第29話 暑い方がまだマシだよ in 異世界
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
※すいません、サブタイが、『寒い方が……』となってましたが、『暑い方が……』です。内容的に。
朝、目を覚まして体調を確認し、朝食を食べに宿の食堂へと向かう。
不思議な事に、風邪を引くことも、頭痛になった事も未だに無い。これも恩恵なのだろうか。それならそれでありがたい恩恵だ。
「ふぁぁ~ぁ。何食おうかなぁ……つっても、余り朝からガッツリこいつみたいに食べれないけど」
「ふぃ? おはようございます、一縷さん! 駄目ですよ、朝はちゃんと食べないと!」
俺が最後に来た事でパーティーメンバーが集まったけど、朝からこんなに食べてる奴と同じだと……何だか思われたくなくて、ルフィスの反対側の席へと座り、珈琲的な飲み物だけを注文した。
「あの子の食べてる姿だけでお腹一杯よね」
「だな、聖女は朝は質素だから助かるけど」
ルフィスが食べ終えるのと、食べ終わって動ける様になるのを待って、俺達は一度部屋に戻り準備を整えた。
宿の前に集合して、ダンジョンへ向けて進む馬車に乗り、今日も魔王討伐の為の一歩を進み始めた。
◇◇◇
「今日の勇者様は二十三階層だぞー!」
「よし、急ごうぜ」
「だな。お前ら、一気に駆け抜けるぞ」
今日もダンジョン前は賑わいを見せていた。
勇者が封鎖する階層の情報を手に入れて、俺達もダンジョンに足を踏み入れる。
正直に言うならば、封鎖した場所に追い付いてしまえば……押し通りたい気持ちで一杯だ。遅い勇者が悪いしな。
「とりあえず十一階層までは私達も駆け抜けるわよ。弱い敵は無視するわ」
「了解。下へ進む坂の場所を見付けるのが時間掛かりそうだけど……迷ったらリコルと聖女の直感で進むか」
二人はこのパーティーでも運が良い方だからな。
俺や詩葉さんも悪い方では無いが、召喚に巻き込まれた時点でお察しである。
「せ、責任重大だぁ……」
「大丈夫ですよ~リコルさん。一縷さんが代わりに怒られてくれるのですから~」
誰も怒りはしなだろうと思いつつも、言い出したのは俺だし、怒られる時は仕方ない……。
「じゃあ、軽く走るから疲れたら言うんだぞー」
リコルと聖女に向けてそう言い、俺が先頭になって走り出した。
俺が考えた作戦は、普通に成功していた。リコルが後ろから右や左……と、進む方向を指示してくれた結果、十階層まではあっという間に辿り着いた。
モンスターと遭遇しても、数は少ないし弱いから簡単に倒して進めたのもまぁ、良かった。
「一縷君? 何をしているのかしら?」
「聖女と共に祈祷だ」
今日は髪をサイドテールにめかし込んだ詩葉さんに問われるまま答えたが、今は集中しなければ。
十階層のボスじゃ金の宝箱が出ない事も分かってはいる。けれども、この先、ボス部屋に行くときは毎回する事になるから、その練習を兼ねてやっている。
祈祷を終え、ボスをあっさりと倒したが……まぁ、予想通りに金の宝箱は出なかった。
だが、普段よりは良い素材がドロップした感はあった。気のせいかもしれないけど。
◇◇
ボス部屋から先に進み、次は問題の部屋だ。
俺達は指輪をしっかりと装着している事を確認して……熱々のドアノブへを手を掛けた。
「おぉ……おぉ!! 普通だ! 手がくっついたりしない」
「リコルも! ……おぉ! ホントだ!」
リコルもはしゃいでいるが、よく考えると前回触っていない筈である。
違いがわからないはずだが、可愛いからとりあえずオッケーだ。
リコルがそのままドアを開けてくれて、中に入る。
前回はこの空間の暑さも感じていたが、今は大丈夫。問題なく活動できる。
「よし……これで進めるな」
「ルフィス、あなたに注意しておくわ。分かってると思うけど、このエリアのモンスターには火魔法が効きにくい。だから、水、光をメインに使いなさい」
「えぇ!? 火魔法が一番得意なのに……」
詩葉さんからの新事実に驚いているルフィスだが、俺も驚いてる。
エリアによってはそういう縛りがあるのかと。
まぁ、俺が使えるの普通の魔法は雷魔法のみ。関係無い様にも思えるが、そういう事もあるのだと覚えておかないとな。
「まぁ、効きにくいと言っても最初は大丈夫じゃない?」
「でしょうけど、今から水魔法のレベルを上げとく事をオススメするわ。ルフィス、この階層からは貴女が先頭に立ちなさい」
「わ、分かりました!」
ルフィスが俺の前に立ち、その後ろに俺、更にその後ろに詩葉さん達という布陣で進んでいく。
この階層も同じ様に広い通路を進んで行くタイプだが、壁はうっすらと赤く、壁から火が飛び出るギミックを確認した。
火がおもいっきり噴き出す前に、何度かちょっとだけ噴き出るから、そこを気を付ければ問題は無さそうである。
「まぁ、上層だと罠もこんなものよ?」
と、遠回しに下層だともっとえげつない罠があると、詩葉さんから仄めかされたが、その時はその時にまた教えて貰えば大丈夫だろう。
通路を進むと奥から一匹の蜥蜴が姿を現した。
サイズは知っている物は段違いで、犬くらいのサイズはあるだろう。ゴツゴツしたオレンジ色の肌で、目がくりくりしている。
「何か、ちょっと可愛いモンスターだな」
「『水弾撃』!!」
「キュアッ……!!」
ルフィスが何の躊躇いもなく、魔法を繰り出し蜥蜴ちゃんを吹き飛ばす。
正しい。実に正しい行動であるが、もしかしたら仲間になりたそうにこっちを見ていたのかもしれない。そう思うと、少しだけ可哀想に思えてくる。
「よし! 私の水魔法でも通用しそうですね! ジャンジャン行きますよー!」
「……頑張れ、ルフィス」
詩葉さんに聞く所によると、ダンジョンのモンスターはいくら調教師だとしても懐く事は無いらしい。あの蜥蜴も普通に火を吐いて攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターだという話だ。
ルフィスのレベルが今、どのくらいになっているかは分からないが、まだこの辺りの階層程度なら大丈夫そうだ。
本人が言っている通りにどんどん進み、十二、十三階層も楽々と突破して、今は十四階層まで降りてきていた。
「火蠍、火蛞蝓、火狼……遠距離攻撃してくるタイプが多いな」
「任せてください! 先手必勝で、やっつけちゃいますよ!」
動きの遅い火蛞蝓はともかく、火蠍と火狼は壁を使ったりする為、中々に動きは早い。魔法を外せば一気に詰め寄られる可能性はある。
俺は近寄られても槍で対処が可能だが、ルフィスはまだ杖の扱いがそこまで上手くは無い。
「念のために火狼の時は準備しておくか……。ルフィス、思いきってやっちまえ!」
「はいですっ!」
火魔法ほど扱いの上手くは無い水魔法をたまに外す事もあったが、ピンチに陥る事はなかった。ルフィスもそこら辺の対処が落ち着いて出来る様にいつの間にか成長していた。
「そろそろ休憩しましょうかね」
「そだな。おーい、ルフィス! そろそろ休憩だってさ!」
最後の一匹を倒したルフィスが戻って来て、俺達は通路の行き止まりを探してそこで休憩を取ることにした。
今は結構良いペースで来ているし、このまま進んで今日の内に行ける所まで行っておく予定だ。
「指輪をさ、取ると暑く感じるだろ? 着けると感じないだろ? これって……どういう原理?」
「一縷君。例えばだけど……外に居て、そこから冷凍庫やサウナに入ったら寒かったり暑かったりするわよね?」
温度差を体で感じ取り、その結果、凍えたり汗を掻いたりして、脳に知らせてくれる……って理論だな。たしか。詳しくは違うのかも知れないけど。
「じゃあ、サウナからサウナへと移動したらどうかしら? 体は新しく暑く感じるかしら? つまり――この指輪の力で、この暑さが暑くないと認識しているに過ぎないのよ。魔法って不思議よね」
「分かった様な分からなかった様な……。魔法って不思議だな」
まぁ、便利ならそれで良いと割り切って、俺達は温いフルーツに温い干し肉を食べた。マジックバックから取り出した時はそんな事は無かったが、少し時間が経つと……温くなってしまっていた。
指輪が無いと色々と厄介なエリアだと、特に食べ物関係にうるさい二人が食料について真剣に考えていた。
料理を作るのは詩葉さんとリコルだ。つまり、この二人が悩んでいるのは、食べる際の事である。
温くならない為にどうすれば良いか考えているが、出来立てなら冷たくは無いし、心配なんて何もないのに……真剣だ。特に聖女はそのやる気を普段に回して欲しいと思うね。
◇◇◇
休憩を終えて再び出発し始めた。
今の所はルフィスが頑張ってくれているからとても楽を出来ていた。勇者達もまだ降りて来ていないみたいだし……このまま勇者達の目的地より先へ、逃げ切る事も可能かもしれない。それに……。
「詩葉さん、ペースあげない? 勇者達の目的地より先に」
「却下よ」
そ、即答だ……。何故だろうか? 別に変な事は言っていないつもりだけど、即答される様な事なのだろうか?
「な、なんで?」
「ダンジョンで焦ったら簡単に死ぬの。一縷君、“何で”ペースを上げたいのかしら?」
それは――。駄目か、駄目だな。詩葉さんには見透かされている。
勇者なんて正直、どうでもいい。本当は……早くボスを倒してレンズが欲しかっただけだ。
そりゃ、即答されるわな。焦ったら死ぬ……か。
「急がば回れ、急がば回れ……か。ごめん」
「分かったならそれで良いわよ。大丈夫、ちゃんと一縷君の為に時間は取るから。ね?」
俺はもう、焦るのをやめようと思った。
それは、ちゃんと考えてくれている詩葉さんを信じてないという事だから。
俺はもう一度だけ詩葉さんに謝って、持ち場へと戻った。ルフィスが疲れたら交代するために。
◇◇
ダンジョンをたまに道を間違える事もあったが、急いでいない割りに、他の冒険者よりは早いペースで進めているだろう。
指輪さえ着けていれば、火属性のモンスターがいるだけのエリアでしかなく、問題は特には無かった。
他のダンジョンだが、踏破している俺達にとっては、レベル的にも問題はない。問題が出るとしたら、四十階層以降だろう。
前のダンジョンは四十階で最後だったが、こよダンジョンは五十階層。未知の領域ではあるが、そこを越えれば更に強くなれると、少しだけワクワクもしていた。
「ここを進むと次はボス部屋か……聖女と祈祷をするとして、ルフィス、一緒に戦うか?」
「最初は一人でやってみます! でも……危なかったら助けてくださいね?」
エリア続きだとすると、火属性のボスだろう。
ルフィスはやる気を見せているが、ボスというのは、大抵は厄介なモンスターだ。危なかったら手助け出来る様に準備をしておかないと。
ボス部屋の前にやって来ると、すかさず俺は聖女と共に祈祷する。
聖女はパーティーの安全を祈ってくれているが、俺は自分の事だ。何だが聖女の祈りが眩しすぎて自分のが少し駄目に感じるが……気のせいだと信じたい。
「よし……まだか。お願いしますお願いしますお願いします……」
思ったより聖女の祈祷が長くて少し焦った。追加で頼み込んだが、効果は無いかもしれない……我欲が強すぎるかな?
「はい~ルフィスさん、頑張ってくださいね~」
「任せてください! じゃあ……行きますよっ!」
二十階層の扉を開くと、そこはだだっ広い部屋で、奥まで見通せる。
「あれ? 居ませんね……そんな事ってあります?」
「いや、今までは無い……よな?」
奥まで見通せる。真っ直ぐに。障害物もモンスターも何も無いからだ。
だが、今まではドアを開くとモンスターは居て、少し近付くと戦闘が始まる仕様だった。
「お兄ちゃん! ルフィス姉! 上! うぇぇぇ!!」
「「ん? ……んんっ!?」」
背の低いリコルだから、少し見上げて気付けたのかもしれない。
俺達が上を見上げると、天井にへばりついている……大蜘蛛が、その目をギラつかせてこちらを見下ろしていた。
『キシャアアァァァ!!!』
「ルフィス、戦闘準備を! 気を付けろよ!」
「はい! まずは引き寄せます。『水弾撃』」
俺達よりも、全長ははるかに大きい蜘蛛が天井から落ちて、俺達の前に立ちはだかった。奇声を上げると共に、口から火を噴き出している所をみると、火蜘蛛をかなりデカくしたモンスターとみて良いだろう。
このサイズで動き回られると流石に怖さがある。糸という厄介な技に捕まると、そのまま焼かれてしまう。魔法を使えない人からすれば、倒すのが大変なモンスターと言って良いだろう。
「『水連撃』! 『水呀斬弾』!!」
『シャアァァアァァァ……!!』
ルフィスは二種類の水魔法を使い分けていた。
相手を弾くように放つ魔法と、鋭い刃の様に放ち、足を断ち切る魔法だ。
それを上手く使い分け、時には光魔法の牽制も使い、常に先手を取っていた。
「走りながら魔法も放てているし、止まらずに戦えている……俺の手助けは要らなそうだ」
「そうね。最初に比べると……あの子も強くなっているわね」
「ルフィス姉、頑張って!」
「凄いですね~ルフィスさん。怖くて私には無理ですよ~」
大蜘蛛が吐く糸は避けるか、杖で防ぎ、その時は魔法で糸を断ち切っている。
「『目潰し』……くらえっ! 『水突山』!!」
『キシャアアァァァ……ァァァ……』
光で視界を奪い、下からの水魔法でその胴体を貫き……大蜘蛛は倒れて動かなくなった。
ルフィスの完全勝利だ。
「ふぅ……ふぅ……。やりましたっ! 蜘蛛さん、私の勝ちですっ!」
ルフィスが杖を掲げて倒れた大蜘蛛に向けて宣言をした。まるで、戦乙女の様な場面であるが、冒険者にはそんな感傷に浸っている時間はそんなに無い。
リコルはここからは自分の仕事だと、素材を剥ぎ取りに動く。詩葉さんはそんなリコルに蜘蛛の素材について教える為に一緒に動き、聖女は勝利の報告と感謝を祈り始める。
自動的に、手持ちぶさたの俺が感傷に浸っているルフィスを褒める係りとなる訳だ。まぁ、自発的に動いているだけだが。
「おめでとうルフィス。見ていたけど……俺もお前も成長したな」
「はいっ! 一縷さんは私より成長が早くて、置いてかれそうで、いつも不安だったんです……。でも、こうして傷一つ無く倒せる様になって……少しは追い付けたかなって、嬉しいんです! えへへ……」
そうハニカミながら言うルフィスの頭を撫でる。
言葉で言うよりも、こっちの方が今は伝わりそうな気がしたからだ。
こっそりと杖に付着している糸や、ローブに着いた蜘蛛の体液を消してあげたのはちょっとした手助けだ。
「お兄ちゃん、はい! これあげる! 詩葉姉から」
「ん? 何か……な……何これ! バッチぃ!!」
リコルが笑顔で手渡して来たのは赤い瞳。大蜘蛛の小さいサイズの目の一つだった。
詩葉さんからの嫌がらせ。絶対にわざとやっているのは分かるが、ルフィスの頭を撫でただけでコレは少しやり過ぎである。
俺がそう思う事を込みでやっているから質が悪い……。
「壁で潰れた目とか……リコル。俺が可哀想になるから次からやっちゃ駄目だよ?」
「私は運んだだけだもん! 詩葉姉だもん!」
それもそうだな……リコルは運んだだけ。頭を撫でておこう。
「へへ~っ!」
「はははぁ~……は……っ!?」
ピチュン。
俺の後方にある壁でそんな音がした。
ついさっきも聞いたような、何かが潰れるような音。
俺は振り返る事はしないで、ソッと詩葉さんに近付いて二、三回ほど軽く撫でておく。ついでに、祈祷が終わったばかりの聖女も撫でる。
平等。これで平等の筈である。
「よし……これ……で?」
ピチュン。
怖い。何が怖いって、視認出来ないのに後方で何かが潰れた音がするのが一番怖い。
「今のは照れ隠しよ」
「詩葉さん? そろそろ冗談にならないからね!? 怖いからね!?」
照れ隠しの為に目玉が無くなってしまった大蜘蛛が可哀想である。今度からは、何にせよ口で言って貰う様にしよう。やり方が冗談でも怖すぎるからな。
『ルフィスだけ、頭を撫でるなんてズルいわよ! 私だって! 嫉妬するわっ! プンプン!』
うん、俺の予想通りならこうなる筈だ。これなら全然可愛いと思う。やっぱり、目玉を投げるのは良くないね。
「さ、一縷君をからかうのにも満足したし。そろそろ行くわよ」
「次はどんな階層ですかねぇ~! また、私が先頭ですよ!」
「ルフィスは少し休憩な。魔力が回復するまでは俺が先頭に立つからな」
「……よっこらせ。聖女様! 手、繋ご!」
「良いですよ~これなら、ダンジョンも怖くないですね~」
残念ながら、宝箱は出なかった。
だがまぁ、ルフィスの頑張りをみれただけ良しとしておこう。
――俺達は先へと進んだ。そこにあった扉へと手を掛け開ける。
「うん……ちょっと指輪を外して…………さっむぅぅぅ!!」
「どれどれぇ……うひぃぃぃぃ~」
ルフィスもこの感じを味わったのか。
暑いとは真逆。我慢できない程じゃない。程じゃないが……これだと上手く力が入ってない気がする。
暑いと寒い。このレベルだとして、どちらがマシかと聞かれたら……きっと暑いがマシだろう。
暑いなら服を脱ぐ、水分を取る事で戦いに支障は無いだろう。が、寒いはアレだ……着ると動きにくい、手は悴む、体調を崩しそうと、冒険者に取っては良くない事ばかりだ。
「指輪が無かった時はどうしてたんだろうな……」
「気合いよ」
気合かぁ。そう言えばうちのパーティーに居ましたね……。このダンジョンじゃないにしても、暑いエリアとか寒いエリアとか旅しただろう人が。
俺は気合いと聞いて、指輪を外してすぐ嵌め直す。
でも、詩葉さんの指を見て、俺は指輪を外していく事にした。
何の為にラッカーラに行ったのかと考えてしまうが、リコル達の為と思うことにしよう。
この寒さでも、動いていれば熱くなってくるだろうし……とりあえず、手は今の内に動かして暖めておかないと。
「よっしゃ! 行きますぜー!」
少し駆け足で、ダンジョンを進んでいく。
◇◇◇
『キュルルゥ……ブゥゥッ!!』
「遅い!! ハァァ!!」
この階層に居たのは、真っ白な雪山を飛び回っていそうな真っ白な怪鳥。
攻撃のタイプは主に息吹。それ以外は飛行している。だが、接近さえすれば俺も跳んで槍で攻撃出来る範囲にしか飛んでいない。要は敵じゃないって事だ。
ただ……風を起こされると、肌を冷気が突き刺してくる。それが一番辛い攻撃技だった。
せっかく温まった体が一気に冷えるし、動きが小さくなってしまう。
「ふぅ、このエリアもなるべく早くは抜けたいかなぁ~」
「そうですね。指輪さえ着けていれば普通のダンジョンと大して変わらないですし……」
「冒険者の質が下がっている理由の一端が分かったわね。リコルと聖女はともかく、私としてはルフィスも指輪は使って欲しく無いのだけど?」
ルフィスが小さな悲鳴の様なものを上げて、詩葉さんに泣きついている。
お腹を冷やすのは良くない派と、慣れ派の戦いだが、実際に慣れてしまっている人の意見が強すぎて、戦いにすらなっていなかった。
結局は詩葉さんが折れる事で話は終着点を迎えたが、次なる問題が出てきた。
これは俺の中での話に過ぎない。
――寝るときはどうしよう。それが頭を掠めていた。
おそらく、時間的にも今日はこの階層で泊まりになるだろう。この寒い中、指輪を着けずに寝たらどうなるのか……寝ている間に死んでいた。なんて事になっていたら笑えない。
妥協するか、耐えるか……。
寝るときになって考えればいいのだが……ここで一度着けてしまうと、この先も自分に甘くなりそうで怖い。結局、寝る寸前まで躊躇いそうだ……と、今考えている自分がいる。
「そう言えば、勇者達に抜かれなかったわね……それとも、昨日から潜って既に二十三階層に居るというパターンかしら?」
「あっ……そういうパターンもあるのか。だとしたら明日が面倒だな。帰るまで通れないとかなると厄介な事になりそうだし」
考える事が増えていくな……。モンスターが今はまだ弱いから余裕はあるが、強くなって考え事も多くなるとパニックになりそうだ。
俺は、今日はもう寝場所を探しに行こうと提案した。
十分に進んだし、このペースは少し落ちるとしても、まだ下層までは楽にいけるだろう。それだけの力がこのパーティーにはあるからな。
雪の怪鳥を倒しながら進み、行き止まり地点を発見した。
いつも通りに詩葉さんが土魔法で壁を作ってくれるのだが、少し青みのあるこのエリアの壁と色が違っていた。
見る人が見れば、何かあると諸に分かる。鳥のモンスターが分かるかは分からないが、違和感を感じて攻撃してくるかもしれない。
「どうしようか……」
「別に、強度を高めに作っておけば問題無いでしょ? 仮に冒険者や勇者が来たとしてもこちらの準備が整うまでは耐えるでしょうし」
詩葉さんが、自信満々に言う壁を軽く叩いてみても、確かに強度の高さを感じる。あと他の壁と違い、冷たく無い。
「冷たくない……!?」
「どうしたんです? 大きな声をだして?」
おそらく、壁や地面から冷気を出しているから寒いエリアになっている。と、そう仮定すれば、四方を詩葉さんの作る壁で囲い、地面をも土でカバーすればもしかすると……いけるのではないだろうか?
「詩葉さん! 妙案が! この壁を四方に……」
「却下よ、一縷君」
一刀両断。だが、仕方ない。却下には却下の理由があると、学んだから受け入れよう。
反論とは、違うが、せめて理由くらいは知っておきたい。
「分かった……分かったけど、理由を教えて貰える?」
「どっちにしろ少し隙間は開けるのだからあまり意味は無いと判断するのと、時間の問題で……すぐにヒンヤリとするわよ?」
何だ……そうか。冷気は遮れても、今度は遮ってる壁自体が冷たくなってくるのか。
さて、なら晩御飯が出来るまで……寝る時にどうするか考えますかね。
◇◇◇
「早く! 一縷さん! そのペースじゃ、せっかくの料理が冷めちゃいますよ!?」
「くそっ! 温まりたい! だが、猫舌の俺にはまだ数秒早い。そして……ヌルい。温め直してください……」
料理が完成して、熱々のスープと肉料理が出て来たが、スープに苦戦してる間に肉が冷め、肉料理を食べ始めたらスープが冷めるという循環を繰り返していた。
一つずつ食べれば良いと気付いたのはスープを飲み干した後。仕方なく、肉料理だけ再加熱して貰い、体温を上昇させた。
さて、ここからはここからでやる事がある。詩葉さんとの訓練だ。体術というか総合格闘技というか……とにかく素手での戦闘訓練である。
この訓練をし始めた頃は、受け身。受け身、受け身、受け身。と、受け身の練習ばかりしていた。
今はようやく合格点を貰い、受け身を脱出して他の練習をしていた。
「掴んだら……躊躇い無く投げる!!」
「……ぐぇっ」
「「「おぉ~」」」
リコル達に見せる為と、色々な投げ方の相手役になっていた。
俺だけ脱出してなかった感はあるが、誰かがこの役にならなければならないのなら、俺になるのは仕方ない事なのは分かっている。
「リコルはまだ、体格が小さいから難しいかもしれないわね。でも、リコルの身長や力でも出来ることはあるから、それを教えるわね。聖女とルフィスはペアでやってみて。実際に投げなくても良いけど、それは二人で決めなさい。一縷君は……私とリコルの相手をして、終わったら殴り“愛”よ」
「殴り合い……だよね? 何か一部、強調して言わなかった? て言うか、殴り合い……」
物騒以外の言葉が見付からない単語が飛びだしてビビるのだが、ルフィスは聖女を投げて良いのか迷っている様子だ。
まぁ、向こうは二人でやるだろうし、俺はリコルの練習相手になるとしよう。
「そこで手をしゃがんで避ける!」
「そこで手をしゃがんで避けるー!」
詩葉さんの声をリピートさせながらリコルが動く。今は正面から悪漢が襲ってきた呈だ。
「踏ん張って相手の顎を狙って掌底!」
「踏ん張って相手の顎を狙って掌底ー!」
って……危なっかしぃ!!
ギリギリで顔を引けたからリコルの手の届く範囲外に逃げ切れた。リコルの腕力とはいえ、普通の女の子よりは強くなってる筈で、急所を狙われたら一溜まりもない。
「空いた鳩尾にまた、掌底!」
「空いた鳩尾にまた、掌底ー!」
「うぐっ……。息が……詰まる……はぁ……ふっ」
リコルがこの動きや他の技もマスター出来れば、複数は厳しいとしても一人ならば、女の子と油断している不埒者はやられるだろう。普通に痛い。
ここから男の最大の急所にだめ押しでもされれば文句無しのノックダウンになる。
それは、後で密かに詩葉さんが教えるだろう。今、教えたりしたら何かと死ぬ。俺の何かが何かと死ぬ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「良い一撃だったよ、リコル。でも、ほら……お兄ちゃんみたいにまだ動ける相手や、そもそも手練れには逆効果になる事もあるからね? 使いどころは間違っちゃ駄目だよ?」
リコルが悪漢に拐われる。もしくは、何かの罠に嵌まって人質にされるなんて事になれば、俺と詩葉さんが全力で対処する事になる。それは間違いない。
だから、リコルが体術を使う事があるとすれば、もっと成長して、自分一人で買い物とかに出掛ける様になってからだろう。
「うん!」
「ま、早すぎる事はないか。リコル、後で詩葉さんに男の弱点を習いなね。そこを攻撃しまくれば大丈夫だから」
リコルは、そんな場所が!? と、驚いていた。
何処なのかと聞かれても、俺にはそれ以上先を伝える事はアウトなので言えない……アウトになるから。
「リコルは、とりあえず腕立てと腹筋と背筋としゃがんで立つを……十回ずつやっておきなさい。バランス良くよ。一縷君、お手本を」
「そっか……背筋とか言われてもピンとこないよな。リコル、今からやるから見てて……って、詩葉さん。子供の頃の筋トレって成長に影響あるって聞いたことあるけど、マジ?」
何か、根拠とかは知らないけど身長が伸びなくなる……とかなんとか。リコルは女の子だが、身長は高くなりたいと思ってるかもしれない。良いのだろうか?
「あぁ……それね。ある程度の運動はむしろ、成長を促進させるのよ? やり過ぎで軟骨にダメージがいったり、間違った鍛え方をすると一縷君の懸念通りになるみたいだけど。まぁ、大丈夫よ。遺伝って説もあるしね」
「十回を数セットくらいなら大丈夫ってわけね。じゃあ、やって見せるよ」
「うん!」
リコルにやり方を見せ、頑張ってやり始めたのを少しだけ見守った後は、俺の訓練へと入った。
相手に簡単に掴ませない、掴まれてもすぐ対処する練習として、二人で向かい合って両手を掴み合った。
条件は、一秒以上一方的に捕まれた方の負けというルールだ。
捕まれたら捻って剥がすか、逆に掴み返すか。ゲーム感覚で楽しそうと思いきや、そんな感覚は許される事は無く……殺伐としたまま本気でやり合った。
「はっ……くっ……!!」
「掴みが甘いわ。何処を掴むのが効果的か、相手の手をどう避けるか考えなさい。これは、まだ訓練の入り口よ。殴り“愛”の訓練が早くできるまで頑張りなさい」
スパルタ式は相変わらず。だが、確実に強くなれる方法だ。
つまり俺は、ひたすら頑張れば良い。厳しいがやる事そのものは簡単な事だ。
「頑張りま……あっ」
「はい、一秒。さ、またやるわよ」
訓練は寝る少し前まで続いた。
意外な事に、聖女がルフィスを何度も投げ技で地面に転がしていたらしい。ルフィスは聖女を投げるくらいなら、投げられた方がマシと言っていた。崇拝してるもんな、聖女を。
なんだかんだ言っても、人は環境に適応する生き物で、寒さにも慣れてきた。指輪を着けずに寝ることを選んだが、流石に寝袋だけじゃ寒い。リコルを抱き枕と暖房の代わりにする予定というか、作戦があったのだが……詩葉さんとルフィスに止められて阻止されてしまった。
「ちゃんと目が覚めますように……」
そんな事を思いながら、詩葉さんとした訓練で味わった今日イチの疲れを癒すかの様に、俺は眠りについた。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(と、一応言っておく)
お時間が有りましたら、マイページから短編や他の作品の方もよろしくお願いします!(宣伝)
※あ、何か自分で色々と誤字を見付けました……すぃません
他に何かあれば、よろしくお願いします……




