第28話 お婆ちゃんが美女だよ in 異世界
いつもより早く書き上がったですけど、いつもより1000字くらい少ない9000字ちょっとです!
よろしくお願いします!(´ω`)
行きはよいよい帰りは怖い。それとはまた違うのかもしれないが、せっかく作ったトランプも俺と詩葉さんに至っては飽きていた。何の変哲もない木製のトランプで、仕方ないとはいえ、ハートのクイーンさんがお亡くなりになられた。俺と詩葉さんを除く三人は、ジョーカーを代用にして楽しんでいるが……やはり硬めの紙製かプラスチックじゃないと駄目だと感じていた。
「木製じゃマジックもしづらいしなぁ~」
「あぁ……一縷君? その、この世界じゃマジックは流行らないわよ? というか、誰も驚かないわね。種も仕掛けも魔法があるのだから」
そうか……トランプは流行ると思ったが、商業化するのは厳しそうだな。たしかに、ババ抜きやら大富豪とかそれを楽しむくらいなら良いかもしれないけど……量産も面倒だし。こういうのは身内で楽しむくらいが良いのかもしれないな。
また機会があれば別のを作ってみるか……チェスや将棋なら作戦戦略侵略侵攻が好き? な、この世界の人にはハマるかもしれない。
ラッカーラを出立してからボルトン帝国へ残り半分という所、今日の読書も終わらせたし、暇をしていた。聖女が居るお陰で魔物は近寄ってこない。となると、やることは限られて来る。
「寝ておくか」
「えぇー? 一縷さんもトランプやりましょうよぉ~。あと、誰ですか!? さっきからダイヤの三を止めているのは!」
「うふふ~」
七並べかな? まぁ、遊びは色々と教えたし……三人で上手く楽しんでくれ。俺は少しだけ日差しが強い中、目を閉じて体を休めることにした。
◇◇◇
昼間は移動、夜は少しの訓練と見張り。それを繰り返して約一週間。ようやくボルトン帝国に帰って来れた。
戻って来て最初にする事は宿の確保だが、ここでは何とか前に泊まっていた宿にまた泊まる事ができた。今回は少し長めに宿の代金を先払いし、ダンジョンに潜ってる間も部屋を取っておいて貰う方針だ。このダンジョンは前よりも深そうだし、出来る限りのスピードで行くが……それでも時間は掛かってしまうだろう。
「明日から潜るのだから、体調を崩さないようにするのよ。私は明日の買い物とかギルドに行ってくるけど……」
「私は宿で休んでますぅ~」
「少し疲れちゃった……」
戻って来たばかりだもんな。その気持ちは分かる。聖女に至っては既に寝ているしな。
「荷物持ちなら俺がするよ」
マジックバッグがあるから荷物持ちとか本来は必要無いのだが、たまには二人で買い物に行くのも良いだろうと思ってだ。それに……俺が買い物の担当になる事はほとんど無いが、どういう値切り方をするのかとか、野菜の名前を覚えたりするのは、何となくだがやっておいた方が良いと思ってだ。
「では、行きましょうか。一縷君、ギルドで絡まれないでよ?」
「うーん……それはお互い様なんだよなぁ。どちらかと言うと女性の方が絡まれるだろうに」
宿に残る組に一声掛けて、俺と詩葉さんは街へと向かった。
◇◇
「ピーマヌとレタヌ……それにニヌジヌを頂くわ」
「はいよっ! こんなに沢山、ありがとね。冒険者かい? それとも、夫婦で買い物かい? いいねぇ~うちの旦那なんて飲んでばっかり……やんなっちゃうよ」
詩葉さんが八百屋的な店のオバちゃんと会話をしているが、それよりも……だ。今かった野菜もそうだが、文字を少しは読めるようになったから分かるが、やたらと『ヌ』が多い。
別に、それがこの世界の常識なのだから駄目と言うわけでは無いが、見た目は似てるのに『トマト』ではなく『トヌト』で、あったり……今は違和感しか感じない。
オバちゃんとの会話が終わったのか、布の袋に野菜を入れた詩葉さんがそれを俺に渡し、次の店に向けて歩き出した。
「次は……お肉ね」
「肉……いつもの謎のお肉でしょ? 美味いけど……うん、俺は店の外で反対側を向いてるから」
知りたく無かった。それを知ってしまえばもう、食べることが不可能になりそうな気がしたからだ。怖いもの見たさで、気になると言えば気になるが……それよりも、食べられなくなる方がよっぽどだからな。ここは堪えて待つとしよう。
「別に変なお肉では無いわよ? 安くてそこそこ味も良いだけで……」
「安いには秘密があるって知ってる! 豆腐の水増し然り、消費期限が近い物だったり……」
これくらいの秘密なら別段気にはしないが、肉の安い理由はちょっと方向性が違う気がするからな。世の中、知らない方が良いこともあるという事ですね。
「じゃあ、急いで買ってくるわ。そしたら一度ギルドにでも行きましょうか」
「了解」
おそらく、いつもの様に少し大きめの葉っぱに包んだお肉が入っている布の袋を持って、口には肉を干して乾燥させたヤツを含んでいる詩葉さんが戻って来た。
「お待たせ、はい半分こ」
「どーも」
半分に噛みきった肉を貰い、俺達はギルドに向けて歩き出した。ギルドで何をするかは知らないけど……おそらくは情報収集とかだろう。干肉……中々クセになりそうだ。
◇◇◇
「お嬢ちゃんよ、この前はこの俺に何かしてくれたよなぁ?」
「知らないわ。あなたが情報を教えてくれただけじゃない? 私が何かしたという証拠でもあるのかしら?」
別に驚きはしない。どこかでこうなる事は最初から分かっていた事である。だから気にするのは相手の人数や、場所について。
幸いにもここはギルドの中。この中で手をだしたら色々と面倒だろうし、口論以上にはならないだろう……。が、闇討ち的なのはあるだろうなぁ。
「この俺が報酬も無しに情報を教えるとでも……思ってんのか!? あぁっ!?」
「報酬ならあったじゃない? この私の座っていたテーブル席に座って来て話せた。十分でしょ? 言い掛かりはやめて欲しいのだけど……何か言いたいなら、後ろに居る男じゃなくて証拠を持って来なさい?」
詩葉さんが最初にギルドで情報を集めに来た時、犠牲になったのがこの目の前の男な感じか。話を聞けば、勝手にこの男から近付いて来たわけだから同情とかは特に無いかなぁ。
そりゃ、詩葉さんに目を付けられたのだとしたら多少の同情はあるけど。というか、自分が情報屋って事を言っても良いものなのか? 普通は隠すものだと思うけど……周知の事実なのだろうか。だとしたら、そこそこ有名な男という事になるが。
「くそっ、口が達者な女だ。ここじゃ、流石に手出しはしねーが……外に居る時、背後に……」
「おい! 脅す様な事は止めておけ、これは忠告だ。お前は自分が死ぬなんて思っても無いから言えるのかも知れないが、俺達は狙われたらお前を潰すぞ? お互いにもう関わらない方向で手を打とう。良いか? 良いな!?」
忠告してしまった。まぁ、でも……こうでも言っておかないと、この世界の人達はすぐに相手をボコボコにしたがる。その上、自分が負けるとは考えてない。
むやみに喧嘩をする奴は、駄目だ。きっと山賊や海賊、盗賊だって一銭にもならない無駄な争いはしないだろう。
――こういう忠告をされれば、引けなくなるという事は分かっていた。だから、俺は詩葉さんを連れて、先にこの場を離れようとしたのだ。
「じゃ、そういう……」
「おい……俺のギルドでうるせぇ奴はどいつだ?」
ギルドの出入口へ振り返った所で、そこに大柄の厳つい男が仁王立ちしていた。迫力があるというのはこういう事なのだろう。二メートルは無さそうだが、一九〇センチは越えてそうだ……それに、腕の筋肉も凄い。
そんな人が目の前に現れて問い掛けて来た。なら、詩葉さんはともかく、俺が次に取る行動が決定されるのも仕方ないだろう。
「この男達が騒いでました! 酔っ払ってるのかもしれません」
「は、はぁ!? 俺は酔っ払っへ……へろきひまたあはぁ……」
情報屋の呂律が急に悪くなり、顔も紅くなっている。詩葉さんの良い笑顔。何が起きたのかは、それでだいたいは理解できた。そんな魔法まで持っている事に恐れを抱くが、やはり頼りになる人だ。
「ちっ、上の酒場で酔っ払っても良いが下で騒ぐのは許せんな……おい! こいつらを裏口から外へ運んでおけ!」
「はいっ!」
情報屋の後ろにいた威嚇用の男達も呂律が回らない様で反論らしい反論が出てこないまま……ギルドの裏手の方へ連れていかれた。他にもギルド内に人は居るが、わざわざ厄介事に首を突っ込んでくるお節介は居ないみたいだ。今は助かるけど。
「俺のギルドって言っていたけど……貴方がここのギルド長なのかしら?」
「あぁ、そうだ。お前ら……他の所から来た奴か? ここは強い事が正義。クエストの難易度は高いぞ? 自信の無い奴は他に行くんだな」
へぇ……どの人も良い装備っぽいし、強そう……かは分からないが、そんな雰囲気を感じるのはそういう事か。
「まぁ、クエスト自体は他より難易度が高そうだけど……オーガを一人で倒したらBランクなんて基準だもの、たかが知れてるわよ? ギルド長はそう思わないのかしら?」
「あんたとは気が合うかもな。俺は言ってるんだがなぁ……もっと冒険者ランクの基準を厳しくしろってな。だが、上にいけなくて諦める奴が増えると困るだとかなんとか……意味がわからねぇ」
別にCランクくらいになったら生活には困らないだろうし、全体のレベルを下げるんじゃなくて、Cから上は厳しくなるスタイルとか取れば良いのに。まぁ、Fランクの俺が言っても仕方ないけど。
「私達はダンジョンに潜れればそれでいいから、クエストなんて受けて無いし、どうでも良いのだけどね」
「良いクエストの報酬はダンジョンに潜るより稼げるぞ?」
だがその分、色々と縛りが出てきてしまう。それは避けたいし、何よりダンジョンの方がモンスターと鍛えるには良いからな。普通に鍛える事に関して言えば詩葉さんとの特訓が一番だろう。
「そこまで、お金に困ってないもの。ギルドに立ち寄るのも、クエストを見て何が起こってるのか確認する為ぐらいなものですし。あと、換金ね」
そう言って、詩葉さんは受付嬢のいる所へ颯爽と歩いて行った。つまり、次に強面のおっさんが目を付けたのはこの俺である。正直、押し付けられた感もするが、換金に来たのは本当だし……何も言えねぇ。
「坊主……あの嬢ちゃんはいったい何者だ? 俺の勘が敵対するなと叫んでる気がするんだが? 坊主……あの嬢ちゃん程じゃねーが、Aランクはありそうだしよ」
「クエスト受けて無いんでFランクですけどね。あと、別に普通の冒険者ですよ? ダンジョンで鍛えてるタイプの」
ギルド長は訝しげな眼差しを向けてくるが、自分の情報を簡単に流出はしない。それは鉄則だ。まぁ、言った所でどうという訳では無いけど、変なやつに目を付けられるのは勘弁だな。このギルド長みたいな感じに。
「まぁ、何でもいいさ。この国では強い奴が正義となる。強さと言っても、学問、芸術、話術、……細かければ言えば色々とあるが、上に立てばそれでいい。冒険者なら全部を鍛えねーといけないがな」
「まぁ、自分の主張を聞いて貰える程度には強くなりますよ。なるべく早く」
この強面ギルド長も今の立場になるために、相当鍛えたのだろう。だからこそ、言葉にも重みがある。この国じゃ、強さが必要なのか。それは分かったけど、それを笠に着て威張り散らす様な輩にはならないように気を付けよう……。
◇◇
換金の終わった詩葉さんと、もう今日は用の無いギルドをあとにして、どこかへと向かっていた。どこに向かっているのかと聞いても、返事は着いてからのお楽しみというもので、場所は教えて貰えてない。まぁ、それは別に良いんだが……そろそろ帰らないと日も沈みそうだ。
宿を出たのがお昼を過ぎてからだいぶ経った後だったしな。
「着いたわ。ここよ」
「えっと? かこ……う……や? 加工屋?」
加工……鍛冶師とはまた違う……か。鍛冶師は剣を作り出すとすれば、加工屋はその出来た物を加工するって事だろうし。だが、それは俺の発想でしかないから、この世界は別のを職業かもしれない。何か、新しい事を知るってワクワクしてくるな。早速行きますか。
店の外観は少し古びた一軒家。だが、その中は――。
「宝……石? 加工……なるほど。本当に加工する店か……」
「何をガッカリしているのかは知らないけど、この首飾りも指輪もブレスレットもイヤリングも……全部マジックアイテムよ?」
うぉ……マジ! マジか!? マジですとぉー!!?
一人、少しふざけて心でそんな叫びをしているが、驚いてるのは本当だ。マジックアイテムと言えば、今俺達も指に着けているコレと同じという奴だ。前にリコルが着ているヤツとかとも一緒で、身に付けるだけで強化されるという代物。
「でも、詩葉さんがこういう店に来るのは意外……かな? こういうアイテムは使わない方針だと思ってたよ」
「えぇ、勿論。一縷君に使わせる訳無いでしょ? この前手に入れた魔族の魔石だけど……あれをリコルにね。何か自分を守るアイテムを持たせておいた方が良いと思って」
なるほど。俺も何かパワーアップ出来るのかと思ったがリコルの為か。それなら仕方ない。いつも頑張ってくれているし、それなりの品にしてプレゼントを贈りたい詩葉さんの甘々な気持ちも理解できる。
「何をニマニマしているのかしら?」
「いや、別にぃ~。それで……その魔石からどんな物が造れるの?」
杖の先端に着いている魔石みたいにするのか……それともアクセサリーにするのか……リコルは普段、荷物を持ってくれているから小物類に加工した方が良いと思うな。イヤリング……は耳に穴を開けないとだから却下。となると、ブレスレットか首飾りタイプくらいかな? でも、リコルが成長した時の為に……。
「まずはこの魔石に込められてる属性やら魔力規模を調べて貰ってからね。専門外だから確かな事は言えないけど、何か結界の様な防御アイテムになってくれれば嬉しいかしら。まぁ、あの魔族の感じから言って……攻撃アイテムになるかもしれないけどね」
「どちら様かぇ……?」
店内で話していたからだろうか、奥から一人、お婆ちゃんが姿を表した。背は低く、腰は曲がっているが、顔付きは優しそうで黒のローブ姿の老魔女っぽい感じだ。
「初めまして。魔石を持ってきましたので、その詳細を調べて、加工を願いたいのですが」
「よっこらせぇ……ふぅ……何かぇ~?」
お婆ちゃん……いや、歳を取ると耳が遠くなる事もある。ただもう一回言えば良い話でしか無いのだ。何なら、俺が言って……。
「チッ……二度は言わないわ。この魔石で何が造れるかを教えてちょうだい。その代金も」
「ちょ、詩葉さん!? 何もそんな言い方しなくても!」
年寄りに厳しいイメージは無かったけど? むしろ、他人には少し距離を置く分、最初は丁寧めな詩葉さんの筈だ。事実、最初の一言目はそんな感じ。二言目にそんな豹変は違和感しか無い。
違和感。というか……何と言うか、詩葉さんだもんな。何かを覗き視たのだろう。
「ふぉっふぉっ…………なんだい? 面白く無い子だねぇ。嘘を楽しまないとつまらないだろぅ?」
白い煙がお婆ちゃんを包む。声色がどんどん若くなり、そのシルエットも変化していく。
「そういうスキル持ちは私の天敵さね。言わないでおくれよ? この姿の私は追われているんだ」
「別に、興味無いもの。貴女に求めるのは仕事をするかしないかだけよ」
「お、お、お……お婆ちゃんが美女になったぁ!?」
煙が晴れて現れた姿は……赤色の毛先がカールしたロングの髪に、スラリとした手足、流し目が綺麗なその瞳。加えて男を魅了する胸。綺麗で理想のお姉さん……そんなイメージだ。
「あらやだ……ごめんなさいね、恋人君を魅了しちゃって」
そうイタズラっ子の様に言う冗談も詩葉さんを刺激したのか、少しイラついている雰囲気を隣に感じる。やめて! それ以上は煽らないで!
「それで、さっさと調べて貰えるかしら? お! ば! さ! ん!」
「その、“控えめな胸”と同じく態度も控えめにならないのかしらぁ~? こ! む! す! め!」
はわわわわ……一触即発どころか、もう既に勃発している。いやいや、年齢は知らないけど、歳なんか関係無いほど綺麗ですよ? 詩葉さんも、胸なんて一部でしか無いじゃないですか。それに、俺は好きですよ?
だが、そんな気持ちを口から出してみろ……俺が死ぬ。だから、強引であってもお客と店員という立場で進めなければ。
「あ、あの! それで……この魔石を内の非戦闘員へのプレゼントにしたいんですけど、防御アイテムか攻撃アイテムで……ど、どうですか!? 結構、良い魔石だと思うんですけど……」
形は整ってる訳じゃないけど、濁りの少ない綺麗な魔石だと思う。それなりの物が出来る筈だけど……。というか、早くこの空間から脱出したい。あんな変化が出来るのだ……ただ者ではないだろう。
「……確かに、これはダンジョンで取れる代物では無いさね。売ればかなりの額になるだろうさ。良いのかい? 加工しちまっても」
「えぇ、内の子へのプレゼントの方が金に替えるよりよっぽど価値がありますから」
お姉さんが虫眼鏡の様な物を取り出して、魔石を観察……虫眼鏡!? あるんか! レンズさん!
「ちょ、その、そそ、そそそそそ……そそそ!!」
「一縷君……何言ってるか分からないわよ?」
「なんだい? このアイテムは……駄目よ。ダンジョンで手に入れた物なんだから。苦労したのよ?」
くそっ、売ってある品では無いのか……でも、ダンジョン。やはり、ダンジョンの宝箱でレンズは出るんだな。その情報が聞けただけでもお金を払いたい気分だ。……いや、実際には払わないけど。それでも、これなら双眼鏡とまではいかなくても、レンズさえ手に入れれば単眼鏡くらいならできると思う。
肉眼では確認しづらい距離や、細かい部分を消せる様になれば、俺の戦いがかなり有利になるだろう。
「た、宝箱の色は何色でしたか?」
「どうしたんだい? そんなに食いついて……ビックリするじゃないか。色は確か……金。ボスを倒した時に現れたさね」
金か……一番珍しい白じゃなくてホッとしたが、それでも運が必要なレベルだな。でも、うちにはリコルが居るし……ボスか。下の階層に早く潜るしかないか。
「ふむ……この魔石の属性は風。風ならそうさねぇ……周囲に風を巻き起こして飛来物とかを跳ね返す防御アイテムか、正面に強風を発動する攻撃アイテムぐらいかしらね。あまりパッとしないと思うかもしれないけど……この魔石の強さは耐久力の方さね。普通より良い魔石でも使用回数は十数回って所だけど、この魔石なら三十は耐えうるよ」
危うく話を聞き漏らす所だった。レンズについてはまた後で考えるか。というか、使用回数とかあったんだな……。てっきり、魔力を注ぐタイプかと思っていた。でも、リコルにならこのタイプの方が良いかもしれない。詩葉さんからの護衛術以外、普段は訓練とかしてないしな。
「三十なら結構良いかもな……どっちにする? 攻撃か防御か」
「悩むわね……一縷君はどう思うかしら?」
リコルがこのアイテムを使う状況を想定すると……やはり、攻撃アイテムだろうか? 防御アイテムは詩葉さんが居る限り必要は無いだろう。だが、リコルが一人って時を考えると、切り開いて行く攻撃が必要になるかもしれない。
「攻撃……かな。防御のじり貧はヤバいと思うしさ」
「やっぱそうよね……本当はリコルに聞けばいいけど、私達の心情から攻撃アイテムにしてもらいましょうか」
「なら、決定だ。形はどうする? あと、完成には少し時間を貰うからね」
形は詩葉さんがネックレスと即答して決まった。異論は無い。すぐに造り始めてくれるらしいが、細かな作業になる為、時間はどうしても三日は掛かるらしい。
だから、俺達がダンジョンに潜り、戻って来てから取りに来る事になった。代金は提示された金額を詩葉さんが了承して、一括で払っていた。吹っ掛けられてはいなかったのだろうな。
ボンッ! と音を立てて、白い煙が薄れると、またお婆ちゃんの姿へと変わっていた。どういう魔法か物凄く気になるな……まさかのユニークかもしれない。
「また……くるのじゃぞ……」
「ね? 何か、腹立ってくるでしょ?」
「それはキレすぎじゃないかな!?」
店を出て宿へと戻る。空はもう暗くなっていて、そろそろ腹ペコになっているだろう皆の元へ、少しだけ歩を早めた。
◇◇◇
「あっ、いちうはーん、うたははーん……もぐもぐ……んぐっ。こっちですよー」
まぁ、そりゃそうだよな。腹へったら勝手に宿の食堂に行くよな、ルフィスは。待っててなんて言ってないから別に良いんだけどさ。
「俺達も飯にしようか」
「そうね。お腹も空いたし……ルフィスは何を食べているのかしら?」
「えっと、肉か魚か選べるらしいので……お肉です!」
詩葉さんが『そう……』とだけ呟いて皆の居る席の隣に座り、注文を入れた。
「お金を足すからこの肉より多くて良い肉料理を二人前、大丈夫かしら?」
「はい、承りました。銀貨一枚の追加くらいの量で良いでしょうか?」
「えぇーっ!? そんなシステムあるんですか!? ズルいですズルいです!」
そんな騒がしくし始めたルフィスは置いといて、店員さんは戻り、俺と詩葉さんはハイタッチして料理を待った。リコルと聖女は動いて無い分、今の分で足りたのか追加の注文はしないようだ。ルフィスも同じく動いて無い筈なんだけどなぁ……。
「ほら、ローブはしっかり被っておきなさい。少し意地悪しただけよ。私はそんなに食べないし、少しくらいなら分けてあげるから……落ち着きなさい」
「やったぁ! 詩葉さん大好きですぅー!」
「おーいルフィス、詩葉さんが微妙な顔してるから、離してやれ~」
肉をあげると言った途端の大好きは……まあ、ルフィスの場合は、『そんな詩葉さんが』じゃなく『そんな詩葉さんも』だと思うが、結局は微妙である。まぁ、明日からダンジョンに潜る訳だし、体力は付けておかないとって言うのは分かるけどな。
「食べ終わったら明日についての話し合いよ。そしたら早めに寝ること。良いわね」
「はーい」
「分かりました~」
リコルと聖女は先に部屋に戻る様で、席を立った。俺達は飯を食って、少し休憩を挟んでから部屋へと戻ってミーティングが始まった。
とは言っても、勇者に接触しないように頑張りましょうって事くらいだ。あっという間に話も終わり、俺は自分の部屋へと戻って来た。
「っと! そうだ……ステータスの確認がまだだったな。ステータス!! 」
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イチル キリシマ Lv54
HP 1890/1890
MP 13600/13600
STR 129
VIT 110
DEX 116
AGI 130
INT 100
LUK 59
スキル
魔力制御 Lv3
槍術 Lv4
雷魔法 Lv2
ユニークスキル
『消滅魔法』
称号
『消滅の勇者』
『救う者』
『幼女キラー』
『優柔不断』
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やはり、あの魔族のお陰かな? 少しレベルが上がってる。よしよし、良い感じだな。他の人のステータスと比較出来ないからどのからいか判断は難しいけど、良い感じには違いない。
レベルを上げる為にも、より技術を磨く為にも、早くダンジョンの下層に行かなければな。あと! レンズ! 運要素があるから、もしかしたらこのダンジョンでは手に入らないかもしれないが、いつか絶対に手に入れてやるつもりだ。
「ボス前には、聖女と一緒に祈りでも捧げてみるか……」
そんな事を思いながら、詩葉さんにも言われた通りに早めに眠りに着いた。
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