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第27話 目的は達成したよ in 異世界

よろしくお願いします!

٩(๑'﹏')و

 


 俺が眠りについて、次に目を覚ました時には周囲はうっすらと暗くなっていた。仮眠程度の時間だが、夜の見張りは頑張れそうである。


 流石に聖女も起きていて、その指には二つの指輪が嵌められていた。というか、俺以外のメンバーの指には既に嵌められている。



「一縷さん! 目が覚めたんですね? これ……何とか五人分を買い揃える事が出来たんですよ!」


「ありがとうルフィス」



 ルフィスから二つの指輪を受け取り、指に嵌める。身体にはこれといって異変は無く、本当にこれであの熱い扉とエリアの暑さを防げるのかは甚だ疑問ではあるが……とりあえずオシャレだから今は良いとしよう。



「ご飯もお店はどこも混んでいるみたいですし、露店で買って来る方が良いって意見に纏まりそうですけど……一縷さんもそれで良いですか?」


「まぁ、この状況ならなぁ……その辺の事は任せるよ。ルフィス、もっと深目にフードを被っときな」



 ラッカーラは過剰と言っても良いくらいに人が集まっている。お店からすると、嬉しい悲鳴と普通に悲鳴が上がっているだろうな。だが、人が増えると犯罪が増えるのは世の常だと思うし、用心はしておかないとだな。特に酔っ払い……暴れるタイプの酔っ払いは厄介だからな。



「うーん、もう少し空いてる場所を探すか……逆に同じような境遇の人が居る場所を探すか……迷うわね」


「詩葉姉、どうするの?」



 詩葉さんとリコルは今夜の睡眠をとる位置について迷っているみたいだ。場所はこの馬車の上と決まっているから、あとは面倒事を避ける為に人の少ない所に行くか、面倒事が起きた時に協力しあう為に同じ境遇の人の近くに行くか……という二択を決めかねてるらしい。


 個人的には……同じ境遇とはいえ協力どころか、面倒を擦り付けられる可能性が否定出来ないし、人の少ない方がまだマシだと思える。自分達の守りに集中すれば良いからな。


 もちろん、協力出来るのなら夜に紛れてやってくる強盗達に狙われる可能性がずっと低くなるから、全くメリットが無い訳じゃない。安全面……というか予防に近い効果は十分に有る。


 きっと、詩葉さんもそこで悩んでると思う。知らない土地だし、隣り合わせになるのが出遅れた商人じゃ、雇ってる戦力が期待出来るかは運だしな。



「少し……移動しましょうか。いえ、そもそも祭を楽しむ必要は無いのだし帰ってもいいのでは無いかしら?」


「「えぇ~!?」」



 俺とルフィスが不満な声を上げる。俺はともかく、ルフィスが不満な声を上げるのは意外というか……何でだ? あまりこの場所には居たくない様な感じだったのに。



「お祭りは……その、別です。それに……遠くから一目で良いので会いたい人も居ますし」


「会いたい人? ルフィス、まさか厄介事じゃないだろうね?」



 このタイミングでルフィスが会いたがる人というのは、見当がつかないが……少しくらいの予想は出来る。王達はまず違うだろう。勇者達も……あまりピンと来ない。となると、王と一緒に来ている王族の誰かだろう。帝国の皇帝の子供か王国の王の子供……どちらかまでは分からないが、この辺りだろうな。



「いえ……その。小さい頃に数回会った事があって、仲良くなったのですが……王国のシェリー王女殿下……」


「詩葉さーん、ルフィスが変な事言い出したんだけどー!? これ、どうしたら良いの?」



 予想が当たった。という事は、である。厄介事の臭いが強くなった気がした。確かに遠くから見るだけなら問題は無いかもしれない。フードで顔を隠しておけば、とりあえずは大丈夫な筈だ。でも、勇者達の集まる場では、自分にとって都合の良い考えをしていたら、間違いなく裏切られる。


 例えば、勇者の戦いの最中に放った魔法が運悪く俺達の居る場所に飛んで来る。例えば、皇帝や国王暗殺の為の刺客がリコルや聖女を人質に取られ、俺や詩葉さんが動かないといけなくなったり。


 とにかく、考えれば考える程に不安要素しかない。分からない時は詩葉さんの指示に従う。それなら不安はあっても不満は無い。



「大国の頂点にいる人間達が集まっているのでしょ? ふふっ……混乱のどさくさに紛れて……」


「おっと、詩葉さん!? 何か物騒な事を考えて無いですかねぇ!?」



 恨みというか怨念が……詩葉さんの気持ちが分からないではない。あれも冗談として言ってるもの分かるし、冗談として吐き出してる理由も察する事は出来るが……物騒なのには変わりない。本気を出せばやれない事は無さそうなのが……ね。



「まぁ、別に今のはこのパーティーなら問題無いわよ。最初の……レベルが低い時なら不安も多かったけど、今ならリコルと聖女は非戦闘員だから置いとくとしても、一縷君もルフィスも強いわ。少しの理不尽なら吹き飛ばせるくらいにはね」


「意外と好評価……まぁ、遠くから一目見るくらいなら良さそうだぞ、ルフィス」


「ありがとうございます! 欲張りはしませんから、そこは安心してくださいね」



 話が一段落した所で、露店で売ってある出来立ての料理をいくつか購入していく。それを馬車の上で食べながら、人の少ない方へと移動した。


 辿り着いたのは教会が近くにある空き地の一角。ここなら人の通行の邪魔にもならないし、見晴らしも良い。聖女も今日は起きておくっぽいから、魔物が近寄る事も無い。まぁ、街の中に魔物が居たらそれはそれで大騒ぎだけどな。



 詩葉さんとルフィスとリコルは先に寝て、俺と聖女はランタンを一つ灯して夜をトランプと共に過ごしていた。二人で出来るゲームがあるのもトランプの良いところだ。



 ――結果的に、同じ境遇で宿に泊まれなかった馬車が集まる所に居なくて良かった。聞いた話ではどうやら、その内の一つに魔物の研究をしている少しグレーな職業の奴等が居て、こっそりと捕まえて運び入れている最中の夜中に檻が壊れ、魔物が逃げ出したそうだ。


 最終的には護衛や冒険者に倒されたそうたが、パニックや被害は避けられなかったみたいだ。



 ◇◇◇



 朝日が昇る頃に詩葉さんが起きて、夜中に少し騒がしかった事を伝えると……すぐに街の中心の方へ移動して、調べて来てくれた。


 俺達に関係の無い話だと判明した所で、俺と聖女はまた少しだけ仮眠を取らせて貰う事にした。この馬車を預けられる場所が見付かったら起こしてくれるという事で話が纏まって、目を閉じて休みの状態に入った。


 まぁ……太陽が眩しくて眠れはしなかったが、十分な休憩は取れたし、良しとしよう。



 ◇



「人混みに流されない様にしなさいね。特に聖女」


「分かってますよ~、だから一縷さんの裾を掴んでいるのですから~」


「ん? 誰にも掴まれて無いけど?」



 まさかの隣の女性の裾を掴んでいた聖女である。聖女の代わりに謝って、今度はしっかりっと握らせる。迷子になる前に気付けたのは重畳だったな。



「私はルフィス姉と手を繋いでるから大丈夫~」


「えへへ~、そんな私は詩葉さんの服を掴んでいるので無敵ですねぇー」



 隙間が無いほどびっしりしている訳では無いが、身体の小さいリコルは危ないからな。携帯が無いとはぐれたら本当に不安になる。一応の待ち合わせ場所は、馬車を預けた場所に決めているが聖女や俺がちゃんと辿り着くかは怪しい所だ。気を付けないと。


 俺達が今、向かっている場所は大きい闘技場だ。祭は先日、前々日から始まっている様で、どうやら今日はここで、勇者達の模擬戦が行われるらしかった。


 ラッカーラ国が祭の開催地に選ばれた理由の一つは、大人数の観客を収容できる闘技場があるかららしい。



「前の席は埋まってるなぁ……あっちは特等席か? 豪華な設営がされてる場所があるけど」


「恐らくはそうね。離れた向こうの後ろの方にでも座りましょうか」



 勇者を見ようと早くから集まっていた人は前の席を陣取っていた。特等席の周囲は警備がしっかりとなされ、鼠一匹通さないぐらいのレベルである。


 俺達はそんないかにもな席から離れ、少し遠くなるが後ろの席に皆で横一列に座った。リコルがマジックバックから軽食を取り出してくれて、朝食として勇者が登場するまで皆で食べていた。


 まだかまだかと観客から声が上がる頃になってようやく、荘厳な音楽が流れ始め、闘技場の中央フィールドに人が歩いてやって来た。



「あれは……エルミック王国のジークス=エルミック王ですね。あっ、居ます! 居ました! あの一歩後ろを歩いているドレスの女の子がシェリーです! あぁ、元気そうで良かったですぅ」


「綺麗な王女様だね、ルフィス姉!」



 まずは護衛を伴って王と王女……それに王妃だろうか、三人が中央まで歩いてやって来た。



「あれが国王ねぇ……」


「ここからなら十秒ね……」



 だから、物騒な事を言うのはやめてくださらないですかねぇ。



「イメージしてたより、ずっと若いのな? もっと白髪な感じだと思ってたけど」


「まぁ、息子が良い年齢になれば王位を譲るのでしょうね。退位したら後は隠居生活って感じでしょうし、白髪のおじいさんになるのはそれからでしょうね」



 なるほど。遅くても五十くらいになったら譲るのだろうな。賢王に愚王……あの王がどっちかは分からないが顔付きからすると、しっかりとした考える王といった感じだ。


 音楽が一度止まり、さっきとは別の曲が流れ出した。その曲が流れ始めてから、ジークス王達が出てきた時と同じくらいの歓声が響き渡った。勇者達のお出ましである。


 最初に出てきたのは爽やかな男。腰にぶら下げている剣はいかにも凄そうな武器である。何か特殊な効果とかありそうだ。次に出てきたのは短髪で、観客にも手を振っている……活発そうな男だ。特に武器らしい武器は持っていない事から格闘系がメインと予想がつく。


 そして――三人目に出てきた少女。面倒くさそうな顔をしているが、こういう場だから仕方なく最低ラインで動いてるあの感じ……知っている。



「葉桜……ひかり」


「一縷君? 知り合い……なの?」



 知り合いというか……小学校前の高学年の時に偶々、同じクラスになってから話す間柄だ。お互いに受験する学校は知っていたが……そうか、同じクラスだったのか。そこまでは確認していなかった。



「小学校から話した事のある奴だ。特徴は……一言で言えば、面倒くさがりだな。ほら、綺麗な装備を着けてるけど顔はやる気の無さそうな感じだろ?」


「そこまでは読み取れないのだけど……一縷君の知り合いも来ていたのね。それは何とも……あそこに居る勇者全員のステータスに、居場所が分かる魔術、もとい『呪い』がついているわよ」



 逃げられなく……逃げても見つけ出せる様にするためか? それをあいつ等は知っているのだろうか?



「逃げ出した奴とか居るのかね?」


「そこまでは分からないわ。でも、逃げ出そうとしたら何かしらの手を打たれるでしょうね……」



 ひかりは大丈夫だろうか? やる気は無いが……頭の回転は良かった。無茶な事は……しないか。おっと、俺も顔を少し隠しておくか。



 王国の勇者五人が現れて、全員の紹介がされる。紹介の時は物音一つ無く、勇者の大きな声での自己紹介が終わると拍手で一杯になった。ひかりの時だけ、隣の三倉祐也という男が代わりに声を張っていた。



「詩葉さん……レベルはどう?」


「二十後半ね。こっちに来て三ヶ月くらいでこのペース……私達が成長しやすいってのは抜きにしても、遅いと思うわ」



 俺が五十を越えたくらいである。その半分か……俺と詩葉さんは神スフィアのお陰? で、伸びしろが他の勇者よりある。だけど、馬車で移動した時間とかを考えると、レベル上げも戦闘訓練も他の勇者より少ないと思う。


 レベルも上がれば上がるほど、上がりにくくなるだろうし……心配だなぁ。



 王国の勇者達の挨拶が終わると、次は帝国の皇帝らしき人物……それに、勇者達が一気に出てきた。王国とは違い、早く済ましてしまおうという事かもしれない。だが、纏めて出て来る演出も盛り上がりを見せていた。



「あ、有加だ」


「また……知り合い? どの子かしら?」



 帝国の勇者は腕にブレスレットを着けているからどっちがどっちの所属か分かり易いな。有加は、男子並みに背が高い。だが、その内面は誰よりも女の子らしい乙女だ。けして見た目と通りの強い子ではない。



「ほら、槍を持ってて背の高い子。有加もひかりと同じく小学校からの知り合い。大丈夫かなぁ? あいつ……強がる所があるからな」


「ふーん。仲が良かったのかしら?」



 仲が良い……とは違うかもしれない。懐かれていた? と、言った方が正しいと思う。背が高く、おどおどしていた有加は小学生男子という生き物にとってはイジリ易い存在だった。それを、俺とひかりが助けたとまでは言わないが……庇いはしていた。それだけである。



「悪くは無いと思うけど……特別な仲では無かった」


「そう、なら良いわ……分析に戻りましょうか。帝国の勇者は……あー、可哀想に。あのブレスレットのせいで逆らえなくなってるわね。正確には、ブレスレットを着けていると、身体に痛みが流れる様になってるわ」



 それは……少し怒りが込み上げているのが自分でも感じ取れた。この世界に召喚しておいて、勇者に対してそんなやり方があるのか……と。自分勝手だろうが、有加が居なければどうも思わなかったかもしれない。思っても可哀想にくらいだろう。だが、知り合いが居るなら話は別だ。



「飛び出さないだけ、冷静さが残っていると判断するわよ? 皇帝を倒したからといって、解除されるとは限らないわ。皇帝も勇者を戦力と考えている筈。自殺される様な酷い目にはあってないと、推測だけど考えられるわ」


「……ふぅ、すー……はぁ。もう大丈夫。帝国の勇者のレベルは?」



 逆らえない事を良いことに酷い事をされている可能性はまだ否定出来ない。が、とりあえずは詩葉さんを信じよう。焦ってもロクな事にはならないって分かっている。……落ち着かないとだな。



「こっちは……三十あたりね。おそらく、ダンジョンで鍛えさせられているのでしょう。パーティー単位で行動するでしょうし、最小限でも二人一組で行動させている筈よ」


「ありがとう詩葉さん。小さすぎてここからじゃピンポイントで狙えないな……『デリート』でブレスレットの一部の模様を消せれば効果も無くなると思うんだがな……」



 ロストで全部けしたら怪しまれた上に、また新しい物を付けられるだけだろうしな。一部だけ消した物ならば、痛みの演技でもすれば……かなりの時間稼ぎは出来る筈だろうし。何とか近寄る事が出来れば……でも、こっちにはルフィスが居るから派手に騒ぐ事も出来ない。



「現状維持……ここは我慢するのよ。あの子は帝国なのでしょ? なら、ダンジョンで会う可能性もゼロじゃないわ」


「そうだな。俺のタイプからすると……少しでも手を貸したら放っておけなくなるだろうし、タイミングを見よう」



「お二人共、始まるみたいですよ!」



 始まったのは戦いではなく、国王、皇帝の挨拶だった。召喚に応じてくれた。勇者は民の味方だ。我々が魔族から世界を守り通す……等々。耳障りの良い台詞がポンポンと出てくる。ルフィスはあちらの立場であった為、少し気まずそうにしているが……今はもう気にしなくて良い。今のこのパーティーや関係性を築くキッカケだと思えば、悪くは無かったから。



 “今からはその勇者達の力を見せて、皆には安心して貰いたい! まだ発展途上の勇者だが、今の段階でも十分に強いという事を故郷で広めて貰いたい”


 “これは祭である。余興を楽しむがよい”



 この国の王様を差し置いて、ジークス王とガルーダ皇帝が全てを取り仕切っていた。まぁ、大国の王が来ちゃったら仕方ないと思うけどね。


 ――そして、勇者達の模擬戦が始まった。その戦いの内容をリコルが一言で言い表していた。



「オーガの方が強そう……」



 リコル、その心中……お察しします。勇者達の技術は……良い師匠は居なかったのか、正統な流儀をなぞっている感じだった。この場合の良い師匠と言うのは、武器も扱った事の無い人間をスパルタで指導する鬼の様な人の事だ。


 槍一本でモンスターとひたすら戦闘していた事を思い出しながら……今の戦闘を見ると、詩葉さんが正しいという気持ちがより強くなった。



「厳しいわね……魔王が理知的ならば、ダンジョンのモンスターをいくら倒していても限界があるわ。各国の有名な剣士や高名な魔法使い……高ランクの冒険者と対人戦をさせないと、程度が低いわ」


「うーん……。レベルが上がればそりゃ、強くなるけど……罠に嵌まれば簡単に殺られる訳だしな。他人事じゃないが、心配だな。ほら……あそこにめちゃくちゃ笑ってる人も居るし」



 一人だけ高笑いをしている人間がいた。背が高くガッチリした体型、それに顔の傷を見ると、戦い慣れた人間だと思う。が、なんかこう……不自然な感じがする。不愉快というか、アイツとは相容れない感じというか……何だろう?



「……リコル。絶対に私から離れない事。聖女も一縷君の傍に居なさい。下手に動かないでよ――――あれ、魔族よ」



 ◇◇◇



 その魔族は高笑いしていた。


 観客は若干……というか、かなり引いている。


 勇者も国王もその男を見ている。皇帝だけは周囲に何かを怒鳴り散らし、その男に向けて護衛を放った。



「ははははは……あーっはっはっは。勇者が現れたと聞いてどんなものかと思えば……下級魔族程度ではないか」



 やべーよ、やべーよ……下級程度とか言い出してるよ。たぶんアレだ……あの男自身は中級か上級パターンだ。



「詩葉さん……アイツ、強いの?」


「うーん、魔族はレベルの概念じゃないのよ……魔力量や戦闘能力で下級、中級、上級に分かれてるみたいよ。まぁ、その下に魔物だから、下級でもダンジョンの下層モンスターより強い筈よ。でも、魔力量ぐらいしか判断材料が無いのよね。それで言うと……下級上がりの中級? かしら?」



 おぉ……う。微妙……な。何じゃい……そのレベルは。



「皆、そっとしておこう。皇帝が放った誰かが来たみたいだし」


「観客の皆さんも逃げてますね……」


「あっ、詩葉姉! やられちゃったよ!?」


「そうねぇ……」


「皆さん~? 危機感が~無いのではありませんか~?」



 それはお前も同じだろうに。というか、アレだ。逃げ惑う人が多くて、下手に動くと危ない。



「詩葉さん、一縷さん、どうしますか? あの魔族? 絶対に勇者を倒しに来てますよね?」


「一縷君、やってみる? もちろん危なくなるまで魔法は雷までよ? 良い経験にはなるんじゃないかしら?」


「うーん。あそこに居る勇者達の経験にした方が良いとも思うけどね。束だし……あっ、ほら! 本人達もやる気みたい。さっきの戦いが高いレベルじゃないのが功を奏したみたい」



 会場からは人がどんどんと減って、観客席に残っているのは俺達と冒険者らしきグループが二つ。だが、魔族の男が注目しているのは中央の勇者達だけで、俺達には興味が無いみたいだ。



 “おい、皆! いけるか!?”

 “あたりめーだ! 魔族か、確かに嫌な気配がするな”


 “魔法メインの人は後ろに!”

 “協力していこう!”



 チームワークは悪く無さそうだ。やる気もある。一人は無さそうだけど。



「まぁ、当然っちゃ、当然だけど……国王と皇帝はどこかに行ったなぁ」


「まぁ、それはそうよ」



 魔族の男が中央のステージへと跳んで、着地と同時に砂煙が舞い上がり……それが晴れると、肌の色が薄紫色に変化した魔族の姿があった。いかにもな見た目に変化し、勇者達は少し後退りしていた。



「俺達も少し前に出る? 会話が聞き取りづらいし」


「一縷君だけ行きなさいな。私はリコルと聖女の安全を第一に考えるから。飛び出すなら、面倒事を持ち帰らない様にしなさいね?」


「私もここでいいですぅ……」



 詩葉さんに守って貰える対象に含まれて無かったルフィスが少し拗ねた様に、詩葉さんに近付きながら答えた。誰もついて来てくれない事に少し寂しさを覚えながらも、俺はフード付きのローブを借りて、一人で最前列へと移動した。



「お前等程度なら魔王様の封印が解けるのを待つ必要はねぇ。ここで俺が始末してやるよぉ!!」


「お互いに連携があるだろ!? 二つのパーティーに分けよう!」

「でも、皆で協力するべきよ! ひかりも何か言って!」


「はぁ……前衛と後衛に別れたら良くない?」



 敵前で何を呑気な……。あっ、一人飛び出した。帝国の奴だな。正しい判断だけど、仲間がついて来ていないと危ないだろう。



「テメェ等! さっさと動けや!! 死にてーのか!?」


「くっ、行こう! 祐也!」

「和也、無茶はし過ぎるなよ!」


「ひかり、援護はお願いね! 私も行かないと」

「有加……。今なら逃げられると思ったけど、アイツを倒さないと駄目か……面倒くさい」



 魔族と勇者の戦いが始まった。



 ◇◇◇



 勇者達のレベルが平均で三十に届かないくらいだとして、あの中級魔族は……俺達の基準に当て嵌めると、レベル五十はあるだろうか? たぶん、今の俺と同じくらいだと思う。


 下級が三十から、中級が五十から、上級が七十くらいと予想してみるが……ヤバイな。上級がうじゃうじゃ居たら、そもそも魔王にすら辿り着けないだろう。仮に辿り着いたとしても、その前に人族が滅びる方が早そうだ。



「上級は少ない感じでお願いします……出来れば魔王の右腕の一人くらいで」



 そんなお願いをしながら観察をし続けた。これは、俺が初めて戦うモンスターを前にした時に取る行動だ。まずは観察。どんな攻撃スタイルでどんな技を持っていて、どこに弱点があるのか……色々と視る。


 短時間だが、あの魔族はオーガっぽい戦闘スタイルと言えよう。基本的には己の肉体を使っての攻撃。魔族だけあって、魔法も使うがそれよりも、拳や脚を使っての攻撃で戦いを楽しんでいる様に見える。


 弱い魔法なら効いていないし、剣でも深くは斬れていないみたいだ。つまり――めちゃくちゃ厄介。という事だ。目や出来るだけ柔らかい部分を徹底して狙うのが一番早いが、それは相手も分かっているだろうし……時間がかかりそうだ。アイツ等なら。



「あそこは剣で応じるより、体術の技で受け流して斬り込んだり……それか、一旦離れた方が……あぁ、魔法もそこに当てても効果は薄いだろうに」



 俺は独り言を言いながら観戦する。今、手を貸したんじゃあの勇者達は伸びないと……上から目線になりながら。



「でも、詩葉さんの指導を受けてるんだし……多少は上からでも良いよね」



 誰に語る訳でも無いが、言い訳をしておいた。詩葉さんは聞き耳スキルとか持ってそうだから、本当は詩葉さんに向けての言い訳である。



「強いな……大丈夫か祐也!」

「おう……でも、皮膚がかなり硬いな。拳がいてぇ……」


「くっそ、おい! 観客席にいる冒険者! 少しは手伝うとかねーのかよっ!! いつ、テメェ等の所にこいつが行くのかもわかんねーんだぞ!?」



 うーん。あの叫んでる最初に飛び出した男……たしか、帝国の勇者で後藤雅也とかいう男。やっぱり、アイツが一番正しい判断が出来るんじゃ無いだろうか。不良っぽいし、あまり近寄りたくは無いけど……。


 周りに頼る事は別に恥ずかしい事じゃない。人任せにするのはどうかと思うが、頼る事自体は変でもおかしくも何とも無い。だが、冒険者とはお金で動く。残ってた冒険者を見てみるが、動く気は無さそうだ。



「おーい、報酬はいくらだー?」



 代わりに俺が聞いてみる。声は出来るだけ低めにしながら。これでも、ひかりと有加にバレる可能性はあるけどな。



「はぁ!? 馬鹿かよっ!! 死ぬかもしれねーのに、金の事言ってんじゃねーよ! いいから手伝えや!!」


「残念だな! 冒険者はいつ死んでもおかしくない職業だ。だからこそ、報酬はきっちり頂くし、報酬が無いならリスクは負わない! で、どうする?」



 ここで、カッとなった後藤を留めて誰かが報酬は払うと言う。計画どお……あれ?



「「「………………」」」



 えぇ……。口約束でも良いから言ってみようよ……。全員が黙って、戦いに集中し始めた。残っていた冒険者も報酬が無いと分かったからか、去って行った。計画、失敗である。


 俺は慌てて詩葉さんの所に戻って来た。何か……アドバイスが無のかを聞きに。



「全員が口約束をしない、真面目な奴等だとは思わなかったんだけど?」


「何やってるのよ……毎回、どこかしらで挫くわね? で、倒せるの?」



 観察は済んだ。たぶん、倒せる。ひかりと有加にそれとなく援護をして貰えれば、勇者としての面目も保つ事は出来るだろう。俺は詩葉さんに頷く事で返事をした。



「そう……なら、倒して来なさいな。目的は済んだし……もう、帝国のダンジョンに帰るわよ」


「あいよ! 聖女、加護をお願いしていいか? 一応な」


「良いですよ~」



 聖女に加護を授けて貰い、準備は整った。

 俺は中央のフィールドに降りたって、まずは後衛にいるひかりの所に駆け寄った。



「チャンスがあれば膝を狙え。やれば、出来るだろ?」


「……え? その声、まさか」



 俺はそこから、魔族から一度離れた有加の所へ詰め寄る。



「チャンスがあれば、目を突き刺せ。お前の身長は誇れるものだ」


「……あ……あぁ。良かった。信じてた。私はもう、大丈夫」



 戦闘で戦っている、男三人の間を通って魔族へと接近する。意表を突かれたのは勇者だけじゃなく、魔族もその様で、がら空きになった腹部に槍の柄で思い切り突きを放つ。



「がぁっっ!!?」


「硬いなぁ」



 感想なんて、そんなものである。すぐに立ち上がった魔族が、新しいオモチャを与えられた子供の様に笑みを浮かべる。



「潰すぅぅぅぅぅぅ!!」


 “『光の槍』”



 後ろから詠唱と共に魔法の技名が聞こえて来た。


 走り出した魔族の浮かせた側の膝に三つの光の槍が突き刺さった。それにより、着地のバランスを崩した魔族に向かい、俺と同じく槍を使っている有加の一突きが入る。


 目には当たらなかったが、しっかりとダメージを与えていた。それでも、魔族は倒れない。詩葉さんの見立てでは、成り立て中級……だが、それでも強い。少しだけ使いますか! 雷魔法を!



「はぁぁぁぁ!! せいっ! はっ!!」


「ちっ……がっ、ぐぁぁぁああああ!!」



 槍での攻撃をした後の僅かな間に雷魔法で痺れされる。さっき有加が付けた傷口に狙いを定めている。


 勇者達の出番は完全に奪ってしまった形になるが、まぁ……良いか。そろそろ終わりにしよう。



「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「槍の反則級技 『喉突き』」



 巨大な岩をも砕きそうな拳を横へ一歩回避して、そのまま突き刺した。勿論、魔族の生命力を舐めてはいない。すぐに引き抜き、顎下から脳まで突き刺してトドメを刺す。



「倒し……やがった? お、おい!? テメェ、何で最初から助けなかったんだよ!!」


「んんっ! あー……コホン。最後の最後に正しく無いな君は。あまり言いたくは無いが……勇者だろ?」



 ちょっと、自分でも何を伝えたいか分かってないが声を低くしてそれっぽい事を言えば、後は勝手に解釈してくれるだろう。俺は少し取れそうになっているフードを被り直した。



「そうだ……魔石だけは貰っていく。これは報酬だ。いいな?」



 俺は心臓部を切り開いていつも倒してる魔物からは取れないであろう綺麗な石を手にした。そのまま立ち去ろうとする俺に、駆け寄って引き留めた者が居た。ひかりと有加だ。悪いが……先手を打たせて貰う。



「『デリート』。そのブレスレットは効果を無くした筈だから、しっかりと痛い演技はしろよ……有加。ひかりは、居場所が分かる呪いが掛けられている。国から離れようとしなければ大丈夫だから。あと、俺は……俺達は居ない事になっている」



「でも、ここに……ちゃんと、居るのよね?」


「面倒事を押し付けたい……早くゴタゴタは片付けて来て……。というか、居るなら私達を迎えにくらい来なさいよ」



 他には聞こえないくらいの声量で、最低限の情報で今の状況の話を追加して伝えておいた。エルミック王国のシェリー王女にルフィスの事を伝えて貰うか迷ったが……相手が王族だから、とりあえず延期にしておく。


 流石にこれ以上長居すると怪しまれるから、名残惜しさもあるが立ち去る事にして、走り出した。二人共、今以上に頑張ると約束してくれたし……久しぶりに話せた事もあって、とりあえずは安心だ。



「お待たせ! リコル、めっちゃ綺麗な魔石だぞ!」


「ホントだぁ! 幾らかな? 幾らになるかなぁ?」


「さ、行くわよ。王族達が戻って来る前に、もうここを出発しましょ?」



 俺は詩葉さんやルフィス達と合流して、すぐさまその場を立ち去った。預けておいた馬車を回収して、騒ぎになっている街中を何とか進み……時間はだいぶ掛かってしまったが、ラッカーラ国の首都であるこの街を出発する事が出来た。


 指輪も手に入ったし、早く帰って帝国のダンジョン攻略を再開させないとな!






誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


ふぅ……お昼から書き出したけど、アプリに時間を取られた結果、日曜日に間に合わなかったか……

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