴族の思惑を理解してないフリをして、甘い汁だけ吸わせて貰えばいいのよ。」


(したた)かだね、白金さんは。」


「お待たせしてしまい申し訳ありません。」


 王女様もやって来た。パーティー用だと思われるピンクのドレスに着替えていて、王女様の可愛さがより引き立っていた。


「よくお似合いですね、王女様。」


「ありがとうございます、霧島様。それでは参りましょうか」


 すでに貴族達のいる部屋に俺達3人は入っていった。王女様が部屋に入ると同時に貴族達は片膝を床に着けて頭をさげた。俺達3人が部屋の奥の1番目立つ場所に行くと王女様からの合図で貴族達は一斉に立上がった。


「紹介します。すでに知っているとは思いますが我が国の召喚に応じてくださった勇者様の霧島一縷様と白金詩葉様です。我々の習慣や作法に不馴れな部分があると思いますがそこは大目に見るようにしてください。では皆様、今日は存分に楽しんでくださいませ。」


 王女のナイスフォローで俺の作法の失敗も大目に見てもらえる様になった。早速、貴族達が列を作っている。まずは王女様へ一言、そして俺達への自己紹介と世間話という名の見定め会が始まった。主に答えてるのは白金さんで俺はたまに来る質問に答えるくらいだった。イケメンの息子と来てる貴族は白金さんへ、可愛い娘さんと来てる貴族は俺へのアピールが多かった。白金さんや王女様にフォローして貰わなかったら簡単に言質を取られてたに違いない、そう思わせる程に貴族は凄かった。


「ふぅ…一段落したのかな?それよりも凄いね白金さんは。貴族の一人一人をよく見て覚えようとしてるなんて。俺なんて最初の方の貴族の方の名前とか出てこないよ。」


「白金様はさすがでしたけど、霧島様もよく対応出来ていたと思いますわよ」


「そ、そうかな?それなら良かった。」


「シルフィス王女、あまり甘やかさないでください。何度危ない場面があったやら…」


 いや、ホントに助かりました。でも、何を言っても娘と同じですな。なんて言うんだぞ?もう無理でしょうよ。


「面目ない…。パーティーの類いはしばらくはしなくていいかな…。毎回こんな感じだったら全然楽しめない…」


「霧島様、これが終わったらしばらくは何も無いので安心してください。」


「一縷君、今日はこの後反省会だから。」


「ま、マジですか…」


「話しておきたい事もあるしね。」


 話しておきたい事…このタイミングって事は何かしら見つけたのかもしれないな。早く聞いておきたいがパーティーはまだまだ終らない。何とかして帰れないかなぁ。無理だよな。パーティーの主役だものね。


 その後も我が領地へとか、私の娘とか、ダンスのお誘いとかあったけど全部断った。もちろんやんわりとこちらの都合で断ってます感をだした。こりゃ、俺には貴族の才能も無いね。ははは。


「お集まりの皆様。今宵のパーティーはこの辺りでお開きにしたいと思います。最後に一言を……。人類への凶報である、魔王の復活が予言されました。ですが、こうして勇者様も来てくださいました。私達は私達の為に手を取り合って魔王へと立ち向かわなければなりません。主な戦力は大国ですが、私達ソフュール王国も戦わねばなりません。力を合わせましょう、力を合わせて立ち向かいましょう!」


 パーティーに来ていた貴族達から拍手が鳴り響いた。俺も何となくで手を叩いた。白金さんは何もしてない。してないどころかどこか不機嫌な感じがする。


「…チッ」


 どうやら、間違いなく不機嫌な様だ。霧島、危うきに近寄らずの精神だ。後で落ち着いてから聞くとしよう。


「では、皆様、お気をつけてお帰りください。」


 一人、また一人と貴族達が帰っていく。それをしばらく見送って白金さんからの指示で俺の部屋に戻ってきた。



 "ここからは念のため筆記よ。最初に言っておくわ。パーティーに暗殺者が混ざってた"


 は!?暗殺者?どうやってわかっ……まさか、白金さんが相手をよく見てた理由って、相手のスキル見れるやつで観察してたのか!


 "称号の欄にあったの?"


 "ええ、貴族の何人かは息子と偽って暗殺者を仕込んでいたわね"


 複数もか…


 "理由ってわかりそう?"


 "考えられるのは、第1に王女の暗殺。第2に私達の暗殺。第3に貴族の暗殺。かしら?"


 "なぜこのタイミングで?"


 "たぶん、この国の一部の貴族とどちらかの大国とは裏で繋がってるとみていいわね。王女が邪魔になったのか、私達が邪魔になったのか分からないけど"


 "王女を暗殺して成り代わる、もしくは大国がこの国を属国にするって感じか?"


 "恐らくはそう。今日、もしくは近日中に刺客が来ると思う。"


 "そんなに腐っているのか?"


 "そうよ。神ソフィアが言ってたのは間違いないわ。王族、貴族で真剣に魔王を討伐しようと考えてるのは王女だけ。シルフィス王女がいる分この時代はマシね。ソフィアが肩入れするのも少しは理解できるわ。"


 大国は自分達の利益を優先でこの国に勇者を来ないようにしていた。でもこの国には俺と白金さんが運悪く来てしまった。それを知った大国の行動が暗殺。王女か俺達かは分からないが暗殺だ。腐り過ぎだろこの国この大陸の貴族共は。王族もダメだろそんなんじゃ。


 "ソフィアの寝室に忍び込もう。もし暗殺者が来たら俺はこの国を出ようと思う。"


 "なら、確実に出る事になるわね。せめてダンジョンにある私の武器は回収したいのだけど。"


 "分かった。ダンジョンを最短で攻略しよう。それはそうと、白金さんは出ていく事に賛成なのか?"


 "どの国にいてもこうなる事は分かっていたわよ。"


 "そうか、なら荷物を纏めたら俺の部屋に来てくれ。ミュートで音を消して忍び込もう"


 "売れそうな物やお金も拝借していきましょう。…そうだ、私の魔法で死体を作り、私達は今日死んだ事にする。明日からは名無しの冒険者になるの。"


 "そいつはわくわくするな。"


 "一縷君なら分かってくれると思ったわ。"


 "王女を救いに行こう。ようやく俺達の魔王討伐の旅がスタートだな。"


「ロスト」


 紙を消して、俺達は行動に移る。未練も何も残っていない。俺のレベルが低いのが不安だが、白金さんにそこは任せる。俺は俺の出来る事をしたらいいんだから。


「荷物っても着ていて制服と槍と防具くらいしかないからな…部屋のタンスから衣類を貰っていくか。あとペンと紙も。」


 俺の準備はそうかからなかった。白金さんを待ってる方が何倍も長いくらいだった。


 "待たせたわね、荷物は…マジックバックに入る量なのね。余裕はあるかしら?私の荷物が少し多くて"


 白金さんも自分の部屋から紙とペンを持ってきたみたいだ。


 "まだ余裕あるよ。槍は手で持つし防具は着てるから、制服と下着とか洋服が少し入ってるだけだし。"


 "なら、申し訳ないけど私の着替えとお金を拝借してきたから半分は持っておいて"


 "了解。部屋は1番上だっけ?"


 "ええ、早速行きましょう。人の視界に入らなければあなたの魔法で簡単にいけるわ"


 "一応、消費魔力は少ないけど減っていくからそこは気を付けないと"


 "そうだったわね。王女の部屋に入ったら私の魔法でそっくりの人形を作り出す。暗殺者に殺させたと思わせたら成功、疑問を抱かれたら暗殺者を始末して一応の為に人形の王女の体の部位を置いておく"


 "暗殺者が瀕死の王女をどこかへ連れ去ったと誤解してくれたらいいわけか"


 "そういうこと。暗殺者を人形でごまかせる可能性は低いわ。似てるけど質感までは出せないのよ。"


 "分かった。俺は部屋でミュートを維持したまま、ロストで暗殺者を始末する"


 "今回は私が王女を担ぐわ。あと、王女を起こすのも私がやる。…そろそろ行きましょう"


「ロスト」


「ミュート」


 音が消えた。正直、曲がり角で出会う可能性もあるから慎重に行かなければならない。白金さんが先頭で俺は指示されるままに着いていく。物陰に隠れたりしながらどうにか部屋まで辿り着いた。


 俺達は頷きあって部屋に入る。ここでようやくミュートを解いた。


「まだ生きてるな。白金さん…」


「えぇ、一縷君は部屋の隅へ…」


 言われた通りに部屋の隅で目立たない様にしゃがみこむ。


「シルフィス王女、シルフィス王女。白金です。声を出さず起きてください。」


「え…?白金様?どう…」


「静かに」


 白金さんが王女の口元を軽く押さえた。紙を見せている。あの紙にはここに来るまでの流れが書かれているはずだから王女もすぐに理解するだろう。今の現状を…。


 王女様を連れた白金さんがこちらへとやって来る。王女様はまだ理解が追い付いてないのか、何度も何度も紙を読み返している。


「一縷君、タンスに隠れるわ。ミュートを」


「了解。」


 俺達はタンスに隠れ音を消し、今日来るかは分からないけど暗殺者を待った。王女様は泣いていた。裏切られた事か、怖かったのか、それとも別の何かかは分からないが泣いていた。俺の服の袖が引っ張られた。合図だ。……やはり暗殺者が来てしまった。


 闇に紛れる為に漆黒の衣装を着た暗殺者が王女様の人形へゆっくりと音をたてないように近寄って行く。よく斬れそうなナイフを手に取り……人形へと突き刺した。しかも、心臓じゃなく喉元へ浅くだ。中々エグい性格をしている。王女様は今でも信じられないといった顔をしている。…でもこれが現実で王女はここで暗殺されていた。王女の目から涙が止まらない。…そろそろ見ていられないな。


 俺はタンスから出て暗殺者へ近づいていく。気配には敏感なのか近寄って行ったら振り向いた。だが遅い。


「!!…………!?」

「……。」


 暗殺者の顔が目元以外は隠されていたから左目から頭の後ろまで消し去った。叫び声も聞こえない。まぁ、ミュートのお蔭だけど。暗殺者が地に伏せる。床に血溜まりが出来たがこれはこれでカモフラージュになるだろう。俺は今日初めて人の命を奪った。槍で直接刺した訳じゃないからか、あまり気持ちに揺れはなかった。ゴブリンを槍で刺した時の方が動揺した気がする。少し怒りがあったのが良かったのかも知れないな、こいつを消すのに後悔も躊躇いもせずに済んだ。



「白金さん。…くっ」


「どうしたの!?」


「魔力が一気に減ったんだと思う。少しダルい…中々の手練れだったみたい。」


「これ飲んで、回復薬よ。一縷君にはまだミュートを使って貰うんだから。」


「霧島様…白金様…私は…一体どうすれば…民達に何て言えば…」


「筋書きはこう。ここに私と一縷君の人形で作った死体も置いておく。顔は分からないようにボコボコに作るわ。翌日に騒ぎになって、王女の千切れた腕と勇者が居ないから勇者の死体と思わせる。その頃私達はダンジョンクリアしてこの国からおさらばよ。私達は今日ここで死んだ。明日の私達はただの浮浪人よ。王女から一気に没落したわね。国民の事はひとまず置いておきなさい。どうせ貴族達は影武者を用意するわ。貴女はもう王族じゃなくなる。これが筋書き。これで良ければ私達と来なさい。」


「私は…どうすれば…勇者様達と一緒にいていいのでしょうか?」


「当たり前よ。私達はパーティー『星の祈り』のメンバーなんだから。あなたの居場所はこの国じゃない。私達の隣よ、それでいいわね。」


「は…はい。やはりお父様もお母様も…暗殺者によってこの国の貴族に…うぅ…ぐすっ…。うぅ…わ、私はお二人についていこうと思います。これからよろしくお願いします勇者様。」


「よろしく王女様…じゃないのか、よろしくシルフィス…は名前で疑われるから、よろしくルフィス。」


「一縷君、ルフィスじゃ近すぎるわ。ブリュンヒルデとかにしましょう。」


「いや、原形は残してあげようよ。」


「私はルフィス。今日から冒険者のルフィスです!この部屋から外へと繋がってる隠し扉があります。洋服は…派手なので冒険者装備で私も行きます。1分お待ち下さい。」

 

 ルフィスが着替えてる間に白金さんはちゃっかり金目の物を鞄にしまっていた。もちろんどこにでもありそうな宝石ばかりを。


「お待たせしました。行きましょう、こっちです。」


 ルフィスの案内で俺達は王城から抜け出した。国は混乱するだろうし、誰が暗殺者を用意したかで荒れるだろう。白金さんが何名か大国と繋がっている貴族の名前を書いた紙を置いてきたらしいし、少しくらい意趣返しは出来たかな。


「一縷君、ルフィス、ダンジョンを攻略するわよ。」


「おう!」

「はい!」


 さっきまで泣いていたルフィスもどこかスッキリとした表情をしている。民の事は心配なのだろうがそれでも俺達と一緒に行くと決断してくれた。その決断を後悔させないためにもルフィスを俺達で守っていかなければ。


「白金さん、守るモノが増えたね」


「……やれやれ、世話が焼けるわね。あなた達は。」




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