第22話 雷魔法と口付けと in 異世界
自分が書いているラブコメ物より、ラブコメしています!
実はこの作品が書いていて一番楽しい説。
よろしくお願いします!
夜が明けた。帝国の領土に入る直前という事で、商人や冒険者の多くが検問の前で同じく泊まる事となっており……つまり、俺達みたいな小さいパーティーは自分達の管理だけしておけば、それだけで良かった。
「おはよう、一縷君」
「あっ、起きた? おはよう詩葉さん」
太陽が少し登った頃に一番乗りで詩葉さんが起きて、交代するように俺は荷台に寝袋を設置して睡眠を取った。
――目覚めた時に思ったことは、『動いてねぇ……』だ。人数が多い弊害というか、当然なのだが……まさか検問すら通ってないとは思っていなかった。
◇◇◇
検問で簡単な荷物検査をしてから、ようやく帝国の領土に入れたのはお昼を過ぎてからだいぶ経った後であった。予定していた時間より遅れが生じてしまったが、荷物の検査も手作業で行う為に仕方ないと割り切るしかないだろう。
帝国の領土に入ってからしばらくは何も無い道をひたすら進んでいた。遠くに小さく建物が見えるが、たぶん小さめの村だろう。そこに行くにも時間が掛かりそうだ。
「暇ね。ルフィスかリコル、ちょっとこっちに来てくれるかしら?」
「なぁーに、詩葉姉?」
操縦している詩葉さんの隣に、一番近くに座っていたリコルが移動して行った。ルフィスも動こうとしたが出遅れたみたいだ。
「暇だから馬の操縦を教えるわ。こういう時じゃないと時間が取れないものね」
「えっ!? 私がお馬さんを動かすの?」
なるほど、相当に暇なようだな。だが、確かに操縦を出来る人が一人っていうよりは良いかもしれない。ただでさえ少ない人数だしな、出来るだけ皆が色んな事を出来た方がいいだろう。
「動かすと言っても、真っ直ぐなら馬に任せておけば良いのよ。止まる時や曲がる時に少し指示してあげれば大丈夫だから。……ほら、手綱を持って」
「う、うん! お馬さん……よろしくね!」
馬は賢いと聞く。今もリコルの言葉にも返事をするかの様に鳴いていた。俺みたいな奴よりも、詩葉さんやリコルの様な子に操縦して貰った方が馬もやる気になるだろう。
「ふぅー。俺は魔法の練習でもしますかね……『弱電撃』『弱電撃』『弱電撃』」
「一縷さん、まだ頑張っていたんですね……いえ、応援しますよ?」
それはどうも。と、思うが何をやっても魔方陣は出ないし……静電気程度の弱い電気も発動出来ない。難しいな……魔法って。
「ふぁ~あ。心地の良い天気ですねぇ~」
「聖女様! おはようございますっ!」
検問を通ってから暇すぎてお昼寝をしていた聖女が目を覚ました。
「あら~? いつの間にリコルさんが操縦を~? それに、一縷さんはいったい何をなさっているのですか~?」
「あぁ、ちょっと雷属性の魔法を使おうと思ってな……。まぁ、スキル欄に載ってないから才能は無いんだろうけどね」
何も書いて無いのとレベルが低くても有るのじゃ、素人と段位持ちくらいの差がある。頑張ればいつかは取れるかもしれないが、相当な努力が必要だろう。
「まぁ、それはそれは~大変ですねぇ~。ルフィスさんか詩葉さんは雷を使えないのですか~?」
「えっ? 私ですか? 残念ですけど、私は使えないですねぇ」
「私は使えるわよ? まぁ、頻繁に使っている訳じゃないからそこまで強くはないのだけどね」
流石は詩葉さん。でも、詩葉さんのそこまで……とか、強くないというのは嘘だ。大概は嘘。普通をはるかに越えているレベルである。
「それは幸いです~。では、一縷さんと詩葉さんで手を繋いでください」
おっと……どういう事だ? また、聖女の発想について行けてないというか、理解が追い付け無い。何故急に俺と詩葉さんが手を繋がないといけないのか……。わからん。
「聖女……何故、私と一縷君が恋人繋ぎをしないといけないのか……訳は後で聞かせて貰うわよ?」
「詩葉さん!? ちょ、落ち着いて?普通、理由は先に聞くよね!?」
どうやら詩葉さんも急な展開に理解が追い付いていないみたいだな。詳しく聞こうとしてか、操縦席からこちらまでやって来た。……あれ? 聖女が恋人繋ぎとか言い出したっけ?
「これは、教会が研究していた事で~……まぁ、成果がそれほど良いモノでは無かったので中止になったやつですが~」
「教会の研究……ね。危険があったから中止になったのではないかしら?」
確かに……というか、何をさせるつもりだ?
「危険度も成果もどっちもイマイチですよ~。やることは簡単で~、一縷さんが雷属性の魔法が使えないのを荒業で習得させるのです~。詩葉さんが繋いだ手から弱めな雷属性の魔法を流し……一縷さんは身体で雷魔法を覚えるのです~」
肉体言語? いや、ちょっと違うかな? 案自体はそれほど悪い物じゃ無いと思ってしまったけど……詩葉さん的にはどう思ってんだろ? 結構な思案顔してるけど。
「危険度は……そうね。私の調整次第だからほぼ無いけど……成果がイマイチってのは引っ掛かるわね。成功例と失敗例でどんな違いがあったのかしら?」
成功例と失敗例……そこの違いが分からないと確かに賭け的な部分が大きくなり過ぎるかな?
「それはですね~……」
「「それは?」」
聖女が……溜める。一秒……二秒……三秒……。
「知りませ~んよ~」
「な、なんだってーー!? って、え? 知らない?」
「はぁ……。まぁ、考えてみれば貴女は研究者じゃないものね。で、どうするの一縷君?」
聖女のこの計画をか……うーん。今までの感じでやっていても正直に言って、先が見えなかった所だ。それなら帝国のダンジョンのある街に着くまでの間は試しても良いかも知れない。
「お願い出来る、詩葉さん?」
俺は右手を右隣に座っている詩葉さんに差し出した。
「戦力強化の為よ!」
などと、ワザとらしいツンデレをかましながらしっかりと左手の指を一本一本絡ませる様にしっかりと握ってくれた。
「よし、さっそ……あばばばばばばばばばばばばば!!」
「あら~」
「一縷さん!? 髪の毛が逆立って……ぷっ、あははははははは……!」
ビリビリがっ!! 全身にビリビリがっ!! まるで電動マッサージ器を全身に使ったかの様な感覚が身体中を駆け巡った。
「うははさん、ないおすうんえすか……」
まだ呂律が上手く回らなくてちゃんと喋れない。あれ? ……でも……これは!!
「はたほりああおっあ!?」
「一縷君! ご、ごめんなさい……ちょっと加減を間違えたわ。き、緊張するなんて久し振りなのよ……」
そうか、うん。最近疲れてた筋肉とか、肩凝りが治った気がするし大丈夫ですよ……逆に感謝です。上手く話せないから思うだけにしておくけど。
逆立っていた髪がヘタリだしたのが合図だったかの様に、体の痺れや呂律も回復していった。研究がイマイチの理由を何となくだが、察せた気がする。
「あ、え、い、う、え、お、あ、お! ……オッケー、詩葉さん頼むね」
「分かったわ。『弱電撃』」
おぉ……あぁ……来る。これは来てる。電気を感じる。
「い、良い感じだよ詩葉さん」
「一縷さんの髪がまた上がってます! 跳ねてます! リコルちゃんも見た方がいいですよ!」
「わっ、お兄ちゃん変なの~!」
魔法を試す前に、ルフィス……君にも分けてあげよう。
「はいっ!」
「わあぁあぁあぁあぁあぁぁぁー!! ビリビリですぅうぅう
ぅうぅ~」
ルフィスの髪が俺より長い分大変な事になっている。これは……確かに人のを見る分には楽しいな。
さて、この雷の事を忘れない様に……やりますか。
「か、雷魔法『弱電撃』!!」
掌の先に小さな魔方陣が現れる。ルフィスがいつも発動させる魔方陣よりははるかに小さな魔方陣。
――そこから、地面の草を少し焦がす程度の雷が放出された。
「出来……た? ほんと……に? …………出来た!? うおっしゃああああああああああ!!」
マジか!? やったぞ! 教会の研究すげぇ!! 遂に……遂に普通の魔法を発動出来た! 叫びたい、何か叫びたい気分だ。
「ちょ、一縷君! 急に引っ張ると……きゃっ」
「危ないっ!? 一縷さん、詩葉さん!?」
俺が急に立ち上がったのが悪かった。偶々、リコルの操縦する馬車のタイヤが石を踏んで揺れたのと、俺の体が軽く痺れていたのも相まって……詩葉さんと俺は荷台から落下した。
「いったぁーっ! あ、あ、あと痺れるぅぅぅぅぅ」
「一縷君……だ、大丈夫かしら? 下敷きにしちゃったけど……」
馬車の荷台部分が低い位置にあったお陰で、それほど強い衝撃って程では無かったのが幸いした。二人で重なって落ちたから詩葉さんにそこまでのダメージは無いと思うけど、巻き込んで申し訳無いな。ちょっと……はしゃぎ過ぎたかもしれない。反省だ……。
「ご、ごめん詩葉さん。巻き込んで……落ちちゃって。……どこか痛めてな…………い?」
「私は大丈夫よ……一縷君は大丈夫かし…………ら?」
詩葉さんと目が合う。何とか重なる様に引っ張った事もあって、この状態で落下するのは予想通りだったが――この距離で顔を合わせるのは想定外だった。
近い……近い近い近い! 詩葉さんの顔が近い。目が大きい、鼻筋が通ってる、柔らかそうな唇に綺麗な肌。いや、し……下心は頭から追い出せ、霧島一縷!!
「一縷……君」
――詩葉さんがそっと目を閉じた。
この距離でこの行動……これが何を意味しているのかを理解出来ない奴はほとんど居ない。これは、そう言っても過言では無い類いの物だ。
だからこそ、だからこそ……だ。今の俺みたく唐突に目の当たりにし、尚且つ当事者としての出来事だとしたら、驚く奴は逆に多いのではないだろうか。
俺の中の下心が囁いている……『据え膳食わぬは男の恥だと』。
そして、俺の中の純心が囁いている……『女の子に恥を掻かせるのは男として恥だと』。
俺の中の天使と悪魔が手を組んだ……それはつまり、無敵である。
「詩葉……さん」
俺も目を閉じて唇を近付ける……そして、唇が触れ合うその時。
「だ、だめーーーーーーっ!!」
……ルフィスの声が響くように聞こえて来た。
だ、が! 俺はその声を無視し、そままの勢いで詩葉さんの唇を奪った。このチャンスを逃すと次にいつチャンスが訪れるか分からないと……心が訴えていたからである。
「えっ、えぇ!? な、な、何でですかぁー!? 普通、止まりますよね!? 驚きなんですけど……逆に驚きなんですけどぉ!?」
「ん……ありがとう」
唇を離すと詩葉さんにお礼された。俺は恥ずかしくて何も返せなかったけど……仕方ないよね? 詩葉さんが上から動いてくれたお陰で身体の自由を取り戻したが、逆に心は縛られた気がする。
「心配して来たのにっ! 心配! して! 来た! の! にっ! 何をしているんですかぁ! しかも、こんな野外で……破廉恥です!」
「いや、その……何て言うのだろうか? 勢いで……っていうか?」
まぁ、ルフィスが叫んだ時に止まりそうだったけどな。
「一縷君、何か言い訳がましい男みたいになってるわよ? もっと堂々としなさいな……『弱電撃』」
「あばばばばばばばば……」
な、何で!? ……くそぉ、調整が巧みというか、身体が動かなくなるギリギリの威力に設定されている。つーか、マジ……何でだ?
「ルフィス、今なら一縷君の唇は自由に出来るけど?」
「……なっ!? そんな……一縷さんの意思を無視する様な事は出来ませんよっ」
おっ……おぉ。ルフィスがとてもマトモな事を言っている。何やかんやで常識的だもんな。というか……詩葉さんの凶行はそういう意味が有ったのか。
それにしても詩葉さんのこの行動。キスした相手をすぐ別の女性に勧めるとは……ルフィスだからなのだろうが、いったいどんな協定を結んでいるんだろう?
「ルフィス! ……一縷君は優柔不断なのよ? 選べたとしても後ろめたさを感じてしまう……。だから、私達は二人で協力をして行くという話をしたのでしょ?」
「うぅ……そうでした。わ、分かりました」
おっと……凄い言われようであるが、きっぱりと否定が出来ない所が優柔不断と言われてしまう所以なのだろうな。あと……ルフィス? 何が分かったのかな!? 何をそんなに決意を固めた表情をしているのかな!?
「い、一縷さん……動かないでくださいね?」
それは大丈夫。動けないから。というか、ルフィス……気付いて無いの? 詩葉さん……物凄く邪悪な笑みを浮かべてるんだよ?
俺が痺れてて詩葉さんの邪悪な笑み。ルフィスの視界は狭まっていて、思考も止まっているのか……それとも何も考えていないのか、ゆっくりと顔を近付けて来る。
「い、一縷さん……ん、んーーっ」
止まれ! ルフィス、止まれ! 止まれって!…………あっ。
「むにゃあああああああ! 唇が痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「……計画通り」
満足したのだろうか、詩葉さんが魔法も解いてくれて、俺の身体から痺れもどんどん取れていく。それにしても、邪悪だよ……邪悪過ぎるよ詩葉さん!
「一縷君、ルフィスに謝っておいて。こうでもしないとルフィスは緊張しっぱなしだっただろうし……ね。まぁ、ここまでするつもりじゃ無かったけど……うん、つい。ま、とにかく私は先に荷台に戻っておくから……今度は優しくしてあげてね」
「不器用過ぎないですかね……ルフィス、泣いちゃってるよ?」
詩葉さんは先に戻り、ちょっと涙目のルフィスと二人っきりで残された。こんな状況で優しくと言われてもな。
勘違いというか自信過剰っぽくなるし、こんな事を考えるのもどうかと思うが……詩葉さんは俺達がキスする所を、まだ直視出来ないのではないだろうか?
……この予想が外れていたら、ただ調子に乗ってる自意識過剰な痛い奴だけど、この予想の方が詩葉さんがまだ可愛いく見えるからそう思っておきますか……ね。
で……だ。このルフィスを俺にどうしろというのだ詩葉さんは。
「ルフィス、ルフィス」
「うぅ……酷いですぅ、酷いですぅ~」
確かに悪魔的な所業だったけども……はっ!? まさか、アフターケアまで俺に押し付けて行きやがったな!?
「何て言えばいいか……そうだな。ルフィス、顔をあげてくれ。」
「……うぅ」
あっ……涙が少しずつ溢れてくる。キザったらしくて引かれるかも知れないけど、ルフィスにはこういうヤツの方が良いだろう。
「俺の魔法でその涙を消す事は簡単だけど、方法はそれだけじゃ無いんだぜ?」
「……どういう、事です? 」
完全に動く様になった身体でルフィスへと近付き、その華奢な身体を優しく抱き締めた。言葉はいらない……詩葉さんにならそうかも知れない、だが、ルフィスにはちゃんと言葉にした方が良い。
「好きだよルフィス。優柔不断な俺で悪いけど、今後もよろしくね。それとごめん、その唇……奪わせて貰うから」
「……っ! はい……一縷さん」
それからすぐに、ニコニコと笑みを浮かべたルフィスを連れて、皆の所へと戻って行った。
◇◇◇
再出発をした俺達はまた、ノンビリと馬車に揺られていた。
「詩葉姉……ルフィス姉がニヤニヤしてちょっと怖いって言おうとしたけど、よく見たら詩葉姉もだった時ってどうすればいいのっ?」
「リコル、貴女にはまだ難しい大人の話なのよ。ちゃんと操縦に集中なさい」
操縦席では詩葉さん。荷台では……。
「聖女様、あのですね~さっきですね、一縷さんが……うふふ、やっぱり内緒ですぅ」
「あはは~、流石に私も困るのですが~……一縷さん、これはどういう事ですか~?」
すまない。たぶん、夜になれば一旦落ち着くと思うし……聖女なんだか話くらいは聞いてあげてください。
「あっ、僕……夜の見張り番の為に寝ますね。聖女、後はまかせました」
別に本気で寝るつもりは無かったけど、気付いたら青空が夜空に変わっていた。
目が覚めて思ったのは、寝てばかりで今日は何も食べてなかったな……という事で、お腹の方も悲鳴をあげている。
「あら? やっと起きたのね……でも、タイミングはバッチリよ。今から配膳する所だったから」
「間に合って良かった。今日はどの辺まで進めた感じ?」
帝国に入った一日目。最初に検問で引っ掛かったせいで予定よりは進めていない筈だ。
「それは食後にしましょう。でも、明日からは早めに動き出すから……寝坊しそうな人は荷台で寝袋を敷いて寝てね」
「「はーい」」
「今日のご飯は何でしょうか~?」
一人だけワンテンポ遅れてる聖女の為に、料理の乗った皿を配るだけだが、俺も手伝った。今日も謎の食材を焼いた物とスープ……でも、美味いから文句の一つも出てこない。
黙々と食べ続け、腹は減っていたがお代わりはしなかった……いや、出来なかった。勿論、食材を節約して少なめに作ってある訳でも、一皿の分量が多くてそれで終わりという訳でも無い。単純に、聖女の食べるスピードと量が俺の倍以上あっただけである。
教会という枷から解き放たれた聖女は、祈り等の大切な事はするが、食事や嗜好品に遠慮が無くなっていた。
「ふぅ、今日も美味しかったですよ~」
「それは、ありがとう。でも、食材や食費の事も少しは考えなさいよ?」
聖女は立ち寄った街で布教活動をし、幾ばくかの賃金を稼いでくるが、小国の街だとやはり大変な様だ。ダンジョンでの冒険者相手に簡単な加護の付与をしてお金を稼ぐ事に期待をするしか無いな。
「じゃあ~私はお祈りの時間ですので~」
「逃げたな」
「逃げましたねぇ」
「にげ……聖女様はお祈りも仕事なんだよ! きっと!」
リコルも優しいが、最近は女性陣に毒されて来ている気がしてならない……。俺がしっかりと育てなければ。
「じゃあ、私達は明日からの話をするわよ。リコル、地図を持ってきてくれないかしら?」
「分かったよ詩葉姉!」
リコルが持ってきた地図を広げ、焚き火のすぐ近くで明かりの確保をしながら座って確認し始めた。
「今日がこの検問から……だいたいこの辺でしょうね。朝にもっと早く出発できていたらこっちまで進めていたと思うのだけど」
「商人が多かったし仕方ないよな……でも、明日から順調に行けば二日か三日くらいで帝国の中央の街……帝都? に着けそうじゃないか?」
「ですね~……お馬さんに頑張って貰わないといけないですね」
少し急ぎ足で進もうと思えば馬への負担が大きくなってしまう。雄なんだから是非とも頑張って欲しいね。
「最近は日中の気温も上がってきたし、気を付けるのよ? 梅雨が全然無いだけありがたいけど」
そういえば、四月にこの世界に召喚されてから三ヶ月前くらい、梅雨らしい天気はあまり無かった。まぁ、俺達の居た世界基準で考えるのもおかしな話だけど。であるなら、このまま気温もそこそこで、夏が来てたとしても暑苦しくならないで欲しいと願うばかりである。
「了解。街に着いたら暑い時の洋服のとかも買っておいた方が良いかも知れないな」
「ですねっ! ダンジョンの前に少し見物しましょ。良いですよね?詩葉さん」
「まぁ、情報収集に各種準備もあるしね。幸い、お金はあるのだから構わないわよ」
「うぅ……お洋服……?」
今日は操縦で張り切っていたからか、ご飯を食べてお腹いっぱいになったからか……リコルが眠たそうにしている。
「リコルもう少しまってな……今すぐテントを組み立てるから。ルフィス、明かりを用意してくれ」
「あっ、はい。任せてください!」
ルフィスに魔法で光を出してもらい、その明かりの中で何とか組み立て終わったが……ギリギリで遅かったみたい。リコルは夢の中へと旅立っていた。
「ルフィス、そのままリコルと寝てあげて。私は片付けてから寝袋で寝るから……でも、朝は早めに起こすからね?」
「分かりました、では、先にお休みなさい」
リコルを抱えたルフィスがテントへ入っていくのを確認して、俺と詩葉さんは食器類の片付けに入った。聖女はいつの間にかお祈りが終わっていて、一人で焚き火の前に座って暖を取っている。
「今日も一日色々とあったわね」
「そうだな。こうしてると魔王が復活するって事を忘れそうだ」
期限は俺達が召喚されてから一年後という風に聞いている。大国は戦力の強化で小国は被害を抑える為の準備だろうか……とにかく、誰しもが忙しなく動いている。
「そうね……でも、確実に現れるでしょうね」
「生き残る為には強くならないとな。とりあえずは人類最強くらいには。言葉にすると果てしなく聞こえるけど……人類最強じゃなければ魔王を倒せやしないだろうし」
勇者として現れた俺や詩葉さん、クラスメイトの誰かが人類最強じゃなければいけないだろう。もし、クラスメイトに強いヤツが居たなら喜んでそいつのサポートに入ろう。勝てるなら俺がメインじゃなくて良いし、そんな拘りは特に無い。
「ふふっ……なら、まずは私を倒して貰わないとね?」
「それなぁ~……結局はそれが一番難しいんだよなぁ」
俺の中で暫定一位の詩葉さんである。正直に言うと越えられる気がしないし、俺がサポートに入るルートは濃厚だな。
片付けも終わり、焚き火で暖まっている聖女を含めて雑談を少し交わして、詩葉さんと聖女は寝袋に入って先に眠りに着いた。俺はこれから夜の見張り。アレの練習でもしますか。
「雷魔法『弱電撃』!」
魔方陣が――ちゃんと、出る。良かった。
「魔力の調整とかまだ分かんないけど……とりあえず使ってたらレベルも上がるかな? MPだけはそこそこあるし、今日は楽しい夜中になりそうだ!」
力んだり、リラックスしたり、掌の形を変えて銃の形にしてみたり……とにかく思い付く事を色々と試した。ステータスを見てMPの減り具合を確認すると、初級の魔法という事で減る量は微々たるモノだった。
雷魔法の威力をどうにか上げたいが……ちょっと上手くいっていない。魔力を込めたりすれば良いというもっさりしたイメージはあるのだが、そもそもの話……魔力を込めるという感覚が俺には分からない。消滅魔法が、発動すればそれで完了する魔法のせいなのかもしれない。
――だが俺には、確信めいたモノが存在している。魔力を込めるという方法を身に付ければ、俺の魔法『消滅魔法』が更に上のステップに進めるという確信が。
「よし、魔法のレベル上げと平行して魔力の込め方も頑張ってみるかー!」
俺の努力はMPが少なくなるまで続いたが、残念な事にこの夜では上手くいかず……朝を迎えた。
◇◇◇
最初に起きた詩葉さんが全員を一度起こして、準備をさせてから俺達は出発した。詩葉さん以外はやはりまだ眠いのか、再び荷台で横になって寝むり始めた。
俺が寝て起きた時には、流石に皆は起きていて……リコルは操縦席に、ルフィスら遠くに向けて魔法を発動し、聖女はそのルフィスに加護を付与したり景色を見つめていた。
――――そして、そのまま順調に進み三日後の夕方……帝国中央に位置する大都市の帝都に俺達は辿り着いた。
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イチル キリシマ Lv50
HP 1770/1770
MP 2300/12800
STR 122
VIT 104
DEX 111
AGI 126
INT 90
LUK 59
スキル
魔力制御 Lv3
槍術 Lv4
雷魔法 Lv2
ユニークスキル
『消滅魔法』
称号
『消滅の勇者』
『救う者』
『幼女キラー』
『優柔不断』
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帝都に入る順番待ちをしている間に、ステータスを確認していた。ここ最近……雷魔法を習得してからの数日、夜中の見張りの時間にMPの許す限りは『弱電撃』を使っていた。そのお陰で雷魔法と魔力制御のレベルも上がり満足はしているのだが……いくらコツを詩葉さんやルフィスに聞いても、まだ魔力の込め方を習得出来ていなかった。
槍も雷魔法の前に欠かさず振ってはいるのだが、流石にポンポンとは上がってくれないみたいだな。やはり、効率を考えるなら実戦が一番だろうな。
『優柔不断』……はぁ、称号っていったい何の役に立つんでしょうね。
「もうそろそろ順番が回ってくるわね。……どうやら今回は夜営をしなくて大丈夫みたいよ?」
「まずは宿探しからだな」
「ですね……帝都ですか。前に来た時が懐かしく感じます……ね」
ここからは、ルフィスの素性がバレると厄介である。流石に街の衛兵の全てが知っているとは思わないが、念には念を入れて今回はルフィスを魔法で隠す事にした。それに、街ではローブを頭から深く被って貰わないとな。いざとなったら暴れる覚悟はあるが、それは最終手段だな。
それから少しして、俺達の順番が回ってきた。冒険者カードを提示して、荷物検査をし終えたら特に問題もなくすぐに通る事が出来た。
遂に、勇者を召喚した大国の一つで厄介そうな帝国の本拠地に足を踏み入れた。
ようやく帝国に着きましたのでまた少し物語が進みそうですね!進みが遅くてすいません(´ω`)
帝国でのダンジョンも、長くなる可能性がありますが……それはご容赦くださいませ。




