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第23話 街に着くという事は in 異世界

お待たせしました!

よろしくお願いします!

 


 街並みは……綺麗だ。だが、衛兵の数、冒険者の数がパッと見ただけで分かるくらいに多い。流石は武に力を入れているだけはある。



「ルフィス、街中でローブは外すなよ?」


「分かってますよ……私の事を知る貴族がこの辺に居ないとも限りませんしね」



 帝国で気を付けなければならない事の一つがルフィスの事だろう。二大国に始末されようとしていたルフィスを助け偽装工作までしたが、生きてるとバレるのは厄介だ。偽装工作とはいえ、暗殺者も殺してしまっているし……疑いを持って調べている者が居ないとは言えないだろう。



「じゃあ、宿を探しに行きましょうか。そしたら明日からやる事についての話し合いよ」


「ここが帝国なのですね~凄いですね~。この国の聖女にお目に掛かりたいです~」



 運転は引き続きリコルに任せて、ゆっくりと幅の広い道を真っ直ぐ進んで行く。通り過ぎる店を確認してみると、宿屋は幾つか在る。在るのだが……どうにもこの馬車を置けるような店では無いみたいだ。


 前みたいに、馬車だけは別の場所に預けるという手もあるが、お金も一応は持ってる……という事で少し高めでも管理してくれる宿を探す事になっていた。



「この時間だとやはり、埋まってる所が多いですねぇ~」


「だな。今日は予定を変更して、普通の宿にした方が良いかもな?」


「……そうね。また明日探せばいいかしら」



 とは、言うもののまだ宿を全て回りきった訳でも無いし、馬を預かってくれるお店に向かう間も訪ねながら進んでいった。


 条件はクリアしていても部屋が一部屋しか無かったり、部屋はあるが、馬小屋の方がいっぱいだったりと……中々上手くいかない。外は夕方から夜に移り変わろうとしていた。



 ◇◇



「はいよ、明日また取りに来るんだね。この札を無くさないようにするんだよ?」


「はい、じゃあ……お願いします」



 俺達は馬を預けに来ていた。流石に真っ暗になる前に宿を決めておきたかったからな。今日一日だけ預けて、また明日取りに来てから行動する予定だ。



「宿に行く? それとも先に飯にする?」


「お腹空いた人~? ……先にご飯にしましょうか」



 詩葉さんの問い掛けに、詩葉さん以外の全員が手を上げた事により、先にご飯に決定した。飲食店が多く集まっている所に行くと、食堂の様な所から少し奥に進めばお上品なお店まで、結構な数のお店が立ち並んでいた。



「何か食べたい物とかあるかしら?」


「私はお肉がいいですっ!」


「私も! お肉! お肉!」


「私は~少量で良いので、美味しいワインが飲みたいですね~」


「何でも良いぞ?」



 実に日本人らしい答えをしたけど、本当に何でも良いというか……未だにメニューを見て料理がピンと来ない。海外のレストランに来たみたいな感じだ。日本にあるレストランならまだ内容が分かるようになっている物があるけど……まぁ、海外というか異世界だから仕方ないんだけど。



「じゃあ、大衆食堂で良いかしら? 街の人の話も盗み聞き出来るかもしれないしね」


「なるほどね、じゃあ行こうか」



 食堂に入ると、クエスト帰りなのか、景気良く酒に料理に沢山注文しているパーティーや、中高年から若者まで食事をしていた。結構な広さの店で人も多い所を見ると、人気店なのだろう。



「いらっしゃい! 空いてる席に座ってておくれ!」

「「いらっしゃいませー」」



 恰幅の良いおばちゃんと若い子が給紙している。冒険者の男達は若い子に視線を持っていかれている。たぶん、尻や胸を見てるなあれは。



「痛たたたた!? な、何でつねったの……いや、何でも無いです……はい」


「さ、座って何か食べましょう」



 チラッと見ただけじゃんか……。



「わぁ~種類も豊富ですね! リコルちゃんは何にしますか?」


「ルフィス姉とおんなじのが良い!」



 ルフィスの顔が綻んだ。気持ちは良く分かる。リコルに一緒が良いなんて言われたら何か嬉しいんだよなぁ。



「一縷君は何にするのかしら?」


「うーん……じゃあ、詩葉さんと同じ物で!」



 詩葉さんの顔は綻ばない。いや……何となく分かってはいたけどさ、そこまで真顔になる必要も無いと思うんだよね。言った俺が恥ずかしくなってくるから。



「駄目よ」


「だ、駄目? そうですかい……」



 何か変な料理を頼まれるくらいは覚悟していたが……まさか駄目とまで言われるとは予想して無かった。ちょっと凹む。



「駄目よ。同じ料理だとしたら、お互いに『一口あげる』ってのが出来ないじゃない……ね?」


「あっ、うん! そうだったね……ははは」



 前言撤回。何か嬉しい。



「タロウさん、タロウさん……何人分食べて良いのでしょうか?」


「一人分……せめて二人分だ。せい……お前が食いしん坊なのは分かったけど、食い過ぎるとすぐに動けなくなるからな」



 凄い悲しそうな顔を向けてくるが、普通に二人分だって食べ過ぎだろう……どんだけ食べるつもりだったんだ聖女は。恐ろしい胃袋である。



 “おい、最近のダンジョンはよぉ……”

 “あぁ……いくら勇者だからってなぁ”



 俺は詩葉さんと目を合わせて、少し聞こえづらいが冒険者達の会話に注意を向けた。料理の注文はルフィスに任せて。



 “階層を封じられたら通れやしねぇ……下の階層に潜りたい奴等も不満が溜まってきてるぜ?”

 “朝早くから動かねぇといけねぇからなぁ……さっさと下層にまで行ってくれればもうちっとは楽なんだがな”



 勇者のレベルに合った階層を占領してるのか? 皇帝からの指示だとしたら一冒険者にはどうする事も出来ないだろうし、そりゃ不満も出るか。



 “でもよ、異世界の女には興味があるよな? どんな味なんだか”

 “まぁな! でも、近付けねぇからな……。魔王が復活したらあの子供等に託すしかねぇとはなぁ~何だかなぁ”



 託す……か。確かに恵まれた加護を与えられているが勝てる保証なんて物は無いんだよな。詩葉さんだって封印が精一杯だったらしいし。



 “城とダンジョンの行き来だけで可哀想でもあるよな? 俺があいつ等くらい若い頃なんて悪ふざけばっかりだったぜ?”

 “それは確かにな。パレード見たいに姿を見せてくれれば良いんだけど、馬車の送り迎えでそれも無いしな”



 街を散策したりしていないのか……毎日ダンジョンに潜ってばっかりなら流石に退屈だろう。でも、レベルは高くなってるかも知れな……あれ? でも下層に潜ってないらしいし、どうなんだろ?


 そこからは雑談へと戻ってしまった為に盗み聞きも切り上げた。結構良い情報が手に入ったし、この店を選んで正解だったな。



「はい、お待たせ! 皆が肉料理とは……野菜も摂らないと駄目だよ! これ、サービスしておくから食べるんだよ!」


「あ、すいません。ありがとうございます」



 サラダのサービスをして貰ってしまった……まぁ、肉だけだと栄養が偏るし助かった。というか、ルフィス……意図してサラダを避けたな?



「「いただきます」」


「「全ての食材に感謝を」」


「………………」



 俺と詩葉さんはお馴染みの言葉を、ルフィスとリコルはこの世界ではお馴染みの言葉を、聖女はガチの祈りを捧げる。流石に聖女のは少し長い為、先に食べて良いと言われていた。



「……美味しい」


「確かに値段が安いから期待はしていなかったけど中々ね」



 外食なんて冒険者や余所者や独り者くらいしかしないだろう。だから、安くてガッツリ食べられるこの店は繁盛してるのだろうな。リピーターも多そうだ。



 ◇



「「「「ごちそうさまでした」」」」



 食べ終わった後の言葉は無いみたいだが、ルフィスとリコルは俺達の真似をする様になった。作ってくれた人への感謝だと教えたら、うちのパーティーでは詩葉さんが主に作るから……いつの間にか言う様になっていた。


 聖女は何故か俺達より先に食べ終えて、祈っていたからもうすぐ終わるだろう。



「あー、空いてる宿を見付けないとだな」


「そうね。明日からの話し合いもしたいし……祈り(これ)が終わったら行きましょうか」



「お待たせしました~」



 ようやく聖女の祈りが終わり、俺達は代金を支払って店を出た。もう、暗くてもそこまで寒くない時期だな……なんて思いながら宿を探しに歩きだした。



「お兄さんお兄さん、ちょいとそこのお兄さん? そんなに女の子を侍らしているなら、私も買わないかい?」


「すいません、お金無いんで無理ですね」



 おっと、失言だ。これじゃ、お金が有るなら買うと言ってる様なモノだな。一番簡単な言い訳だと思って口にしただけなんだが……もっと落ち着いて考えてから発言しないと駄目だな俺は。



「すいません、では……」



 客引きから離れて一息つく。大きな街だけあって、夜になるとああいう女性も現れるんだな……宿屋の近くにも。お店じゃなくて、宿屋直行コースのサービスなのだろうか……。



「これは、一縷君のお小遣いはカットかしらね?」


「そうです! 一縷さんにお金を持たせるのは良く無いと思うです!」


「まっ……ちょっと待って! それは流石に無しで! 大丈夫だから、何にも心配いらないから!」



 というか、そんなお店に行く時間が確保出来るだろうか……夜中にしか出来ないけど、いや、行かない行かない! 話題を変えよう、圧倒的に不利だからな。



「あ、ほら……ここら辺の宿屋とか良いんじゃない? 外観は綺麗だしさ!」


「一縷さんは分かり易いですね~」


「お兄ちゃん……私は心配だよ?」



 すまんよ、リコル。お兄ちゃんが情けないばかりに……でも、お兄ちゃんは男子高校生だから誘惑には弱いよ? 一人だったらさっきの誘いにもついて行っていたかもしれないよ?



「リコル、心配は要らないわよ。そういうお店に行ったら……お店を消すわ。一縷君もボコボコね……ボコボコよ?」



 何て破壊力のある笑顔だろうか。可愛さの裏に殺意しか無い。マジでやる顔をしてらっしゃる……。



「うん、絶対に行かない」



 回復魔法持ちの強者とバトルとか怖い。もはや拷問だしな……女性関係は気を付けよう。




 ◇◇◇



「はい、一人部屋と四人で入れる部屋でございますね。えっと……はい、大丈夫でございます。一人部屋は銀貨一枚、五人部屋になりますが、こちらは銀貨四枚となっております」



 一泊千円くらいか……俺の感覚からすると安いと感じるが、相場は一泊銅貨四、五枚だからちょっと良い宿だ。もし俺が女なら、五人部屋一つで銀貨四枚で済んだけど、こればっかりは仕方ないからな。



「それで構わないわ。一泊だけよろしく頼むわね」


「かしこまりました。銀貨五枚となります……はい、確かに。ではお部屋に案内致します」



 四人部屋の方が近いらしく、そちらから案内して貰った。部屋は広く清潔感がある。扉も内側から鍵では無いが、木の筒? 木の棒? を引っ掛けて開かなくする様に出来るみたいだ。



「では、次にお一人様の部屋を案内させて頂きます」


「私が一縷君と部屋の場所を確認してくるから先に休んでて、すぐに戻ってくるわ」


「分かりました! ふぅ……やっと心休まりますねぇ~」



 俺と詩葉さんは部屋を出て、一人部屋に案内して貰った。一人部屋は階が一つ上だが、階段の近くだったから覚え易いな。中は五人部屋を縮小させた感じである。



「申し訳ありませんが壁の方があまり分厚く無いものですから……“音”にはご注意くださいませ。では、失礼いたします」


「……あ、はい」



 そういう客が多いからか、謎の忠告をされた。ちょっと気まずいんですけど……まだそんな感じでも無いからとりあえず聞き流しておこう。



「……皆の所に戻りましょうか」


「……そうだな」



 ちょっと目を合わせづらくなりながら、詩葉さん達の部屋へと戻って来た。



「お帰り! 詩葉姉、お兄ちゃん」


「ただいま。じゃあ、明日からの予定を話しましょうか」



 俺達は輪になって話し合いを始めた。



「明日はまだダンジョンに潜らないから、とりあえず役割分担から始めましょうか。……まずは情報集めね。これはギルドに行くのが早いと思うから私が行くわ。次に買い物だけど……これはリコルとルフィスに任せるわ」


「分かりましたけど……ダンジョンに潜る時の食材ですよね? 何日分を買いますか? 聖女様が沢山召し上がられるのでそこも加味しなければ……」



 ダンジョンに潜るとしても最初は敵の確認をして進むだろう。でも、弱いモンスターなら無視して進むかもしれない。



「とりあえず十階層のボスを倒したら戻って来る予定だから……そうね、多目に五日分くらいあればいいでしょうね。ルフィス、お肉ばかり買っちゃ駄目よ? 野菜もちゃんと摂らなきゃね」


「わ、分かってますよ……」


「私がちゃんと選んでくるね!」



 よし、リコルがいるなら大丈夫だろう。いつも詩葉さんの料理の手伝いをしている事もあるからな。



「一縷君は聖女を連れて、聖女の武器と防具を揃えてちょうだい。武器は回復役的な杖……ルフィスのと違って硬い杖じゃなくていいわ、少し装飾のある杖でお願い。防具は、そうね……全身を包むローブ姿か、如何にもって格好をさせておいて。聖女の意見と合わせながら買って来てちょうだい」


「了解です」


「ありがとうございます~。洋服だけではなく武器まで頂けるとは~感激です~」



 武器屋と防具屋を幾つか巡るか。俺の想像する如何にもっぽい姿がこの世界では目立ったり、浮く可能性があるから……そこは聖女と相談していくか。俺に女の子が気に入るデザインとから分かんないしな……。



「あと、この国で注意する事ね。勇者に捕まらない事。聞く所によれば、城からダンジョンまで馬車での移動らしいから街中じゃなくて、ダンジョンでの話ね」


「勇者の成長に合わせてダンジョンの階層をまるごと一つ占領するらしいから、そこも注意らしいよ? まぁ……どこまで進んでるか知らないけど、二ヶ月も潜ってるなら流石に上の方には居ないと思うけどね」



 下層でも無さそうだから……たぶん、中層の下くらいだろうな。



「分かりました。覚えておきますね!」


「詩葉姉、勇者様の見分けはつくの?」


「大丈夫よ。どうせ、お付きの人が居るでしょうし……帝国のやり方なら勇者に脱走されない様な仕掛けをしているでしょうし」



 脱走出来ない仕掛けか……それを考えるなら、俺達は幸運だったかもな。逃げられない様に管理されながら成長するのは精神的にキツそうだ。



「では、話は終わりよ。一縷君……明日はこのお金で買って。ルフィ……リコル、このお金で買ってね」


「詩葉さん!? 今のはどういう事ですかね!? 私だって傷付くんですよっ!」



 ルフィスには申し訳無いが……財布を持たせると買い食いとかしそうだし。少しなら良いかもしれないが、次々に食べ歩きそうだしな。



「ルフィス、お前と聖女に財布を持たせると使いすぎるだろ? 理由は自分の胃袋に聞くように」


「それってもう言ってますよね!? うぅ~ですが……否定出来ないのですよぉ……」



 聖女は……空空(うつらうつら)している。さっきご飯を食べたから満腹? で、次は眠気が来たのだろう。ホント、自由だなぁ。



「んじゃ、俺は部屋に戻るな。詩葉さん、明日の朝にまだ起きてなかったら悪いけど起こして」


「了解よ。お休みなさい一縷君」



 部屋を出てから、さっき案内された一人部屋に戻る途中の階段を上りきる手前で、隣の部屋に男性と先ほど外で俺に声を掛けて来た女の人が入っていくのが見えた。


 やはり、買う人は居るんだな~なんて思いながら、俺も自分の部屋へと入っていった。


 ――そして、部屋の壁の薄さを体感する事となった。



「くそっ、隣の部屋から更に隣の隣なら聞こえなかっただろうが……ミュートで消しとくか? それとも二つ隣の部屋に居る人と協力しようかな? いや、別に特に突入しようと思ってる訳じゃないが……」



 俺は何かモヤモヤする気持ちを持ちながら、うるさい部屋を通り越して二つ隣の部屋の扉をノックした。



「あっ、はい……どちら様?」


「えっ……あ、その」



 女の子だったぁぁぁぁぁぁ!! やっべぇ……一人で泊まってるからおっさんかなぁ~? 一緒に隣の情事でも覗いてやろうかなぁ~なんて考えてたのに……どうしよう。顔が赤いし……一応、隣の部屋のアレは聞こえていたんだろうな。



「あの、その……僕は隣の隣の部屋に泊まってまして……その、隣のアレはこっちでも聞こえているのかなぁ~と思いまして……ですね…………その、すいません! 失礼しました!」



 あぁ、帰ろう。自分の部屋に戻って静かに寝てしまおう……。



「ちょ、ちょっと待ってください!」



 腕を掴まれた。おっ……怖いぞ? 確かに、こちらからお邪魔してしまったけど、どこかに連れて行かれるとか勘弁して欲しいんだけど?



「あ、あ、あの! こんな事言うのも何ですけど……と、とと隣のヤツを何とか覗く方法は無いでしょうか!?」



 俺は帰る為に振り返った体を戻し、話を聞くことにした。何か、同志(なかま)が出来そうな予感がしたからだ。



「お邪魔させて貰うよ……そして、ここからは小声で。隣を覗く方法って言ったね? …………あるぞ」


「ほ、本当ですか!? す、すいません……声が大きかったですね。それで、その方法とは?」



 簡単な事だ。目立たない所に穴を開ければ良いだけである。俺なら音もなく開けられるからな。



「あぁ、その前に何故……覗きたいか聞かせて貰ってもいいか?」


「それは……その、単純な事です。興味が……興味があるんです! 見たいんです! け、経験とか無いですから気になるんです!」



 ふっ……分かるよ、その気持ち。その上、この世界にはネットが無い。俺の世界ならネットで探して変なサイトを踏む所までがセットだが……いや、それは良いか。



「分かった。君はこの部屋から覗く、俺は俺の部屋から覗く。俺達は志を同じくする者だ……任せておけ」


「は、はい!」



 俺は高さや角度を確認するためにも、まずは目立たない所へと小さく穴を開けた。



「お、おぉ……」


「ど、どどどうですか!?」



 み、見える……この世の神秘が。この位置で正解かもしれない。



「ほ、ほら……見てみろ……」


「はい……あっ……えっ……そ、そんな……あんな……」



 俺はこの女の子にあまり声を出さない様に忠告をしてから、自分の部屋に戻って来た。宿の人には申し訳無いが、二つ目の穴を開けさせてもらい……隣の部屋の声が鳴りを潜めるまで見させて貰った。ごちそうさまでした。



 ――そのせいで翌朝、部屋の扉をロックし忘れた事も含めて詩葉さんに叩き起こされ怒られる結果になったのだが……まぁ、それも良しとしようじゃないか。



 ◇◇◇



「ふふふ~人が沢山居ますね~」


「ですね、街の案内を見るとあっちの方みたいですよ? はぐれない様に隣に居てくださいね?」



 昨日の予定通りに聖女と装備の買い物へと向かっていた。道が広いとはいえ、馬車は通るし、人も多い。大国の首都だし当然かもしれないけど。


 大通りを通り、道なりに曲がったりして進んで行くと冒険者の割合が増えてきた。もうすぐで目的地だと思われる。聖女が服や武器をすぐに選んでくれたなら、後は休憩というか遊んでも構わないだろうな。


 聖女が迷子にならない為だろうか、俺の服の裾を掴んでいる――と、思っていたのはどうやら俺だけだったようだ。



「聖女、そろそ…………ろ?」



 俺の視線の先には聖女の姿は無い。だが、裾は引っ張られている感触はある。俺は視線を下へ下へとゆっくりと下げた。



「………………?」


「お嬢ちゃん……どなた様?」



 何故か首を傾ける幼女がそこには居た。

 称号の『幼女キラー』。お前は迷子幼女ホイホイなのか? と、心の中でそっとツッコミを入れた。



 ◇◇



 聖女が幼女に。つまり聖幼女……なんか神々しい。こんなくだらない事を考えるくらいには余裕がある。何てったって三度目だからな。



「お兄ちゃんの名前はイチルと言います。君の名前は?」


「…………ミミ?」



 何故に疑問系? というか、眠たそうなお顔だな。今までの幼女は泣いたり笑顔になったりと、感情の起伏が五歳ならではだったのに対して、この子は落ち着いているというか、何を考えているのか分からないレベルだ。一番難しいな。



「えっと……ミミちゃんは迷子なのかな?」


「…………うん」



 迷子か。分かってたけど。



「お母さんとのお買い物してたの?」


「…………そう」



 オーケー。少しズレたテンポにも慣れてきた。



「お兄ちゃんの近くに女の人が居たと思うんだけど……あっ、ミミちゃんじゃなくて……見てない?」


「…………知らない」



 知らないか……どのタイミングではぐれたんだ? 買い物もあるというのに……どうするかな? 買い物もしたいけど、この子をどうしようか……。



「お兄ちゃんも買い物があって、仲間の防具とか買いに来てるんだ。それをさ……すぐに終わらせるから、お母さんを探すのはその後で良いかい?」


「…………ありがとう、お兄ちゃん」



 おぉ……笑うと美人さんだな。将来は男泣かせのクール美少女となるに違いない。


 聖女はいないけど、もう勝手に選んでしまおう……なんなら女の子は居るしね! そんな気持ちで俺はまず防具屋に入って行った。



「らっしゃい! どんな防具をお求めだぁ!? うちは良い物揃ってるよぉ~」


「えっと、仲間の装備何ですけど……女性が着るローブの様な、回復役なんで後衛なんですけどね? なんか、そんなのありますか?」



 防具屋に無かったら装飾店にでも行こう。



「ローブなら横の階段から二階に上がってくれ! 俺の嫁が担当してっからよ!」


「あ、そうなんですね。行ってみます」



 大きい店だと思ったら二階でもやってんのか。でも、あるみたいで良かった。


 階段が思ったより急で狭い為、ミミちゃんは背負う事にした。はぐれない事を考えたら、このままが一番良いだろう。



「いらっしゃい! おや? 男性のお客様は珍しいね。後衛の魔法使いかい?」


「僕のじゃなくて、仲間のヤツを探してまして。女性用のやつです」



 見るとフード付きローブやスカート……沢山種類があって女性なら悩みに悩んでしまうだろう。



「その背負っている子かい? そのサイズのローブは切って調整しないといけないよ?」


「あ、いえ……この子は迷子でして、買い物終わったら親御さんを探しに行くんですよ。えっと、僕の仲間は僕の目元くらいの身長がありまして……」



 体格を大雑把に伝えて、丁度良いサイズの物を幾つか見繕って貰った。後は色だが……白、黒、赤、青、茶、紫、紺がある。どれにしようか?



「ミミちゃんは何色が好き?」


「…………黒」



 黒か、中々に攻めてるな。違うか。聖女のイメージとしては、やっぱり白とかパステルカラーの様な淡い色だが……逆に黒。良いかもしれないな。冒険者感は出るし、聖女感は薄まるし。



「じゃあ、黒でお願いします」


「良いのかい? まぁ、うちとしては買ってくれればそれで良いんだけど……」



 奥さんに代金を支払って、箱に梱包して貰ったローブをそのままマジックバッグにしまった。次は武器屋だな。


 店を出て少し歩けば、良さげな武器屋があった。今度は店主に聞かなくても良さそうな杖が集まっている所は見付けられた……店に入って右側に沢山あるからだけど。さて、問題はどの杖にするかだな。



「ミミちゃんはどれが良いと思う?」


「…………あっち」



 背負ってるミミちゃんの手が左を指差していた。視線を誘導されたその先には、樽に無造作に入っている武器達があった。あれはきっと、掘り出し物か在庫処分の商品だろう。まさか、あの中から選べと言うのか? ……自慢じゃないが、武器の良し悪しはまだ分からんぞ?



「ミミちゃん……確かにあっちの商品は安いけど、お兄ちゃん……目利きには自信無いかなぁ?」


「…………右の樽のあの槍が良い」



 ホントかなぁ……本当だとしたら何で判るんだろう? 武器屋の娘とかだったりするのか?



「分かったよ。お兄ちゃんはどうせ分かんないし、ミミちゃんの選んでくれたやつにするね。仲間もきっと喜ぶよ!」


「…………喜ぶ?」



 頷いて、ミミちゃんの選んでくれた黒い杖……百五十センチはありそうな杖を購入した。これもマジックバッグにしまっておく……たぶん、聖女が持ったら顔の半分くらいの長さになるかな?



「坊主、この街の冒険者じゃねーな?」


「えっと……そうですけど。判るものなんですか?」



 まぁ、初めて来た街だからな……見慣れてない客だろうよ。



「いや、まぁな。タイミングが悪いというか……この街の冒険者でそこそこ潜る奴は指輪をしてるんだよ、皆」


「指輪……ですか?」



 えっ? そんなファッショナブルなの? スゲーな帝国……。



「ここのダンジョンの中層からが……ちと特殊でな。方法が他に無い訳じゃないんだが、簡単な方法として指輪で解決するんだわ。だがなぁ……ただでさえ毎月の始めに届く完成品が少ねぇのによ、皇帝様の勅命で今月分が買い占められてな」


「なるほど、だからタイミングが悪い……と。何か方法とか無いんですかね?」



 必要ならば、買い揃えないといけないしな。



「まぁ、ラッカーラ王国に自分で買い付けに向かうのが一番早いかね。ここからなら順調に行けば一週間程度で辿り着けるだろうよ」


「なるほど、ラッカーラ王国から取り寄せしてる訳ですか……覚えておきます! ありがとうございました」



 貴重な情報をゲットだ。店主が良い人でラッキーだったな。



「よし、買い物は終わったから……お待たせ! ミミちゃんのお母さんを探しに行こうか! あと、ついでに俺の仲間もね!」


「…………お願い」



俺はミミちゃんを背負ったまま、大通りに向けて通って来た道を戻って行った。



今回の幼女。

私が書いているラブコメにも似たキャラが居ますが、私の好みだから仕方ないですよね!

(´ω`)

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