第21話 国を越えて帝国へ! in 異世界
少し遅れました……
よろしくお願いします!(´ω`)
朝方に街を出発した後、俺は夜の見張りがあるし……何より聖女のせいで寝てない事もあって、一眠りさせて貰った。次に起きた時は太陽も真上を越えて少し傾いている時間帯。
「あら~起きたのですね~?」
「んん~~っぷはぁ!ふぅ……おはようです」
馬車の荷台は地面の具合によっては凄く揺れる。つまり、グッスリ眠れたかと聞かれれば微妙な感じではある。それでも幾分かはスッキリしたし、疲れも取れた?
「一縷さん、聖女様のお話を聞かせて貰っていたんですが、ご一緒しませんか?」
「お兄ちゃん、ご一緒しよう?」
「そうだな~する事も無いし、とりあえずは聞いておくよ」
寝起きで聖女の話とか……神スフィアの話だろうけど大丈夫かな?下手すると子守唄感覚で、二度寝してしまいそうだ。
それならそれで良いと割り切って、話を聞いてみる事にした。もしかすると、意外と面白い話という可能性もあるからな。
「では、聖女の一日~……まずは起床から……」
「聖女の話ってそっちかよ!?逆に目が覚めたわ!」
まさか、聖女ご本人の話とは……。というか、ルフィスもリコルも聖女自身の話を聞きたいのか?
「一縷君、おはよう。寝ていたから貴方は良い方よ?さっきまでは神スフィアの話をしていたのだもの……」
さっきまでって……たしか俺が眠る頃には話を始めていたよな?休憩を挟んだとしても……長くない?
「マジか……ルフィスもリコルもずっと聞いていたの?」
「当然ですよ!勿体ないですねぇ~一縷さんは!起きていたら神スフィア様の事を色々と知れましたのに」
「お兄ちゃんと詩葉姉は全然興味無いんだね?」
そりゃ、実際に会ったし……別に恨んでいる訳ではないが、その時以来会ってはいないし……興味はあまり無い。他より強い能力にしてくれた事には感謝しているけど。神スフィアは昔――と、話されても俺からすれば転移する際に会った神以上でも以下でもない訳で。
「まぁ、何と言うか……結局、神に祈るのは誰かに任せて俺はその時間も槍を振らないとって感じかな?ごめん、分かりにくいかもだけど」
「そうね……魔法やスキルが神に与えられた物だとするならば、色々と感謝はするけど……最初の一回だけね。その後は力も能力も私のモノとして扱うわ」
詩葉さんらしい。俺達はこの世界に来る事、そして魔王から世界を……もっと言うならルフィスを守る為に力を貰っている。だから、この力は俺の力として扱う。もし、また神にスフィアに感謝するとしたら魔王を倒すか封印した後になるだろうな。感謝する事があればの話だけど。
「せ、聖女さん!この二人、こんな事言ってますよ!?バチとな当たらないですよね?」
「大丈夫だと思いますよ~。神スフィアはきっと分かっていますので、バチが当たるのは悪い行いをした時くらいですね~」
「心が広いんですね!スフィア様は」
――果たしてそうだろうか?この聖女を筆頭に、厄介な事が多い気がする。悪い事なんてしてない筈なんだけどなぁ……。
「はい~では、聖女の一日を教えますよ~」
「きっと大変な一日なんでしょうね……」
聖女の話が始まった。
◇
聖女の一日。それは目覚めと共に始まります。朝は早めに起き、身支度を整え、まずは神スフィアへの祈りを捧げます。
「へぇ、朝はどんな事を祈るんだ?」
「そうですね~、昨日までの感謝と今日一日の安全を願ってですよ。これは自分の為もありますが~、私が担当する国の民達の為でもあるのですよ~」
それから教会に属す修道女なら朝の仕事があります。私は聖女なので教会の奥の一室へと移動してまたお祈りを致します。
「聖女様!その時は何を祈るんですか?」
「先程とは余り変わりませんが~、飢え苦しむ者が減るように豊作を願ったり……そうですね~、たまにですが神託があればそれを聞き記したりしますよ~」
それから少し遅めの朝食を頂きます。内容としましては、パンとスープと少しの果物です。質素かと思われるかも知れませんが、このパンだって色々な人の頑張りがあって私が口に出来るのだと感謝の念しかありません。
それからは教会の講堂へと移動し、お昼前まで教会に訪れた方へ神スフィアのお話を致します。先程、ルフィスさんやリコルさんにお話した感じですね。……悲しい事に、私が今より子供だった時より教会に訪れる人は年々減っていると感じます。
「聖女様!私みたいな小さい子は来ないの?」
「はい~、リコルさん様に小さい子が来る事は減りましたね~。一人で教会に入るのが難しいのかもしれません~それに……ご両親が共に働いてる事は珍しくありませんので~。そういう子が~、教会へあまり訪れ無いまま大人になってしまう事が原因の一つなのかもしれませんね~」
私はお昼を頂きません。朝と夜の一日二回の食事となります。では、お昼から何をするかと言うと、教会にお悩みを抱えてやって来られた方のお話をお聞きします。簡単な相談事から難しいお悩みまで様々ですね。個室の中に仕切りがあって、声だけのやりとりをします。ここだけの話ですが、仕切りで見えないのは相談に来た人の側だけで私からは見えて居るのですよ。
「なるほど、それで魔法を掛けている訳なのね。さすがは教会。小さな事とはいえ、情報収集に余念が無いわね」
「それは私も同じ事を思っていますよ~、聖女が1番上の立場とはいえ、お飾りみたいなモノですから~。実際は枢機卿や大司教が色々と動いているのですよ」
そして、その日によって終わる時間は変わりますが……だいたい夕刻には終わり、そこからは少しばかりの自由時間ですね。する事といえば読書くらいでしょうか、他にする事もありませんし。
陽が沈む頃に晩のご飯を頂きます。晩は、パンとスープと少しの肉か魚それと野菜です。少量のワインを飲むこともありますね。
食べ終わると、また教会の奥の一室へと行きお祈りを捧げます。今日一日が安寧だった事への感謝ですね。その日、私が知らないだけで……誰かが泣いて助けを求めていたかもしれませんが、私は一と全なら全を取るように教えられて育ちました。ですから感謝の祈りを捧げていました。
「はい~休息日以外はだいたいこんな感じですよ~」
「なんか、あれだな……窮屈。俺には絶対無理」
たしか、産まれてから教会で育てられたって言ってたし……“そういう生き方”しか知らないから大丈夫なのかもしれないけど。
「えぇ、とても窮屈でした~。本の中の世界にいつも憧れていたのですよ~?ふふっ……今の私は全より一に手を差し伸べられるのですね~、それが少しだけ嬉しいのですよ~」
「聖女様ぁ!私もお手伝い出来ることがあるなら手伝いますよぉ~」
「私も!頑張ってお手伝いするよっ!」
聖女の一日。意外とすんなり話が入ってきた。いつもの間延びした話し方ではなく、聞かせる用の話し方だったからかな?
「そうだ……休息日って言ってたけど、聖女に休息日ってあるのか?」
「はい、六日間は先程の事をやり、その次の日には一日だけお休みがあるのですよ~」
七日に一度しか休みが無いのか。冒険者は好きに働けて好きに休める、それと比べると本当に大変そうだな。
「それに~半年に一度、こうして少し離れた場所まで巡礼に訪れるのです~。まさか、そのまま旅にでれるとは思いませんでしたけど~、これもスフィア様の思し召しですかねぇ~」
「まだ、大丈夫だとは思うけど……聖女の居た国は大変な事になりそうだな?」
聖女が代用の利くシステムなら問題ないけど、そうじゃないなら聖女が居なくなった国として評判はガタ落ちだろう。
「表立っては動かないと思いますが~裏で沢山の人が動くと思いますよ~」
「それって面倒事なんじゃ……」
「一縷君、国境が見えてきたわよ!とりあえず冒険者カードを持っていない聖女は見えない様にしておいて」
おっ、ようやく国境まで着いたのか……。ここを越えれば別の国に入るし、ギルドの事も聖女の事もしばらくは平気だろう。
良く良く考えてみれば、冒険者に破壊された冒険者ギルドってのも評判は悪い。聖女の事も合わせると、他国に言ったりはしないだろうな。冒険者や吟遊詩人なんかが広める可能性もあるが、どちらにせよ時間は掛かるだろうし。
「結構並んでるな……やっぱり」
「ですね。荷物の検査とかも在りますし……時間は掛かりそうですね」
だいたい国を行き来するのは商人がほとんどと言っても過言では無いだろう。一応、貴族用の検査場もあるが誰も並んではいない。
買い付けに行く場合にしろ帰る場合にしろ、商人はとにかく荷物が多い。俺達はマジックバックに入ってしまう程度の荷物だが、商人は馬車に一杯の荷物を積んでいる。中には一台ではなく二台、三台の馬車を操っている大所帯な所もある。
「正直に言うなら荷物も少ない俺達に、先を譲って欲しいかな!」
「こればっかりは早いもの順よ。まぁ、これは下手すると明日になるかもしれないわね……」
明日……まだ、太陽は沈みきってないのにか?国を渡る時の検査は街に入る時よりも時間が掛かるのかな?
「詩葉さん、そんなに時間が掛かるのですかぁ?」
「時間が掛かるのもそうだけど、夜……暗くなる頃には通さなくなるのよ。そういう決まりがあるらしいわ」
「お役所仕事かぁ。まさか、このまま並んだ状態で夜を明かすの?」
人が集まればそれだけ色んな事もある。特に争いが。
「多分、順番札の様な物が配られる筈よ。そしたら一度離れましょうか」
並んでからしばらく、だんだんと辺りも暗くなりだした頃に兵士の格好をした男が俺達の馬車に駆け寄って来た。
「申し訳ありません、本日は通行止めにさせていただきますので、こちらをお持ちください」
「番号札ね。分かったわ、ご苦労様」
それだけのやり取りで兵士の男は俺達の後ろの馬車へと話に行った。詩葉さんが馬車を動かし、俺達は列を離れて休む事にした。
「一縷君、魔法を解いて大丈夫よ?……結構長い時間だったけど大丈夫なのかしら?」
「まぁ、特に動く訳でも無いしね!ただ見えなくしてるだけだから魔力の消費はそんなに無かったよ」
「結局、明日になっちゃいましたねぇ」
列から少し離れた場所に馬を止めて、俺はテントの準備を、詩葉さんとリコルは晩飯の準備に取りかかった。ルフィスと聖女が何をしているかと言えば、何もしていない。聖女はお祈りをしている為、本当に何もしていないのはルフィスだけである。
「う、詩葉さーん……あのぉ~少しおトイレに……」
「少し待ちなさい。リコル、軽く炒めておいて」
「詩葉姉、任せて!でも、私もトイレに行きたい!」
詩葉さんが土魔法で壁を立てる。トイレというトイレでは無いが、外から見えない様な仕切りがあれば十分だろう。俺の場合は、向こうの方に離れてやればそれで十分である。
「おーい、君達!ちょっと良いかな?」
「一縷君!」
「おうとも!」
俺は怪しまれ無い程度に急いで聖女に近寄り、お祈りポーズから動かなそうだから頭に手を置いて、他の誰にも見えない様に消す。
「はい、なんでしょうか?」
「この中で夜の見張りをする子が居ると思うんだが……向こうで少し話をしておきたいと思ってね!」
「なるほど……魔物だけじゃなく盗賊の警戒ね。準備したら行かせるわ」
とりあえず先に行って貰い、聖女を顕現させる。……まだ、お祈りポーズのままだ。消す。顕現させる。消す。顕現させる。消す。顕現させる。消す。
「ちょっと楽しいな……これ。我が求めに応じ顕現せよ!召喚!人類の希望『聖女』!!」
決まった、これで光の演出とか自分で出来たら完璧なんだけど……それはいつか頑張ろう。
「いや~お腹空きましたね~」
「いや、祈りのポーズはっ!?」
いや、お祈り終わってんのかよ!!お腹さすってその台詞だと俺の顕現した聖女が腹ペコキャラみたいになるじゃねーか!
「ぷく……くくっ……い、一縷君……傑作よ、あはははははっ……!」
「くっ!逃げる様に、退散させてもらう」
恥ずかしいから今度はちゃんと打ち合わせをしてからやろうと決めて、俺は見張りをする人達が集まっている所に向かった。
◇
「すいません、お待たせ致しました」
「来たか……他は大丈夫そうだな。私はキャロン商会に専属で雇われている者だ。私が恐らく年長であろうから仕切らせて貰う……良いか?」
周りの人が黙って頷くのを確認して、俺も頷いておく。
「ここに居るという事は、残念な事に手続きが出来なかった者達だ。それで泊まる事となったわけだが、ここに居るのは大抵は商人で狙われやすい。個人で盗賊や魔物に立ち向かっていたら到底手に終えないであろう、だからここに居る皆で一夜限りのパーティーを組もうと思うがどうだろうか?」
「少しいいだろうか?俺は賛成なのだが、一応は雇い主に確認したい」
「俺もだ!」
「あぁ、まずはそうだよな!」
「うむ、そうだな。では、一度聞きに戻り参加する者だけ戻って来てくれ。強制ではないが、安心感は得られると思う。よろしく頼む」
話を聞き終えた人がそれぞれの持ち場に帰って行くから、俺も詩葉さんに聞きに戻って来た。
「詩葉さん、なんかみんなで協力して盗賊とかから身を守りましょうだって。どうする?参加するなら戻らないとだけど……」
「強制では無いのでしょ?……あぁ、駄目ね。商人は耳が早いし、もし私達だけが参加しなかったら嫌な浮き方をするわね。とりあえず、参加の意思は見せておいて、それで……何か指示されたら自分の所からは動けないと押しきりなさい」
なるほど、商人に嫌な覚え方はされたく無いのか。とりあえず下手に出ておこう。
俺が戻ると、詩葉さんの読み通り来てない人は居ないみたいだ。
「うむ、では話を進めよう。これは盗賊が現れると仮定したものとして、もし現れるなら森の方向からだろう」
森か、俺達の居る方とは逆側だな。いざとなれば逃げれるな!
「だから、人を多く雇っている商人はそちらの監視に充てて……反対側は少なくしようと思っている。どうだ?」
なんか、ベテランっぽい人達が頷いているしセオリー通りなのかな?知らないけど、とりあえず頷いておこう。
「よし、やり方はそれぞれの自由だ!見付けたらまずは声を出して報せる事。数匹の魔物なら各自で討伐して構わんが、盗賊なら殺さずに捕まえる事を守ってくれ!」
「あっ、質問いいですか?盗賊が現れたとして、捕まえたらどうするんですか?」
盗賊が五人で襲ってきて、五人を別々のチームの人が捕まえた時の利益の分配というか、どう分けるかは知っておきたい。
「当然の質問だな、若いの。さては冒険者だな?ま、とりあえず人数にもよるが私の所で買い取ろう。小物か大物にもよるがな」
「分かりました。以上です」
他の人は見張りが何人居れば森側かとか色々と聞いていたがほとんど関係無いし、雇われている人達の装備や顔付きを見ておいた。未だに防具の良さとか分からないけども。
詩葉さんの元パーティーメンバーであるダルケンさんの防具は一目で良い物と判断出来るのだが、ここにはそれに及ぶ物は無いみたいだ。
「では、各自、一夜限りではあるがよろしく頼むぞ」
おっ、話が終わったようだ。俺も戻ろうっと。
「ただい……ま」
「もぐもく……これは美味ですね。こちらも……もぐもぐ。おはえひなはい」
「一縷さ~ん、聖女様が沢山食べちゃって今日の分はほとんど無くなったんですよ~」
……は?え?俺まだ食べて無いんですけどぉ!?
「えっ!?俺の分は?」
「一縷君……それなら取ってるから安心して。いつもより量は少ないかも知れないけど。それで、どうだった?」
良かった、取って置いてくれたんだ……。この聖女に全部食べられたのかと思ったぞ……。
「なんか、盗賊が来るとすれば森の方からだと言って……大所帯は向こうで少人数はこっちって感じだよ。あと、各々で撃退して良いけど盗賊が出たら報せる事の徹底と、捕まえたら買い取ってくれるみたい」
「そう。分かったわ……はい、これを食べて。見張りはお願いね、私は今から寝るから何かあれば起こしてくれて構わないわ」
俺は肉と野菜の炒め物を受け取り口に掻き込んで頬張った。美味い。何の肉かは分からないが美味しい。
俺が食べ終える頃には詩葉さんは眠りに着いていて、片付けばルフィスとリコルがやってくれた。聖女はお祈りだ。手の空いた俺は、薪をその辺から拾い集めたが……少し足りなさそうだ。仕方なく、元々馬車に積んでいた分を少し加えてルフィスに火で燃やして貰った。
この火を消さない事も見張りの仕事の内である。というか、星明かりだけでは心細いからな。
「お兄ちゃん!私達も早めに寝るように言われたからもうテントに入るね!」
「おう!……ん?聖女はどうすんだ?たしか、テントって一つだろ?」
二人用のテントが一つに俺が持ってる寝袋が一つ。俺が起きてる時はその寝袋を詩葉さんが使っていた。つまり、今もそうだとしたら聖女の分が足りない訳で……。
「そういえばお兄ちゃんは買い物の時に居なかったね」
「一縷さんがギルドで暴れている時に、もう一つ寝袋を買っていたんですよ!まぁ、一縷さんが夜に見張りをしてくれてたので使う事がありませんでしたけど」
そっか、買ってたのか。それもそうか……ダンジョンでは俺とリコルが使ってたし、いつまでもそれを許す詩葉さんでは無いな。ん?……なら、何で詩葉さんは俺の寝袋を……? いや、止めておこう。うん……。
「あるなら良いさ。ルフィスはすぐに動ける様に寝袋で、リコルと聖女がテントかな?」
「えぇー!? 私も聖女様と一緒がいいですぅ!」
いや、どんだけ聖女が好きなの?きっとソフュール王国にも居たんだよね聖女って……。もしかすると、各国の聖女がルフィスに狙われてる件。
「ルフィス姉、今度お休みする時は代わってあげるよ?」
「本当ですか!? ありがとうリコルちゃん! ……じゃあ、その次は一緒に寝ましょうねっ!」
「あれ~? お風呂はいったいどうすれば~」
「すまん、聖女……それは少し我慢してとりあえず……寝てくれ」
リコルに連れて行って貰い、ルフィスも寝袋に入って一人になった。
薪が火に燃えて軋んだ様な音を出している。焚き火で暖を取りながらとりあえず警戒の為、周囲を見渡したりするが何も異変は無い。
「ふぅ……槍でも練習しておくか」
見張りの時の日課として素振りをしたり、前に詩葉さんが見せてくれた型を沿ってみたり……密かに練習をしているのだ。槍術のレベルが上がってから心做しか、槍を力を込めて一突きした時の風切り音が変わった気がする。鈍かった音が研ぎ澄まされた感じだ。
「はっ、はっ、はっ!」
なるべく声は小さくして、素振りを繰り返す。うん、調子は悪くない。俺なんかが練習をサボるとすぐに鈍りそうだし、昨日は少ししか出来なかった分を含めて多めにやっておこう。
“おい、魔物が居たぞ!”
“数は?”
“多くは無さそうだ!”
“なら、ラッキーだな!行くぞ”
離れた所では魔物を狩って資金を稼いでるみたいだが、俺が狩った所ですぐに買ってくれるコネも無いし止めておこう。今は素振りの方が大事だし。
――――そして、夜が明けた。
◇◇◇
「おはよう一縷君」
「おはよう詩葉さん。……うん、何も無く普通だった。よく考えたらフラグっぽいフラグは無かったしね」
商人が旅の途中で泊まる時にカバーし合うのは当然っぼいし、盗賊が出ると仮定して計画を練るのも当然だ……。しかも、今回はルフィスやリコルがそれっぽい発言をしなかったしな。
「まぁ、余計な事が無いならそれが一番よ。さ、交代しましょうか、一縷君は荷台で寝袋に入って寝てて構わないわ」
「了解。検問の前か、聖女を隠す時は起こしてくれ」
詩葉さんと交代した俺は、受け取った寝袋を荷台にセットしてすぐに眠りに落ちた。
◇
「一縷さん、起きてください! 起きなくてもいいので隣の人を見えなくしてください!」
「ん……ん? 何事……?」
少し寝ぼけた頭を出来るだけ回転させて、目を開けた時に手の届く範囲に居た聖女の顔に手を添えて『バニッシュ』と魔法を発動させた。
「次の人達、前へ! ……君達は商人では無さそうだね。身分を表すものはあるかな?」
「これを……私達はなりたての冒険者です。荷物はマジックバックに食料やテントや衣類と、そこで夜に見張りをして今は寝ている人ぐらいかしら」
とっさの事で顔に手を置いちゃったけど大丈夫かな? 目元の方にに移動させておくか。
「ロールさん、どうしますか? このまま通しちゃって大丈夫そうですか?」
「一応、寝ている奴以外の冒険者カードを確認して、何も無いなら通して大丈夫だろう」
よし、なら寝たままでいいか……。ルフィスとリコルがカードを見せ終わったのか、馬車がゆっくりと動きだした。
「一縷さん、もう大丈夫ですよ~」
「顕現せよ! 『聖女』」
「すぅ……すぅ……」
寝てる!? 静かに横たわっていたからか!? しかも、よく見たら寝袋に入っているし……いくら寝起きで頭が働いていないとはいえ、聖女の顔を掴むなんておかしいと思ったんだ。
「一応、顔以外は目立たない様に隠しておく目的だったのですが~寝ちゃってますねぇ~」
「俺も、もう一眠りさせて貰うから……何かあったらまた起こしてくれ」
一度起きてからまた寝る感覚……時間を気にせず二度寝が出来る気持ち良さを味わいながら、再び夢の中へと飛び立った。
◇◇◇
「……ん、良い匂い……」
意識が覚醒すると……まずは鼻孔が擽られ、それから眩しさで中々目が開けない状態になった。
「詩葉姉! お兄ちゃんが起きたよ!」
「あら……そう。四人分しか作ってないわね……リコル、静かにしなさい。一縷君はまだ寝ているのだから」
「いや、起きたっつーの……でも、寝起きだからご飯はいいや~」
俺は見えているか定かでは無いが、手を上げて左右に軽く振った。
「助かるわ。……軽食くらいなら用意しておくから後で食べて」
「りょうかーい……」
皆が料理を食べている間に目を覚ましておこう。どれだけ進んだかは分からないけど、とりあえず問題は無かったみたいだな。
「お昼ぐらい……だよな。太陽がほぼ上にあるし、風は気持ちいいし、気温もちょうど良いし……」
もう一眠りとはいかないまでも、このまま動きたくなくなるくらいには良い天気だ。寝袋からは出ておかないと本当に寝てしまいそうだ。
「……今度、本でも買ってみようかな? 移動中は酔いそうで難しいけど暇を潰せそうだし」
最近は、だんだん人族の使う文字にも慣れてきた。書くのはちょっとまだ難しいが、読むくらいならいけそうな気もする。いや、その前に雷の初級くらいは使える様に練習した方がいいか……? でも、息抜きもしたいし……。
そんな葛藤をしていると、食事が終わったのかルフィスが戻って来た。
「一縷さん、おはようございますっ!」
「おはようルフィス、どのくらい進めた?」
そう聞くと、ルフィスがマジックバックから地図を取り出して教えてくれた。この国に入ってからはまだ少しらしいが、帝国までの道のりを考えると三分の一くらいは達しているみたいだ。
「あれだなぁ……昨日、今日みたいな検問に引っ掛かると勿体無いな?」
「そうですね、それがなければもう少し先へと進めていますし……タイミングが悪かったですね」
だが、聖女を連れ出したから早めに街は出ていたから本当にタイミングが悪かったとしか言いようが無いな。
「お兄ちゃん! これ、詩葉姉からさんどふいっちぇ?」
「あぁ、サンドイッチね。ありがとうリコル」
野菜と肉を挟んだサンドイッチ。大きさも掌サイズで食べやすいし、腹の具合的にもちょうど良かった。
「さ、片付けたら出発するから手伝って! ただ飯は許さないわよっ!」
「「「「はーい」」」」
俺達はテキパキと片付けて、馬車の荷台に乗り込んだ。詩葉さんは馬を操り馬車を進め、ルフィスとリコルは代わり映えのしない景色を眺め、聖女は祈り、俺はボーッとする。
これで何も起こらないなら、俺の中で最高の一日の一つになるだろう。
『グルルルルルゥ……』
「……『ロスト』。今日は何事もなく平和だなぁ」
「「だねぇ~」」
「それは~私も良く知ってますよ~。教会でよくやる、偽りの平和というヤツですね~」
今日は心地の良い日だ。少しの皮肉くらいは聞き流そう。
――それから約十日程が過ぎた。
途中、聖女が眠った後の夜中に魔物に襲われたり、小規模な盗賊に出会ったり、街に寄ったり国を通ったり……色々と土産話も作ったが、遂に帝国へ入る検問の前にまでやって来た。
「……明日ね」
「……明日だな」
「……明日ですかぁ~」
「……明日ですね」
「……今日も~平和でしたね~」
やはり大国。検問の場所は多いが、それ以上に入国、出国する者の数が多い。とりあえずは並んで待機しているが、帝国の領土に足を踏み入れられるのは明日になりそうだ。
ここ最近は聖女の扱いにも慣れてきて、最初は何かする度に構っていたルフィスでさえもスルーする事がある。国を越えてからは、聖女も街では布教し、それ以外ではまったりのほほんとしている。冒険というモノに憧れがあったらしく……本人はこの旅を割りと楽しんでいるみたいだ。
「貴族はいいよなぁ~こういう時は楽で」
「お兄ちゃん、大商会もすんなり通れるみたいだよ?」
「それはそうですよ、信用が違いますもの」
内のパーティーも、百年前の世界を一度救った勇者、王女、聖女……俺も勇者だけど微妙だから、リコルと俺は権力的なのが無い。
まぁ、皆が身分を明かしたら騒ぎになるから結局はただの冒険だ。ちなみに立ち寄った街の冒険者ギルドで聖女の冒険者カードを作っている。
その時に名前を初めて知ったのだが――まぁ、他に人が居ない時は聖女で十分だろう。
「帝国で~皆さんはどうなされるのですか~?」
「とりあえずはダンジョンかな?まぁ、先に色々と見て回っても良いかも知れないけど」
一緒に旅をしている聖女を信用していない訳ではないが、まだ俺達の秘密を打ち明けてはいない。ただの冒険者として接している。
その内に打ち明けても良いだろうと俺と詩葉さんは思っているが、スフィアにあった事があるのを言うか言わないかで少し迷っている。それが決まった時には話す予定だ。
「まずは宿ね。聖女にはそこに泊まってて貰うけど……女の子一人は流石に危険よね?どうする、一縷君?」
帝国がどういう国かはあまり知らないけど、武に力を入れているらしい。荒くれ者が多いイメージだし、一人は危険かもな。でも、聖女は聖女で布教があるし……。
「どうしようか……。聖女を戦う修道女、ゲーム的に言うと僧侶役としてダンジョンで他の冒険者が休憩中に、布教やなんちゃって加護の付与をして稼いで貰う。思い付くのはこれかなぁ~」
これならお互いに心配しないで済むだろうし、やりたい事も出来る。
「聖女は……今のどう?」
「はい~私はそれで構いませんよ~?」
「分かったわ。帝国の領土に入って、ダンジョンのある街にたどり着いたらまずは宿を取りましょう。そこで色々と話し合いよ」
俺達の方針が決まった所です、兵士の人が番号札を配り始めた。今日はここで泊まりという事も決まったみたいだ。




