第31話 リコルへプレゼントだよ in 異世界
少し遅れました!
よろしくお願いします!(´ω`)
オークを倒して進み、気付けば二十八階層まで来ていた。
やはり、物理耐性のある敵は良い練習相手になる。と、言っても所詮は耐久戦がしにくくなっただけのオーク……慣れれば敵じゃなかった。
「今日は少し早いけどここまでにしておきましょう。明日は三十階層のボスを倒して貰うから……そしたら、一度地上へと戻りましょうか」
「了解。ルフィス、寝床を見付けるまで先頭……はっ! 先頭で戦闘よろしく!」
「プフーッ!! ちょっと、一縷さん! 急に面白い事言うのやめてくださいよ~アハハッ!!」
いや、ウケたらウケたで恥ずかしいんだけど……。ほら、詩葉さんからこの気温より冷たい視線が贈られてきているじゃないか。
「俺もウケるとは思って無かったから、そんな目で見るのはやめてくれませんかね!」
「冗談よ。まさか、この世界の笑いのツボが一縷君のダジャレでもいけるなんてね! ビックリよ」
ホントな。ルフィスはまだ少し笑いながら先頭を歩き出した。よく見れば、聖女やリコルも笑っている。
だが、このレベルのダジャレで笑われると、面白くて笑った訳ではなくてつまらな過ぎて嗤われている様に思える……。
「ぷふ……『火弾擊』! あっ、外れた!? 『火弾擊』!! 今のは一縷さんのせいですからね!」
とんだとばっちりである。今度からダジャレにも気を付けなければならないのか……。そんな枷が付くとは思わなかったぞ。
俺達はいつもの様に行き止まりを見付けてそこで野営の準備をする。今日は何組かの冒険者を見付けて、その戦い方を観察させて貰った。
この国の冒険者はやはり、他の国よりも強い……とは思う。前に居た国がどのくらいかは分からないが、オーク相手に三~四人で戦っていた。今日みた冒険者は、メイン一人にサポート一人で戦っていたし、同じランクだとしてもレベルが違ったりするかもしれないな。
ご飯を急いで食べた後に食後の休憩を挟んだら、詩葉さんとの修行である。
正直、これが一番キツい。男の俺を軽々しく投げ飛ばす詩葉さんは凄いと思うし、教えて貰う事で日に日に強くなってる感はたしかにあるのだが……容赦なく踏み潰して来たり、食後なのに鳩尾に拳をねじ込んだり。今日はポニーテールだから、鬼ポニーテールだな。
「何となく、邪気を感じたから投げーる!!」
「ぐぇっ!? そんな理由で投げないでくれよな……防げない俺が悪いんだけど」
組み合った時に膠着状態になるのが一番ダメらしい。敵側に他に仲間が居れば狙われるし、居なくても仕込み武器の危険があるからだとか……。だから、組み合ったらすぐに投げるか足を払うか離れるか……その選択をしないといけない。
殴る蹴るの型よりも先に柔道技を教えられているのは、その方が対人における近接戦闘では有利になるかららしい。
「詩葉姉、私もお兄ちゃんを投げたい!」
「良いわよ……でも、まだ力が足りないだろうから……(ゴニョゴニョ)」
あーはい。これは投げられるな。防ごうと足を踏ん張っても投げられるやつだ。俺の経験の無さから咄嗟の対策も出来ないし。まぁ、リコルに投げられるなら吝かでもない。
「お兄ちゃんは荷物……お兄ちゃんは荷物……」
おっ、リコルも急に反抗期になったかと思ったが……これはあれか。リコルのスキルにある補正を使って筋力を上げる方法だろう。
思い込みでスキルが使える様になるのかは怪しい所だが……あまり、お兄ちゃんを荷物とか言わないで欲しいかな?
「ま、まさか!? これは詩葉さんからの精神攻撃!?」
「いっくよー! よいっしょ……も、持てた!」
「そのままひねりながら一縷君を地面に叩きつけるのよ!!」
俺を背負う様に持ち上げたリコルが詩葉さんに言われた通りに俺を地面に叩きつけようとしたが……今はまだ仕方ない事だけど、身長が足りなくてたいした威力が出なかった。
寝転がされて、その上にリコルが乗ってる感じだ。
「えへへ~お兄ちゃん、どうだった!?」
「リコルは強いなぁ~、お兄ちゃんはもう動けないよ」
リコルの満面の笑みを見れたお陰で、色々と回復した気がする。いや、詩葉さんに虐められた精神は確実に回復してるな。
今度は逆にリコルを持ち上げて走り回った。まぁ、詩葉さんに訓練は終わってないからと止められてしまったが……リコルは癒しだな、本当に。
◇◇◇
翌朝、また無事に目を開く事が出来て普通に起きた事で気付いた。寒さにも慣れてきたなと。
この寒さに慣れたら暑い所や外の普通の温度ですら暑く感じてしまいそうだが、自分の身体に頑張って貰うしかないな。
「さ、進みましょうか。一縷君、今日は槍の先端を使うのは無しってどうかしら?」
「詩葉さん!? ナチュラルに槍のアイデンティティーを奪うのをやめて貰えるかな!? 棍棒になっちゃうよ!」
棍棒と呼べるかすらも怪しい。ただの柄だもの。たしかにこの部分だけでも、貫通力は低いが突いたり、叩いたりしてモンスターを倒す事は出来るかもしれないが……普通に時間が掛かってしまうだろう。
「一縷君、あなたは今日、槍のつか……柄だけ使うのよ!」
「アハハハハッ!! 詩葉さん、朝から面白いですーっ!」
昨日、俺には冷ややかな視線をくれたのに、自分がウケるとドヤ顔をしている詩葉さんだ。そして、たいして面白くも無いのは俺と同じだな。
「オークとか槍の先端が無いとキツいんだけど……それ狙い?」
「そうよ。ただ作業の様に倒したって経験じゃなく、経験値にしかならないじゃない? 先端がへし折られた時の為と思って頑張ってね」
まぁ、やれと言われればやりますがね!
そんな詩葉さん信者の様な事を思いながら、オークを倒す為のシミュレーションをしていく。叩いても突いても柄の部分なら急所を狙わないと効果は低いだろうしな。
「いつも通りじゃないか……」
シミュレーションの結果、足を狙っても意味はないし、狙いは目に定まったが……よく考えればいつもやってる事と差ほど違いは無かった。
でも、よく考えると目を正確に突くのは難しい。戦闘中なら尚更だ。あと、グロさもあるが……これはまぁ、我慢できる。
「詩葉さん、雷魔法は?」
「そうね、牽制程度。トドメじゃないなら良いわよ」
それならまだ楽かな……? 痺れさせて、その間に突く。面倒だが、これも強くなるためだもんな。ま、今日も頑張りますかね。
◇◇
二十八階層にもなると複数のオークが一度に出るのは当たり前になっている。
片方を痺れさせている間にもう片方を倒していくのがセオリーで、消滅魔法を使えば纏めて相手どころか一瞬で終わらせる事も出来るけど、槍と雷魔法だけなら一対一じゃなければまだ少し厳しいだろう。
怪我とかはしないだろうが、安全とも言い難い。こんな所で冒険する必要は無い。
「――ハッ!!」
物理に強くてダメージは通らなくとも、攻撃を当てる事で牽制は出来る。顔に棒を叩き付け、怯ませてる間に雷魔法で更に動きを止めて柄の一撃をお見舞いする。
一体を倒したらすかさずもう一体へ。だが、一対一ならもうパターンが出来ている。隙が出来るまで攻撃を受け流し、チャンスが出来たら決めに行き、フィニッシュ。複数相手でも調子が良ければ時間もそこまで掛からないな。
「一縷さん! 交代! 交代です!」
「早くない? まぁ、でもルフィスもレベルとか上げないとだしな……」
「ルフィスさん、ちょっと良いですか?」
聖女が珍しく、移動中にルフィスへ声を掛けた。
いつもはダンジョンを見渡したり、詩葉さんやリコルと色々と話しているから戦闘に参加する俺とルフィスにはあまり話し掛けて来ない。
呼ばれたルフィスは聖女の元へと駆け寄って、一分と経たずに戻ってきた――熱血キャラになって。
「よぉぉぉぉしっ!! モンスターを一掃してやりますよっ!! どこからでもかかって来いですぅ!!」
「うーん……催眠とか掛かりやすそうだもんなぁ。やる気がある事は良いんだけど、暴走しないよなぁ? 聖女、ちょっと」
「は~い……なんですか~?」
うっ……ダンジョンで休んでる時ならともかく、移動中とかに聖女と話すと力が抜けていく気がするなぁ。
「どうして、ルフィスに魔法を?」
「すいません~そろそろ一度地上に出たくて~、ダンジョンだと祈りが通じにくい気がするんです~。違和感はあったのですが~……」
なるほど。それでルフィスをやる気にさせて、どんどん進み、地上に戻る……と。俺じゃ魔法が掛かりにくいからルフィスと交代するタイミングで仕掛けたのか。
やる気になるのは別に悪くは無いんだ。だがそれは、本人の意思を無視してちゃ駄目だろう。
「聖女。祈りが通じにくい事、それ以外にも困った事があれば遠慮無く言って良いんだ。お前の話を無視したりはしないから。聖女の魔法はありがたいよ? でも、ルフィスに勝手に魔法を掛けたことは……ちゃんと、謝るんだぞ? 」
聖職者に説教してしまったな。けど、今の聖女はただの俺達のパーティーメンバーだ。言いたい事は言わせて貰う。
「ふふっ、ありがとうございます。一縷さん!」
「何故、お礼を言われたのかは分からないけど……まぁ、とりあえずルフィスに行ける所まで任せてみようか」
ここからはルフィスの快進撃が始ま――――る事も無く、出会ったら魔法で倒すいつも通りの展開が行われていた。
だが、快進撃が全く無かった訳ではなくて、ルフィスのお陰かどうかは分からないが、二十九階層へはあっさりと進めた。
ボス前の階層という事もあってか、ベテラン風のパーティーが他の階層よりも多くみられた。
ここで、さっきの魔法が良い方向では無く悪い方向に出てしまった。ルフィスが暴走し始めた。
「どんどん行きますよぉぉっ!! 」
「なぁ、ルフィスさんよ」
「分かってるわ、一縷君」
冒険者が多い中、ルフィスがオークを魔法で屠っていく。一応、この階層に来た時に注意はしたのだが……
『私は……私の前に在る道だけを行くのですっ!! 後ろに居る冒険者達を気にしている時間は無いのです』
と、謎の勢いに押されて俺も詩葉さんも押し黙ってしまったのが良くなかった。目立ってしょうがない。
「冒険者がついて来てるというか……覗いてるよな?」
「そうね……まぁ、幸いにしてローブは着てるし……」
「ローブが動きを阻害してるのですっ!!」
ヤバいな……流石に顔バレはメリットが無い。
俺は走ってルフィスが振り向く前にローブを被せる。ついでにデコピンだ。ルフィスが悪い訳では無いけど、少しでも落ち着かせる為に痛みを与えておく。
そんなルフィスを連れて詩葉さんの元にまで戻った。魔法の解除をして貰うために。
「『状態回復』……これで大丈夫なはずよ」
「私は悪く無いです……よね?」
一応は元に戻ったみたいだな。流石にソロでオークを倒しまくる女の子は目立つ。俺はリコルを背負って詩葉さんは聖女を背負い、走り出した。
冒険者は当然の様について来るが、曲がり角でスピードを出し右へ左へと駆け抜けた。それでも何人かはついて来られるくらい足が速い。
「詩葉さん、どっち!?」
「たぶん右に行ってその次を左ね! そっちの方がモンスターが多い……下への坂も在るはずよ!」
モンスターに冒険者をぶつける作戦か。流石は詩葉さんだぜ! モンスターも倒せて冒険者も撒ける。さす……いや、これ以上はやめておくか。
「ちょっ、あの……はぁ……はぁ……疲れます~」
「マジか。詩葉さん、リコルもお願いできる?」
「まったくルフィスは……仕方ないわね。リコルおいで」
聖女を背負い、リコルをお姫様抱っこしたとしても軽々と走る詩葉さんのステータスが気になって仕方ない。だが、今は走らないとな。
「ルフィス、乗れ」
「はぁ~……楽ですねぇ~」
ルフィスを背負い、モンスターが居る所を走り抜けて更に数分走り、俺達は三十階層へと何とか逃げ切った。
◇◇◇
「はぁ~今回のダンジョンはハラハラする事が多かったな?」
「ルフィスはしばらく外出禁止ね」
「しゅびばしぇ~ん……」
三十階層のボスを倒す前に、また聖女と祈りを捧げたが本当に通じにくい様で宝箱はまたしても出なかった。
ボスはオークかと思いきや、白いゴリラの様な速さとパワーを兼ね備えたモンスターだった。まぁ、今度はちゃんとした強化の魔法を掛けて貰ったルフィスが特に苦戦もせずに倒したわけだけど。
ダンジョンの外は薄暗く、まだ完全に夜の暗さではないものの、後少しすれば空の星が綺麗に見える様になるだろう。
俺達はとりあえず宿に戻り、明日からの話し合いをその宿の食堂でする事にした。
「もう一度言うけど、ルフィスは外出禁止よ。聖女とリコルは外に行きたい時は私と一縷君のどっちかを連れて行くこと。普段の買い物とか必要な物は私が買いに行くわ。」
「私はルフィス姉とお留守番しとくっ!」
「私も~ちゃんとお祈りをしたいですから~」
おそらく数日中に冒険者ギルドで話は出てくるだろう。パーティーに所属しているとはいえ、昔からの仲間でも無い限りパーティーを転々とする事もあるらしい。それを狙ってルフィスを探し出す事も考えられる。
自分の身は守れるだろうが、街中での魔法の使用は一般人を巻き込む可能性も考えられるし、ルフィスにはギリギリまで魔法を使うという事の決断は出来ないだろう。
「とりあえず明日、一縷君と私で買い物や冒険者ギルドに換金しに行ってくるわ。次のダンジョンは明後日か明々後日にするから」
「了解。というか、やっぱり暑い……環境の変化に慣れたらスキルとかになるのかね?」
食事も終わり、俺は先に部屋へと戻った。久し振りのちゃんとした睡眠だしな。壁が薄くて隣の部屋から“音”が聞こえてくるが、今日は気にせず眠る事にした。
◇◇
朝まで快眠だった。目を覚ましたら疲れはまだ残っているものの、スッキリとした寝起きで体調も良かった。
出掛ける時に詩葉さんが迎えに来てくれるらしいし、先に用を足したり準備をしておこうと動き始めた。
体感にして十分くらいだろうか、部屋の扉が数回叩かれた。
『トントン……トン、トトン』
この宿の扉に……というか、ほとんどの家や宿に覗き穴なんてものは無いだろう。だからお互いの部屋に訪れた時は、ノックの回数やタイミングをあらかじめ決めておいた。
つまり、今の叩き方は詩葉さんで間違いない。
「起きてますよ、今開ける」
「おはよう一縷君。一縷君の防具、リコルへのプレゼント、換金、買い物。どれから行きたいかしら?」
今日も予定は沢山あるみたいだな……。リコルへのプレゼントはあの変身する魔女さんの所か。たしかそろそろ完成してる頃合いだったかな? 俺の防具も出来るのか……これも楽しみである。
どの順番から行けば効率が良いか分からなくて考えていると、不意にお腹が鳴った。それで予定は決まったみたいな物だ。
「買い食いしながら換金しに行こう。そして、リコルへのプレゼント、買い物、俺の防具の順で」
「じゃあ、露店で何かを買ってからギルドに行きましょうか。あと、それじゃ効率悪いし遅くなるから順番は変える……やっぱり、一縷君のルートで良いわ。それにしましょう」
それにしちゃっていいのか? ……というか、最初の行き先しか聞かれてなかったのについ他の店まで指定しちゃったな。
でもまぁ……詩葉さんが良いと言うのなら、少しくらいは多目に歩いても、それはそれで良いかもな。
俺は外出禁止のルフィスには悪いが、せっかくの休みを満喫させて貰うことにした。お土産くらいは買っていってやろう。
◇◇
買い物をしながらギルドへと向かい、帰りの時に足りない物を買って帰ろうと話しながら到着したギルドへさっそく入って行く。
ギルドの中はいつも通りの騒がしさであったが、まだルフィスに関しての情報は集まっていない。そのうち情報提供者に報酬が出たりするんだろうな。
ここで換金したお金は、ルフィスやリコル、聖女から預かって来た冒険者カードに均等に振り分けられた。もし、ルフィスの名前が出たらここでの換金も危ういから名前バレも気を使わなければならないな。
俺達はギルド内に貼られているクエストを見て変わった事が無いか確認してから、その場を後にした。
「勇者達、帰って来ていたのね」
「昨日か一昨日? くらいって冒険者達が話してたな」
ラッカーラから帰還した勇者達や皇帝は、特にパレードを行う訳でも無く日常へと戻っているらしい。
勇者達が連日に渡ってダンジョンに潜る事も減るだろうと、冒険者達は静かに盛り上がっていた。
声を上げて喜ぶと、下手したら反逆罪らしいからな。やっぱりヤバいな帝国って。
◇◇
「いらっしゃい……よく来たねぇ~」
追われているらしい魔女さんの、老婆姿に出迎えられて中々変身を解かない事に詩葉さんがイライラとし始める。何でこんなに仲が悪いのかは分からないが、きっとお互い似た者同士なのだと俺は思う。
「完成はしているのよね? 支払いは済んでいるのだから、失敗なんて事は許さないわよ?」
モクモクと煙が立ち込め、老婆が綺麗な魔女さんに変身した。
「“一応”は完成してるよ。ほら」
魔女さんが机の上に置いたのは、リコルが着けたら胸の位置にまで魔石が届きそうな首飾りだ。ゴツゴツで不恰好な魔石が綺麗に加工されていた。宝石と言われても納得しちゃうくらいに。
「視せて貰うわ…………確かに。注文通りね」
「それってどうやって使うの?」
「それは、今から仕上げに入る。発動の言葉を決めておくれ。それをこの魔石に刻み込む事で発動する。だから……日常会話で使う言葉はやめておくんだね。首に掛けていたら発動の一歩手前になるから」
なるほど。普段は使わないワードを選ばないといけないのか。リコルにはなるべくずっと着けておいて欲しいし……悩むな。寝言で言って発動したら大変な事になる。
「詩葉さん、何か良いアイディアってある?」
「長過ぎても駄目だし短すぎも良くないわね……」
短いとつい口に出してしまう可能性があるからな。というか、首に着けたら発動間近ってのが条件としてキツ過ぎるな……言ってもそういう仕様なら仕方ないけど。
リコルがうっかり口にしない事で忘れにくい言葉……それなら、俺達が居た世界の何かが良いかもしれないな。
「詩葉さん。俺達居た世界の逸話というか、神話的なので良い感じのやつ無い? 風の魔石だから風を司ってるみたいな……絶対詳しいでしょ?」
「何か他意を感じるのだけど……まぁいいわ。そうね、風なら……スサノオとかどうかしら? 」
名前は聞いたことがある。有名な名前だな、出雲がなんたらとか、祇園がなんたらとか聞いた事がある気がする。詳しくは知らないけど。
だが、スサノオだけだと少しだけ短い気もするから……何かそれにくっ付ける形にした方がよさそうだな。
「『スサノオの一撃』『スサノオの風』……うーん?」
「あまり、ピンと来てないみたいね? そう難しく考えなくて良いんじゃ無いかしら? 考えすぎると底無し沼に嵌まるわよ?」
それもそうか……たしかに、あのまま考えていたら変な方向に突き進んでいたかもしれない。もっとシンプルに考えよう。リコルを護る為の風の首飾りだから……。
「『守護の剣風』……どうかな?」
「流石ね、一縷君。貴方のその才能はもっと評価されるべき代物よ。それにしましょう」
「はいよ、じゃあそれを仕上げに組み込むよ」
魔女さんが聞き取れない言葉を放ち、首飾りが淡く光っていく。最後に俺達で考えた言葉を言い切ると、一際輝きが強まって、静かに光が霧散していった。完成……したみたいである。
「ほら、今度こそ完成さ。使用回数を越えると砕けるから……少し勿体無い気もするけど消耗品と割り切るんだね」
「はい、ありがとうございました!」
これはリコルも喜んでくれるだろう。この首飾りはあくまでも最終兵器の様なものだ。これを使わないで済むように頑張らないとだな。
◇◇
店を出た俺達は、ダルケンさんから頂いた防具を調整しているという防具屋へと向かった。どういう仕上がりになっているかは分からないが、新しい装備というだけで気分は高まっている。
「ここよ。見た目はパッとしないけど、昔ながらの職人気質な人が居たのよ」
「俺達の感覚からすると、一番信用できるタイプだよな」
さっそく店に入ると、奥の方から金槌で鉄を叩く音が響いてくる。
「すいませーん!!」
少し大きい声で呼ぶと、金槌の音が止まり……奥から髪だけでなく髭までもが白いのに、背は高くがっしりとした体格の職人が現れた。街で睨まれたらビビって逃げ出すレベルの風格がある。
「嬢ちゃんか……防具は坊主のだな? ちょっと来い、サイズは聞いているが最終調整だ」
「あ、はい!」
いつの間に俺のサイズを知っていたのかは、怖いからあえて聞かないでおこう。
奥の部屋に連れて行かれ、胸当て、籠手、臑当てに靴まで着せ替えさせられた。そして――その軽さに驚きを隠せなかった。
「な、何で!? 金属じゃないの?」
「なんだ坊主、この防具の素材を知らねーのか? これは……いや、話すと日が暮れちまうな。その嬢ちゃんにでも聞いてくれ。とにかく軽くて丈夫ってこった」
動きに支障は無い。何なら、靴のお陰で衝撃が緩和されて動きやすい。胸当てや籠手も、普通の弓なら何発でも弾けそうな気もする。
でも、気がかりなのは……ダルケンさんの装備はもっと多かった筈だ。ダルケンさんはフル装備だったからな。
「それで、こいつは残りの靴だ。素材が少しばかり足りなくて損耗の少ない所は他の素材で補完してある」
「なるほど。靴に加工して貰ったのか」
「えぇ、一縷君にヘルメットは視界をより妨げるだけで不要だし、動きにくくなる防具も必要無いでしょ? だから全員分の靴にして貰ったわ」
蹴りはよく使うもんね! 詩葉さんは。
でも、この靴の強度ならステータスに任せて思いっきり蹴れば、それだけで使える技になりそうだ。ありがとうダルケンさん。
「詩葉さん、代金は?」
「勿論、前払いしてあるわよ。お金を少しと、後は素材払いだけど」
便利なシステムだ。持ち込みしてるからすこしは安上がりなのかもしれないけど、それでも素材払いは冒険者の為だけのシステムと言ってもいいな。
「あぁ、良い素材をありがとよ。じゃ、大事に使えよ……冒険者には道具に過ぎないかもしれねーけどな」
「大事に使いますよ。大事な物ですから」
「さ、買い物の残りをして帰るわよ」
着せて貰った防具の上にローブを羽織り、防具屋を後にした。
防具の強度を確かめてみたいが、詩葉さんに胸元を殴られるのは嫌だし、他のメンバーじゃ試すには力が足りないだろう。
モンスターで試すのは危険だから無理だし……でも傷が無い防具は新米冒険者と思われそうで何か嫌な気持ちもある。
そんな葛藤をしながらも、結局は傷が無いのも強者の証と思い込むことで何とか自分なりに解決していた。
「すいません、あの肉を……」
今回も謎の肉を買っているが、どうやらこの買い物が最後の様で、俺達は皆が待つ宿へと戻って行った。
◇◇◇
宿の部屋で横になっているルフィスを座らせ、早速だがお土産を渡す事にした。
「聖女、ルフィス、リコル、この靴を履いてみてくれ。サイズは合っている筈だから」
「あ、何か動きやすい気がしますよっ!」
「かたーい! でも、かるーい!」
「ひんやりしてますね~」
相変わらずズレた感想を残している聖女をとりあえず置いておき、俺と詩葉さんは頷きあって、リコルを近くに呼び寄せた。
「リコル。リコルには特別にもう一つだけ、お土産があります!」
「ホントに!? やったぁ!」
それからの説明は詩葉さんに任せた。しっかりと言い聞かせたい時は、俺よりも詩葉さんからの方がしっかりと言葉を受け止めてくれるからだ。
「……だから、この首飾りはもしもの時だけ使うのよ。武器だけど、魔法の武器だから、扱い方を間違えると怪我をするのは使用者だけじゃないの。良いわね?」
「……うん! 詩葉姉やお兄ちゃんが贈ってくれた物だから、『良いよ』の言葉が無いのに使ったりしないよ!」
はぁ……他の同い年の子を持つ親とかに自慢してやりたいな。うちのリコルは賢くて可愛い天使ですよって。
でも、新しい物を手に入れた時にどうなるかは分かる。さっき防具を手に入れたばかりだから尚更に。リコルの為にもここは助け船を出すとしますか。
「詩葉さん、ダンジョンに潜ったら一回だけリコルに使わせよう。威力を知っておかないといざという時に……ね?」
「……大丈夫よ、私も同じ事を考えていたから。リコル、その時に発動させる言葉を教えるわ。でも、注意した様に首飾りをしているのに言葉を唱えるのは駄目よ?」
「うん! ありがとう、詩葉姉! お兄ちゃん!」
よし、短い休みではあったけど、俺達は明日またダンジョンに潜ろう……と、言葉に出さずとも理解しあった。
その流れで晩御飯にし、俺は自分の部屋へと戻ってきた。
手持ち無沙汰という訳でも無かったが、何気無しにステータスを覗いてみた。
━━━━━━━━━━━
イチル キリシマ Lv55
HP 1920/1920
MP 13800/13800
STR 130
VIT 111
DEX 117
AGI 132
INT 102
LUK 59
スキル
魔力制御 Lv3
槍術 Lv4
雷魔法 Lv2
変熱耐性 Lv1
柔術 Lv1
格闘術 Lv1
ユニークスキル
『消滅魔法』
称号
『消滅の勇者』
『救う者』
『幼女キラー』
『優柔不断』
『笑いの先駆者』
━━━━━━━━━━━
『笑いの先駆者』……また、変な称号が増えてしまった。
レベルは一つしか上がってないが、それは理解出来る。でも、ダジャレを言って称号が増えるのは、流石にどうかと思う。俺が増えてるという事は、きっと詩葉さんも増えてるだろうし、きっと自分から話題には出さないだろうな。
称号の方が先に見付けてしまったが、スキルが三つも増えている。『変熱耐性』『柔術』『格闘術』……ダンジョンに潜る前からやっていたのもあるが、スキルにまで昇華できたのは、より過酷な環境で訓練したのが良かったのかもしれない。
ちゃんとスキルとして認められるレベルになってて、それが何だか嬉しかった。
「よし、この調子で頑張るか」
俺は気合いを入れて、その日は眠りについた。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




