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第25話 勇者達は意外と元気? in 異世界

お待たせしました!

よろしくお願いします!

 


 装備を整え、顔も洗い、準備万端だ。と、こんなにゆっくりしているけど他の皆は先に朝食を食べに宿の食堂へと行っている。俺の分は軽食を包んでおいて貰っている。



「一縷さーん? まだですかぁ?」


「もう、行く!」



 俺はカバンを持って、先端に布を巻いた槍を手に部屋から出て行く。昨日の件で常に武器は手に持っておく事にした。少し邪魔だが……近接格闘が出来る様になるまでは仕方ないな。この街は危険というか、荒っぽいし。



「お待たせルフィス」


「まったく……一縷さんは朝が弱いですねぇ?」



 出来る限りは眠っていたい人だから仕方ない……仕方なくは無いのだが、夜更かしはしていないのについつい二度寝をしてしまう。



「すまんね、それで……もう食べ終えた?」


「はい! 一縷さんの分は詩葉さんが持ってますよ! それで……そうでした! ダンジョンまでは乗り合いの馬車で移動するから急いでくださいっ!」



 マジかよ……それならもう少し余裕を持って動き出せば良かったな。……急ごう。



「了解、行こうか」



 何とか馬車停……バス停の馬車バージョンだからそう呼称しておくか。ルフィスは馬車乗り場と言っていたが……。そこに居た今日はポニーテールな詩葉さんや、リコル、聖女と合流して、乗ることが出来た。馬車は二台あるが既に片方の馬車は冒険者で埋まっていた為、後ろの方の馬車へと乗り込む。


 屈強そうな男から女性なのに俺より筋肉質な人。そして、見た目はか弱そうな魔法使いっぽい女の子まで様々なタイプの冒険者が乗っている。だが、注目するのは他にあった……手に嵌めてある指輪だ。薄い赤色の指輪と薄い青色の指輪を着けている。



「結構、オシャレなデザインだな?」


「そうね」



 あれが、特殊エリアで必要とされている指輪か……やっぱり皆持っているんだな……。俺は少しだけ注目した後に目線を外に向ける。到着するまでは、軽食を食べながら流れる景色を眺める事にした。


 今日も今日とて日銭を稼ごうと意気込む会話やお宝を狙って動こうとしているパーティーの会話も聞こえて来る。冒険者の日常だな。



 ◇◇◇



 馬車に揺られてしばらく、街を闊歩している人の数が減って来ていた。それからまたしばらく進み……遂にダンジョンの近くの停留所へと辿り着いた。


 馬車の代金はギルドから出ているらしく、冒険者は無料となっていた。金の無いと言われる冒険者にとってはありがたいシステムだな。



「ここはここで賑わってるなぁ~」


「そうね、荷運びや情報とか食べ物を売る商売人。鍛治士やギルドの出張支部かしら? そんな物まで……流石は大国ね。設備に関しては他と違うわ」



 詩葉さんの言う通り、ダンジョンに入る前に買い足しが出来る様になっているな……まぁ、総じて値段が少し高めに設定されている訳だけど。



「そうでした~そろそろ買って貰った装備を身に付けないとですね~」



 普通は最初に着ておくものだけど、聖女だから気にしない事にする。宿を出てから馬車停の前で会った時点で着てなかったし、まぁ……聖女だからと納得も出来るしな。



「ん? ちょっと聖女のその杖……見せて貰っても良いかしら? へぇ……」


「杖がどうかした? 掘り出し物的に置かれてたから結構安いヤツだけど……」



 聖女の装備に関しては、ミミちゃんに一任している。粗悪品でもどうせ、見た目重視だから関係は無いしな。



「いえ、中々に良い物よ。見た目はただの黒い杖にしか見えないけど……リコルのローブの様に、力が宿っているわ」


「へぇ……それは良かった。ミミちゃんに感謝だな」



 聖女は特に武器に関しては気にして無いらしく、ダンジョンの方を見ている。そっちの方が興味深い様だ。


 真っ黒な装備になった聖女に凄く羨ましそうな視線を向ける詩葉さんを正気に戻し、俺達はダンジョン前の広場へと足を進める。ちなみに、詩葉さんも黒っぽいし羨ましがる必要は無いと思うが……聖女の様な存在が黒に身を包むという事そのものが羨ましいのだろうな。



 “今日の勇者は二十一階層だという話だ! そこから下には行けないから気を付けろ! 行くなら急げ!”


 “おい、聞いたか!?”

 “あぁ、急ごうぜ! ボスを倒さねぇと夜まで出られねーからな。食料でも買い足すか”



「まさか、あんな風にしてるのか? 占領するとか面倒な勇者……というよりは帝国のシステムか」


「そうね。まぁ、今日はそこまで降りないでしょうし……大丈夫でしょう。それより……まだ二十階そこらって、大丈夫なのかしら? それともレベルが高いとか?」



 そこそこベテラン風な冒険者は急いでダンジョンへと入って行く。確かに詩葉さんが言った通りだな……ダンジョンのレベルが低いなら遅い気もする。でも、特殊エリアがあるダンジョンらしいから少し厄介なのかもしれないな。


 聖女が初ダンジョンという事でわくわくしているし……俺達も行きますかね。



 ◇◇



 一階層へと足を踏み入れたが……ここは至って普通のダンジョンだな。ゴツゴツした地形にそこそこの道幅にひんやりとした空気感。



「ここがダンジョンなのですね~魔の気配が結構しますが……私の魔除けの加護はあまり意味が無さそうです~」



 そうだった……聖女が起きてる間は魔物が寄り付きにくいという加護があるんだった。聖女曰く、相当に腹が減っている魔物は近寄ってくるらしい。だが、このダンジョンにいるのは人を襲う為にいる化け物(モンスター)である。効果が発揮されないのも仕方のない事だろう。



「じゃあ、様子見といきますか。詩葉さん」


「先に入った冒険者が倒したのかしら……少し歩くわね」



 さっき入って行ったもんな……そう思いながら詩葉さんの後をついて行く。聖女と同じ様に俺も少しだけ楽しみにしていた。倒せる倒せないに関わらず、雷魔法を使いたいと思っていたからな。



「お兄ちゃん、ルフィス姉、カバン持つよ!」


「そう……だな、任せるよリコル」


「お願いしますね、リコルちゃん!」



 パーティーだからな、それぞれの仕事がある。まだ敵と遭遇もしてないから必要は無いけど、任せるという事も必要だと思ってリコルに荷物を預ける。


 それからそこそこ広い一階層を歩き続け、詩葉さんがこの先を曲がった所に居ると教えてくれた。一番槍は俺が頂こう……槍を使う訳ではないけど。



 声を潜めて曲がり角まで進み、その先を覗き見る。狼型だな……ゴブリンなんかより断然動きが速いからそこは注意だな。後は聴覚と嗅覚が厄介なモンスターだが、群れじゃないだけまだマシである。『消臭』と『ミュート』をしておこう……行くか。



 “ふっ…………『弱電撃(スパーク)』”


「ギャオオオオオオンッ……!!」



 白く鋭い眼をした狼が少しの痙攣の末、倒れ、動かなくなった。



「あっ、倒した。これは……レベル差かな? 流石に一階層なら最弱の魔法でも倒せるのか。まぁ、結果オーライ!」



 何がオーライなのかは自分でも良く分からないが、とりあえず喜びを表現したかっただけだ。ガッツポーズはここでしとこう、皆の前でするのは少し恥ずかしいからな。


 来た道を戻って、今の事を説明しておく。レベルのお陰だが俺の雷魔法でも倒せた事、狼型だった事。まぁ、それくらいしか無いが……。



「うーん……なら、やはりモンスター自体はそこまで他のダンジョンと比べて強いって訳じゃ無いのかしらね? しばらくルフィスは魔法禁止、一縷君は……素手と緊急時に雷魔法としましょうか」


「そ、それって杖で戦えって事ですか!?」


「す、素手!? 緊急時に雷魔法のみ!? 厳しくない?」



 素手……手にグローブを嵌めてる訳でも無いから本当に素手である。



「レベル差があるから大丈夫よ。ルフィスは敵が弱い内からやっておきなさい。一縷君も同じよ! 弱い内にやっおきなさいな」



 正論……というか、基本方針として戦闘に関しては詩葉さんの指示は絶対である。だから、素手で戦い慣れておくというのも格闘を教えて貰う上で必要なのだろうと、受け取っておく。



「一縷さんもルフィスさんも大変なのですね~リコルさん、荷物は重たく無いですか~? 加護を与えてあげますね~……はい!」


「あ、ありがとうございます聖女様……」



 ◇◇



 一階層を下に降りる階段を探しながら探索し、モンスターを見付けたら俺かルフィスが倒しに走る。虫系じゃないから俺とルフィスの動きは至ってスムーズである。



「はああああ!!」


「えいっ!」



 一階層には狼型だけではなく、ゴブリンも居た。ステータスという恩恵のゴリ押しで蹴りをメインに戦っていた。イメージは前に詩葉さんに蹴られた時だが、まだ力を足先に上手く伝えられて無い感じだ。多分、体重移動やバランスの問題だろうとは思っている。


 殴る時はモロに感覚があるからこれにも慣れないとな……。ルフィスも掛け声に似合わない威力を出していて、敵が弱いからだろうけど……当たり所によっては一撃で倒していた。



「一縷さーん、階段ありましたよ……って、違いました! よく見ると坂ですよ、これ! このダンジョンはこういうタイプなのでしょうか?」


「ホントだ……それにしても結構歩いたなぁ」


「このダンジョンは円柱型よ。どの階層も同じ広さになっているらしいわ。さて、降りましょうか」



 俺達はゆっくりとカーブしている坂を下って、二階層へとやって来た。先ほど詩葉さんに聞いた話だと、十階層を越えてからが特殊エリアになっているらしい。



「さ、サクサク進みますか!」


「ん? ……来るわね。皆、ちょっと離れるわよ」



 何かを察知した詩葉さんが二階層と一階層を繋ぐ坂から離れる様に指示を出して来た。


 その指示に従い、少し離れた所に来ると足音が聞こえ始めた。パーティー単位ではなく、もっと沢山の足音である。



「はぁ……毎日毎日移動が面倒だよなぁ~」

「ホント、泊まりは何故か許可が無いと駄目だしよ。今回も久しぶりの許可だよな?」


「はぁ……ついに髪がパサパサして来たのよね」

「うちも~ほんっと最悪だわ」



 ゾロゾロと降りてきたのは勇者御一行。つまり、クラスメイトである。それぞれ良い装備を携え、纏まって移動している。その後には騎士の格好をした者達が何人か付き添っている。和気藹々(わきあいあい)とまではいかないが、話しているのは勇者達だけで騎士達は一切話していない。まるで……監視でもされているかの様だ。



「あれが帝国の勇者様ですか……やはり、人数が違いますね」


「ルフィス、ちゃんとローブを被っておけよ」



 俺も詩葉さんも顔の一部……というか眼帯をしているし、きっと大丈夫だろう。この世界に黒髪が居ないという訳では無いからな。



「おいおーい、二階層に居るって事は初心者冒険者かぁー? 早く俺達みたいに強くなれるといいなぁ? 頑張れよー」

「おいおい、リアルハーレムかよ! ちっ、クソッタレめ!」


「あんな、小さい子までダンジョンに連れて来るなんて……ホントにヤバい世界よね?」

「うっわ、男の奴と目が合った! 怖い怖い」



 完全に冷やかしだな。まぁ、勇者だし多少はそういった気持ちになるか……やれやれ。



「チャンスがあったら殴ろう。特に最後の女子」


「そうね、今の男子は……覚えるのも面倒ね。とりあえず全員をターゲットにしましょうか」


「二人共! どうして、すぐそういう考えになるのですかっ!」



 なに、とても簡単な事だ。



「「調子に乗ってるから!」」



 流石に今すぐ行動に移せる訳じゃないから機会があれば……な。



 勇者達を見送った後に俺達はまた探索を開始し始めた。と言ってもモンスターを倒して素材を集めてまた進む……その繰り返しである。


 ダンジョンは広いが冒険者も多く、勇者の言う事も間違ってはおらず、ここ等の階層にいる冒険者のほとんどは初心者だ。だから近くを通って邪魔したと思われる事を避ける為に、仕方なく迂回を余儀無くされる事が結構な頻度であった。


 聖女の加護も初心者に与えると成長の邪魔になるし、まだ稼ぎも無いという理由で出番がなかった。聖女が今、何をしているかと言うと……。



「リコルさん、見ててください~ルフィスさんの真似しますね~『えいっ』」


「わぁ! 凄いです聖女様!」



 完全に暇をしていた。それにリコルを付き合わせ、接待の様な感じになっている。だが、地味に声が似ているのは素直に凄いと思うけど。



「聖女、暇なのは分かるけどうろちょろしないでね? 迷子になったら置いていくわよ?」


「私が迷子になったら~リコルさんも一緒ですよ~?」



 流石、教会で揉まれていただけあって返し……少しの脅迫を含んでの返しが上手い。つまり……めちゃくちゃ厄介なタイプだ。普段はふわふわしてるクセに、こういう所は(したた)かなんだよなぁ。



「一縷さん、前に二匹です! 右は私が」


「あいよっ!」



 戦いがメインじゃない聖女やリコルからしたら少し退屈かもしれないな……少しだけ進むペースでもあげるかな?



 ◇◇◇



 ペースを上げて進んで三階層までやって来た。ペースを上げたと言っても移動だけではなく、倒す速度も上げている。モンスターとあったらすぐに倒す。無視するという選択肢は無かった。



 ダンジョンの下へ進む階段や坂は、日毎にランダムらしい。今までは特に意識していなかったが、何回も潜る人達にとっては面倒でしか無いだろうな。ダンジョンにも慣れている落ち着きのある冒険者ならともかく、若者なら愚痴を溢したりするだろうな。勇者であったら尚更に。



「ちっ、今日はこっちかよ! 全然統計を取ってる意味ねーなぁー!」

「ほんっとだぜ……時間のロスがなぁ、雑魚敵ばっかり倒してもしょーがねーっての」


「もぅ、歩くの飽きたー休憩しようよ~」

「休憩は五階層毎にでしょ」



 まさかの俺達の方が少しだけ早く到着してしまい、また少し離れた所で待機している。勇者と別の方向に行ったから運によってはあり得る事ではあるがな……気まずぅ。



「おい、あれ見ろよ! ここ二階層じゃねーの? デジャビュだよデジャビュ! くっそ面白いな」



 面白いのはお前だ。俺達より遅い事に気付かない所とか最高に笑える。……俺が言うのもなんだが、ダンジョンで能天気過ぎないか?



「女の子のレベル高くねーか? 冒険者の女ってゴツゴツしてるかぶりっ子みたいな魔法使いキャラしか居ねーと思ってたけど」

「おーい、姉ちゃん達、俺達について来ない? 楽させてあげるよぉ~?」


「男子うるさいわよっ、さっさと進みなさいよね」

「余計な事して連帯責任になったらどうするのよ! そんなの嫌よ?」



 うむ、確かに女冒険者ってパーティーのリーダーと付き合ってる様な魔法職かゴリゴリの姉御って感じの人のイメージはある。だが、特徴的な女冒険者より普通な感じの奴等の方が圧倒的に多い。当然だけど。


 今の会話で、冒険者と接触する機会が少ないのが窺えるな。あと、何やら罰的なのがあるっぽいのも。



「……やはり足りないわね?」


「足りない? 実力的な何かが?」



 詩葉さんが静かに首を振った。違うのか……じゃあ何だろう?



「実力も足りてないのはステータスを見れば解るのだけど、人数よ、人数! 全員で来ているとしたら五人足りないわね」


「……不吉な事を思い浮かべたが、違うと信じたい」



 帝国にいる勇者の数を知ってたのは別に『詩葉さんだから』で、納得できる。が、足りないと聞くと少し不安になるな。



「あの様子からすると、()()()()()()訳では無いでしょう。一縷君の心配は杞憂だと思うわよ?」


「そう……だよな。あんな明るくは振る舞えないか。その五人は特別枠か、生産系だと思っておこうかね」



 俺達はまたしても勇者が進んだ方向とは別の方に進みだした。複数のゴブリンや複数の狼は厄介だが、後を取られない事を意識して力任せに殴ったり蹴ったりしていく。囲まれた時は槍よりも小回りが可能だが、敵との距離は近くなる分だけ怖さは増している。早く慣れないといけないが、ゴブリンの顔とか怖いし、牙を使ってくる狼が相手の時はもっと怖い。



「アッパー! アッパー! アッパー!!」


「えいっ! えいっ! えいっ!」



 狼が噛み付く為に飛び掛かって来るのをひたすら下から殴りあげる。ルフィスは逆に上から叩き潰す。この時に気を付けなければいけないのは真正面から迎え撃たない事である。少し横に避けながら打たないと、殴りミスした時に飛び付かれた勢いで体当たりを喰らってしまう事になる。このタイミングが中々に難しいのだ……。



「まだ、一撃一殺出来るな。詩葉さん、雷魔法使って良い?」


「……まだ駄目よ、せめて一撃で倒せない耐久力を持つ敵からにしなさい」



 しゅん……として詩葉さんを見てみるが、完全にこっちの思考を読まれているのか睨まれた。ちっ、優しいが甘くないな! 本当に!



「えいっ! えいっ! ……あっ、リコルさん見てください、凄いですよ~杖術スキルが取れました~」


「えぇ!? 聖女様のステータスは見えませんが……本当ですか? 詩葉姉! 詩葉姉!」



 リコルが呼んだのは詩葉さんだけだけど、珍しくリコルが呼ぶから皆で行ってみた。何やら聖女が杖術を取得したとか言い出したらしい。ただ、ルフィスの真似をして素振りをしていただけ……だよな?



「……嘘、じゃないわね」


「えぇ~!? 私の努力が素振りに負けたのですかぁ!?」



 あり得ない事ではない。才能があればすぐにスキルとしてステータスに表れる世界だ。ルフィスも杖術は上がってるし、努力が足りないって訳では無い。これはただ、聖女に杖術の才能があっただけという話だ。建前上は……であるが。ルフィスは少し悔しいだろうな。



「ルフィス、スキルとしてあってもそれ以外の部分にも大事なモノがあると前に教えたでしょう? 悔しがってる暇なんて無いわよ、一縷君をみなさい。槍も雷魔法もスキルとしては何も無かったのだから……ね?」


「は、はい……そうですよね! 一縷さんの様に才能が無くても頑張らないとですよねっ!」


「うん……引き合いに出すのは構わないけど、予想外の貶され方したよね? 今。悪気が無いのは伝わってくるんだけどね?」



 途中までいい話っぽかったから聞き逃しそうだったけど、しっかりと拾えた。ルフィスのやる気に満ちた顔で言ってたからそのまま流しそうになったけど。



「まぁ~私は聖女ですから生きてる者は例え魔物であっても殺しません~死霊は別ですが~」


「ごめんねお兄ちゃん、ルフィス姉、止めちゃって」


「構わないよ、じゃあ再開しようか。ダンジョンのレベル自体は変わらないと確定するとしたら、とっとと先に進んだ方が良いしね」



『ぐぅ~』そんな音が聞こえて来て、ルフィスが手を上げた。という事はそろそろお昼か。便利な時計である。この世界だど立派な特技と言って良い。



「意外な事に、よく食べる聖女は腹の虫が鳴かないんだよなぁ……そうだな、そろそろお昼休憩にしようか」


「とりあえず行き止まりを探してそこでご飯にしましょうか」



 俺達が移動し始めて、歩いている時に下へと進む坂を偶然にも発見できた。余り離れすぎると面倒だと意見が一致して、少し離れた場所で調理をスタートさせた。



「『弱電撃』……一、二、三…………十。うん、まだまだ余裕があるな」


「継続時間ですか?」



 ルフィスの『火の砲弾(ファイアーボール)』の様な、魔方陣から飛んで行く系統には無いモノだ。『弱電撃』や水を出す魔法は、魔方陣からそのまま伸びるイメージである。つまり、魔力を注ぎ続ける事が出来れば長く発動出来るという事だ。


 これなら倒せないとしても、痺れさせる事が可能だが……魔力が多いからの方法で普通はこんな事をしない。上位の魔法を使えば良い話だからな。



「これなら、魔法に抵抗力ある奴にも嫌がらせ程度の事は出来るんじゃないかと思ってね」


「うぅ……確かにやられる方は嫌がるでしょうね。ずっと痺れてる感覚ですもの……流石は一縷さんです。でも、何でそんな事を今?」



 何が流石なのかは今は置いておこうか。今、継続時間を計っているのは単純に暇だからだ。何なら槍を振ってもいいし、いっその事、何にもしなくてもいい程に暇である。



「娯楽が無い。ルフィス、魔方で曲芸とか出来ないのか?」


「そうですね……詩葉さんに教わったのなら出来ますけど、見ますか?」



 是非是非! あるなら是非とも見せて頂きたいね。



「では、いきますよ……」



 ルフィスが小さな声で何かを唱えている。だいぶ早口だ。一体何が起こるというんだ……?


 ルフィスの目の前に、魔方陣が浮かぶ。浮かぶ浮かぶ浮かぶ浮かぶ浮かぶ浮かぶ浮かぶ浮かぶ――大量に浮かぶ。


 その光景は壮大で、今から何かとんでもない事が起こるんじゃ無いかと彷彿させる。だが……単純に綺麗だ。魔方陣の幾何学的な模様が光ながら大量に浮かぶ光景を現実的に見られるとは思わなかった。


 詩葉さん……やはり、半端じゃ無い。こんな事を覚えさせるとはな、尊敬の念すら覚えるよ。



「一縷さん一縷さん! 早く、早く消してください!! 出る……出ちゃいますよぉ!」


「えぇ!? 俺任せかよ! 『デリート』『デリート』『デリート』くっそ……ルフィス! とりあえず上に向けろっ!」



 魔方陣の一部を消して回るが追い付かない!! 纏めて消すしか方法が無いっ!



「消滅魔法『ロスト』」



 一瞬先までルフィスの少し上空にあった魔方陣が跡形も無く消えた。そして、俺のMPもかなりの量が消えていた。



「その曲芸……暇な時にやるのは禁止な? ボス戦とかでやってくれ……」



 それならかなり強力な技だろう。ルフィスの魔力から考えて、最弱の魔法だったのだろうが……それでも数の暴力というものがある。



「ルフィス、中々良かったわよ」


「はいっ! 詩葉さんの発想には感動してばかりですよ!」


「ルフィス姉凄い!」


「一縷さんが居なかったら大変でしたね~」



 全くだよ……ん? この足音は?



「何か良い匂いしね?」

「するする! どこぞの冒険者か? ならもう昼かぁ」


「今回は全然進めて無いじゃないの! そんな事より早く目的地まで行きましょうよ!」

「何故か今回は逆ばっかりに行っちゃうのよね? いつもなら右だけど逆! って進んだら右で良かったり」



 また来たよ……本当に今日は運が悪いんだな? それとも内に聖女がいるから運的な要素を吸いとっちゃったのかもな。ザマァ……だな。



「おい、またアイツ等だぞ?」

「初心者のビギナーズラックか?」


「ほら、せっかく見付けたらのだから先に行きましょうよ!」

「でも、私もお腹すいたなぁ」



 手に注目すると、やはり指輪を着けている。あれをどうにか手に……はっ! これは盗賊の考え方だな。危ない危ない。殴るまでに留めておかないと!



 ◇◇



「ご馳走さまでした」


「はい。じゃあ、もう少ししたら先に進みましょうか。この調子なら九階層まであっさり進んで良いかもしれないわね」


「ですね! 問題は十階層から先みたいですから……そこまではサクッと行っちゃいましょう!」



 俺達は聖女の祈りが終わるのを待ってから再出発をした。先程の宣言通りにサクサクと進んで行く。モンスターは探さず、出会ったら倒すスタイルへと変更した。それでも、ダンジョン自体が広いから割りと頻繁に遭遇する。


 それでも順調に進んで行き、ルフィスのお腹がまた鳴る頃には九階層へと辿り着いていた。あれから勇者たちとは遭遇していない。まぁ、先に行ったのだろうと考えて、俺達は野営の準備をする為に場所を探しに動き出した。



「リコル、まだ歩けるか?」


「はい、まだまだ行けますよっ!」



 あら、いつの間にか頼もしくなっちゃって……となりでお腹をグーグー鳴らしているルフィスとは大違いだな。



「あそこを今日の泊まる場所にしましょう。私とリコルで食事の準備に取り掛かるから、他の三人はテントの準備をしておいて」


「了解……って、テントと寝袋二つだよな? リコルと誰かが寝袋か?」


「それなら私とリコルちゃんが一緒に寝ますよ!」



 俺がもう一つの寝袋で、聖女と詩葉さんがテントか。どんな会話が繰り出されるのか気になる所だな。


 詩葉さんが土の壁を作り出して、準備に取り掛かった。



「詩葉姉、今日のご飯は?」


「……肉と野菜の炒め物よ」



「一縷さん、釘を打ち込んでくださーい」


「はいよっ! 聖女、もう少しだけ引っ張ってくれ」


「分かりました~」



 皆で手分けして作業を進める。テントの方が先に終わって、俺とルフィスは待機して聖女は祈りの時間だ。


 良い匂いが漂い始めて、ルフィスのお腹の虫も騒ぎだす。



「お待たせ。さ、食べましょうか」


「待ってましたっ!」



 皆で一斉に食べ始める。ルフィスもいくらお腹が空いているとはいえ、流石に行儀悪く食べたりはしない。聖女も行儀は良い。だが、この二人が食べ終わるのが早く、当然の様にお代わりをしていた。



「聖女、ダンジョンはどうだった?」


「することが無いと退屈ですね~逃げたりもしませんでしたし~」



 もっと先にいけば、聖女が加護を与える仕事も増えるだろうけど……上の階層だとこんなもんだろうな。明日のボス戦の前に掛けてくれと頼む人が居るか、居ないかぐらいの感じだ。


 居たら居たで、その人達がボスを倒しきるのを待たなければならないから時間は喰うだろうな。順番は守らないと後々に面倒に繋がる事があるらしいし。


 

「もうちょっと進めば仕事はあるよ、稼いでくれな」


「はい~。ご馳走さまでした」



 皆が食べ終わった後は、仕切りを作っての身体を拭く時間とトイレ等だ。


 ダンジョンだから恥ずかしさとかは捨てないとな……慣れてしまえば女性は逞しいものだと、ダンジョンで知ったよ。


 今日は久しぶりのダンジョンだったが……肉体的な疲れはあまり無い。敵が弱かったからな。それよりも勇者である……奴隷の様に扱われてる訳じゃないし、心配はあったが、放っておいてもよさそうだな。指輪と腕輪がシャレた感じだったし。



「という事は……王国に居るかどうか確かめられたら、中学からの付き合いがある奴等は巻き込まれて無いという事だな」



 王国は帝国よりはマシらしいし、ここであの程度なら良さそうだな。



「さっ、ダンジョンで寝不足は命取りだし……寝るか」



 寝袋に入った俺は朝までぐっすりと眠りについた。

誤字脱字がありましたら報告お願いします!

(´ω`)


来週こそ、十八話に繋がる?

(前話も似たような事言った)

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